悪い普通の魔法使いへの過剰な攻撃と執拗な口撃で結果的に後々への布石を打った
金髪の子かわいそう。ただし自業自得の部分もあるが……。
拗ねたように帰ろうとした魔理沙にリョウが『レインメーカーのクーポン』を渡す。それなりの人気店のそれなりのクーポンを渡せばそれなりに機嫌は良くなる。
「おっし、まあ一回ぐらいの貸しだしいいか!」
「魔理沙一気に元気になったね」
「まぁ慧音の頭突き回避しつつこれも渡されたんじゃな、結果的に得……ではないけど採算はとれたんだよ」
「魔理沙のくせに難しいこと言うのよさ」
「言ってたか?」
首をかしげる魔理沙はチルノにとってどこが難しかったのかまるでわからない。
昔なら『妖精はバカだからな』で済んだものの、リョウと出会ってからチルノは確かに大人になったと言うか大人しくなったというか、子供っぽいところがなくなったとか言うわけでもないのだが、つまり賢くはなってはいるのでチルノがどこがわからないのか気にもなった。
というより少しバカにされたのも気になる気がする。
「チルノさん、採算って利益とかと意味は変わんないですよ」
「おーなるほど」
「そこか、よくわかるな……てか利益はわかんのか」
そんな魔理沙の言葉にリョウはニコニコ笑いながら頷く。
伊達に喫茶店こと茶屋のオーナーと一緒にいないということだろう。
ともあれリョウにドヤ顔されたところでまるで自慢にもなってないだろうと思った魔理沙だったが、自分以外には効果があったらしい。
「くっ、私だってそのぐらいチルノさんのことはわかってましたよ!」
「いや別に俺だって自慢したいわけじゃないしな?」
「得意気な顔しといてなんですかこのロリコン!」
「お前自重してたのにまたそれ言ってんじゃねぇよ!」
また二人の不毛な言い争いが始まったと肩をすくめる魔理沙。
第三者から見たらどっちもどっち、双方歪んだ性癖の持ち主には見える。
無論、二人をよく知っていればリョウの方が安心感はあるが……。
「てかあたしもそろそろ行かなきゃな」
「弾幕ごっこしてかないの?」
「これでも魔理沙さんは忙しいんだぜ? 今度相手してやるよ」
「んっ」
チルノの頭を軽く撫でる魔理沙。
大妖精が側で微笑ましそうに微笑んでいるのを見て逆に魔理沙が照れ臭くなり、早く行こうと箒にまたがった。
リョウと文の二人の言い争いもいつの間にやら終わっていたらしい。
「そんじゃな、リョウもたまには弾幕ごっこ付き合ってくれよー」
「考えとくよ」
そう応えると満足なのか魔理沙は飛んで行く。
後頭部を掻くリョウを、隣の文がニヤニヤと笑いながら見る。
そんな文の顔に手を当てて離すと再び歩くのを再開していくリョウ。それに合わせて歩いていくチルノたち。
そこで大妖精が思い出したかのように手をぽんと叩く。
「そう言えば、明日の予定の話してましたよね」
そして戦いの火蓋が切られる。
「私とチルノさんのデートの話!」
「都合良いように改編してんじゃないよ!」
「私とチルノちゃんのデートですよ!」
「大ちゃんももうちょっと冷静になってくれ!」
「デートってリョウと出掛けてるときに結構言われるわよね」
文と大妖精と顔を合わせないように前方だけ見るリョウ。
今、顔を合わせて余計なことを言われると変なことになると確信がある。
どこぞの吸血鬼よろしく運命がわからなくったってわかることだ。
しかして動揺からか、余計なことを言ってしまう。
「明日は店、定休日なんでどっか出掛けます?」
「あややや!? なに自分はデートに誘ってるんですか!?」
「これはリョウさんでも許されませんよ!?」
「いや待て待て! みんなでな!」
ついつい不用意な発言をしてしまったため、上手くリカバリーしようとさらに余計なことを言った気がする。
しかしまぁ、リョウとしてもこれはこれで良いと納得することとした。
あとは二人の同意だが……。
「さすがリョウ、信じてましたよ」
「みんなでお出かけ楽しみだねチルノちゃん!」
不覚にも手が出そうになった。主に文に。
犬猿というかなんというか、ちなみに周囲からは同族嫌悪という認識だ。
もちろんペドフィリア的な意味で。
「ねぇリョウ! どこいくの!?」
「……文」
「んー、明日は守矢神社に取材に行く予定なんですよねー」
「ってことですチルノさん」
「諏訪子たちのとこだね!」
まあなにはともあれチルノが楽しそうなので良いかと、リョウはフッと笑みを溢した。
もう家も近く、大妖精も同じく近いがここで別れる。
「それじゃあまた明日っ!」
ニッコリと笑顔を浮かべる大妖精に同じく笑顔で大きく手を振るチルノ。
リョウと文も笑みを浮かべて軽く手を振る。
やはりそうして見ると、チルノより幾分か大人に見えるのは落ち着いた雰囲気か……。
「良いおっぱいですね」
「節操なしか、自分の揉んどけ駄烏」
「自分の揉んだって仕方ないでしょ、それともここで一人シろとかいうセクハラ!?」
「待てやめろバカ!」
全力で止めるリョウ。
一応二人の話を聞いているチルノだが小首をかしげるのみだ。
わちゃわちゃ話をしながら家ノ前までやってくる。
「それじゃーね文!」
「はい、また明日!」
忙しない様子で家の中に入るチルノを見て文とリョウが頬を綻ばせた。
リョウも家へと入ろうとするも……。
「ああリョウ、明日は少しばかり遅れると思います」
「なんでまた?」
「会議、天魔様までいるからさすがにさぼるわけにも、ね?」
妖怪の山、天狗たちの首領こと『天魔』がいるとあれば文のような上位の烏天狗が出ないわけにもいかないのだろうけれど……。
訝しげな表情で、リョウは文と目を会わせる。
文の言いたいことは理解できるし、また文もリョウの言いたいことはわかった。
「また他の天狗の嫌みを聞かされるわけか」
「ホント、しんどい」
深いため息をつく文にリョウはさすがに同情もする。喧嘩が多い二人だが別に嫌いあっているわけでもないのだからそれぐらいはあるのだろう。
特に天狗の社会は役職や上下関係がしっかりとされた組織的な縦社会。
それに天狗という種はその伝説や伝承から種としてのプライドが高い者も多いらしい。
「どーでも良いと思うんだけど」
「違いない……と人間の俺は思うけどな」
その天狗たちの中でも指折りの実力者である烏天狗の射命丸文。
そんな彼女が普段から、よくわからない“外から来た人間”や“知能や程度の低い妖精”と共にいればあらぬ噂は立つし嫌味も言われる。
「ま、辛抱だな」
「わかってても、嫌味がチルノさんを侮辱するようなものだと正直、手が出そうに」
「……俺の悪口とかあんの?」
「ある、なんなら私も言ってる」
「うぉい!?」
そんなリョウの反応にケラケラ笑う文が、バサッとその黒翼を広げた。
なんだかんだと言っても信念はどこか似たような所があり、同じような理由でチルノに惹かれたことには変わりない。
結果、惹かれ方に差異はあるが一年も共にいたのだ。
「それではまた明日!」
「気ぃつけてなー」
そんな言葉に文は頷いて返すと空へと飛び立つ。
すっかり日も落ちた空の闇に同化しつつも、その夜空の黒よりも黒い翼はしっかりと目視できた。
フッ、と笑みを溢すとリョウは家の中に入る。
「ただいま」
「おかえり! リョウ!」
ただの数分しか違わず、家ノ前まで一緒にいたのに家に入った途端、チルノは嬉しそうに言ってリョウに抱きつく。
その頭をそっと撫でるとくすぐったそうに目を細めるチルノを見て、さらに頬が緩む感覚を覚えた。
玄関から靴を脱いで上がると、二つのコップにお茶を淹れる。
「さて、ご飯にしますか……些か疲れた」
「いっつも文と楽しそうだもんね」
「どこがですか」
さすがに顔をしかめるリョウだが、他人から見ればやはりそんなものだ某の猫とネズミのように仲良く喧嘩している。たまにやりすぎなように見えるがそれでもあのノリだし、なにより……。
「チルノさんは、楽しいですか?」
「ん? ……うん!」
ニコッと笑みを浮かべる彼女を見てリョウはしかめた顔に再び笑みを宿す。
なにはともあれ、幻想郷は今日も平常運転。
神社の紅白巫女は貧乏に嘆き、森の白黒魔法使いは研究に没頭し、紅い館のメイドは居眠り門番を仕置き、冥界で半人半霊は稽古に精一杯、山の神社では風祝が飯を作る。
そんなありとあらゆるとこでの一日が今日も過ぎ行く、毎日がどこか違って、それでも同じ様で……。
楽園の素敵な住人たちはそれぞれの平和と問題を抱えつつ生きる。
季節は3月、まだ少しばかりの肌寒さを感じさせつつも玄関先に咲いたフリージアの花が季節の変わりを感じさせていく。
そして、平和で素敵で刺激的な一日が今日も終わっていくのである。
あとがき
2年越しにようやくプロローグが終った
このままどんどん更新してきたいとこ
あともっとギャグとか挟んでいきたいとこ