間桐家の屋敷の地下に二人の男の姿があった。
一人は黒いパーカーを着た白髪の男。
もう一人は和服を着たどこか化け物染みた雰囲気を纏った老人。
白髪の男は魔法陣らしきものに手をかざしながら呪文のようなものを詠唱していた。
「ぐっ……がっ……」
呪文の言葉を詠唱する度に、白髪の男『間桐雁夜』の体に激痛が走った。
体の至る所から血を流し、端から見ている者の方が気分を害してしまう程に。
しかし雁夜は詠唱をやめなかった。
雁夜には果たさねばならない誓いが有った。
叶わなければならぬ願いが思いが有った。
守らねばならぬ少女が居た。
それら全てが雁夜を突き動かし、今にも壊れそうな体を支えていた。
唱えていた呪文が終わり、地下室に描かれた陣から光が増し、地下室を照らした。
召喚に選んだのは『狂化』のステータスを付属できるバーサーカーだった。
召喚に上手くいっていたのか隣に居た老人『間桐臓硯』は皺だらけの顔を歪ませ笑った。
「あ……なんじゃあ此処は?」
「……なっ!?」
雁夜は絶句した。呼び出した筈のサーヴァントは明らかに日本の武者だったのだから。
「……何だ。どこだ!此処は、お前は誰だ!」
「ま、待て……」
苦しむ雁夜を一別するとサーヴァントが手を前に突き出しなが雁夜の方へ向い、雁夜の襟首を掴み締め上げる。
「俺は帰るのだ、薩州へ!」
「薩州……貴様何者だ?」
サーヴァントに苦しめられる雁夜をニヤニヤと見ていた臓硯だがサーヴァントの発した『薩州』のフレーズに口を挟んだ。
「おいは……島津!島津豊久、島津家久が子じゃ!」
「島津豊久……?」
サーヴァントの叫びに雁夜は首を傾げた。島津豊久と言う名の英霊に心当りがなかったからだ
「島津……?誰?」
雁夜は島津と言われてピンと来ないまま首を傾げている。
「……島津……ああ、九州の?はじっこの?ものすごいド田舎の!?」
どうやら臓硯は長年蓄えた知識から日本の武者の名を思い出した様子で知識の棚から思い出した情報を少しずつだが出していく。
そんな様子を見た豊久は怒りと共に刀を構えていた。
「待て……少しだが思い出してきたぞ島津の家系を……」
雁夜の言葉に、豊久は「む!」と声を上げながら反応し、振り替える。
「たしか九州のはじっこの方の一族だったな。ははぁ……代々田舎の方々だな」
しかし、雁夜の口から出たのはフォローの言葉などではなく追い打ちの言葉だった。
「子孫代々、一族郎党、馬鹿にされた……全、員、殺、す!!」
「落ち着けバーサーカー!」
刀を振り回す豊久に雁夜は宥めようとするが意味はなさそうだ。
「貴様等の首を島津の墓の前にお供えにしてくれるわー!首置いてけー!」
「落ち着け、妖怪首置いてけ!」
「妖怪はお前だ爺!」
豊久に追いかけ回される臓硯と雁夜。
臓硯は豊久を『妖怪・首置いてけ』と言うが実際の所、妖怪は臓硯であり、雁夜は叫びながらツッコミを入れた。
オマケ
聖杯戦争が進む中、キャスターは何を思い違いをしたのか、セイバーをジャンヌ・ダルクと完全に思い込み、己の物にしようとつけ回していた。そして今、ここアインツベルン城にまで侵入してきたのだ。
(人質など———卑怯なッ)
内心に憎悪を爆発させ、セイバーが奥歯を砕かんばかりに噛み締める。キャスターに、数十人ものまだ幼い子供たちが朧気な表情で付き従っていた。魔術で操られているに違いない。罠を発動すれば、子どもたちを犠牲にしてしまう。キャスター一人を狙うことのできる指向性の罠などほとんどないし、あってもサーヴァントには痛くも痒くもないものだ。とどのつまり、この状況は人質を利用してセイバーを誘いだすためのものに他ならない。
こちらの逡巡を見透かし、再度笑みを浮かべたキャスターがパチンと指を鳴らす。途端、子どもたちは正気に戻って邪悪な男に怯え始める。
「さぁさぁ坊やたち、鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単。この私から逃げ切ればいいのです。さもなくば……」
「ひぃっ……」
言い終わらない内に、ローブの裾から手をするりと差し伸ばし、手近な所にいた一人の少年の頭に手を載せようとする。少年は怯え竦んだまま動けない。
「まさか……!?」
セイバーの鋭い直感スキルは、魔術師とは思えないその筋肉質な腕に最悪の事態を想像させる。同じ想像をしたのであろうアイリスフィールが息を呑んで目を見張る。
「やめ———!」
「やめろ」とセイバーが悲鳴じみた叫びを上げかけた、間に合わない。城の中に居るのでは助けに行く事も叶わない。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「なっ!?」
「え?」
今まさに少年の頭を握り潰そうとしたキャスターだったが獣の様な叫び声にビクリと体を震わせて動きを止めてしまう。
それと同時に森の中から鉄砲玉の如く豊久が刀を振りかぶりキャスターに突進してきた。
その鋭い斬激に子供の頭を掴んでいたキャスターの片腕は切り落とされる。子供を庇い直ぐにキャスターから引き剥がすと豊久は切られた腕を押さえるキャスターを指差した。
「首置いてけ、なぁ!」
「き、貴様ぁ……」
鬼のような表情で叫び声を上げる豊久に、キャスターは怒りを露にしていた。
キャスターは支離滅裂な言葉を豊久に投げ掛けるが、豊久には何を言っているかは分からない。そもそもセイバーをジャンヌと間違えている段階でキャスターにマトモな思考は無いのだが豊久には知るよしもない。
「わがんねぇよぅ。何言ってんのかさっぱりわがらねぇ。日本語、日の本の言葉喋れよう」
そう言ってキャスターに迫る豊久は人のものではない。まるで鬼や妖怪の類いだ。
「日本語喋れねぇんなら……死ねよ」
「ぐぅ……おのれ、狂犬め……覚えていろよ!」
豊久のプレッシャーに負けたのかキャスターは魔道書を片手にその場から逃げ出した。
「ふん。子供を盾にしなきゃ戦えぬ奴の首なんかいらぬ」
鼻を鳴らしてキャスターの逃げた方角を睨む豊久。
そして豊久はクルリと振り返ると助けた子供達に微笑みかけた。
「おう、大丈夫だったかぁ?」
そう言って豊久は子供に笑いかける。
その笑みに子供達は少し驚いた。この人は怖いけどこんな顔もできるんだ、と。
「その子達は良いのかな?その子等も怯えて日の本語なんか喋れてないぞ。心の中じゃ「死ね」じゃないのか?」
茂みに隠れて場を見守っていた雁夜は茂みから姿を現してそう言う。そんな雁夜に、豊久は返す言葉がない。
すると豊久は一度、何かを悩む仕草を見せてから子供に向かって何かを教え始める。
「タスケテー。ほらくり返せってんだ、タスケテー」
突然の事に子供達は小首を傾げるか頭の上に?が浮かんでいる様だ。
「タスケテー、タスケテー!ほら言え!」
「タ、タスケテッ!」
「タスケテケテ—ッ、タスタスタスケテ—!」
豊久の剣幕に子供達は揃って「タスケテー」を繰り返した。
子供達数十人による「タスケテー」大合唱に豊久は満足したのかウムと自身の腕を組み。
「一、件、落、着!」
と叫んだ。
「凄いゴリ押しだな」
「一向衆並の凄い言いくるめを見ました」
そんな豊久の強引っぷりに、雁夜や現場に到着したセイバーは若干引き気みに豊久を見ていた。
今回は『ドリフターズ』より『島津豊久』
もう生粋のバーサーカーです。凶化スキル無しにバーサーカーです。