チルノとリョウは時計を見て出掛ける準備を始める。
文もすぐに外に追い出して、リョウが鍵を掛けた。
目的地はチルノもリョウも同じ、人里。
追い出したということは外にはもちろん文もいるわけで、共に歩く。
「チルノさんは今日も寺子屋ですか?」
「うん、リョウに宿題手伝ってもらったしけーねの頭突きもないよ!」
「あの半妖、私のチルノさんになにを……許さん!」
「チルノさんは誰のものでもねぇだろうがクソ烏!」
「あなたのでもないでしょうがクソロリコン!」
「いまスゲェブーメラン投げたからなお前!」
再び言い争いを始める二人を見て、チルノはため息をつきつつ歩みを続ける。肩から斜めにカバンを掛けたチルノが進めば、文とリョウの二人も“言い争いを続けつつ”チルノと共に歩を進めていく。
ちなみにチルノは未だにロリコンの意味を知らない。
「ねえ二人とも、ロリコンってなに?」
チルノの素朴な質問に、止まる二人。
ここで本当の意味を教えて許されるのだろうかという葛藤が同時に芽生え、それと共になんとかしようと引っ張り出した答えは―――1つ。
「と、とっても世話好きって意味ですよチルノさん」
「そうそう、そんな感じの意味合いです!」
リョウが言うやいなや、すかさずフォローに回る文。
利害の一致というやつだ。
そしてここでリョウにとっての誤算が生まれた。
「リョウは文に悪口言ってたのに文はリョウのこと褒めるんだ」
「あっ」
チルノの言葉にリョウは顔をしかめて文の方を見た。両腕を上げて勝ち誇ったような笑みを浮かべる文を見て、リョウが敗北感に駆られる。
すこしばかり考えるような表情を浮かべるチルノが手のひらを拳でポン、と叩いてひらめいたという表情を浮かべた。
「文はメスブタなのね!」
「!!?」
「くぅ~~キクッ!!」
驚愕に表情を歪めるリョウとは別に恍惚の表情を浮かべる文。
しかし少しして文もリョウと同じ考えに至った。
一体誰がそんな言葉を教えたのか、だ。
「酷いことされて喜ぶやつにはそう言えって魔理沙に教えてもらったのよさ!」
「殴りましょう」
「どの関節極めるかな」
二人はそれぞれ『魔理沙』と呼ばれる者への処罰を決めて頷く。
そういうところを見ていれば仲良く見えないでもない。
そんな二人は首を傾げながら歩き出すチルノの後を追うように歩き出すのだった。
しばらくして、人里へとたどり着くとチルノと文とリョウの三人は人々からされる挨拶を返しつつ目的地へとたどり着いた。
そこはチルノの通う寺子屋であり、リョウの目的地その先にあるので前まではいつも一緒だ。
そして寺子屋の前には一人の女性が立っていた。ちなみに胸は豊満で青い服を着て胸は豊満である。
「おはよう、チルノ」
「おはよ、けーね」
「チルノさん、先生をつけるべきです」
「せんせー!」
リョウからの指摘を受けてそのまま続けて言うチルノに苦笑しつつ、けーねこと上白沢慧音は頷いた。
笑顔を浮かべてリョウと文に手を振り寺子屋へと入っていくチルノ。
「そんじゃよろしくお願いします慧音先生」
「ええ、そちらもすっかり馴染んだようでなによりです」
笑みを浮かべて頷く慧音にリョウも頷く。
リョウが来てから、この人里でちょっとした事件もあったし慧音も心配はしていたのだが、それもすっかり杞憂であったと思わされるほど、外来人の彼はここに適応していた。
チルノを追って中に入ろうとする文の首根っこをリョウ掴んでおく。
顔をしかめた文がそこでふと、リョウの方を見た。
「今日は大妖精さんは一緒じゃないんですか?」
「大ちゃん、今日は早く行くって言ってたからな」
その返答に頷く文。
「それでは慧音さん、俺も行きますんで」
「はい、ではまた夕方に」
爽やかな笑顔を向ける慧音に手を振りつつ、リョウは文を引っ張って寺子屋から離れていく。
その間も文が名残惜しそうに寺子屋に手を伸ばしていたが離すわけにもいかない。
「ロリコンを寺子屋に解き放つわけには……」
「失礼ですね! 私は確かにロリコンのドマゾですがチルノさんにだけですよ!」
「なお近づけたくない!」
そんなことを良いながら、リョウが一件の茶屋の前に着く。
いや、茶屋というよりそこは表の世界で言う喫茶店に近いだろう。
そんな茶屋の前で、リョウは文を離す。
「ここまでか……」
「私も仕事があるので残念です」
チルノを隠し撮りよりも仕事優先なところは誉めてやりたいとリョウは少しばかり考える。まあすぐに『無いな』と数度頷くのだが……。
翼を広げる文。
「それではリョウ」
「おう、またな文」
お互いがお互いを呼び捨てにして、別れる。
文は仕事である新聞のネタ探し、リョウの方はその茶屋で仕事。
洋風な扉に鍵を差し込んで開くと、カランカランと音が鳴る。
小気味良い音の余韻を聞きながら、リョウは静かに扉を締めた。
「さて、今日もお仕事頑張るか」
茶屋『レインメーカー』の一日が今日も始まる。
それからしばらくして、時刻は昼過ぎ。
ご飯時ともなると客足もずいぶん増えて忙しくもなるのだが、ピークも去って一区切り。
客足も減ってゆったりとできる時間になると、リョウはレインメーカーで働く少女の方を見る。
「妹紅さん、ここまでで良いよ」
「そう?」
リョウが呼んだ藤原妹紅が振り替えった。
白いポニーテールを揺らし、白いシャツに黒いベストとパンツを纏う少女は可愛らしさはもちろんだがどことなくカッコ良さもある。この店に彼女を求めて男性客も女性客も来るのだからリョウにとってはありがたい話だ。
「ええ、もうピークも過ぎましたから夕方まで客も少なくなるだろうし」
「そっか、そんじゃ“店長”お疲れさん」
「はい、お疲れさま」
そう応えると、妹紅は裏の方へと下がる。
すると、妹紅と入れ替わるように誰かが入ってきた。
そちらを見るリョウは既に見る前から誰が来たか予想はついているという表情をしている。
「いらっしゃい霊夢さん」
「ん、リョウさんおはよ」
入ってきたのは博麗霊夢。
人里から少し離れた場所にある博麗神社の巫女であり、この幻想郷と表の世界の垣根である博麗大結界を代々守護する者。それと同時に魑魅魍魎が跋扈するこの幻想郷のバランスを保ち、異変を解決するということを生業にしている。
リョウも彼女の世話になったことがあったのだが……。
「霊夢さん、ツケが溜まってるよ」
「わ、わかってるわよ。ほら、今日は返しに来たのと……なにか食べさせて」
「ツケで?」
「……まあそうなるけど」
「プラスマイナスゼロね、霊夢」
ケラケラと笑いながら表れる妹紅に苦笑するリョウ。
今の妹紅は先程と違い白いシャツに赤いもんぺ、サスペンダーをしている。これが妹紅の私服であった。
霊夢はバツの悪そうな表情を浮かべながらリョウの向かいのカウンター席へと座って頬杖をつく。
「そんじゃ店長、また明日」
「また明日ー」
妹紅が出ていくと、リョウが霊夢にコーヒーを出した。
「サービス、あんまり期待されても困るけど」
「ありがとうリョウさん!」
パアッ、と表情を明るくする霊夢を見てやるせない気分になるリョウ。
「とりあえずいつものランチセットで」
「こっちはツケですからね?」
「わかってるわよ!」
そう良いながら満面の笑みを浮かべる霊夢。
リョウは苦笑しながらも包丁で具材を切って、パンに挟むと皿へと乗せてカウンター越しに霊夢へと渡した。
「いただきます!」
晴れ晴れとした表情の霊夢を見ていると普段からその表情で居れば参拝客とお賽銭も増えるのにと言いたい気持ちも出てくるのだが……そんな霊夢はむしろ異変だ。
両手でサンドイッチを持って食べる霊夢を見て、リョウは口元を綻ばせる。
「そうしてると年頃の女の子ですね霊夢さん」
「なっ、なによ、人がご飯食べてるとこ見るなんてリョウさん悪趣味ね」
「ははは、すみません」
少しばかり顔を赤くして抗議する霊夢に素直に謝ったリョウ。
サンドイッチを半分ほど食べてから霊夢がそれを皿に置く。口元についたソースを親指で拭ってからリョウを見て言う。
「文は一緒じゃないの?」
「当たり前でしょ、仕事中だろうし」
「いつも一緒にいる気がするからね、そうも思うわよ」
「ここらで仕事してるなら来るかもしれないけど、たぶん夕方までは来ないはずですよ」
「へぇ~あんたら仲良いわね」
「ははっ、ご冗談を」
そう言って笑うリョウを、霊夢は怪訝な顔をして見る。
チルノのことで良く言い争いをしているのは見かけるし聞くのだが、どうにも本気で喧嘩しているところを見た覚えはない。
「ま、私には関係ないことか」
妖精と妖怪と人間という、奇妙な関係はすっかり幻想郷に馴染んでいるのだ。
博麗の巫女も賢者ですらもそこに関与することではないだろう。
仲良きことは良きことだ。
「霊夢さん、烏天狗の唐揚げってどう思います?」
「やめときなさい」
「ですよね、変態がうつっても嫌ですし」
「あんたら仲良いのよね!?」
「やだなあ、悪いですよ」
仲良きことは良いことだが……これは微妙だなと、霊夢は苦笑した。
あとがき
二話目!
ということで慧音と霊夢登場です
こんな感じで序盤はオリ主(夫)と原作キャラクターたちとの関係を描いてく感じになるっす
過去についてもいずれ語ることに
そんじゃ次回もお楽しみにー