さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第7話『ファンボーイと親心』

 少しばかり遠くに行って死神と雑談していたリョウがハッと帰ってくる。

 ホッとした表情を見せる大妖精と早苗の二人、そして神奈子はケラケラ笑っていた。

 リョウは額に流れる汗を拭う。

 

「ふぅ、ビビらせやがって」

(ナッパ……)

「リョウさん戻ってます」

 

 

 ふとリョウがチルノと諏訪子の方を確認すると、いつの間にやらチルノの服が汚れていた。

 諏訪子も少しばかり服が汚れている気がする。

 そんな二人が近付いてくるも……。

 

「むぅー」

「ハハハ、さすがにね」

「チルノさんなにを……あっ」

 

 察した。

 

「“弾幕ごっこ”ですか、結果は……」

「聞くまでもないでしょ、さすがに負けないよ」

「あたいのさいきょーへの道がぁ」

 

 前までのチルノを知っていれば驚きそうなものだ。

 無鉄砲に『あたいさいきょー』とは言わずに『さいきょーを目指している』という彼女に、ただし相変わらず猪突猛進ではあるが……。

 

「でもかなり強くなってるよ、一応私に当ててるし……」

「リョウに色々教えてもらってるからね!」

「力はチルノさんのが強いですけどね」

「おつむの差かね」

「むっ、バカじゃないよ!」

 

 自分で自覚はあるのか反応する。とは言え“おつむ”の方も前と比べるとだいぶ変わった。

 リョウから言わせればもともとしっかり丁寧に色々なことを説いてくれる相手がいなかっただけで、教えれば吸収・学習するのだ。

 妖精でも大妖精のように大人びている者だっているのだからそれもそうだ。

 

 などと考えていると、バサッと音がして黒い羽が落ちてきた。

 

「お待たせしました!」

「よーやく来たか射命丸」

「あやや、すみません八坂さん」

 

 軽く謝罪して地に足をつける文に、誰かが抱きつく。

 無論チルノである。

 

「あやー!」

「あややや、不覚にもこの射命丸文……下品なんですが、その」

「やめろお前!」

「あーヘヴン状態、すーはーすー……つめたぁっ!?」

「リョウにこうすると良いって聞いたから」

 

 冷気全開にしたチルノに驚く文と、驚く文に驚く面々。

 そして気を遣ってすぐに冷気を弱めるチルノ。

 文がリョウを睨む。

 

「この過保護」

「いや過ではない」

 

 ごもっともな言葉に頷く大妖精。

 文はそっと抱きついていたチルノをおろしてその姿に気づき、軽くチルノの服を叩いて埃を落とした。

 

「チルノさんなにを……あっ」

 

 察した。

 

「さっき見た」

「同じくです」

 

 諏訪子の言葉に頷く早苗。

 苦笑する神奈子をよそに、文は首をかしげつつリョウの方を見た。

 そこにいるリョウはというとなんとも言えない表情で、それを見た文はなんとなく察する。

 

「にしてもチルノさんも頑張りますね。どこかのインドア派にも是非見習ってほしい」

「パチュリーさんのことか」

「いやあなたでしょ」

「異変になったら本気出す」

「知ってますけどね」

 

 淡々としつつも、どこか楽しそうでもある二人の会話にクスリと笑みを溢す大妖精と早苗。

 とりあえず取材の準備を、と文がメモを取り出したところで、早苗が口を開く。

 

「そう言えば相変わらずのいつもの四人ですね」

「確かに、早苗の言う通り」

「あはは、文さんたちと一緒にしないでくださいよ」

「大妖精さん軽く毒吐きますね」

(それ俺も入ってる?)

 

 文たち、なので恐らく入っている。

 

「にしても前回の異変じゃ大活躍だったらしいじゃないかあたしらは解決に乗り出さなかったけど相変わらず霊夢と魔理沙はいたんだろう?」

「まぁ、てかレミリアさんたちもいましたし」

「けろ、よくその面子の中で活躍できたね」

「あたいたち四人ならさいきょーなのよさ! 大ちゃんとリョウのアレもあったし!」

 

 胸を張って言うチルノを見て苦笑するリョウ。正直、確かに役にはたったがまともな戦力という意味では明らかに文とチルノがメインだ。

 精々できてサポートだが、チルノにそこまで言われて悪い気はしない。

 

「へぇ、射命丸が主力だと思ってたけどね」

「あやや、まあ伊達に鴉天狗などしてませんよ……大ちゃんもリョウも確かに強くはなってますしね」

「お前が俺を褒めるなんて珍しい」

「“あれ”には私も一度煮え湯を飲まされてますからね」

「違いない」

 

 ハッと笑うリョウが大妖精を見て軽くウインクをすると、大妖精はそれに応えてニコッと笑顔を浮かべた。

 そんな二人を見て、早苗が首を傾げる。

 諏訪子が腕を組みつつ、ふむふむと値打ちをするような視線を向けた。

 

「早苗はリョウみたいのが好みかぁ?」

「いえまったく」

「まっこう否定」

 

 さすがに傷つく。そして文は大爆笑。

 

「なんだかリョウさんが今みたいにするの珍しいなって」

「今みたい?」

「ウインクとか」

「……」

 

 言われてから無性に恥ずかしい気分になって、リョウは顔をそらした。

 そらした先に、文のニヤニヤとした顔。

 そして同時に視界に入るチルノの好奇心溢れる表情。

 

「……なんだよ」

「いえいえ、男前なことしちゃってーうりうり」

「やめれ!」

「あたいもリョウのウインクみたい!」

「やめれって!」

 

 文がからかい、チルノが天然で追い込む。

 額に手を当てて赤い顔でため息をつくリョウ、そんな彼を見て大妖精がクスリと笑顔を浮かべる。

 なんだかそんな四人を見ていて妙な安心感を覚えて神奈子は柄じゃないな、と後頭部を掻く。

 

「射命丸」

「おっと失礼しました。そうそう取材ですね! おもしろい話を聞いたのでそれについて」

 

 お仕事モードになった文を横目にリョウがカバンを下ろして背を伸ばす。

 両腕も伸ばすとパキパキと関節が音を鳴らす。

 息をつきつつ立ちあがり、さらに首をならして爪先で地面を叩いた。

 

「あれ、リョウさんやりますか?」

「まぁ暇潰しがてらありかも」

「なら私がお相手しますよ」

 

 そう言って早苗が前に出る。

 なにかと彼女と話しているのは“かつての世界”を思い出して嫌いではなく、彼女もそう思っているのか積極的に話しかけてくることが多い。

 故に彼女との弾幕ごっこもこれがはじめてではないのだが、しかし……。

 

「……いや、やめときますか」

「あれ、そうですか?」

「大体あれ、レベルが高いんですよ早苗の場合、俺はもう少し下のレベルで」

 

 その言葉に、チルノが小首を傾げた。

 

「リョウだって弱いわけじゃないじゃん」

「いや、雑魚です雑魚」

「魔理沙に勝つし」

「んー何て言うか相性と言うか初見殺しというか、なんかこう……ほら俺の弾幕ごっこって弾幕って言うかこう、肉弾っていうか」

 

 その言葉に、大妖精が苦笑する。

 リョウの弾幕ごっこを見たことがあるのであればわかるだろう。質はそれほど悪くはない。

 しかし致命的に荒々しい。

 

「ほら俺、美鈴さんとかとやるならまだね」

「よーむとかもこー?」

「そうそう、どっち相手でも死ぬかと思うけど」

「けろけろ、幻想郷じゃ霊夢たちに並んで有名な人間なのにね」

 

 けろけろ笑って言う諏訪子に顔をしかめるリョウ。

 別に有名になりたくてなったわけでもないが、それでもおかげで色々と便利な時もある。

 知名度と言うのは毒にも薬にもなりえるが幸いリョウにとっては益になっていて、文と違って『伝統のロリコンブン屋』『逮捕に最も近い天狗』だとか言われないで済んでいた。

 

「霊夢さんたちに並んでは言い過ぎでしょ」

「そうかな?」

「そうかも」

「リョウのご飯はすごいんだからもっと有名になっていいわよ!」

 

 実際、リョウの店はそれなりに有名ではある。

 人里の中にあるというのに妖怪やら妖精やら悪魔やら吸血鬼やらが現れる博霊神社擬きと化しており、一部の妖怪からは実家のような安心感とまで言われることすらあった。

 結果、ヤバい奴等がこぞって集まっていることもあるが、それはそれでおもしろい現場だと某マスコミは嬉々として語っている。

 

「熱い自分語りを心の中でもしてしまった」

「え、なんて?」

「いえいえ、チルノさんの料理はさいきょーですよと」

 

 最近、料理を手伝うチルノは日に日に腕前を上達させており、割りと手際よく作っていてこの前は一人でオムレツを作ってリョウに振る舞った。

 思い出して涙腺が熱くなる。

 

「でも、リョウの料理がやっぱりさいきょーだよ? むねがあったかくなるしっ!」

「ああどうしよう諏訪子さん、うちのチルノさんが良い子すぎて辛い」

「鬱陶しいなこいつ」

 

 私が相手してやろうかな、とか思った諏訪子だったが弾幕ごっこの最中に惚気を聞かされたら手が滑ってしまい殺ってしまいかねないのでやめた。

 そもそも、射命丸文はロリコンと自身を認めているくせにチルノにしか興味はない。同じくリョウとてそうならば……。

 

「いや、どっちかってーと親か兄妹か」

「ん、なにがです?」

「あんたとチルノ」

「どっちかって言うとファンボーイって感じですよね」

 

 そんな言葉に顔をしかめるリョウが、コホンと咳払い。

 

「ん我が救世主ぅ……」

「なにそのネットリした言葉遣いは」

「いや、様式美というかなんというか」

 

 頬を掻きつつ笑うと、すぐに表情を引き締めた。

 そんな彼を見てチルノがニパッ、と笑顔を浮かべて大妖精は心配そうに眉を潜めつつ笑う。

 下手をすればリョウがしばらくしんどそうな表情を見せるだろうが、チルノが嬉しそうならば細事に過ぎないだろう。

 まぁ良いかと、大妖精は大妖精で楽しむこととした。

 

「さ、やりますか……」

「リョウさんと弾幕ごっこも久しぶりですね!」

「四季異変前、か?」

 

 そんな言葉に頷く早苗が幣を手に構える。

 

「ま、やりましょうか」

「はい、リョウさん」

 

 まともな型等無いが構えるリョウ。

 そんな二人を遠目に見る面々、取材は終ったのか文と神奈子もその二人を見る。

 すると意外にも声を出すのは―――文だった。

 

「リョウ!」

「ん?」

「チルノさんは私に任せて安心して逝きなさい!」

「早苗倒せたら次はテメェだからなこのクソ鴉!」

 

 十中八九―――次はない。

 

 

 

 




あとがき

思ったより進まなくて困る
まだ二日目、とりあえず現状の説明が多い
隙あらば色々挟んでいきたいとこですわ
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