さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第22話『大根役者と永遠亭』

 ―――朝、リョウは洗い物と洗濯を終えて一息ついていた。

 

 テーブルを囲むのはチルノ、文、大妖精、リョウといういつもの四人。

 おそらく一番まともなのはチルノ、と他人には言われかねない地獄。

 並の者が参加しようものなら一瞬で廃人と化す―――と、魂魄妖夢が先日言っていた。

 

「チルノさん、この漢字読めます?」

「んー“射命丸文”でしょ、文はあたいをバカにしすぎなのよさ! 文の名前ぐらい読めるわよ?」

 

 むぅ、とふくれっ面になるチルノ。

 文は呼吸が荒くなり、笑顔のまま鼻血を流すのは大妖精。

 そんな二人に引きながら、なにかが起こる前に止めなきゃなーとか思っているリョウなのだが、起こってからでは遅いのだ。

 

「それじゃこれは?」

「メスブタ射命丸文」

「ッ~~~!!」

「うぉいクソガラス! 残飯漁ってろゴラァ!!」

「ッ! せっかくの余韻台無しにしないでください脳内ピンクもやし!」

「クソみてぇな余韻に浸ってんじゃねぇボケェ! てかお前にピンク言われたかねぇわ!」

 

 射命丸文をぶっ殺すか一瞬本気で悩んだ大妖精でもあったが、結果的にそちらよりも、今日のリョウはチンピラ度が高いなぁ。という感想の方に思考がもっていかれる。

 なにはともあれ、いつも通りなので安心感。

 小首をかしげているチルノを見て、大妖精はその無知っぷりが良い。と頷く。

 

「でもイケメンチルノちゃんにエスコートされるのも捨てがたいなぁ」

「大ちゃんさん!? この子はもうだめだ!」

 

 文と取っ組み合っているリョウが叫ぶが、大妖精は妄想に耽っていてまるで聞いていない。

 実に、いつも通りである。

 

 

 

 チルノたちがいつも通りの朝を迎えていた頃、妖怪賢者こと八雲紫が自らの屋敷の縁側に腰掛けて茶を飲んでいた。

 外の世界との境界上にあるという、そこには彼女の式神である八雲藍も共に在る。

 

「紫さま、お早いですね」

「そうね……夢見が悪かったものだから」

 

 そう言ってため息をついた紫を察してか、藍は眉を顰めつつどこからか出した饅頭を取り出した。

 

「ありがとう、さて……行こうかしら」

「どちらに?」

「少しね……そのあとはどうしようかしら、適当に過ごすわ」

「私も」

「一人で良いわよ。ちょっとした用だから」

 

 そういうと、饅頭を一口で食べて開いた“スキマ”に消えていく。

 そこが閉じると、藍はため息をついて紫が使っていた湯呑を持ち、台所へと向かい歩きだす。

 

「優しすぎるんじゃないですか……紫さま」

 

 深く心配するような声で言うと、頭の中に浮かぶ人間の顔を頭を振って消す。

 今日は自らの式神、橙に会いに行こうと強く頷いた。

 

 ―――いつだって誰だって、大事な者といるのが一番なのだ。

 

 

 

 そして、チルノ邸は―――落ち着いていた。

 同時に茶を飲む四人が、湯呑を置くと同時にほうっと息を吐く。

 喫茶レインメーカーの方は、本日は定休日であるのだが……予定を思い出す。

 

「永遠亭行かないとか」

「かぐやのとこ?」

「ん、チルノさんも行きます?」

「いく!」

 

 チルノが元気にそういうと、リョウが頷く。

 すっかりチルノファンというのは存在するもので、いまだに人里を通ると気さくに話しかけられたりする。

 少し早めに出るのが良いだろう。それに店に寄って手土産を持っていかなければならない。

 

「そういえば、大ちゃんと文は?」

「あ、私も行きます。チルノちゃんと輝夜さんを一緒にしとくわけにはいかないんで!」

「いや輝夜さんは別に」

「しとくわけにはいかないんで!」

「あ、はい」

 

 圧に負けてとりあえず頷いておく。

 

「で、お前は?」

「今日はやめときます」

 

 意外、と眼を見開くリョウに、文が苦笑で返した。

 

「……チルノさんのお布団で寝てます!」

「出てけ!」

 

 そう言いながら、リョウは四つの湯呑を持って台所へと向かう。

 チルノも同じく台所へと向かい、なにか話をしているがこのあとの予定などだろう。大妖精は着いていくだけなので良いか、とリョウとチルノを微笑ましく見ている。

 そこでふと、文も同じような視線を向けているのに気付いた。

 

「なにか大事な用ですか?」

「お墓参りです」

「お墓参り?」

「リョウの」

「ちょ! 文さん!?」

「おー良い顔しますねー」

 

 驚愕する大妖精に、文がケラケラと笑ってシャッターを切る。

 それまた驚いた大妖精が、文をジト目でにらむのだがいかんせんふくれっ面が可愛らしいので威圧感も何もあったものではないだろう。

 ともかくだ……。

 

「それじゃあ今日のうちに私はチルノちゃんと大人の階段登らせていただきますねっ!」

 

 ニッコリと太陽のような笑顔を浮かべる大妖精。

 文が即座にチルノに駆け寄ってなにか捲し立てるように喋りだす。

 

 ―――ちなみに、その騒ぎもリョウが文にコブラツイストをかけたところで終わった。

 

 

 

 その後、文と別れてチルノ、大妖精、リョウの三人は人里へ。

 住人達から声をかけられたり偶々遭遇した稗田阿求と本居小鈴と出会って立ち話してしまったりで、予定より遅くにレインメーカーへと辿りついた。

 冷蔵庫から、箱を取り出して紙袋に入れる。

 

「お土産?」

「そ、昨日のうちに作っといた奴……世話になってるからね。異変のたびに」

「リョウさんいっつも大けがしてるから……」

 

 苦笑して言う大妖精に、リョウも苦々しく笑う。

 実力が見合っていないという自覚もあるのだが“能力故”に足止めやらなにやら便利なのだ。まぁその結果がリョウは重傷、戦線復帰不可となるのだが……。

 まぁなにはともあれ、永遠亭の八意永琳には大変世話になっているのだから土産の一つぐらい持っていかなければならない。

 

「いきますよチルノさん」

「うん!」

 

 扉を開いて外に出るリョウと、大妖精の手を引いて外に行くチルノ。

 誰もいなくなった店の中に開かれるスキマから、頭だけを出すのは八雲紫。

 

「……タイミング悪いわねぇ」

 

 せっかくコーヒー飲みに来たのに、とつぶやいてそっと椅子に座る。

 周囲を見渡して、静かに息を吐いた。

 

「……面影あるわね。この店も」

 

 そうつぶやいて軽く目を瞑る。

 テーブルに頭を預けると、“赤くなった左頬”にひんやりとしたテーブルの冷たさが心地よく広がった。

 眠気すら感じ始めてすぐに起き上がると、そんなところチルノやリョウにみられるわけにもいかないと、欠伸を噛み殺しつつ背を伸ばす。

 

「霊夢のとこでも行こうかしら」

 

 そうつぶやき再びスキマを開く。

 

「まったく射命丸、おもいきり引っ叩いてくれちゃって……」

 

 ため息をついて、左頬を撫でながら店から消えた。

 

 

 

 再び、数分の時を経てリョウたちは永遠亭に続く、迷いの竹林の入り口へとやってくる。

 基本的には妹紅や“因幡てゐ”がいなければ永遠亭にたどり着くのは非常に困難であるので、前もって八意永琳には向かうということを伝えてはいて迎えを出すとは言っていたのだが……。

 そこには、ブレザーにミニスカート、ウサギの耳を持つ紫色の長い髪の少女。

 赤い瞳を持つ少女は、リョウたちの方を見てふっと微笑む。

 

「こんにちは、リョウさんチルノ大妖精」

「鈴仙……」

「ウドンゲじゃん」

 

 永遠亭の薬師、八意永琳の弟子こと鈴仙・優曇華院・イナバ。

 この幻想郷においてかなりまともな方であり、人間とも有効な関係を築いている。今は永遠亭から人里に薬を売りに来たのだろうと、背中にかついでいる木箱で理解した。

 本日の案内役は鈴仙のようだということがわかり、リョウは心底安心する。妹紅でもいいがてゐだとどうなっていたかわからない。

 

「行きましょうか……あれ、本日は射命丸は?」

「なんか用事あるとかで、ですね」

「リョウさんと一緒にいないなんて珍しいですね?」

「チルノさんと一緒にいないのが珍しいんですよ」

 

 そう言って苦笑を浮かべると、歩き出す鈴仙の後を追って行く。

 チルノが楽しそうに大妖精を話をしながら歩いているのと同様に、リョウはリョウで鈴仙と話をしながら歩いていた。

 周囲には、時たま“ウサギの気配”を感じる

 

「……いたずらウサギか」

「まぁてゐがいなければそこまで派手なことはしてきませんから……」

 

 苦笑する彼女に、リョウは眉をひそめた。

 つまり地味なことはするということである。

 

「そういえば今度、姫様がそちらにお邪魔したいと」

「輝夜さんが出てくるのか!?」

「え、あ、はい……」

「……初めて見る」

「まぁ滅多なことでもないと出てきませんからね……宴会とか」

 

 ふむ、と頷くリョウはならば手土産は別のものでも良かったかもしれないとも思った。

 まぁお礼は主に永琳に、なのでそこまで深く考えることもないだろうと、頷く。

 

「まぁその時は……おすすめでも食べてもらおうかな」

「リョウさんのお菓子、人気ありますもんね。人里でも……私も好きですよ」

 

 そう言って笑う鈴仙に、少しばかり心をもっていかれそうになるリョウ。

 基本的に巨乳の美少女には弱い。ウィークポイント、弱点と言っても過言ではないのだ。

 

「そういえばリョウ!」

 

 隣にやってきたチルノの方に、鈴仙とリョウは視線を向ける。

 

「春のお祭り、リョウはお店とか出すの?」

「え、あ……あ~お誘いは来てるんですけどね。今年はいいかな。チルノさんと回りたいし」

 

 そう言って笑うと、チルノが笑顔を浮かべてリョウの手を取った。

 

「うん! はじめてのお祭りだし、一緒に回ろうね!」

「……はい」

 

 微笑を浮かべてうなずくいたリョウは、チルノに握られた手をこちらからも少し強く握り返す。

 鈴仙が、リョウに手を伸ばしかけて……下ろす。

 だがその瞬間、大妖精が空いたチルノの片腕を抱きこむように腕を組んだ。

 

「私も一緒だよチルノちゃん、そしてこっそり抜け出して人気のない場所なんかで……キャー!」

「なんで抜け出すの? というかなんかあるの?」

「気にしなくていいよチルノ」

 

 苦笑してそういう鈴仙に、チルノは不思議そうな表情を浮かべながらも頷く。ナイスアシストである。

 

「大ちゃん、腕がおっぱいに挟まれて暑い」

「なにそれうらやまげふんげふん! セーフ! やめろ鈴仙、そんな眼で俺を見るなっ!」

「いやその、うん、知ってますけど……うん」

 

 切ない。大妖精とチルノに聞こえていないのが幸いであった。

 

 

 

 四人は永遠亭へと辿りつく。

 リョウはどうにか誤解―――ではないのだが、状況を元に戻すことに成功していた。 

 

 玄関の戸を開いて、鈴仙を先頭に中へと入る。中は純和風な趣あるつくりであった。

 その音に気づいてか、どこかの襖が開く音がすると、近くの部屋から女の頭だけが飛び出る。

 

「うおっ! か、輝夜さん……!」

「あっ、来たのね……えーりーんー! おきゃくー! チルノたちー!」

 

 頭だけを出した状態で廊下の先に叫ぶ永遠亭の姫こと“蓬莱山輝夜”。かつて見た絵本、カグヤ姫その人だが、姫っぽさは服装とその綺麗な長い黒髪ぐらいしかない。

 まぁそんな月の姫は複雑な理由があってのこの幻想郷にいるのだが、別段語ることでもないだろう。

 輝夜の声に呼ばれて、奥からやってくるのは八意永琳。

 

「師匠、帰りましたぁ」

「おかえりウドンゲ、それにいらっしゃいリョウとチルノと大妖精」

 

 そう言って笑みを浮かべる永琳に、リョウも笑みを浮かべて返す。

 

「どうもです」

「えーりん! 久しぶり!」

「こんにちは」

 

 しっかりと挨拶をした二人を見て、リョウは手に持った紙袋を渡した。

 

「つまらないものですけど」

「あら、わざわざありがとう」

「食べ物!? 食べ物ね!」

「輝夜?」

 

 ニコニコ笑顔を浮かべながら振り返った永琳の顔は、こちらからは見えないが圧は感じる。

 苦笑する大妖精と鈴仙、チルノは感嘆の声を上げていて、輝夜の顔は青くなった。

 

「ご、ごめん……ありがとうリョウ」

 

 弱弱しく言う輝夜を見てうなずくと、永琳は再びリョウたちの方へと向き直る。

 

「ごめんなさいねうちの姫様が……ということで、上がってもらって良いわよ」

「チルノ、大妖精、ゲームしましょー!」

「……二人とも、姫様の相手お願い」

「かぐやと遊ぶの楽しいからいいよっ!」

 

 そう言って笑顔を浮かべたチルノが、大妖精の手を引いて輝夜の部屋へと入った。

 その光景を見て、部屋から聞こえる声を聴いて、微笑ましいと笑みを浮かべる三人。

 リョウも靴を脱いで上がると、チルノと、連れられて行った大妖精の靴も揃えた。

 

「貴方も律儀ね……前から」

「前もなにも一年しかいないっすよ」

 

 そう言いながら、永琳と共に廊下を歩き出す。

 リョウの後ろから鈴仙も着いていく。

 

「そうね。まだ一年なのね……とりあえず健康診断でもする?」

「いや、別にやんないっすよ。なんか引っかかりそうで怖いし」

「そういうの気づいてあげるのも医者の仕事なのよ」

 

 笑う永琳に、リョウは苦笑で応えた。

 

「……なんか気づいてます?」

「多少はね、ていうかしょっちゅう貴方の身体見てるしそのぐらいはね」

「まぁ気が付いたらここにいるなんて、しょっちゅうですからね」

「そういうこと、隅から隅まで把握してるわよ」

 

 クスッと笑って立ち止まる永琳が、戸を空けてリョウを中へと入れる。

 困ったように笑うリョウ、その背後で鈴仙が少しばかり顔を赤くしていた。

 

「お、大人ですね……」

「そういうんじゃないから」

 

 鈴仙よりよほど年下だが、とは思ったが言わないでおく。

 幻想郷で暮らしていれば理解できることではあるのだ。

 永い時を生きるからこそ、幼くある者たち……。

 

「なにはともあれ、どうぞ」

「どうもっす」

 

 軽く頭を下げて部屋―――居間に入る。

 卓を囲むように座るリョウ、永琳。

 鈴仙は木箱を置くためにどこか別の部屋へと向かっていく。

 

「大事な話、あるんでしょ?」

「まぁ、今度はお世話かけないんで、お願いごとが一つ!」

「無条件で受けてあげたいけどね」

「えっちなことでもいいんですか!?」

「去勢するわよ」

「あ、はい、すみません」

 

 ちょっとした冗談なのに、と思いながら目をそらすも永琳はニコニコしている。

 

「なんつープレッシャー……」

「伊達に生きてないわよ。というよりそんなことどこででも言ってるんじゃないでしょうね?」

 

 ジト、とした目で見られると、頬を掻きつつ目をそらす。

 

「さすがにこんなストレートにセクハラ流してくれるの永琳さんだけなんでぇ……」

「ふふっ、許してあげる。伊達に長生きしてないし、こういう会話も新鮮で嫌いじゃないし」

「つまり……えっちなことして良いんですか?」

「メスはどこだったかしら」

「すみません」

「あと私、意外と重いわよ?」

 

 フッと笑みを浮かべてそう言う永琳に、妙な悪寒を感じた。

 気軽に手を出す相手ではないし……そもそも本気だったとして相手にされるかも怪しいし、ともかく伊達に幻想郷の勢力のトップ勢ではないだろう。

 咳払いをするリョウ。

 

「それじゃ、本題に……」

「それが正解ね。貴方には鈴仙の件の借りもあるから、なるべく無条件で受けてあげる」

「……ありがとうございます」

 

 しっかりと頭を下げてから、リョウはしっかりと永琳の目を見据える。

 

 

 

 輝夜の部屋で、幻想郷では珍しいテレビゲームをやっている。

 もちろん本気でやれば持ち主である輝夜がゴリゴリに勝つのだが、それ自体が珍しいためかチルノも大妖精も楽しそうであるし……さすがに月の姫は手加減ぐらいするのだ。

 そして今は三人で協力してゲームをプレイしているのだが……。

 

「勝った!」

「私がいるんだから当然よ」

「かぐやさすがー!」

 

 笑みを浮かべながら輝夜へと抱き着くチルノ。

 外の寒気が嫌で温かくしている部屋で、ひんやりとしたチルノの柔らかな肌が頬にあたる。

 笑顔のまま、震えそうになるも―――耐えた。

 

「えへへー」

「ふふふ、ま、任せなさいよチルノ……」

 

 そう言いながら、ハッとして輝夜は大妖精の方を見る

 普段なら“八つ裂き”にされかねないような眼で見られているところだが、大妖精は何かを考えるかのように顎に手を当てて壁を見つめていた。

 眉をひそめて、どこか寂しそうな眼をしている大妖精に、輝夜も訝しげな表情を浮かべる。

 

「かぐや?」

 

 チルノに呼ばれてそちらを見ると、彼女は不思議そうな表情をしている。

 

「……まぁいっか! チルノぉ!」

「わわっ、くすぐったいわよぉ!」

 

 そのまま両手でチルノを抱きしめて頬をチルノの頬へとすりすりとくっつける。

 ひんやりとした感覚が気持ちよくなってきて、ついついよだれが垂れてしまうが仕方のないことなのだ。

 

 ……直後、頭部にクナイが刺さった辺りで“調子に乗りすぎた”と反省するのだった。

 

 




あとがき


ちょっとシリアスな気がしないでもない今回
次回もなんとなく日常回的な何か
そろそろアクション入れても良いかなとも思わんでもないけども

ともかく、次回もお楽しみにしていただければー
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