―――昼時、ピークも終えた喫茶レインメーカー。
本日は妹紅も休みで、今日一日だけ臨時でバイトを雇って乗り切った。
それほど形式ばった店でもないからして、そういうことだって容易に可能であり、客もほぼ常連なので多少のミスぐらいであればどうにでもなるのであろう。
まぁ雇ったバイトも常連―――ツインテールをなびかせて、妹紅が着ることがなかった華やかな衣装を着ている。
「馬子にも衣装だな」
「人がせっかく働いてやったのに言い方!」
臨時バイトこと姫海堂はたてが頬を膨らませてジト目でリョウを睨む。
「冗談だって、かわいいかわいい」
「かわっ!?」
顔を赤くしてあたふたするはたて。実に免疫というものが存在しないなと、少しばかり心配にもなる。
「お前は変わらないなぁ」
「なによ、私からしたらあんただって変わってないように思うけど?」
「……そうか、そうかもな」
そう言って笑うとコーヒーを飲む。
どうせ客ももういないのだと、はたてにもコーヒーを出すとパァッと音が出そうな笑顔を浮かべてそれに口をつけた。
リョウは椅子に座ると静かに天井を見上げてから、はたての方を向く。
「座っちゃうんですか」
「座ったちゃうわよ。もう客なんて変なのしかこないでしょ」
「否定しずれぇ……」
たまにはまともな者だってくるが、大半が何考えてるわかんねーヤベー奴らである。しかしヤベー奴らは大体知り合いという絶妙な状況。
いつもの端の席ではなく、前に座るはたてにそっとサンドイッチを出した。
さらに嬉しそうな表情を浮かべるはたて。
「いいわね! まかない出るなら毎日働いてやってもいいわよ!」
「妹紅さんのが良い」
「なによその言い方ー」
一転不満そうなはたてを見て笑みを浮かべる。
それにしてもたまにはまともな者がこの時間に来てもいいのではないかと思わないでもないのは、つい最近に小悪魔とパチュリーや、豊聡耳神子が来たときぐらいだ。
比較的静かなのは秦こころや純弧あたりだろうか……ヘカーティア・ラピスラズリや摩多羅隠岐奈あたりは静かに雑談をするも未だに落ち着かない。
「はたてはいいなぁ」
「はぁっ!? なに!? 口説いてんの!? リョウとか趣味じゃないけど!?」
「めっちゃ言うじゃん」
別段ショックな表情を浮かべるでもなく、リョウはコーヒーを啜る。
そうしていると、ドアが開いてベルが鳴った。
素早く立ち上がるはたてを見ると、そういうところ真面目で良いな~とは思う。
「いらっしゃい……って魔理沙かよ」
「扱い酷くないか?」
普通の魔法使いこと霧雨魔理沙がドアを開けている。
そうするとさらに入ってくる少女が一人……。
「いや魔理沙だし……お、アリスさんいらっしゃい!」
「お邪魔するわね」
「あたしの時と対応違いすぎるぜ」
「普段の行いのせいじゃないの?」
「はたて……お前いっつもここいるな」
「誰が暇人よ!」
「言ってない」
魔理沙と共にやってきた人形使いことアリス・マーガトロイドは金色の髪と青いスカートを揺らしつつ、リョウの前のカウンター席へと腰を下ろす。
その隣に座った魔理沙は目の前にあるメニューに軽く目を移すが……。
「レイコー」
「アイスコーヒーな」
「私は、カフェモカで」
「かしこまりました」
そう返事をして準備を開始する。
「てかなんではたてがそんなコスプレしてここいるんだ?」
「そんなって、かわいいでしょうが」
「まぁそれは否定しないけど、リョウとそういうプレイ中だったりしたか?」
「なぁっ!!?」
意地の悪い笑みを浮かべてそう言う魔理沙の背後に、セクハラおやじの幻影を見るリョウはため息。
そっとアイスコーヒーを出すと、軽くその頭を小突く。
「あいたっ」
「アリスさんが勘違いしたら困るから、この店の評判的にも」
「あら、リョウは天狗を侍らす趣味でもあるのかと思ってたけど?」
「なぜ……ああいや、言わなくていいっす」
手を前に出してそう言うと、リョウは何かを察したように黙ってカフェモカを出す。
天狗と言われて出てくるのなんて三人しかいないし大体予想ができる。
「そういえばチルノと大妖精は?」
「あの二人なら今日は寺子屋ですよ。アイツも地霊殿の方行くって言ってたし」
「へぇ、まぁどうせ夕方に合流すんだろ?」
「まぁそうだけど」
魔理沙の言葉に頷いて、リョウは自分のコーヒーを飲む。
はたてもお仕事モードが終わったのか椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
「今日ははたてもこっち来るだろ?」
「んー久々にリョウの家でご飯食べるのも悪くないかぁ、あんた料理の腕は確かだし」
「他が確かじゃない言い方すんなよ……ていうか俺の家じゃないけどな」
そう言うリョウを見てはたてと魔理沙が顔を見合わせて笑う。
なにか言いたいことがあるとすれば“今更俺の家じゃないとか言ってる”とかだろう。
「わかるからな? なに考えてるか」
「ツーカーってやつだな!」
「死んだ言葉だ」
クスリと笑ったアリスが、ふと何かを思い出したという風に口を開く。
「リョウ、大妖精とチルノ連れて今度ウチに来てくれる?」
「へ、二人を連れて……ああ、また服仕立ててくれるんっすか?」
「そういうこと、人形の服も良いけど……」
脳裏に浮かぶのはいつぞや彼女が仕立てた“浴衣”を着て喜ぶチルノと大妖精の二人。
「ありがとうございます」
「……いいえ、新しい浴衣も作る?」
「いや、前の奴で良いですよ。チルノさんも喜ぶでしょうし」
「そうね」
そう言ってアリスは静かに笑みを零すと、隣の魔理沙は視線を落としてメニューを見ている。
「……なんか食い物ほしいな」
「ん、なんか食うか?」
「そうだな、またサンドイッチかぁ……サンドイッチだな!」
天井を見て悩んだ結果、注文をした魔理沙を尻目に、はたてはサンドイッチの最後の一口を口に入れた。
親指についたソースをペロッと舐めて皿をリョウに渡す。
「相変わらず美味しいけどね」
ニッと笑顔を浮かべるはたてを見て、リョウも自然と笑顔を零した。
「ありがとな」
「ふふっ毎日食べたいぐらいよ」
言ってから、ハッとしたはたての顔が徐々に赤くなっていき……耳まで真っ赤になった時点でよりにもよって魔理沙が口を開く。
「プロポーズ?」
「ち、違うから! そういう意味じゃないからっ!」
「はたて、貴方……男見る目がないわね」
「待ってアリスさん、通りざまに俺を切り付けないで」
はぁ、とため息をつくアリスにはたてが詰め寄る。
「だからそういうんじゃないって! こんな死に急ぎ誰が好きになんのよ!?」
「死に急ぎって誰がだ」
「あんたでしょうが!? 前回も前々回もさらにその前も!」
「……そんなことないよなぁ魔理沙?」
「異変終わりに毎回永琳の世話になる奴がよく言うぜ」
目をそらしてため息をつく。
「死に急ぐつもりはないんだけどなぁ」
「毎度心配するこっちの身にもなりなさいよぉ」
睨んで恨むように言うはたてに、気まずそうに視線をそらす。
さすがに心配をかけているという自覚はあるのだろう。何人かには説教を食らったこともあるし、永琳にはほぼ毎回小言を言われている。
かといって異変解決にチルノが乗り出すと言っているのだから行かぬわけにはいかないのだ。
「んー……むしろ生きたいんだけどな」
「言葉と行動が合ってないのぜ」
そうした話をしていると、扉が開いてベルが鳴る。
「いらっしゃいませ、幽香さん」
「幽香?」
「珍しいわね、ここで会うなんて」
花の妖怪こと風見幽香がたたまれた日傘片手に入ってきた。
おしとやかな雰囲気にリョウとしてはかなり惹かれるものがあるのだが、いかんせん本性を知っているので小悪魔の時のように思考は暴走しない。
つい最近も吹き飛ばされたばかりだ。
「ふぅ、それにしても午後にこんなにお客がいるのも珍しいわね」
「はたては客じゃないっすよ。こいつバイト」
座った幽香にそう言うと、少し驚いた表情を浮かべる。むしろなんだと思ったのだろう。
はたてがジト目を幽香に向けた。
「妙なコスプレしてるとは思ったけど」
「コスプレじゃないわよ!?」
「なんかリョウとのそういうプレイなのかなってね?」
「なんでよ!?」
ぐわーっと捲し立てるはたてを見て、幽香がおかしそうに笑う。
笑いの絶えない店ではあるも、必ず誰かしらキレている気がする。
「どうしようかしら……紅茶が良いわね」
「良いの入ってますよ」
「良い心がけじゃない。貴方のそういうまめなとこは好きよ?」
優しげな顔をしてそう言う幽香に、リョウは顔をしかめた。
そうやってからかわれることが頻繁にあるので慣れてはいるが、やはり一瞬だけとはいえ心臓に悪い。
たまには反撃してやろうかと思わないでもないので、紅茶を準備しつつ口を開く。
「俺も幽香さんの優しいとこ好きっすよ」
「あら、チルノに怒られそう」
「さてどうですかねぇ」
実際にどうなのだろうか? まるで想像がつかない。
リョウが出ていくことになったところで引き止めるところも放置するところもだ。同様にリョウがチルノの下を去るということも然り、誰が想像できるだろうか……。
幽香ははたてを指さす
「それに横の鴉天狗は?」
「だからはたては―――
「はぁっ!? 何言ってんの!? だからこんな目つき悪い奴のどこが!?」
「俺がツッコミ入れる前に……トランキーロ、あっせんなよ」
誰がわかるというのだろうかというネタをぶっこむもはたては止まらない……。
「なんでどいつもこいつもそんなっ! ね、ねぇリョウ!!?」
「お、おうそうだな……ていうか幽香さんあんまからかわないでやってくださいよ」
「ふふっ、ほんとおもしろいわね」
楽しそうな幽香。『さすがドS』とも思ったがこれ以上言うと厄介なことになる気もする。
「意外と人気あるから大変じゃないか?」
「その話、前もあったけどさぁ……なんか主夫的な使い道じゃね?」
「まぁそうだな、誰かが独占するとこの店なんかも、あと気軽にいじりにいけないし」
「魔理沙って1から52だったらどの番号が好きだ?」
「え……ちなみに何の番号?」
「リョウのことだから、どうせ技の番号でしょ」
アリスの言葉に頷く。
「52の
「こえーよ!」
まぁ真面目に彼がただ一人の女を選び動こうものなら、意外とどうにかなりそうな気もするなとアリスは彼の友人ながらに思わないでもなかったのは、彼のこれまでの戦い等を見ているからだろう。
それはまともな道ではなかったが、彼を知るに十分すぎるものだっただろう。自分にとっても、他の者たちにとってもだ。
「……まぁそういう道を選べるほど器用じゃないわよね、貴方は」
「え、突然ディスられた?」
「アリスったらサディストねぇ」
「幽香に言われたくはないんだけど」
頬杖をついて口元をニヤつかせる幽香にアリスは不満そうな顔を向ければ、それを見て笑う魔理沙。
リョウはというと、アリスに言われた言葉に思うところがあるのかわずかに眉をひそめていた。
そして、そんな彼を見るはたてはため息をついて背を伸ばす。
「りょ~う、上がるわよ?」
「ああ、ありがとな。っと給料給料」
「いいわよ。やってりゃ来るから先払い」
その言葉に、リョウはフッと笑みを浮かべてうなずいた。
はたては満足そうに頷いて笑うと、着替えのためか裏口へと消える。
リョウがふと視線に気づくと、幽香と眼が合った。
「はたて、良い娘だと思うけどね」
「いやそういうんじゃないですよホント……支えてくれる大事な奴ではありますけど」
彼女が去って行った方を見ながら、つぶやく。
「まぁそういう意味じゃ射命丸や大妖精とかと同じ?」
「ええ」
軽くそう言うが、それはきっと特別な存在なのだろう。
色恋の沙汰ではなくただ純粋に、家族とはまた違う存在。
しかして友というには重すぎるし、恋仲というには一つ道が違う。
「貴方がもう少し器用ならね」
「器用な方だと思ってるんですけどね」
「本気で言ってるの?」
「ハハ、よく俺をご存じで」
「ええ……もちろん♪」
良い笑顔でそう言う幽香に、困ったように笑うリョウ。しかし、その表情はどこか楽しそうでもあった。
雰囲気が変わったことを察してか、コーヒーを飲んだ魔理沙が口を開く。
「まぁリョウはモテるってより一家に一台って感じだしな」
「コーヒー飲んだからそんなブラックなジョーク言っちゃうの?」
「うわ親父くさい」
アリスの言葉に顔をしかめた。
「まって傷つく、まだ20代も前半だぞ」
「そろそろ結婚を考える時期ね、人里の人間であれば」
幽香の言葉に絶望したような表情を浮かべる。
「つらい! これがセクハラ! 小悪魔さんがいる小悪魔さんが!」
「あんたホント小悪魔好きね。まぁパチュリーもくっつけて紅魔館にリョウを置いとくか考えてたけど」
「ちょっと待ってホントにそうなると話変わってくるから」
好きだが憧れのお姉さん的な感じなのである。見た目リョウの方が上だが……。
「いやしかし、小悪魔さんと……え、てか俺は婿養子になるの?」
「リョウ・ノーレッジか、胸熱だな」
「パチュリーがママねぇ」
「……それはちょっと変なプレイ感強いわね」
別に小悪魔が小悪魔・ノーレッジなわけでもないし、小悪魔がパチュリーの子供でもないし、だとかツッコミが山ほど出てくるがそれどころではない。
幽香とアリスが若干引いていて、魔理沙はテーブルに突っ伏して笑い悶えている。
「……待ってこれ俺が損しただけの話じゃね?」
「リョウがパチュリーと赤ちゃんプレイですって!?」
「変なタイミングで出てくんじゃねぇはたてェ!」
―――喫茶レインメーカーでコントが始まった頃。
どこか暗い空間、徐々に暖かくなってきた季節にも関わらずそこは冷気に満ちている。
巨大な氷塊が、わずかに差し込む陽の光によって輝く。
それを軽く撫でるのは“レティ・ホワイトロック”。
「さて……まだ寝れないわね」
少しばかりクマのできた目を見開き、氷塊に背を向けて歩き出す。
「さて、久しぶりにやりましょうか……!」
笑みを浮かべたレティは憂いを帯びた表情で何かを想う。
「チルノ、リョウ……さぁ、どうするのかしら?」
そして始まるのだろう―――新たな異変が。
あとがき
箸休め回的な、とりあえず次回から新展開
はたてのフラグが建っている気がするけど気のせい気のせい
本編内で容易にフラグは建てたくないという気持ちはある
ただし自分の気持ちとは別に手が勝手に!とか言うパターンもある
では次回もお楽しみにー
PS
感想とか誤字報告とかありがとうございますー