さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第23話『冬と平穏』

 永遠亭から自宅への帰路を行くチルノたち。

 

 帰り際に蓬莱山輝夜が『もっとチルノたちと遊ぶ~!』とかいうわがままを言って地団駄を踏んでいたが永琳が〆た。

 見事なチョークスリーパーをかけていて、輝夜が白目向いて泡を吹きだしたところでリョウがレフェリーストップをかけたが、黙ってみていた鈴仙は『もうちょっと早めにとめてあげればよかったのに』と思ったそうだ。

 

 鈴仙に迷いの竹林から人里へと送ってもらい、そこから色々お土産をもらいつつ森を抜けて家の前。

 人里でもらった棒型スナックを食べているチルノと大妖精、リョウは鍵を出そうと思うもとりあえずドアノブに手をかけてひねってみると、扉が開く。

 ただそれだけで察する。

 

「鴉か……」

「文?」

 

 靴を脱いで居間に入ると……烏天狗が横になっていた。

 気配を感じてか、眠気眼をこすりながら起き上った射命丸文は上体を起こして背と翼を伸ばす。

 

「んぅ~!」

「羽が散るんだよ」

「文だ。寝てたの?」

「おかえりなさい。てかもうそんな時間ですか!?」

 

 窓から差し込むのが夕日だということに気づき、肩を落とす。

 

「あ~しまったぁ」

「文さん、目が赤いですけど」

「あれ、花粉症ですかねぇ……目薬あります?」

「棚かどっかに、あった。それか結膜炎とか?」

 

 そう言いながら、リョウが取り出した目薬を受け取って、文は差す。

 

「あ゛~……ありがと」

「おう、気をつけろよ。ドライアイとか」

「わかってますよぉ」

 

 返された目薬を棚にしまうリョウ。

 

「そういえばどうでした。リョウがまた永琳さんのおっぱいガン見してました?」

「……」

「あーやっぱ見たんですね!」

 

 目薬で涙を流しながら、リョウの方に指を向けて嬉々として言う文。

 

「うるっせぇ見ない方が失礼だろが!」

「いや、それはない」

「ないですよリョウさん」

「……そっか、ないか」

 

 さすがに大妖精もあちらについては分が悪い。大人しくすることにしたリョウ。

 

「とりあえず、晩飯晩飯~チルノさんなに食べたいっすか?」

「肉じゃが!」

「そんな素材……あったわ」

「さすがあたいの主夫ね!」

「そういえばそんなことも言った気がしないでもない」

 

 そう言いながら苦笑すると、冷蔵庫から食材を出していった。

 居間から姦しく声が聞こえてくるが、楽しそうなチルノの声に頬をほころばせながら食材を置いていく。

 なんの因果か、幻想郷でもトップクラスで文明開化しているチルノの家。河童脅威の技術力。

 

「もはやジオン」

「え、リョウさん頻繁にテロ起こすんですか?」

「大ちゃんはその偏った知識なんとかした方がいい」

 

 そう言いながら、リョウはざるとボウルを用意していく。

 隣の大妖精が、棚を開けてそこからピーラーを取り出したので、なるほどと頷いて文とチルノの方に耳を傾けるが、楽しそうな声が聞こえてくるのでそのまま食材を渡す。

 じゃがいもを受け取り、大妖精は嬉しそうに頷く。

 

「大ちゃんはあれだな、主婦の素養があるな」

「それじゃあいつチルノちゃんと結婚しても大丈夫ですね!」

「ああ、うん、そうかも」

 

 ニコニコする大妖精の圧に負けてとりあえず了承してしまう。

 だがすぐに、大妖精はじゃがいもの皮むきを再開しつつ目を細めて微笑む。

 

「まぁチルノちゃんが気づけばなぁ……」

「チルノさんに恋愛は早いかもしれないからな」

 

 しかして、チルノが誰かを選ぶとして、そうなれば頼まれなくてもリョウは出ていくことだろう。

 彼女の幸せ以上に求めるものなどありはしない。

 そういう思考でいるのは……。

 

「俺が、チルノを……」

 

 大妖精が眉をひそめて心配そうな表情でリョウの方に視線を向ける。

 ピーラーから手を放すと、そっとリョウの服の裾を引っ張った。

 

「リョウさん」

「んぁ?」

 

 ふと、思考を引き戻される。

 

「大丈夫ですか?」

「……ごめん大ちゃん」

 

 彼女の気遣いに苦笑を浮かべつつにんじんの皮むきでもしようかと手に取ろうとした。

 その瞬間、ノックの音が聞こえる。

 小首をかしげて大妖精の方を見ると、頷くのでリョウは手を止めて扉の方へと向かう。

 

「はいはい、どなたー」

 

 軽く言いながら、ドアを開ける。

 開いたドア、前にいるのは白い女性……妖怪だ。

 柔らかな笑顔を浮かべて、静かに言葉を発す。

 

「あらリョウ、おはよう」

「……こんばんはの時間ですよ。レティさん」

 

 冬の妖怪レティ・ホワイトロックがそこには立っていた。

 その冷気か妖気かを察して、奥からチルノが駆けてくると、そのままレティの方へと跳ぶ。

 

「レティ!」

「あらチルノ、おはよう」

 

 そう言いながらチルノを受け止めるレティ。

 よほどうれしいのか満面の笑みを浮かべるチルノに、レティもふんわりとした笑みを零す。

 氷の妖精と冬の妖怪、当初はそれほど仲がいいわけではなかったそうだが、仲良くなれないわけがなかったのだろう。

 

「チルノさんだし、相性はいいだろうしなぁ」

「あ~チルノさぁんがぁ……」

 

 自らの主を取られた哀れな鴉天狗が寄りかかってくる。

 

「重ぇ」

「うら若き乙女にそういうこと言うからもてないんですよ!」

「はいはい、お前暇なら手伝え」

「チルノさんをレティさんにあげようってんですか!?」

「レティさんはそういうんじゃねぇんで」

 

 そんな言い争いをしているうちに、レティはチルノと共に奥の居間に行ったようで、楽しそうなチルノの声が聞こえてきた。

 リョウは微笑を浮かべて調理を再開しようとするが、文はともかく大妖精も絶望したような表情を浮かべている。

 まったくこのチルコンたちは、と溜息をついた。

 

「いま、お前が言うなという電波が降りてきました」

「俺の心読んだか?」

「新手の口説き文句ですか?」

「なにが悲しくてお前口説くんだよ」

 

 軽く言い合いながら調理を進めていく。

 三人並んでそうしていると、親子のように見えなくも……。

 

「あ! なんかすごい不愉快な電波飛んできました!」

「電波受信する鴉は嫌だな」

「ごもっともですね」

「二人ともひどくないですか?」

 

 文の言葉に二人して『全然そんなことない』とは思ったが、言わないという情が二人にもまだあった。

 その後も軽く軽口を交わしつつ、楽しげに調理を進めていく……。

 

 居間ではレティが座っており、その膝にチルノが座っている。

 楽しそうに語るチルノの言葉を、楽しそうに聞くレティ。

 そうしていると姉妹のようにも見える。

 

「ん~やっぱり」

「ん、どうしたのチルノ?」

「レティのふとももってやらかくて座りやすいなって!」

「褒めてないわよ」

 

 一転、眉をピクピクさせながら言うレティ。

 ふとましいだとかあたり判定が横長だとか、巫女とか魔法使いが言いたい放題言いやがる記憶が思い出される。まぁチルノはそういう意図があって言ったわけではないのだが……。

 レティもわかっているからこそ言いづらい。

 

「あたい好きだなっ」

「……もぉ」

 

 そんな風に言われては笑顔にならざるをえない。

 

「もう、お休み?」

「そうねぇ、今日が最後になるかなって遊びに来たのよ……しばらく寝てたし」

「また次の冬までだねー」

 

 どこか寂しそうな声に、そっとチルノの頭を撫でる。

 

「待ってるね。リョウと大ちゃんと文で」

「そうね。ありがとう」

「レティがいなきゃ冬が始まんないのよさ」

「というよりチルノ……なんだか変ったわね?」

 

 少しだけ驚くようなレティに、チルノは頭を傾けた。

 

「そう?」

「ええ……なんだか名残惜しいわね」

 

 レティは眉を顰めて、ぎこちなく微笑んだ。

 

 

 

 妖怪の山で、犬走椛が空を見上げて時間を確認すると近くに来た哨戒天狗と入れ替わる。

 定時ということで、椛は哨戒を終えて帰路につくために歩く。

 夜はまだ肌寒いと眉をしかめる。

 

「あら、椛じゃない」

「……はたてさん?」

「相変わらずねぇ」

 

 そう言いながらため息をつく。

 

「こんな時間にどうして?」

「いやぁ、ちょっとお墓参り行っててね」

「……そういうことですか」

 

 眉をひそめる椛に、はたては『なるほど』と手を叩く。

 

「たぶんアイツも行ってたでしょ、視てた?」

「まぁ……丁度視えてしまったというか」

 

 妖怪の山からならば犬走椛は“千里先まで見通す”という能力でほぼ全域を見渡すことも可能である。

 

「辛気臭いの苦手だから一人で行ったんだけどね」

「八雲紫と一緒でしたよ。あの人は」

「はぁっ!?」

「たまたま会っただけでしょうけど」

「……命日でもないのになんとなーく行ったのが三人、いや四人って」

 

 首をかしげる椛。

 

「四人ですか?」

「ん、レティがね」

「冬の妖怪、彼女も……いや、あの件に係われば誰もが、ですか」

「そういうこと」

 

 椛は苦虫を噛み潰したような顔で、それを見たはたては苦々しく笑う。

 できることなら思い出したくもない話である。

 

 

 

 そんな二人の会話の当事者である者たちが集うチルノ家では、食事を終えて団欒していた。

 それぞれが一緒だったりすることは多いが、五人一緒というのは珍しいのだが、それでも自然でいれるのはチルノのおかげだったか……。

 

 今はすっかり静かで、チルノと大妖精が眠りについてしまっているので二人を同じ布団に運ぶと、文たち三人は外に出た。

 肌寒い空気に顔をしかめるリョウ。

 そんな彼を見て、レティは苦笑を浮かべた。

 

「情けないわねぇ」

「上着着てくりゃよかった」

 

 ため息をつくリョウ。

 

「チルノさんの冷気に快楽を見出し始めてからが本番ですよ?」

「なんの本番だ変態クソガラス……」

「土方みたいに言わないでください」

「言ってねぇ」

「あははっ、相変わらずね貴方たちは」

 

 二人のやりとりにおかしそうに笑うレティ。

 そんな彼女の笑みを見てリョウも微笑を浮かべ、チラリと文の方に視線を動かせば彼女も同じように笑っていた。

 そろそろ別れの時なのは、彼女の性質上仕方がないのだ―――冬の妖怪が春や夏に出ることもなし。

 

「それじゃあ、またね」

「次くる時にはチルノさんと私のアツアツ新婚生活をご期待ください!」

「期待しないでくるわね」

「えー」

 

 不満そうな文を見て、レティは『そりゃそうでしょう』と思いつつリョウの方に視線を動かした。

 

「レティさん、その、また……?」

「ええ、またね」

 

 ただそれだけの会話を交わして、レティは背を向け去っていく。

 背中を向けたまま、レティは背後に向かって手を上げ振って―――夜の闇へと消えた。

 

 残された二人、リョウは腕を組んでため息をつき天を見上げる。

 星々の輝きは“表”で見るには地上が明るすぎた。

 そんな彼の隣の文が、軽く腕を引く。

 

「戻りますよ。寒いんで」

「お前も寒さ弱いんじゃねぇかよ」

「チルノさんの寒さ意外はノーサンキューです」

「なるほど、変態らしい言い分だ」

 

 振り返ってドアを開けるリョウ。

 

「……泊まってくか?」

「え、チルノさんの隣で寝て良いんですか!?」

「それはダメに決まってんだろ」

「大妖精さんは一緒に寝てますよ!?」

「お前と一緒にすんな!」

 

 さすがにまったく別問題である。

 

「そういえばお祭りどうするんですか?」

「店は出さないでおく予定だから、一緒に行くことにするわ」

「……チルノさんが喜びますね」

「そりゃなによりで」

 

 二人で家へと入った。

 窓から明かりが漏れる幻想郷らしくもない、森に佇む一軒家。

 

 ただ普通に生きている。それで十分だ。十分すぎる。

 

 それだけで救われる者も、確かに存在するのだ。

 

 




あとがき

今回は静かな感じでー
シリアス入れつつ、ちょっと伏線撒きつつって感じで
そろそろ弾幕ごっこぐらい入れたい思いもありつつ

では次回もお楽しみいただければー
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