さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第Ⅴ章【東方白寵夢 ~ A paradise of distant dreams】
第25話『冬の訪れ -Lidong-』


 春の陽気が人里を温かく包む。

 村人たちにも活気が生まれ、花見もお祭りも近いこともあり雰囲気は寒い時期に比べればにぎやかだ。

 祭りの準備をしている店なども既に見かける。

 

 本日は喫茶店ことレインメーカーも定休日であり、リョウはチルノと共に街を行く。

 もちろん大妖精も一緒で、射命丸文も今日は共にいた。

 

「そろそろお祭りだね!」

「ですね」

 

 手を繋いだまま歩くリョウとチルノ、その後ろで不満そうな文。

 

「リョウは初めてだから色々教えてあげるね!」

「楽しみにしてますね」

 

 フッ、と微笑を浮かべてそう応え頷く。

 大妖精が駆けてきて、チルノの空いた手を取る。

 

「楽しみだね、みんなで回るの!」

「ん、リョウがいればあたいたちも嫌な顔されずに色々楽しめるのよさ」

「最近の悪戯妖精扱いじゃないの見てれば普通に歓迎されると思いますよ?」

 

 事実チルノはタタリ異変の一件以来、人里では大人気であった。

 リョウは知らないが“昔と比べれば”ずいぶんと大人になったと周りは言うだろうけれど、それはきっとどこぞの守銭奴巫女やガサツな魔法使いのおかげだろう。

 文はうんうん、と頷いてリョウの横から顔を出す。

 

「でも私のチルノさんがみんなのものになるのはちょっと……」

「元々テメェのでもないから安心しておくんなまし」

「ろくでもないですよ人里! チルノさん、一緒におうち帰りましょう! 私の家に!」

「お前ろくなこと言わねぇな」

 

 げっそりした様子でリョウは文を睨む。

 

「チルノさんのためなら河童に頼んで0度にできるエアコン作ってもらいます!」

「お前はペンギンか」

「文ってバカでしょ」

「!!?」

 

 さすがにショックを受けたかと思ったが、文はニヤついている。

 それを見て顔をしかめるリョウ。

 

「本当に気持ち悪いよ」

「ふふふ、チルノさんにこんなこと言われるの私だけですよ?」

「魔理沙にも言うよ?」

「ちょっと魔理沙さんとケリつけてきます」

「勝負の舞台にも立ってない奴まきこむな」

 

 さすがに魔理沙だろうと同情する。

 そうしていると、前方から歩いてくる―――少女が一人。

 目が合うと、その少女は上品にほほ笑む。

 

「阿求さん」

「リョウさん、おはようございます」

「あっきゅんおはよー」

「チルノさんも、大妖精さんと射命丸さんも、おはようございます」

 

 稗田阿求がそう言い、軽く頭を下げた。

 

「おはよう、今日は……小鈴のとこか?」

「はい、それから茶屋でも行こうかと」

 

 雑談でも始まるかと思い文は退屈そうに前髪をいじる。

 稗田阿求は口が堅いし格式高い家の者なので、そこまで面白い話は滅多に期待できない。

 それにリョウとの話となれば余計に、だろう。

 彼女自身も自覚は無いと思うが気の使い方が他の者とわけが違う。

 

「真面目すぎるんですよねぇ……」

 

 いつの間にかチルノから離れて横にきた大妖精。

 

「他のみんなが不真面目すぎると思うんですけど」

「……八雲紫とか?」

「文さん、紫さんのこと……っ!」

 

 ふと、大妖精の表情が変わる。それに文が目を細めると、前のリョウの雰囲気が変わるのに気づく。

 いやそれより先に変わったのはチルノのように感じた。

 そして少し遅れて人里全体の空気が変わる。

 

「これは……」

 

 リョウがつぶやくと、チルノが頷く。

 

「冬の、匂い……」

 

 そして寒気、上空には雲、嗅覚すらも……。

 

「冬だな……」

「冬、ですね」

「冬とは」

 

 周囲の人々も違和感を感じはじめたのか、ざわつく。

 その雰囲気を肌で感じて、リョウは妖怪の山の方へと視線を動かした。

 そちらは……。

 

「赤いな……」

「紅葉?」

「秋ですねぇ」

 

 ならばどこかでは当然、夏もあるのだろうか?

 しかして、文の表情はうつむいていて読めないし、リョウはただでさえ悪い目つきがさらに悪くなっている。

 大妖精は青ざめた表情で、チルノは悩むような顔。

 

「……また、季節関係の異変ですか?」

「歴史的にも多いタイプの異変ですね。その本質は違っても」

 

 阿求がそう言って、寒気に少し震えた。

 周囲の村人が集まってきて、阿求に説明を求めようとする。

 

「落ち着いてください。とりあえず防寒対策を……」

「阿求殿!」

 

 走ってくるのは―――上白沢慧音。

 

「慧音さん……」

「けーね! 冬がきた!」

 

 その言葉に、慧音の表情が青ざめる。

 なにか“嫌な記憶”でもあるかのようなその様子に、リョウが頷く。

 季節が崩れる。幻想郷の異変ではそれほど珍しいことではないが、早く解決しなければ死活問題になるのも事実だ。

 歴史を隠す力を使おうとも、所詮は隠すだけで隔離された空間に移動させるわけではない。今の状態では無意味。

 

「……まずいな、早く」

「あたいが行くよ。たぶん……これなら“相手”がどこにいるかわかるから」

「チルノ……」

 

 みんなの前で、ハッキリとそう言う。

 自らの胸に手を当てて、強い瞳で慧音を見つめた。

 悩むような表情の慧音。

 

「チルノにとって、冬の方が生きやすいだろう?」

 

 どういうつもりで言ったのかはわからない。

 もしかしたら彼女は“黒幕”を理解して、わかっているからこそ言っているのかもしれない。

 だがそれでもチルノは笑顔を浮かべて慧音たちに背を向ける。

 

「……冷気、も意識しなくっても出さなくできるようになったけど……やっぱあたい、冷たいから」

「チルノさん……」

 

 その背を、阿求が複雑な表情で見つめた。

 

「夏の方がみんなと遊べるし、あたい夏って嫌いじゃないよ」

「私は一年中チルノさんと」

「文さん」

「だ、大妖精さんこわぃ……」

 

 慧音や村人たちに背を向けたまま、氷の翼を展開するチルノ。

 

「それに、あたいは夏でも冬でも―――さいきょーになる妖精なのよさ!」

 

 そんなもの、屁でもないという風に宣言してみせる。

 リョウも大妖精も文も、わずかな笑みを浮かべた。

 

 こうなれば、やることは一つ―――異変解決だ。

 

 

 

 飛んでいるチルノ、大妖精、文―――そして文の腕に掴まっているリョウ。

 上昇できず、頑張ってもゆるやかに下降する程度までしかできないリョウはそうしなければいけないのである。

 そうしていると、リョウは真上にある文の顔を見上げ、口を開く。

 

「おい文」

「どしましたリョウ」

「お前、妖怪の山行った方が良さげだ」

 

 そう言ったリョウに、文とてわかっているのだという目を向ける。

 視界に映る妖怪の山は緑でも白でもなく、紅く染まっていた……紅葉。秋の装い。

 

「良い景色、感動的です、一句詠みます?」

「めっちゃ季語散らばりそうだな」

「才能なし!」

「まだ詠んでねぇよ」

 

 そう言いながら、文から手を離すと彼女も手を離した。

 察した大妖精が手を伸ばすのでその手を取って、今度は大妖精に下降を防いでもらう。

 ちなみに、リョウは下降速度は好きにできる。極力下降を遅くしているので重さはそれほどない。

 

「終わったらすぐに駆けつけますからねチルノさん!」

「文がピンチの時はあたいが駆けつけるよ」

「はうぁっ!? す、素敵すぎますぅ、私一生チルノさんについていきますぅっ!」

「え? あ、うん、そういうことね。完全に理解したのよさ」

「っしゃぁ! 行ってきます!」

 

 昔のアニメみたいに駆けるポーズをとった直後に風を残して消える。

 ちなみにチルノはいまいち理解していないが、文がなんか嬉しそうなのでまぁ良いかと思考を放棄した。たぶん舎弟というか子分として一生ついていくということだろうと数度頷く。

 呆れた表情のリョウと大妖精を尻目に、チルノは気配のする方を向きなおした。

 

「いくよ、リョウ! 大ちゃん!」

「やりましょう、チルノさん……!」

「私だって、頑張るよ!」

 

 

 

 そして、人里に雪が降り出した頃。

 博麗神社は―――猛暑に襲われていた。

 

「あっつぅ~、なんなのよぉ」

 

 汗をかきながら、縁側に座っている霊夢が悪態をつく。

 そしてその隣に座っている魔理沙も、また然り。

 

「なんかさぁ、わりかし最近こんなことなかったかぁ?」

「……あった!」

 

 思い起こすのは摩多羅隠岐奈が起こした“四季異変”だ。

 つまりは異変、しかもご丁寧に自分にここまでの実害をもたらしやがった。これは博麗の巫女たる自分への挑戦、つまりは動かざるをえない。

 勢いよく立ち上がった霊夢。同時に魔理沙も立ち上がる。

 

「いくわよ、ここだけ春、または秋ならともかく夏なんてっ」

「こんな短期間で四季ころころいじりやがってぇ! 今度はどこのどいつだ!」

 

 二人して神社の境内へとたどり着くと、鳥居をくぐるためにそちらを向いて―――止まる。

 

「一面に、花……」

 

 魔理沙がつぶやき、視線の先に日傘を見る。

 フリルのついた日傘、揺れるチェックのスカート、そして振り返る―――大妖怪。

 長い付き合いだ。見間違うはずもない。

 

「春も秋も冬もどこかに行っちゃってるんじゃぁ……夏になるしかないわよね? お花がよく育つわ」

「幽香ぁ、何勝手に人の神社に花畑作ってくれてんのよ。参拝客来るならまだしも」

「おい霊夢」

 

 だがしかし、これはこれで新名所扱いになりそうでもあるのだが、霊夢の“異変解決”は他のなによりも優先される。

 いつも通り、戦闘態勢を取るのはこの後の展開が読めているからだろう。

 日傘をたたんだ幽香が、その口を三日月のようにゆがめ、赤い瞳で二人を射抜く。

 

 花の妖怪こと風見幽香が、両手を広げた。

 

「さぁ、久しぶりに……遊びましょうか?」

 

 

 




あとがき

ちょっと短めだけどもー

異変が再び開始!
ばら撒いた伏線を回収したりしなかったり、そしてさらにばら撒いたり
まぁどこか違和感があればそれが正解な異変

それでは次回もお楽しみいただければー
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