さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第9話『おぜうと新聞』

 あれから数日が経った。

 今日も今日とてチルノの家は朝から騒々しい若干二名の喧騒が場を制しており、いつと通り朝食を取ってから寺子屋へと向かい、チルノと寺子屋の前まで行ってからリョウと文はそれぞれ自らの仕事へと向かう。

 

 ここは喫茶レインメーカー。

 忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷の人里の中でも中々の異色を放つ茶屋。否、喫茶店。

 河童製のはいから感溢れるその店には今日も今日とて多種多様な種族の者たちが集まる。

 

 昼時を過ぎて落ち着いてきた頃、リョウが欠伸を噛み殺しつつ目の前のカウンター席に座る少女に視線を向けた。

 開店してから来た最初の客なのだが既に開店から5時間経った今もいる、彼女は一人でコーヒーを飲みながらなにかしているのだが……いや、なにをしているかリョウもわかってはいた。

 

「はたて、おかわりいるか?」

「いる」

「はいよ」

 

 少女、姫海棠はたては切羽詰まった表情で手元のどっからどうみてもケータイ電話な折り畳み式のカメラを見ながら紙に文字を書く。

 彼女は所謂“新聞記者”、射命丸文と同じ職業ではあるのだが文の『文々。新聞』とは別の『花果子念報』の発行者である。

 

「はぁーなによーもおー」

「どうした、そんな風にぼやいて」

「取材でネタを拾って写真まで持ってるのに、なんか上手く書けないのよぉ」

「スランプとか?」

 

 ジトッ、と睨まれたリョウは苦笑してコーヒーのお代わりを出す。

 嫌なことを言うなと言わんばかりの視線に、リョウは少し身を乗り出して新聞を見ようとするも、はたての手がその進行を止める。

 見るな、ということだろうと理解して下がった。

 

(めんどくせぇ……)

「まだ書いてる途中でしょうが!」

「自分家でやった方が」

「こっちのが落ち着くのよねー」

「そうかい」

 

 ため息のように息をつくと、比較的空いてきた時間ということもあり作っておいたサンドイッチを口に含みつつ今朝の新聞を見る。

 無論、『文々。新聞』や『花果子念報』ではなく普通の新聞。

 昔はこういうときは適当にスマホをいじったりテレビを見たりできたが今はそうはいかない。

 

「ん、おやじくさ」

「え、なんか言った?」

「なにも」

 

 客が来るまで暇だなと思いつつ、コーヒーを飲む。

 なんでもないような報道やコラムを見ていると時間の経過も早いのだ。

 

 一息ついて新聞を畳んで目の前のはたてを見ても変わらず新聞を書いている。

 先程までと違うのは表情の剣呑さがなくなっていること、だろうか……。

 

(順調そうだな)

 

 ふむ、と頷いて体を伸ばすと扉が開く。

 カランカランと音をならして開いた扉から入ってくる二つの影は見慣れた姿で、頬を綻ばしてリョウがカウンター席に手を向ける。

 満足そうに頷いた“小さな影”がもう一つの影を引き連れてはたてから一つ開けて座った。

 

「いらっしゃい」

「今日は別の天狗と一緒なのね。天狗侍らす趣味でもあるのかしら?」

「勘弁してくださいよレミリアさん、いや咲夜も笑ってないで」

 

 目の前の少女は霧の湖の中心に聳える紅魔館の主レミリア・スカーレット。そして従者十六夜咲夜。

 二人に静かに抗議しつつ、リョウはそっとコーヒーを淹れ始める。

 そして今の言葉を聞いていなかったようではたてはひたすら新聞作りに没頭していた。

 

「でも、今日はこの天狗だけ?」

「まぁこの時間はね、あと2時間もすれば閉店だし」

「早いわね」

「まぁ時期によって開店閉店時間は変えますからね。日の入り時間とかによって、そろそろ閉店時間伸ばす予定ですけど」

 

 なるほど、とレミリアが頷く。

 “街灯”などもない夜には闇が制するこの人里の理にかなった理論。

 リョウが最後の仕上げを終えて、レミリアと咲夜の前にそっとティーカップを出した。

 

「はい、レミリアさんにはウインナーコーヒーで咲夜にはブレンドのホット」

「うん、いつと通りの良い薫りね」

「まあそこまでこだわったものではないですけどね」

「このレミリア・スカーレットが誉めてるのだから誇りなさい」

 

 その言葉に、リョウは微笑を浮かべながら頷いた。

 一口飲んで息つく二人、すると最初に口を開いたのは意外にも咲夜。

 

「リョウは最近、美鈴のところには行ってる?」

「ああ、一応顔は出してるよ。師でもあるし……寝てるけど」

「ああ……そう」

 

 一瞬、怖い顔を見せた咲夜を見て『余計なこと言ったかな』とも考えるが、さして問題はないだろうとすぐにポジティブに考えて頷いた。

 たまに美鈴と咲夜の喧嘩(?)のようなものを見るが正直……。

 

「仲良いよなぁ、美鈴さんと咲夜」

「な、なんでそうなるのかしら?」

 

 汗を流す咲夜に、レミリアと顔を合わせたリョウ。

 二人で『ねえ?』という顔をしながら咲夜の方を見るが、少し赤い顔で咲夜は目をそらしてコーヒーを飲む。

 

「私と美鈴は、ほら、あれだから……」

「怒ってるようでなんだかんだじゃれてるだけで」

「お・嬢・さ・ま?」

「……悪いわねリョウ、ここは戦略的撤退よ」

「メイドに押し込められるってのもどうなんですかね」

 

 主の威厳が壊死しているレミリアに悲しげな目を向けるリョウ。

 しかし、こんな感じだからこそ“紅魔館”の主として皆に好かれるのだろうと、微笑を浮かべてそっと頷く。

 そう思うと、チルノとは少し似ているところがあるのかもしれないと、そっとコーヒーを一口。

 

「できたぁ!」

「っ!?」

 

 叫び立ち上がるはたてに、ビクッとする三人。

 原稿を立ててからトントンと整えて持ってきていたカバンに入れる興奮気味のはたて。

 ニコニコしている所を見るとそちらは文を思い出した。

 

「まぁ同じタイプだしなぁ」

「なにか言った!?」

「いいやなんでも、ほれ伝票」

 

 スッとそれを渡すとはたては札を出してタンっ、とカウンターに置く。

 受け取ったリョウが頷いてお釣を返そうとするも……。

 

「釣りはいらないわ!」

「どうも、ありがとうございました」

 

 リョウが言い終わると同時にはたては店を出ていく。

 肩をすくめてため息をつくと、咲夜は苦笑。

 レミリアはと言うと抗議するように扉を睨み付ける。

 

「可愛いもんじゃないですか、若いって感じで」

「あいつあんたよりよっぽど年上よ、何百年単位で」

「わかってないなぁ、見た目が大事なんですよレミリアさん」

「私のがよっぽど若いじゃない!」

 

 若いというよりは幼い。と言うと面倒そうなので適当に流しておくことにした。

 咲夜もそれがわかっているのか苦笑するのみである。

 レミリアの『うがー』と聞こえてきそうな威嚇をするが、それが可愛らしく見えて笑う。

 

「お嬢様がかわいいからって天狗みたくロリコンにならないでね」

「ならねぇよ」

「いや、もうロリコン?」

「ちげぇわ!」

 

 口調にバラつきが見られる辺り焦っていることは間違いない。

 クスクス笑う咲夜に顔をしかめてため息をつくと、レミリアに目を向ける。

 少しばかり拗ねた顔をしているがそういう趣味があるとは信じていないらしく安堵した。

 

「……違いますからね」

「そりゃそうよ、それでチルノと暮らしてるんだったらとっくに殺してるわ」

「こえーよ」

 

 文が殺られてないのが嘘と思いたいぐらいには彼女もまたチルノの過保護な友人の一人。

 幻想郷広しと言えどここまで妖怪やらなんやらに囲まれている妖精などそうはいないだろう。

 時々『なに考えてるかわかんねーイカれた奴』等々も集まってくるのも……。

 

「チルノさんの魅力故に仕方ないか」

「突然どうしたの?」

「なに考えてるかわかんねーイカれた野郎ですね」

 

 フッと効果音が付きそうな笑みを浮かべて言うリョウと若干引いているレミリアと咲夜。

 突然の語りとチルノ褒め、チルコンはこういうところがあると、里の有識者である稗田阿求は後に書を残した。

 

「あ、今日そっち行っても?」

「唐突ね、別に構わないけれど」

「フランは今日は?」

「寺子屋」

 

 なるほど、と頷く。

 レミリアの妹のフランドールは、時折寺子屋に行くことがあるというのは知っている。

 それほど驚くことではないものの、しばらくは一緒に行動することになりそうだと静かにはたての使っていたカップを洗う。

 

「……フランはあげないわよ?」

「そういうんじゃないって」

「じゃあ誰が?」

「小悪魔さん、とか?」

 

 その言葉に、なるほど、と頷く二人。

 嘘ではないがそういう気かと聞かれれば微妙なところだ。

 美人だし慎ましいしおっぱい大きいしで非の打ち所がない。好みである。

 だが口説くかと聞かれれば答えはノー。

 

「良いじゃない小悪魔、バックアップしてあげましょうか?」

「いや、気にしないでください」

 

 頷くリョウ。

 そもそもそんなことになろうものならその小悪魔の主人に燃やされかねないし、失敗したあと気まずいしで良いことなどそうそうない。

 それに現状、べつに恋人だとか欲しいとも思っていないのだ。

 最悪このままゆったりと死を迎えることすら怖くない。

 

「わからないわね」

「大人になればわかりますよ」

「だから貴方より大人だって」

「はいはい」

「ナデナデするな!」

 

 両手を上げて再び威嚇するレミリアを見て笑う。

 隣の咲夜もおかしそうに笑っているが、鼻から赤い液体が一滴落ちた。

 とりあえず見ないふりをして、レミリアの頭を撫で続ける。

 それはもう優しく。

 

「あ、少し癖になってきたかも」

 

 咲夜の目から光が消えたのでやめた。

 

 

 




あとがき

まぁ可もなく不可もない感じの日常でごさいました
次回もそんな感じになると思いますわー

ではまた次回に!
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