さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第8話『癒しとおっぱい』

 結果として弾幕ごっこはあっさりと終わった。

 スペルカードと呼ばれるソレは三枚。

 しかしながら早苗は二枚を使ったところで弾幕ごっこは止められた。

 

「あー明日絶対筋肉痛だよ」

「リョウさんに限ってソレはないかと」

 

 先程よりもボロッとしたリョウがつぶやき、早苗は苦笑する。

 

「いやー中々に頑張ってましたよ」

「そりゃなによりで」

 

 ため息をつきつつ、文の言葉に頷く。

 そもそもただの一年前から怪異もなにも知らなかったただの人間の男が良くもまあ一年間でまともに弾幕ごっこができていると、神奈子は内心でリョウ買っていた。

 いや、神奈子だけでなく“あの異変を知っている者”であればどうあれ一目おかざるをえないという方が正しい。そしてその結末まで知っていれば……。

 

「憐れ、っていうのは違うか」

 

 苦笑する神奈子の隣の諏訪子が苦笑を浮かべた。

 

「またまた難しいこと考えてるね、良いんだよあれはあれで楽しんでるんだから」

「そういうもんかね」

「そうそう、だから私らみたいな年寄りは黙って見守っててやろうって……たまには手出すけど」

「違いない」

 

 そう言って微笑を浮かべる神奈子だったが、すぐに諏訪子の方を向く。

 妙な視線を感じて、諏訪子はそちらを、向いた。

 

「だがあたしらは年寄りじゃない、若者だ」

「いやそれは無理があ……いや、マジごめん、うん、若い若いから、ちょっ顔が怖い顔が!」

「仲良しふーふね!」

「ちょっ、やだチルノったら!」

 

 神奈子が頬を赤らめてなぜかリョウの肩を叩く。

 疲れているところに神の照れ隠し打撃、紙のような防御ではとても耐えることもできずに1メートルほどふっとんだ。

 

「リョウさーん!」

「リョウが死んだ!」

「この人でなし!」

 

 大妖精、文、早苗の順で叫ぶ。

 駆け寄るチルノが必死にリョウを揺すったがその度にリョウの体は固く冷たい石畳に押し付けられて、蛙を潰したかのような変な声が出る。

 だがチルノは必死なのだ。

 

「リョウー!」

「だ、大丈夫だから揺すらないで」

 

 リバースしそうになる朝飯を無理やり胃袋に封印して、チルノに離れてもらう。

 文が大爆笑しているのでとりあえずあとで殴ろうと誓いつつ立ち上がるが、なんだか神奈子が諏訪子相手にメス面をしだしたので空気を読んで帰ろうと思った。

 いや、正確には……。

 

「チルノさんの情操教育によろしくない」

「お前が言うのか」

「文さんが言うんですか」

 

 恐らく一番教育上よろしくない存在である文を見て言う二人に『やれやれ』と両手を上げて首を振る文に、手が出そうになる二人。

 諏訪子が神奈子に連れられて本殿へと帰っていく。

 そんな二人を見送りやるせない表情を浮かべる早苗。

 

「……早苗、生きれ」

「はい」

 

 申し訳程度の慰めの言葉をかけてリョウたちは守矢神社に背を向ける。

 あまり長居すると嬌声が聞こえてきかねない。もちろん神奈子だ。

 奴は誘い受け、リョウにはわかる。

 

「神奈子さんって絶対誘い受けですよね」

 

 石段を降りながら言う文に頭を抱える大妖精とリョウ。

 大妖精は『ダメだこいつ』的な意味で、リョウは『同じことを考えてしまった』的な意味。

 似て非なる理由。

 

「なんですかその反応!?」

「いや、こうもなりますよ」

「ねー“さそいうけ”ってなに?」

 

 チルノの疑問に顔を逸らす大妖精。

 

「えーっと文みたいな奴ですよ」

「ッ!?」

「リョウさん!?」

 

 文を指差してテキトーに答えるリョウに、思わず文はバッとそちらを向き、大妖精は驚愕にその名を強く呼ぶ。

 大妖精は突然のブレーキ故障に困惑した。

 然るべきメンテナンスを怠った故の人身事故、危険運転致死。誰が死んだか、そんなもの一人だ……。

 

「あ、文さん……」

「あっ、いや、だ、誰が誘い受けですか!?」

「ああ……誘い受けだ」

 

 無論、顔を真っ赤にしてる文だ。

 

「お前普段自分でロリコンのドマゾを自称してるだろ」

「い、いやだからって! こ、このアホがァ!」

 

 今回に限っては大妖精も全面同意だった。

 確かに文は(大妖精もだが)暴走しがちなチルコン(造語)の変態のドマゾだが自称していても言われればまるで違う。

 しかもなおかつ……。

 

「え、えっと……」

「ねー文はさそいうけなの? どまぞなの?」

「あっ、いやっそのっ」

 

 射命丸文は珍しく狼狽していた。

 いつもであれば『キくぅー!』ぐらい言っていたが一度乱されたペースは整わない。

 そしてチルノに聞かれても自分で説明できずに赤くなってよそを向く。

 まさに誘い受けらしいリアクションではあるがそんなしおらしい文、そうそう見れない。

 

「文さんが静かに……ハッ!?」

 

 奴の方を見た。

 

「ハッ……」

 

 勝ち誇った笑みをした奴を、大妖精は見逃さなかった。

 ブレーキは壊れてなどいない。

 

「と、とんだ急ブレーキですよ、リョウさん……」

(大ちゃんも結構意味わかんないこと突然言うよなぁ)

 

 心の中で大妖精を再認識するリョウ。

 

「しかしリョウさん……」

「ん?」

「天然攻めのチルノちゃんも良いけど、鬼畜攻めのチルノちゃんも良いと思います」

 

 もう、一発殴るぐらいなら許されるかなと思った。

 しかしまぁチルノになにを言われるかもわからないし大妖精もいなければ困る。主に文のコントロールに……。

 とりあえず一刻も早くこの流れを断ちきりたいと、自分で薪を焚べておきながらそんなことを考えた。

 

「飯に、しようか」

「リョウさん話は終わってないですよ!」

(終われ……! 一刻も早く……!)

 

「わーいリョウのご飯だ!」

(うちのチルノさんが良い子すぎる……ッッ!!)

 

 結局、みんなチルコンなのである。

 そして道中に見つけた小さな木陰で四人は昼食を取ることにした。

 おそらく、いや間違いなく騒がしくはなるのだろう。

 

 

 

 リョウたちが食事を取っている時間、妖怪の山から離れた場所にある博麗神社。

 その本殿の居間、3月でも未だ炬燵の呪縛から逃れられぬ我らが楽園の素敵な巫女、博麗霊夢がため息をつく。

 今日も今日とて幻想郷は平和。

 良いことではあるのだが金も賽銭もなければ予定もない堕落していく日々。

 

「リョウさんとこ休みなのよねー」

「あら、またツケが貯まるわよ?」

 

 そんな声が聞こえてそちらを見れば、そこにはこの幻想郷のトップクラスの大物。

 幻想郷を見守る者。

 “外の世界”と幻想郷を隔絶する二重結界を守る者。

 二つ名など腐るほど出てくる大妖怪。

 

 スキマ妖怪、八雲紫。

 

 彼女は霊夢の前、炬燵の上の空間にある“スキマ”から上半身を出している。

 

「紫……冬眠から目覚めるには早いんでない?」

「なぜだと思う?」

「……早く目覚めざるをえなくなった」

 

 その言葉に、扇子を口許に当てて紫は頷く。

 暇で予定は無かったがこういうのもごめんだなと、霊夢は立ち上がるが、紫はスッと手を前に出した。

 小首を傾げる霊夢。

 

「なに? 動かないの?」

「少し調べたくてね。推測通りの異変ならまだ日にちはあるし」

「起きる予定の異変ってなによ」

 

 その言葉には他の異変解決請負人たちも同意するだろう。

 異変というものは起こっているからこそ異変なのだ。

 起こる前ならば、起こす者がいるなら締め上げればいいし、異変が起こされるまで悠長に待っていて良いそれほど大したものでなければ、紫が起きてくるまでの理由が無い。

 

「そういうものよ、それに今回は異変という言葉で語るべきかも憚られるわ」

「あんたがそこまで言うってなによ」

「死人が出るかも……それどころかこの幻想郷の、消滅の可能性すらある危機」

 

 霊夢が生唾を飲む。

 その言葉の重みは最も幻想郷を愛し守ろうとする紫が言うからこその重みがあった。

 静かに座る霊夢が、紫と視線を交わらせる。

 スペルカードが通用しない。そういう意味だろう。

 

「同じ土俵でやりあえない相手、ね」

「ええ、そういうこと」

「ならあんたらならもっと楽なんじゃないの?」

 

 わかっている。霊夢とて馬鹿ではないのだから理解はしているのだ。

 その解決法があるならわざわざ霊夢のところに来る必要がない。

 

「……また来るわ。色々と調べることもあるし」

「りょーかい」

 

 飄々とした態度で答えると、座り直す。

 八雲紫は霊夢を見て頷くとスキマの中へと姿を消し、スキマも程なくして消えた。

 霊夢は自分の右手をみてから、グッと力を込めて額に当てる。

 その瞬間、スパーンと音をたてて開かれる襖。

 

「さむっ!」

「遊びに来たぜ霊夢!」

 

 白黒魔法使い魔理沙がそこに立っていた元気一杯の笑顔で言う彼女を見て、霊夢がため息をつく。

 

「たく、人がシリアスモードでいたってのに」

「霊夢がシリアスモードって……そうか」

 

 その言葉で察した魔理沙が頷くと、静かに霊夢の肩に手を置く。

 いつになく真剣な表情の魔理沙、彼女はことの重大さを理解―――。

 

「そんなに金がないのか」

 

 ―――したわけではない。

 

「違うわよっ! いや違くないんだけど!」

 

 違うわけではなかった。

 少し遠くの未来より、まずは目先のピンチ。

 尋常ではない霊夢の剣幕に魔理沙は薮蛇だったなと頬を掻きながら目をそらした。

 

 

 

 霊夢が“魔理沙から有り金全て巻き上げるか”の葛藤に陥っているそのとき、リョウたちは昼食を終えて山を降りてきていた。

 リョウの顔は既に疲れきっている。

 もちろんボケ倒す面々にだ。

 

「あー癒されたい」

「疲れちゃった? 明日お仕事だいじょーぶ?」

「ああチルノさん、大丈夫大丈夫」

「しんどかったらしっかり休まないとダメだからね!」

(癒されたわ……)

 

 ビシッと指を指すチルノを見てニコニコと頷くリョウ。

 他の者からみたら文や大妖精とそれほど変わらないチルコン。

 しかし文はそれに加えてロリコンとも呼ばれる悲しいモンスターの性。

 

「リョウの癒しといえばやはり大きなおっ」

「うおぉい射命丸ゥ!」

「あやや、私またなにかやっちゃいました?」

「殴るぞ? いいな? 殴ってからロングホーントレインだからな!」

「そんなことのために慧音先生連れてくるの!?」

 

 いつも通りの言い争いが始まるとチルノは小首を傾げる。

 大妖精はおっぱい大好きリョウさんを軽蔑の視線で眺めていた。いや、知ってはいたが眺めていた。

 ちなみに大妖精からの視線で喜べるほどリョウもレベルは高くないので……。

 

「なんでこうなる……!!」

「ちなみにリョウさんの中の癒しキャラは?」

「幽々子さん、小悪魔さん、永琳さんで」

 

 そして、沈黙……。

 

「やっぱりじゃない」

「待て待て! まだ聖さんとか」

「自分で首絞めてますリョウさん!」

「チクショー!」

 

 欲望に正直すぎる男だった。

 チルノは頭の上にクエスチョンマークを浮かべたままで、大妖精はそんなチルノを見て『純粋であれ』と願う。

 そして、そんな四人を遠くから見ていた椛は安心したように笑みを浮かべて背を向けた。

 

 今日も幻想郷は平和だと、誰もが思うこともない。

 そんな当たり前の日々を過ごすのみ、それこそがなんでもないようで重要なのである。

 

 そしてもっとも重要なのは……。

 

「あっ、そういえば私もおっぱいはそこそこ……まさかリョウ!?」

「あ、それは、ない。マジで」

「あっはい、すみません」

 

 おっぱいが大きければなんでも良いということではない、ということだ。

 

 

 

 

 




あとがき

ちょっとシリアス入ってきた
と見せかけていつも通りの三馬鹿、いや四馬鹿
ただしチルノが一番まとも

とりあえず戦闘もそのうち見せてきたいたとこです

それじゃまた
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