間桐家の屋敷の地下に二人の男の姿があった。
一人は黒いパーカーを着た白髪の男。
もう一人は和服を着たどこか化け物染みた雰囲気を纏った老人。
白髪の男は魔法陣らしきものに手をかざしながら呪文のようなものを詠唱していた。
「ぐっ……がっ……」
呪文の言葉を詠唱する度に、白髪の男『間桐雁夜』の体に激痛が走った。
体の至る所から血を流し、端から見ている者の方が気分を害してしまう程に。
しかし雁夜は詠唱をやめなかった。
雁夜には果たさねばならない誓いが有った。
叶わなければならぬ願いが思いが有った。
守らねば成らぬ少女が居た。
それら全てが雁夜を突き動かし、今にも壊れそうな体を支えていた
唱えていた呪文が終わり、地下室に描かれた陣から光が増し、地下室を照らした。
召喚に上手くいっていたのか隣に居た老人『間桐臓硯』は皺だらけの顔を歪ませ笑った。
すると魔法陣の中から何故か光が溢れだし始める。あまりの眩しさに雁夜も臓硯も目を細め、眩しさに耐えながらサーヴァントを見ようとした
「あれ……ここは?」
「なっ……」
「ふん……失敗か」
其処に居たのは到底バーサーカーとは思えぬ普通の青年だった。
彼の名は色丞狂介。話を聞けば彼は別段英霊と呼べる存在ではなかった。ごく普通の学生であり、父親が刑事の彼は将来、自身も刑事になりたいのだという。
そんな彼だが雁夜は落胆した。死ぬ思いでサーヴァントを召還したのにバーサーカーどころか普通の好青年。これでは聖杯戦争を勝ち抜くなど不可能だ。
落胆した雁夜だが逆に狂介は気合いが入っていた。父親譲りの正義の心が雁夜、そして桜の境遇を知り、助けたいと申し出たのだ。
しかし、その一言が雁夜を冷静にさせた。彼は聖杯戦争に関わらせてはいけないと思ってしまったのだ。雁夜は表向きは狂介をサーヴァントとして認めたふりをして彼を聖杯戦争から遠ざけるために家の雑務を命じたのだ。
食事、掃除、洗濯などをやらせて聖杯戦争への介入を防いだのだ。桜を救う方法は別に考えようと雁夜は心に誓った。
しかし、雁夜がそう思っても聖杯戦争が始まってしまう。夜の倉庫街で戦いが始まった事を察知した狂介だが雁夜から行かなくていいと言われてしまったのだ。
その言葉を聞いた狂介は雁夜の命令に従うしかなかった。聖杯戦争が如何に危険なものかを聞いていたからだ。
「僕には……何もできないのか」
間桐邸の外で夜風に当たりながら悔しそうに拳を握る狂介。その時、狂介の手の中にほんのりと柔らかい布の感触が伝わったのだ。
狂介が手にしていた物は女性用の下着だった。サイズが小さいことから子供用の物だと判断される。
「な、なんで桜ちゃんの……あ、そうか洗濯物を取り込んだときに僕の服のポケットに入ったのか……」
何故、下着が自身の服のポケットから出てきたのか謎は解けた。しかし狂介は何故か微動だにせず下着を見つめる。
「ば、馬鹿な……僕は何を考えているんだ……これは桜ちゃんの……」
狂介の脳裏には儚げな少女の顔が浮かぶ。だが、それと同時に頭の中に妙な思考が走った。
───何を迷う───
「う、うう……だ、駄目なのに……僕は何を悩んでいるんだ……」
手がプルプルと震えながら下着をしっかりと握り顔に近づけ始める。
───解き放て───
「ぼ、僕は……」
───理性の鎖を───
次の瞬間、狂介は下着を顔面に押し付けた。
本来人類は潜在能力のおよそ30%しか発揮できないとされている。
しかし、色丞狂介は頭部顔面に女性下着を装着することによって、潜在能力を100%発揮させるが可能になり……変態仮面となるのだ。
「フォオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!」
狂介の口から狼のような遠吠えが発せられ……
「クロス・アウッ!」
掛け声と共に着ていた衣服を一瞬で脱ぎ捨て、脱ぎ捨てられた衣服が夜空に舞う。
そして変態仮面は現在、聖杯戦争が行われている倉庫街へと走り去って行き、間桐邸の前に狂介の服だけが残されていた。
◆◇◆◇
所変わって倉庫街では激しい戦いが繰り広げられていた。
二人の騎士がお互いの技と力をぶつけ合っていて、一人は長短異なる二本の槍を操るランサー。
対するは小柄で可憐な少女でありながらも最優のセイバー。
どちらも互いに英雄を関する名を持つサーヴァント。
戦いは一進一退の互角。
「流石だな、セイバー。最優のサーヴァントの名に違わぬ見事な力だ」
「貴殿の槍捌きこそ称賛に値する。貴方のような騎士との勝負に名乗りすら許されないことが悔やまれる」
「それは光栄だなセイバー」
互いの技を讃え合うセイバーとランサー。
しかし、その戦いに更なる乱入者が現れた。自分のマスターを引き連れて(無理矢理)現れたライダーである。
そしてライダーは驚くべき提案をする。
なんとライダーはセイバーとランサーを配下に加えようと勧誘したのだ。
「俺が聖杯を捧げると決めたマスターただ一人。それは断じて貴様ではないぞライダー!」
「そもそも貴様はそんな事を言いに現れたのか。戯れ言が過ぎるぞ!」
セイバーとランサーに断られたライダー。そしてそこに新たにアーチャーまで現れたのだ。黄金の鎧を身に纏ったアーチャーは『王の財宝』から無数の宝具を撃ち放ち始め、セイバー、ランサー、ライダーを追い詰め始める。圧倒的な力の前に満身創痍になり始めたセイバー達を見てアーチャーは鼻を鳴らしながら興味が失せた様に『王の財宝』に手を伸ばした。
「貴様等如きに我が宝を見せてやる事を光栄に思うが良い……最後は我の手で斬ってやろう」
そう言ってアーチャーは『王の財宝』から何らかの宝具を出した……筈だった。
「何だ?この妙に柔らかく生温かい感触のモノは?」
それは片手ほどの白い塊であり、アーチャーの記憶にはないモノだった。こんな物が『王の財宝』の中にあっただろうか?
悩むアーチャーの背後から白い塊の声の主が解答を教えた。
「それは私のおいなりさんだ」
アーチャーが触れていたモノは変態仮面の股間だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
普段なら絶対に出さないような悲鳴を上げつつ、触れていた手を瞬時に引っ込めさせてぷらぷらさせるアーチャー。
「き、貴様っ!何者だ!?」
「私は貴様のような汚れたサーヴァントを倒す為……バーサーカーのクラスで現界したサーヴァント……変態仮面だ!」
アーチャーの問いにポーズを決めながら答える変態仮面。その光景を見た他のマスターやサーヴァントはかなり引いていた。
しかし、その時だった。アーチャーに動きが見えた。
「時臣め。貴様ごとき諌言……いや、逃げるチャンス!」
「逃がすか、変態奥義!フライング亀甲縛り!&地獄のタイトロープ!」
逃げようとするアーチャーに変態仮面が迫る。何処からか取り出したロープでアーチャーを変態的に縛ると変態仮面はそのロープに股間を擦り付けながらアーチャーの顔面へと降っていく。
「う、うーん……」
「しっかりしてくださいアイリスフィール!と言うか、この状況で私を一人にしないで下さい!」
悪夢の様な光景にセイバーのマスターであるアイリスフィールはフラりと気絶しそうになるがセイバーがギリギリの所で意識を繋ぎ止めていた。尤もアイリスフィールが気絶して、この状況に取り残される事を恐れての事だろうが。
これが後に聖杯戦争の悪夢と呼ばれる戦いの序章でしかない事を誰も予想する事すら出来なかった。
『究極!!変態仮面』より『色丞狂介/変態仮面』でした。
もう素でバーサーカーですね。