間桐家の屋敷の地下に二人の男の姿があった。
一人は黒いパーカーを着た白髪の男。
もう一人は和服を着たどこか化け物染みた雰囲気を纏った老人。
白髪の男は魔法陣らしきものに手をかざしながら呪文のようなものを詠唱していた。
「ぐっ……がっ……」
呪文の言葉を詠唱する度に、白髪の男『間桐雁夜』の体に激痛が走った。
体の至る所から血を流し、端から見ている者の方が気分を害してしまう程に。
しかし雁夜は詠唱をやめなかった。
雁夜には果たさねばならない誓いが有った。
叶わなければならぬ願いが思いが有った。
守らねばならぬ少女が居た。
それら全てが雁夜を突き動かし、今にも壊れそうな体を支えていた。
唱えていた呪文が終わり、地下室に描かれた陣から光が増し、地下室を照らした。
召喚に選んだのは『狂化』のステータスを付属できるバーサーカーだった。
召喚に上手くいっていたのか隣に居た老人『間桐臓硯』は皺だらけの顔を歪ませ笑った。
しかし、ここで予想外の出来事が起きた。
「……………………あ?」
召喚されたバーサーカーは鬼だった。
何を言っているか意味不明になるだろうが目の前に居るのは何処からどう見ても『鬼』だ。
頭から生えた一本の角に黒い着物。鋭い目付きに足元には巨大な金棒がある。
何故か、大量の巻物や書類を抱えたまま召喚されたバーサーカーは雁夜を視認してから0.3秒でメンチ切りをしてきた。
「何処ですか此処は?」
「な、喋った!?」
バーサーカーが喋った事に雁夜は驚愕し絶望した。バーサーカーならば理性など無い筈だ。
しかしこのバーサーカーは辺りの様子を眺め、何かを思案しているように見える。更に持っていた書類や巻物を読み返してフムフムと考え事をしている。バーサーカーなら本来ならば理性など無いはず。つまり狂化が失敗した、もしくはバーサーカーではない他のクラスのサーヴァントを召喚してしまった事に他ならない。
「哀れじゃのう、雁夜。召喚もマトモに出来ぬとは」
「ぐ……この……」
「ええ、そうです。現世に喚ばれてしまいまして。それはそうと閻魔大王、以前作成したブラックリストに……」
臓硯が皮肉たっぷりに雁夜を笑う。悔しさに歯軋りを鳴らそうとした雁夜だがその場の違和感に気付く。
バーサーカーが臓硯の後ろで携帯電話で話をしているのだ。
しかも会話の中に『閻魔大王』と危険なキーワードがさらりと混ざっていた。
雁夜をバカにしていた臓硯はその事に気付かずに召喚されたサーヴァントに近寄り、じろじろと見る。
バーサーカーは話が終わったのか携帯電話を懐に仕舞うと臓硯を見返すだけだった。
「雁夜が喚びだしたサーヴァントらしいは、このボンクラが……」
「アナタ……間桐臓硯さんですね?」
臓硯が目の前のサーヴァントをバカにしようとした時、会話を遮る様にサーヴァントが口を開いた。まだこちらの名前すら話していないのになぜこのサーヴァントは知っているのか。雁夜は驚き、臓硯も同様に驚いたのだが眉をピクリと上げただけで騒ぎはしなかった。
「ほお………儂の名を知っているとは……貴様、何者じゃ」
「申し遅れました。私は閻魔大王の補佐官を勤めています『鬼灯』と申します」
臓硯の問い掛けにサーヴァント改めて『鬼灯』は自己紹介をした。
その自己紹介に雁夜も臓硯も開いた口が塞がらない状態となった。
「え、閻魔……大王の補佐官?」
「官房長官みたいなもんですよ、地味地味」
雁夜の呟きに鬼灯は手を振りながら謙遜なのか自慢なのか分からない対応をする。
「ほほぅ……閻魔大王の補佐官と言い張るか。まさか、かの閻魔大王が実在するのか?」
「ええ、よく仕事をサボる怠慢なヒゲです」
「いや、お前の上司じゃないのか!?」
臓硯の呟きに私情100%の見解を答える鬼灯に雁夜はツッコミを入れた。仮に地獄が存在するとして、そのトップの閻魔大王をヒゲ呼ばわりする姿勢は上司と部下の関係を逸脱していた。
「ふん、まあよい。精々、聖杯戦争に励むがよいわ」
「ああ、それなんですが」
吐き捨てる様に臓硯は鬼灯に告げる。戯れ言には付き合わないと言う意味なのか。
それを見た鬼灯は袖から巻物を取り出すと広げて読み始める。
「およそ、60年に一度の割合で冬木で聖杯戦争をしていますね?その度に死因がハッキリしない亡者が出てきて困ってるんですよ。それに事実の隠蔽をしているから罪も加算されていますよ」
「待て、バーサーカー……それは?」
鬼灯が巻物を読み上げると過去にあった聖杯戦争で死んだ者やその時に行われた事態について描かれていた。その内容に臓硯ですら言葉を失っている。
「これは所謂る『閻魔帳』です。コレには間桐臓硯さんの罪が記載されています。それも臓硯さん、アナタ寿命を外法で伸ばしてますね。困るんですよ定められた寿命を改竄するのは……その事も含めて間桐臓硯さん、アナタの死後は阿鼻地獄が決定されています。死後はお楽しみに」
※阿鼻地獄は地獄の最下層にある最も恐ろしいところ。重罪人が裁かれる中でも最大にキツい地獄と言われている。
「な、なんじゃと!?待て貴様……」
「さて、間桐雁夜さん」
狼狽する臓硯を無視して鬼灯は雁夜と向かい合う。
「不本意ながら私はアナタのサーヴァントとして召喚されました。真名は『鬼灯』クラスは『バーサーカー』聖杯戦争の間だけのお付き合いとなりますが、どうぞヨロシクお願いします」
「あ、ああ。俺は間桐雁夜、キミのマスターだ」
名乗りながら差し出された右手に雁夜は咄嗟に握手を返す。
最初はどうなる事かと心配した雁夜だがこれは当たりなサーヴァントを引き当てたのではと思い始めていた。
しかし雁夜は知らなかった。この鬼の所業を。
上司にあたる閻魔大王にも容赦ない制裁を加え、サタンやベルゼブブ、イザナミ等の他国の重鎮、上位者に対しても媚びることなく丁寧にさりげなく格下にあしらうなど、誰に対してもドSで情け容赦ない態度で接する鬼神である事を。
当たりなサーヴァントどころかパンドラの箱を引き当てたと、雁夜が思うのはまだ先のお話。
今回は『鬼灯の冷徹』より『鬼灯様』でした。