ゼログラビティガール! 作:Mr.65535
「うーん、頑張った!」
とある高層ビル、その最上階にある一室。
椅子に深く腰をかけた少女が、ニコニコしながら目を瞑った。
彼女の名は『シャルロット・デュノア』。フランスにあるデュノア社の社長…………ではなく。
デュノア社の社長の妾の子であり、表にできない子供にして、0から会社を創設し、デュノア社を飲み込み、フランスどころか世界で1番の宇宙開発企業を創り上げた女傑。しかも、ハイスクールに通う年頃の少女が、である。
なぜ、シャルロットが激動の半生を過ごすことになったのか。
物心ついた頃から貧しい生活だった。しかし、それでも母の愛に満たされた幸せな生活だった。
しかし、不治の病と言われる病気に罹った母、今更にやってきた上から目線の実の父に、泥棒猫の娘と罵る実父の相手を見て、彼女は決意した。
『母を、幸せにしてやる』
シャルロットという少女は、普通の少女ではなかった。俗に言う、天才だったのである。
母が、娘に真っ当な生活を送らせるために世間に隠した真実。しかし、そんな母の思いと裏腹に、彼女はその才能を振るい始める。
まず、金。活動するための資金が無ければお話にならない。
分の悪い賭けに身をやつし、纏った金ができれば、それを株取引に使い、一端のデイトレーダーとして生計を立てた。
母の不治の病を治す資金を、嫌いな父親達の手を借りることなく搔き集め、その上で彼女の手元には人生を数回繰り返すことのできる資産が残った。
しかし、彼女は金を持っているだけの小娘。後ろ盾もなく、このままでは謀られる。特に、妾の子である彼女の資産は自分の物であると疑っていない実の父から。そう思った彼女は、金以外の地盤を固めることにした。
ここでもまた、彼女は己の才を活用する。
世は、『インフィニット・ストラトス』(通称:IS)と呼ばれるパワードスーツに左右され始めた頃。とある大天才『篠ノ之束』が開発したこのパワードスーツは、それまでの兵器を無価値に変える性能を誇り、女性にしか使えないという性質上女尊男卑の風潮を産んだ。
篠ノ之束は、宇宙へ飛び立つためのものだと発表したが、しかしその直後に起きた事件により、ISは兵器としての役割を求められた。今まで兵器を作り続けた企業は、その方向に転換することを強いられた。
これはいける。そう思った彼女は、ISによる『宇宙開拓』を掲げた会社を創設した。
世間は『金持ちの道楽』だと嗤う。世界の流れに逆らう、無駄な行為に見えるからだ。
世間が見向きもしない本来の用途としてのIS。しかし、宇宙開発そのものは需要のある分野である。誰かが手をつける前に、彼女はその分野で付け入る隙のない企業を作ろうと思ったのだ。
これが、無知な少女の暴走であるならば確かに無駄な行為となったろう。しかし、彼女の才能は想像を絶するものであった。
ロケットの様な大掛かりな仕掛けを使うことなく宇宙に飛び出せる技術も、宇宙ステーションよりも安全で、生活のしやすい宇宙コロニーの設計図も、その頭の中で既に出来上がっていたのだ。
ISほどの発明でなくとも、目を見張る様な新技術を発表し、各国の宇宙開発機関を相手に取引を繰り返しつつ金とコネを増やしつつ…………とうとう彼女はやってしまった。
宇宙開発専用ISの製作、それを用いて自ら単独の大気圏突破、そしてそのまま人類初の宇宙コロニーの建造、そして単独の大気圏突入。しかも、それらに掛かるコストが、今までの1000分の1ではきかない程。
様々な初の偉業を行い、それを成した核に当たるのがISともなれば、否応無しに世間は『宇宙での活動を目的』とする本来のISに目を向けざるを得なくなる。
しかし、今から何をしてもシャルロットの二番煎じ。彼女は己の手で押しも押されぬ企業にして見せたのだ。
そこからはもう独壇場である。フランスを宇宙開発大国に押し上げた彼女は、国という大きな後ろ盾を得、足りない人員や設備を、IS開発に行き詰まり、落ちぶれたデュノア社を支援という形で乗っ取り、確保。全てを固めた彼女は、さらなる宇宙開発の発展へ尽力することに。
何もないところから、全てを手に入れたシンデレラストーリーを駆け上がった彼女の渾名は『宇宙を手にした少女』。彼女は『宇宙に飛び出しただけ』と苦笑して否定するが、世界中の誰もが、いずれ彼女が宇宙を手にすることを疑っていない。
母親思いの優しい少女。
分の悪い賭けに身を委ねるギャンブラー。
篠ノ之束に匹敵し、篠ノ之束本人も認める天才少女。
それが、シャルロット・デュノアという人間だった。
そして、そんな少女である彼女は、閉じた目を見開いて、呟いた。
「…………学校行きたい」
シンデレラストーリーを駆け抜けた弊害。彼女は普通の女の子としての人生を送れずにいた。
学校なんて行く必要がない…………というか、世界中の大学に招かれて講義する立場ですらある。
「いけないよねぇ…………んぅ?」
とはいえ、年頃の子供である。どうにかして行けないかなぁ…………と彼女はテレビをつけて、驚いた。
『インフィニット・ストラトス、初の男性適応者現る』
『初の適応者は中学3年生、IS学園に入学か』
少女は、口の端を釣り上げた。
「…………ふふっ」
この物語は、宇宙を手にした少女がとあるハイスクールではしゃぐだけのお話。
『ゼログラビティガール!』