さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第2章【そして、いつもの幻想郷】
第6話『恋仲と犬猿』


 忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷。

 

 朝、というには遅い時間。時刻にして10時。

 人里離れた霧の湖方面にある一軒家から勢い良く出てくる氷の妖精チルノ。

 遅れて出てくるのは緑髪のサイドポニーを揺らす自然たちの具現、大妖精。

 

「ん、少し肌寒いね」

「そお?」

「チルノちゃんは強いなぁ」

「さいきょーだからね!」

 

 3月の残寒に少しばかり身を震わす大妖精と反対に、チルノは元気に笑う。

 そして最後に家から出てくるのは人間、リョウ。

 

「まだ長袖は必要か……」

「チルノちゃんといつも一緒にいるのに寒さに苦手って言うのも、なんだかおかしいですね」

「チルノさんが冷気のコントロールを身につけてから数ヶ月ですからね、ひんやりするのに変わりないけど」

 

 笑って言うリョウがそっとチルノに近寄ってその頭をそっと撫でる。

 

「さすがに暖かくはなりたくないのよさ」

「そうなれなんて言いませんよ、ねえ?」

「ん、そうだよチルノちゃん」

 

 そして大妖精はチルノの手をとった。たしかに冷たいが、その程度だ。

 かつては凍傷になりかねないというレベルだと思うとずいぶん触りやすくなった。

 

「……あのクソ烏が触ってきたら冷気全開で良いですからね」

「?」

 

 訳がわからないのかチルノは小首をかしげる。

 そして大妖精は『またチンピラ出ちゃってる』と思いつつ口の悪さがチルノにうつらなければ良いけど、と少し心配にもなった。

 チルノの害にならないと信用しているから大妖精もチルノを任せてはいるのだが……。

 

「さて、とりあえず妖怪の山に行くか、索道ですぐ着きますし」

「文さんは遅れてくるんでしたっけ?」

「らしいよ、縦社会は大変ですね」

 

 ハッと笑うリョウが肩掛けカバンの位置を調整して歩き出す。

 その前を手を繋ぎながら歩くチルノと大妖精。

 親子のようにすら見えるその姿もまた、見慣れられた光景である。

 

 

 

 しばらくして、妖怪の山の索道近くまで歩いてきた三人。

 そんな三人の目の前に見知った顔を見つけた。

 文とは仲がよろしくない相手というのは周知の事実でもあり、結果リョウとは息が合う。

 

「椛、お疲れ様」

「リョウさんですか、それにチルノさんと大妖精さんも」

 

 微笑を浮かべるのは白狼天狗の犬走椛。

 リョウは以前、色々と世話になったことがあり出会えば世間話やらなんやら、故あってデート紛いのことまでした結果、どこぞこパパラッチのネタになったりと気苦労が絶えない。

 チルノと大妖精が笑顔で挨拶をする。

 

「おはようございます椛さん」

「おはよーもみもみー」

「おはようございます、チルノさんもみもみは勘弁を」

「もみー!」

「それならまあ」

 

 哨戒天狗は神経を使う仕事でもある。それは内から外から上から下からと……。

 故に純粋な二人を見て心癒されると、リョウが羨ましくもなる。

 

「これから……文さんのところですか?」

「いや、守矢神社に」

「なら索道ですか」

 

 その言葉に頷いて、リョウはチラリと道の先を見る。

 すでにそわそわしているチルノと困ったようにリョウの方を見る大妖精。

 早くしなければ催促を受けるだろうと笑って椛に別れを告げる。

 

「それじゃまた」

「はい、また行きますね」

 

 喫茶店ことレインメーカーに、ということだろう。

 頻繁にリョウの家に用もなく来るような相手は文と大妖精ぐらいのもので、たまに来るとしてもチルノの友達。

 残念ながらリョウに浮いた話など録に無いのも事実。

 

「ま、欲しいとも思ってないけど……」

 

 そう呟いてからなんだか寂しいやつの言い訳臭いなと、苦笑を浮かべる。

 だが、今はチルノたちと過ごす日々にそれほどの変化が必要でないと思っているのも確かだ。

 今必要なのは、平和と穏やかな日常。

 

 

 

 そんなリョウたちが楽しそうに道中を歩いている間、未だ合流できる目処もなにもたたぬまま、文は会議室にいた。

 定例会議とは名ばかりの老人会のようなものにぶちこまれた哀れな烏天狗こと射命丸文は張り付けたような笑顔を浮かべていた。

 あーだこーだどうせ決まらないし、決める気もないような話題ばかり、それが終われば大概現状の幻想郷の愚痴。

 さらにそれが終われば今時の天狗たちはどーだこーだ。

 

(しんどい、早くチルノさんに会いたい……)

「……めい……し……」

(まあ取材場所に遊びに行ってくれるおかげですぐに会えますけど、その点リョウは多少気遣いしたくれたんでしょうし)

「射命丸!」

「っ!?」

 

 突然の大声に意識が引き戻された。

 呼んでいたのは妖怪の山の天狗たちの幹部の一人。

 天魔ほどではないにしろ、そして直属でもないものの偉いということには変わりない人物。

 少しばかり意識を離しすぎたと顔をしかめつつ謝罪する。

 

「申し訳ありません」

「まったく、射命丸お前はここ一年どこかおかしいぞ、妖精なんてものやらよくわからん外来人と過ごしているとか聞くではないか」

 

 面倒なことになったと外面にはださぬまま思う文。

 チルノの悪口が出たら手が出る自信がある。と思いつつも社会の歯車気質が染み込んでいて理性が働くのだろうけれど……。

 リョウの悪口はまだ良い。余裕で耐えれる。

 

(さあ、なにを言ってきますか!)

 

 自分への小言を覚悟していると、幹部が口を開く。

 そしてその口から放たれる言葉は―――。

 

「射命丸、貴様まさかその外来人の男にたぶらかされてたりはしまいな?」

「……」

「齢1000を越える烏天狗に限ってそんなことは無いとは思いたいが恋仲に見えるという報告も……ん?」

 

 返事はない。

 射命丸文は眉一つも動かさぬまま固まっている。恐らく思考もなにもかも停止して、ついでに呼吸も止まっていた。

 ショックが大きすぎたのか口を半開きにしたまま。

 

「聞いているのか射命丸! おい射命丸!」

 

 それでもなにも言わず固まっている。

 

「おい! おいって! ちょっとー……え、これ大丈夫?」

 

 さすがの幹部も焦った。

 天魔は黙して座すのみ。

 他の天狗は文に近寄って突っついてみたりする、

 

 ―――そのまま会議は終了した。

 

 射命丸文は見覚えのある川の前でサボっている死神と遭遇したところで目を覚ましたらしい。

 

 

 

 そして一方、リョウたちは守矢神社へとやってきていた。

 神頼みなど元々するほど信心深い人間でも無かったが、この幻想郷に来てまで『神は居ない』とも言えないので一応気を使って賽銭を投げ入れる。

 チルノと大妖精もリョウに渡された硬貨を投げ入れて手を合わせた。

 

「ふぅ、一仕事終えた気分だ」

「まだ1日は始まったばかりよ、リョウ!」

「わかってますよ」

 

 元気なチルノにそう言って笑って応えると、リョウは背を伸ばす。

 なにはともあれ、文を待たなければならないのだが、彼女は一時彼岸に出張中である。

 いっそ暇潰しに“弾幕ごっこ”でもするかと考えていると、足音が聞こえてきた。

 

「おや、妖精がこんなとこにいるとは珍しい」

「あ、諏訪子!」

 

 そこにいたのはこの神社に君臨する“二柱の神”の一柱である洩矢諏訪子。

 土着神でありかつて祟り神と呼ばれた八百万の神々の一。

 すでに“祟りとして恐怖された者”とはまた違ったものとなっているがそこは割愛、特に考えることでもないだろうとリョウは考察をやめた。

 

「チルノぉ、カエルいじめてないだろうね」

「ふふん、いつまでもそんな子供の遊びにきょーじるあたいじゃないのよさ!」

「けろ、ならよし」

 

 そう言って頷く諏訪子がチルノの頭を軽く撫でる。

 相変わらず友好関係が広いなと感慨深い思いをするリョウであったが、チルノの子供らしい部分がそうさせるのだろうと納得した。諏訪子にチルノが抱きつくのもまだ納得した。

 恐らく納得していないのは隣にいる大妖精だけだ。

 

「……大ちゃん、顔こわい」

「え、やだなぁリョウさん、そんなわけないじゃないですか!」

 

 ニコニコしながら目が笑っていないので、これ以上突っ込むのはやめておいた。命は惜しい。

 

「さて……」

 

 チルノと諏訪子が話しているのを横目に近くのベンチに座るリョウ、そして大妖精。

 少しばかり不服そうにしているが、先ほどの怖い顔とは違い純粋に拗ねてるように見えて、そんな可愛らしい大妖精の珍しい表情に頬を綻ばしてそっと頭を撫でる。

 

「なんだかんだで一番の親友は大ちゃんでしょ?」

「親友じゃなくてヌチャりたいんです私は」

 

 前言撤回だ可愛らしさなどない。

 純粋は純粋だが、純粋な悪だった。目指すはスーパーサイヤ人かと遠くを見ながら思うリョウ。

 そんな遠くを見ていたリョウの視界に現れるのはまた別の少女。

 

「あ、リョウさんじゃないですか」

「早苗さんと神奈子さん」

 

 ベンチに座る二人の前に現れた新たな二人、正確には一人と一柱。

 緑色の巫女と、青い髪の神。

 守矢神社の風祝と外向きの守矢神社の祭神。

 

「リョウさんがここに来るなんて珍しいですね」

「故ありまして、話は行ってないかな?」

「話……ああ、射命丸の取材を受ける予定な」

 

 なるほど、と言いながら手をポンと叩く神奈子。

 早苗の方はチルノと諏訪子の方を見て微笑ましいという風に笑うと、リョウの方を向き直す。

 

「相変わらず一緒にいますね」

「まあチルノさんと俺のことは知ってるでしょ、ほぼみんなさ」

「それもですけど文さんとのことですよ」

「ハァ?」

 

 突拍子もない言葉に素っ頓狂な表情を浮かべていつもと違う返事の仕方をする。

 逆に驚く早苗と神奈子だが、すぐに二人同時に笑う。

 リョウはハッと表情を変えると苦笑いを浮かべながら出そうになる汚い言葉を整えつつ話す。

 

「ま、まぁチルノさんと一緒にいれば多少はね?」

「いや、チルノちゃんいなくても一緒にいるじゃないですか」

「大ちゃん!?」

「良いじゃないですか! チルノちゃんは私に任せてお二人で!」

「大ちゃんさん!!」

 

 楽しそうな大妖精に反してどんどん焦ったように汗を流すリョウ。

 大妖精の言いたいことを悟ったのか早苗と神奈子は苦笑を浮かべた。

 しかし、リョウと文のお互いの思っている関係と、周囲から見た二人はまた別。

 

「勝った! やったよチルノちゃん!」

「勝ってねぇよ! 戦ってすらねぇよ!」

 

 早苗は大妖精がなんだか文に似てきたかなとも思ったが大妖精が自決(死なないが)を図りかねないので言うのをやめた。

 まあ大妖精がいつも通り、それは置いておくとしてもリョウと文の関係性は周りから見ると人によって変わってくる。

 

「犬猿の仲、には見えませんけどね」

「え、そう?」

 

 早苗の言葉にリョウが反応した。

 大妖精は未だに勝利(してない)の余韻に浸っている。

 

「んー友達? いやもっと仲良しにも」

「いや、あたしには恋人に見えなくも」

「ハハハご冗談を」

「凄い汗……」

 

 動揺があからさまに出ているので少しばかり心配になってきた面々。

 大妖精から見た二人は確かにそういう感じでもないのもわかるが、心底嫌いではないのとわかっている。

 故に中途半端だなとは感じていた。

 

「あっ、でも」

「な、なんだい早苗さん?」

(口調ブレてる……)

「雛さんがお二人、恋人かと思ってたって」

 

 そう思う人もいる。大妖精も知っている。

 そういう噂がないわけでもない。

 むしろ有力説。

 色々と名前が知れてる二人がしょっちゅう一緒にいたらそうもなるだろう。

 

 そして大妖精は、隣を見る。

 

「あれ、リョウさん?」

「……」

「どうしたんですか?」

「あ、こいつ息してないよ」

「ふぇ!?」

「リョウさん!?」

 

 そして―――リョウは見覚えのある川で見覚えのある死神に『今度はあんたか』とか言われたとかなんとか。

 

 

 




あとがき

ギャグパートだから細かいとこは気にしないでね!
新章突入、異変とかも起きたり
シリアスもちょくちょく挟みながらやってきます
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