さいきょーの主夫   作:樽薫る

20 / 26
第4章【再び、いつもの幻想郷】
第20話『ラブコメと喫茶店』


 ―――忘れられた者たちの楽園、幻想郷。

 

 

 幻想郷中を巻き込んだあの大事件、タタリ異変から一週間が経った。

 いつもなら異変の一つや二つ、そこまで引きずらない幻想郷の住人たちが未だに話題にするのだからよっぽどな事件だったことが伺える。

 

 さらに翌日や翌々日にバラ撒かれた新聞に“氷精大活躍!”と書かれているのだからさらに興味は尽きない。

 そもそも“件の妖精”は割りと異変解決の立役者をしたりしているのだが、今回は人々の目の前だったというのが中々印象的だったのだろう。

 

 結果、氷精チルノの保護者たる人間(リョウ)喫茶店(レインメーカー)は中々な恩恵を得たりもした。

 元々、魑魅魍魎が跋扈する人気のカフェではあったのだが、チルノちゃんファンというものが増えたおかげでさらに客が増えることとなり、リョウと妹紅の二人はここ数日は忙しなくしていた。

 バイトを一人増やそうか悩んだほどだ。

 

 しかして、大体一週間もすればそれなりに皆、理解はする。

 基本的に“レインメーカーにチルノはいない”ということを、そして少し余裕があった今日のピークを切り抜けて、リョウはコーヒーを飲む。

 ホールスタッフをしていた妹紅も上がってカウンター席に座りコーヒーを飲んでいる。

 

「店長って呼ぶのもすっかり慣れたなぁ」

「人間は慣れの生き物だからね」

「人間ねぇ」

「ほぼ人間でしょ」

 

 そんなリョウの言葉に素直に笑みを浮かべる妹紅。

 

「そういえば、最近チルノどう?」

「どうもなにも、お菓子とかもらってくることが多いみたいですよ。もうみんな可愛くて仕方ないみたいで猫可愛がりだし」

「店長と文に時代が追い付いたか」

「……俺、そんな猫可愛がりしてる?」

 

 頷く妹紅に、リョウは顔をしかめながら笑いつつコーヒーを飲んでそっと手元にある本に目を向けた。

 そのやけに分厚い本を、そっと下の棚に入れるとリョウは誰かが入ってくることに気づく。

 カラン、と音が鳴って開かれた扉の前にいたのは、気怠げな表情を浮かべた一人の少女。

 

「いらっしゃい小町」

「ん、いらっしゃったよ」

 

 欠伸をしながら、赤いツインテールを揺らして妹紅の隣に座る小野塚小町は、手に持っていた大鎌をバランスに気を遣いながら立て掛ける。

 

「鎌ぐらい置いてくりゃ良いのに」

「あたいの死神としてのアイデンティティーってもんがね」

「あったんだそんなの」

「ってことで映姫様には黙ってて」

 

 つまりはそういうことだ。怒られるようなことをしている。

 

「仕事サボってる」

「個性死んでるなぁ」

「うっさいコーヒーだコーヒー」

「かしこまりました」

 

 すねるようにそういう小町に笑みを浮かべて、リョウは素早くコーヒーを出す準備に取り掛かった。

 最初こそ軽い雑談をしていた妹紅と小町だが、少しするとなにかを見つけたようで、小町は近くにあったそれに手を伸ばす。

 

「へぇ、死神が新聞なんて読むんだ」

 

 そんな妹紅の言葉にうなずきながら、手に持った新聞を開いた。

 

「そこにあったからね……てかなにこれ、チルノじゃん」

「参加したでしょタタリ異変」

「ん~したけどあたいは地獄だったしなぁ、宴会は参加したけど……里でこんなことになってるとは」

 

 感慨深そうにつぶやく小町の前に、コーヒーが差し出される。

 その新聞を置いていた店の主に視線をやりつつ、コーヒーを一口飲んでうなずく小町。

 前来た時と変わらぬ味、それで十分である。

 

「小町さん、空前のチルノさんブームですよ」

「時代がリョウと射命丸に追いついたか」

「同じこと言う!」

「ほらな?」

 

 妹紅がケラケラ笑い、リョウが頭を抱え、小町は小首をかしげた。

 

「にしても、チルノブームって……いたずら妖精だったのにねぇ」

「店長の子育ての結果だね」

「子育てって、チルノさんはそういうんじゃないから」

 

 その言葉には、どこか重みと深みがある。

 見ていた小町が、驚いた表情をうかべた。

 

「……え、なにその感じは?」

「え、なにが?」

「う~ん……距離がエグい、距離感が」

「いつも通りの店長でしょ、チルノに憧れてるっていうの?」

「妹紅さん」

 

 突如、名前を呼ばれて妹紅はリョウの方を見る。

 やけに深刻そうな表情で、うなずく彼が口を開く。

 

「憧れは理解から最も遠い感情だよ……」

「……で、誰の受け売り?」

「漫画」

 

 その言葉に、妹紅と小町、そしてリョウが同時に吹き出した。

 

「あはははっ、なにそれかっこいい!」

「あたいも使いてー!」

「やっぱ師匠は間違ってなかったんだな……!」

 

 ここ一番で妙にツボに入ったのか小町と妹紅がテーブルを叩きながら笑うので、妙にしてやった感を出すリョウ。

 ついでに、そんな三人をよそに……カウンター席にははたてがいた。

 記事とにらめっこしていたのだが、ようやく顔を上げて息をつく。

 

「ふぃ~」

「ん、終わったか?」

「うん、やっぱここが一番調子いい……って死神いるじゃない。お迎え?」

「いやまだ死ぬつもりないから!」

 

 そんな言葉にツボに入りっぱなしの小町がさらに笑う。

 

「それじゃあたしのお迎え?」

「いや妹紅さんが言うと重いんですけど!」

「誰が蓬莱人連れてけんだよっ!」

 

 小町が呼吸困難になっていた。

 

「ひぃっ! しぬっ! 死神に死神きちゃうっ……!」

 

 自分で言ってさらに笑っている。

 

「ここまで笑ってると逆にこっちが引くなぁ」

「店長に同意」

「待って私置いてきっぱなし?」

 

 そう言って首をかしげるはたてに笑いかけると、そっと追加のコーヒーを差し出す。

 チルノを記事にしてもらっている礼もかねたサービスなのだが、それを理解してかはたては『ありがと』とだけ言って差し出されたコーヒーを飲む。

 ようやく落ち着いたのか、小町がはたての方を向く

 

「ふぅ、ふぅ、ていうか、はたてっていつもここいるねぇ」

「なに、店長のこと好きなの?」

「モテる男は困るなぁ」

 

 そんなノリに合わせて、リョウは笑ってそう言いはたての方を向くのだが……無言。

 固まるリョウ、ついでに妹紅もあれ? と小首を傾げて、小町が少しばかり目を輝かせていた。

 

 

「……っ! 何言ってんの!? なぁんで私がこいつ!?」

「すっげぇツンデレのテンプレ! はじめてみた!」

「おい小町さんそれ以上余計なこと言うな!」

 

 真っ赤になって立ち上がるはたてに、テンションが上がる小町、そして場が乱れるので一旦落ち着かせるためにリョウが小町を止めようとするが、素が出て焦る。

 はたては最初に頼んだランチ代を叩きつけるようにカウンターに置くとダッシュで店を出ていく。

 沈黙のリョウ、楽しそうな小町、困惑する妹紅。

 

「え、店長……そういう感じ?」

「いやはたての場合、相手が誰でもこの感じで出てくと思うぞ……数千年単位の初心だし」

「そうかなぁ……」

「そうだよ」

 

 そう言ったリョウだが、突如扉が開き―――はたてが戻ってきた。

 

「わわわ、忘れ物よ!」

 

 真っ赤な顔のまま、元座っていた席に近寄り忘れ物だった“カバンと記事一式”を持つ。

 そのままギコギコ音が鳴りそうなほどのぎこちなさで歩いて、扉を開いて外に行くのだが、顔だけを中にのぞかせた。

 

「ま、また明日……」

 

 そう言うと今度こそ扉が閉められて、扉につけられたベルの音だけが店内に響く。

 息をついて頭を抱えるリョウ。

 

「よかったぁ、余計な奴が見てなくて……」

「はたてといい感じなる? まさかのはたてと!?」

「なんで小町さんテンション上がってんっすか、そんな恋愛脳だっけ?」

「いやぁ~良いじゃん良いじゃん!」

 

 なぜか嬉しそうに、腕を組んでうなずいている。

 

「そういう感じじゃないって……てか、俺も」

「店長はもうちょっと胸大きい方が好みだよね」

「そうそう……って妹紅さん!?」

 

 突如とした爆弾の投擲に妹紅がボンバーマンに見えてきた。

 

「って射命丸が」

「あのクソガラス……」

「へぇ~そうなんだぁ、へぇ~?」

 

 相も変わらず清く正しい射命丸に殺意を燃やすリョウを前に、にやにやしながら小町が胸の下で組んでいた腕を軽く持ち上げる。

 もれなく豊満な胸が揺れるのでもれなくリョウの視線は釘づけであった。

 

「めっちゃ見るじゃん」

「そんなことされて見ない男がいるか!?」

「ロリコン」

「良かった俺ロリコンじゃねぇ!」

 

 良いのか悪いのかわからないが、おそらく色々考えた結果ロリコンではないほうが良いだろう。

 

「フッ、話は聞かせてもらいました」

「あ、射命丸じゃん」

 

 射命丸文が、バックヤードから繋がる通路の入り口で腕を組んで壁にもたれ立っている。

 

「わざわざ裏口から入ってきたのかコイツ」

「テメェこのクソガラス焼き鳥にしてやらぁ!」

「店長チンピラ出ちゃってる!」

 

 妹紅の言葉に、咳払い。

 今更そんなことしても幻想郷の大抵の人間は、リョウは口が悪くなるということぐらい知っているのだが……。

 先に口を開くのは、文だった。

 

「……はたてとラブコメするんですか?」

「結構前から聞いてんなァ!?」

 

 あちゃーと顔を覆う妹紅。やはりそう簡単に人は変われないのである。

 

「ラブコメするんですね!? すると言いなさい! そして同棲して私とチルノさんの愛の巣から出てきなさい!」

「そんなもんはねぇよ!」

「はたてをその気にさせなくては!」

「その気ねぇってわかってんなら放っとけ色ボケガラス!」

 

 二人のいつもの喧嘩が始まったので、妹紅はそっとコーヒーを飲む。

 言い合いをBGMに静かに息をついてうなずく。

 

「え、なにその落着きよう」

「なんか店長としょっちゅういるから、落ち着くのよね。この感じ」

「ついてけない距離感だね」

 

 そう言って小町もコーヒーを一口。

 

「いいじゃないですかはたて! 私よりもおっぱいないけど! リョウの好みはもっと巨乳だけど!」

 

 自らの胸を持ち上げつつ言う文に、リョウは憤慨した。

 

「余計なこと言うんじゃねぇよ変態!」

「ともかく早く私にチルノさんと同棲する環境を! そのためにリョウははたてとこのままラブコメ!」

「一生ねぇよ!」

「フッ、話は聞かせてもらいました」

「大ちゃん!?」

 

 いつの間にか扉を開いて、大妖精が立っていた。しかも文の登場時と同じポーズだ。

 最近、大妖精が文に似てきた気がする。言えば自害するので誰も言わないが……。

 

「ラブコメするんですか? はたてさんと?」

(めっちゃロリコンドマゾガラスと同じこと言うじゃん……)

 

 それでも決して口にしてはいけないのだ。

 

「じゃあ私はチルノちゃんとラブコメします!」

「大ちゃんさん!?」

 

 大妖精は暴走状態だった。よくあることである。

 しかしてリョウには大妖精の暴走を止める実力はないので、妹紅と小町の方を見るが二人して視線をそらしてくれやがったので、リョウは毒を持って毒を制するために文を見た。

 

「大妖精さん、やはり私の最大の敵はあなたですかっ」

「前までの私とは違いますよ……」

 

 不敵に笑う大妖精と、顔をしかめる文。

 まぁ弾幕勝負であれはどう考えても大妖精に勝ち目はないのだが、ゴールがチルノであれば話も変わるだろう。

 突如ラブコメしたいと言ってた奴らがバトルものの雰囲気を出し始めたので、少しばかり楽しそうにする小町。

 

「表でやれ」

 

 珍しく大妖精と文の弾幕勝負が見れるのかと、少しばかり心が躍っているリョウ―――だったのだが、それは突如中止となる。

 扉が開かれ、ベルの音が店内に響く。

 そちらに視線を向ければ、意外な人物。

 

「こんにちはリョウさん」

「ミスティア、いらっしゃい」

 

 入ってきたのはミスティア・ローレライ。

 それに次いで、ルーミア、リグル、チルノも入ってくる。

 

「チルノさん! 珍しいですねこんなところに!」

「こんなところで悪かったな止まれ変質者!」

 

 今にも飛んでいきそうな文の翼をあらかじめつかんでおくリョウ。

 まぁ本気を出されればもれなく吹っ飛ぶのはリョウなのだが、こうしておけば文の方も自制が効くのである。本気でつかんでいないと今にも飛びかかりそうな力ではあるが……。

 しかしまぁ、チルノが来ることは大妖精がここに現れた時点で察しはしていた。

 

「遊びに行くって言ってませんでした?」

「んー終わったー」

 

 そう言いながらテーブル席の椅子に腰かけるルーミアと、その隣にリグル。

 リグルはリョウが文の翼を掴んでいることからなんとなく状況を理解し苦笑、さらに大妖精の目がギラギラしているのでなんらかのチルノ談義があったと理解する。

 ちなみにルーミアは小首をかしげていた。

 

「ジュース出すからチルノさんとミスティアも座ってください」

「んー」

「ありがとうリョウさん」

 

 座ろうとするチルノとミスティアだったのだが刹那、タイミング悪くリョウが文の翼から手を放してしまい、文が勢いよく天井にぶつかり、ミスティアの前に落ちる。

 驚いたミスティアが後ろにのけぞり、そのまま背中から倒れそうになるも―――。

 

「っ!!?」

 

 全員が動こうとするも、真っ先に動いたのは超近距離にいた―――チルノだった。

 

 咄嗟のことに飛べないミスティアの手を掴んで、もう片手をその背に回す。

 ミスティアの身体は床とほぼ垂直、チルノが手を離せばそのまま後頭部を床に打ち付けるところだったが、結果としてはその背中と腕を掴んだチルノがミスティアを支えるという、ダンスのフィニッシュかのような体勢になっている。

 超至近距離にある凛々しい表情のチルノ。

 

「大丈夫、ミスチー?」

「~~~ッ!!?」

 

 瞬時に、真っ赤になるミスティアの顔。

 そして倒れていた文が腕をチルノに伸ばして叫ぶ。

 

「ばかなぁぁぁ!」

「イムホテップみたいになってんな」

「誰だいそれ」

「気にしないで」

 

 そっと、チルノがミスティアを起き上がらせて軽くその身体を見てうなずく。

 

「怪我無くて、よかったのよさ」

「はぅっ……う、ぅんっ」

 

 真っ赤な顔のままうなずくミスティア。

 妙に優しく笑うチルノに動機がおさえられないというように、胸に手を当てつつそのまま椅子に座るが、隣に座るのはチルノである。

 赤い顔のまま、チルノから視線を外してミスティアはそわそわとしだす。

 

「これはあれだなぁ……」

「店長、どうするの?」

「どうするもこうするもなぁ、さすがチルノさんだ」

「あ、こいつもダメらしい」

「知ってた」

 

 なぜだか自慢げにうなずくリョウに、諦めたような表情を浮かべる妹紅。

 彼は文や大妖精とはまた違った目線の持ち主であるからそういう意味での心配はないのだが、妙にチルノを敬愛しているのでそこが気になるところではある。

 まぁ妹紅も小町もその理由を知ってはいるので、おかしいとも思わないのだが……。

 

「そういえば大ちゃんいいの?」

「どうしようリョウさん……私、この歳にして友達が同じ人を好きになるとかいうラブコメ展開」

 

 ラブコメできて良かったね! そもそも何千歳よ大ちゃん。とは思っても言わない。

 リョウは自身を良識ある大人である―――と自負している。

 

「まぁなにはともあれ……はい、ジュース」

 

 とりあえず五つ、(暫定)子供たちに飲み物を出した。

 大妖精もチルノの隣に座るが、異様に近い気がする。いやいつも通りかもしれないと思いつつも、やはりミスティアの影響かと深く考えつつ、リョウはカウンターへと戻る。

 道中なにかを踏んだ。

 

「ぐえっ」

「ん、なにか踏んだか?」

「烏天狗だよ」

 

 小町の言葉に、少し考える表情を浮かべながらカウンターの方へと戻りコーヒーを一口飲む。

 

「ならいいや」

「こ、このクソもやしぃ……」

「なんだ負け犬」

 

 声にならない声を上げて呻く射命丸文。

 

「ほんとリョウさんと射命丸さんって仲良しですね」

 

 文は笑って言うリグルへと近づいて、その肩にポンと手を置く。

 

「リグルさん……殺虫剤、おごりましょうか?」

「この人こわい! こわいこの人!」

 

 涙目になるリグルを見かねたリョウが文にグラスを放り投げるが、当然のようにそれをキャッチする。

 

「黙って座れ負け犬」

「烏です!」

「そっちなんだ……」

 

 苦笑するミスティアは、先ほどよりは冷静さを取り戻したようだった。

 何かを考えるかのような表情のチルノ、そしてそんなチルノを惚けた顔でながめる大妖精。

 

「文、負け犬なの?」

「はうっ! チルノさん、感じてしまいます」

「座れってんだろ負け犬ドマゾガラス!」

「うるせーんですよ脳筋クソもやし!」

 

 罵声飛び交うその店内で、妹紅は安心するような表情でコーヒーをすすった。

 そしてそんな妹紅を見て小町は苦々しい表情を浮かべる。

 

「……あんたも結構異常だよね」

「え゛っ!」

 

 




あとがき


気づけば数年
まぁこっからはね。頑張るよ!

応援よろしくお願いしまーす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。