雁夜おじさんが○○を召喚しました   作:残月

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男のメイド……その名は

 

 

間桐家の屋敷の地下に二人の男の姿があった。

 

一人は黒いパーカーを着た白髪の男。

 

もう一人は和服を着たどこか化け物染みた雰囲気を纏った老人。

 

白髪の男は魔法陣らしきものに手をかざしながら呪文のようなものを詠唱していた。

 

 

「ぐっ……がっ……」

 

呪文の言葉を詠唱する度に、白髪の男『間桐雁夜』の体に激痛が走った。

 

 

体の至る所から血を流し、端から見ている者の方が気分を害してしまう程に。

 

しかし雁夜は詠唱をやめなかった。

 

雁夜には果たさねばならない誓いが有った。

 

叶わなければならぬ願いが思いが有った。

 

守らねば成らぬ少女が居た。

 

それら全てが雁夜を突き動かし、今にも壊れそうな体を支えていた

 

唱えていた呪文が終わり、地下室に描かれた陣から光が増し、地下室を照らした。

 

召喚が上手くいったのか、隣に居た老人『間桐臓硯』は皺だらけの顔を歪ませ笑った。

 

すると、魔法陣の中から何故か光が溢れだし始める。あまりの眩しさに雁夜も臓硯も目を細め、眩しさに耐えながらサーヴァントを見ようとした。

 

 

「バーサーカー……なのか?」

「ヌウ……ここはどこだ?」

 

雁夜の呟きに答えたのは野太い声を発した一人の男だった。

背の高さは推定でも優に二メートルは越えるだろう。身長が173㎝の雁夜でさえ見上げるほどである。

更に剥き出しになった二の腕は、雁夜の物よりも明らかに太くプロレスラーを思わせる程だ。鋼のようなその筋肉は見せ掛けではないことが一目でわかる。 

ボサボサの髪は長く背中まで届いていて、まるでそれ自体が一つの生き物であるかのように蠢く。

大きな口から覗く歯は不釣合いなほど白く、そして鮫のようにギザギザと尖っている。

その瞳には、内に潜む凶暴さが滲み出てくるような鋭さがある。

それら全てが総じて野生的と評したくなるような独特の気配が全体から漂ってくる。まさにバーサーカー呼ぶに相応しい存在と言えた……言える筈だった。

 

問題なのはバーサーカーの服装であった。

漆黒のスカート。純白のエプロン。顔の半分を覆いつくす仮面と一体化したヘッドドレス。その服装がバーサーカーの肉体と相まって、より一層の違和感を際立たせていた。

 

 

「ククク……俺の名はコガラシ!バーサーカーのクラスで召喚されたメイドガイのコガラシだ!」

「メイドガイ……メイド?」

 

 

メイドガイと言う単語に聞き覚えのない雁夜は首を傾げた。あまりメイドに詳しくない雁夜でも、目の前の人物が正しくない存在なのは十分理解していた。

雁夜はメイドという言葉からイメージを思い浮かべる。

 

『質素なドレスに、清潔なエプロンを身に纏い甲斐甲斐しく主人の世話をする可愛いらしい少女』これが正しいメイドの在り方だろう。

「凛ちゃんや桜ちゃんは将来、メイド服の似合う素敵な娘に成長するんだろうなぁ……」と関係の無い思考に逃げかけたが、雁夜は頭を振って意識を戻す。

 

 

「バーサーカー……お前のマスターは俺だ」

「ほう……ならば貴様が俺の新たなご主人か。数多あるであろうサーヴァントの中から。このメイドガイを呼び出すとは、なんという運の良さ!」

 

 

「むしろ外れを引いた気分だよ」と言いそうになったが、雁夜は寸での所で言葉を飲み込んだ。

そして、それからコガラシの行動は早かった。

コガラシは先ずは身の回りの事からと家の掃除を始めた。

間桐邸と言えば、近所からも忌避され、近づく者もいない不気味な屋敷として有名だ。放置され生い茂る木々や外壁を覆い隠す蔦によって年中陰鬱とした間桐邸は、その不吉で威圧的な様相から半ば幽霊屋敷のような扱いを受けていた。

しかしコガラシはその間桐邸を一晩で綺麗にしてしまった。何処から調達してきたのか、チェーンソーやら芝刈機を駆使して腰の高さまで生い茂っていた雑草だらけの芝生もまるで絨毯にように均等に切り揃えられ、植物の蔦や葉で覆われていた外壁もすっかり綺麗になり、まるで建造したばかりのような鮮やかな色彩を魅せつけている。

更にコガラシは家の中も完璧に掃除し、更に『虫が居るのでは掃除にならん』と地下の蟲蔵に籠っていた蟲を全て処分した。この時の臓硯の呆然とした表情を見た雁夜は、少しだけ胸の空く思いになったのは秘密である。

 

そしてコガラシは雁夜や桜の衣類にも手を出した。基本的に着た切り雀な雁夜と桜だが、コガラシが洗濯をしてからと言うもの家にあった衣類全てが新品同様と化していた。しかしコガラシはここで余計な事を口走る。

 

 

「ご主人よ。小娘の下着にシミができているぞ」

「っ!?」 

「ちょっと待てバーサーカー」

 

 

コガラシが桜を指差しながらある事を指摘し、桜は顔を赤らめて雁夜はコガラシの髪をガシッと握る。

 

 

「メイドガイアイは透視力!いかなる汚れも見逃さない、この目を持ってすれば造作も無いこと。この屋敷の掃除もその賜物よ!」

「待てバーサーカー……お前まさか、そのメイドガイアイって奴を常に使ってるんじゃ……」 

「はい、雁夜おじさん」

 

 

コガラシの発言から常に裸を覗かれている事が判明した雁夜は、何時ものように桜からバットを受け取った。

 

 

「ククク……如何にも。おはようからおやすみまで貴様の暮らしを見つめるメイドガイ。ご主人のことは何一つ見逃さん。そしてメイドガイアイで貴様の部屋の机から遠坂葵とやらの写真が……ヌオッ!何をするご主人!」

「プライバシーもクソも無いなバーサーカー!」

 

 

手にしたバットでコガラシの脳天を打ち据える雁夜。この数日でほぼ毎日のやり取りとなっていた。そろそろバットを釘仕様にしてしまおうかと思いつつある雁夜だが、ハッキリ言ってしまうとコガラシは超が付くほど有能なのだ。服装と言動さえ除けば最高のメイドと言えるだろう。

コガラシは家事能力もさることながら普段から怪しげな能力を使う。主に『メイドガイ○○』と付く技の数々は宝具なのかは知らないが、明らかに人知を越えた事をしでかす。実はキャスターなんじゃないだろうかと何度思った事か。

 

 

「だが……バーサーカーが居れば聖杯戦争も勝ち抜ける」

「ククク……任せろご主人。貴様の手に聖杯をくれてやる」

 

 

やる気を見せる雁夜に同意しながら頼もしげに笑うコガラシに雁夜も安堵した。

しかし雁夜は知らない。コガラシの行動で聖杯戦争が乱れに乱れる事を。

雁夜は甘く見ていた。コガラシの奇怪な行動が今後は時臣を苦しめる番だと思っているが、コガラシの行動は敵味方問わず被害が及ぶ事を。

 

 




『コガラシ』
「仮面のメイドガイ」の主人公。
言ってしまえばメイド服を着た男性だが人並みはずれた身体能力、透視や催眠、飛行などの超能力、五感を含む計37の感覚器官など、超人的な能力の数々を有する。
生命力も極めて高く、100年以上を生き、外的要因で死亡したとしても「メイド神の加護」によって即座に復活するなど、あらゆる点で人間離れした存在。
正義感が強く家事全般のスキルは超一流であり、頭脳明晰だが相手の人権やプライバシーを一切無視した行動を取るので作中で主に女性キャラが被害に合い、その度に制裁を加えられている。
それでも信頼されているので困ったときに咄嗟に頼られる場面も多い。
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