ソードアート・オンライン 嘆きの鬼   作:騎志丸

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プロローグなんで字数は少ないです。


プロローグ

 薄暗い森の中を一人の男が逃げていた。

 人相が悪く、筋肉隆々でいて皮鎧(レザーアーマー)に金属製のガントレット、脚は動きやすさを重視してか布製のダブッとしたズボンを履いているいかにもな軽装と、そしてその手には大剣と呼べる程の得物を握っている。

 だが、そんな男が涙と鼻水を垂れ流しながら、森の中を必死で逃げていた。

 男は走りながら後ろを振り返る。自らを追い詰める者から逃げ延びていると信じて。

 しかし、その視界に映ったのは真紅の光。

 深く暗い森の中で赤い光だけが浮き出ているように目立っている。その赤い光が段々と男に近づいてきていた。

「ヒィッ……!?」

 それを確認した男は思わず悲鳴を上げる。

「ぎゃばっ!?」

 そのためか、それとも森の薄暗い中で気付かなかったのか、あるいは両方か、地面から盛り出ている木の根に足を引っ掛けて転倒してしまう。

 起き上がろうと必死に腕に力を入れる男だが、恐怖のためかガクガク震えて力が入らない。

(ダメだ!! このままじゃあいつ等みたいに殺されちまう!!)

 自分の死を意識したためか、更に震えてうまく立つ事ができない。

 自らの剣を地面に突き刺して杖にする事で、震えながらもやっと立つ事ができた。

 

 だがしかし、遅すぎた。

 

「っ……!?」

立つ事ができた男の背後に、一人の騎士が立っていた。

 白銀の全身鎧(フィールドアーマー)でその身を包み、表情も顔全体を覆い隠すタイプの――アーメットと呼ばれる――兜をかぶっているために読み取ることができない。まるで物語に出てくる騎士のような姿をしている。

 

 だが、雰囲気はまるで逆。

 

 陰のありそうな猫背に、右手には柄だけで自らの身長すら凌駕する一対(いっつい)の禍々しい刃を持つ大斧、鎧を纏っているのにあまりにも体の線も細い、そして何よりも真紅の光――いや、オーラと呼べるべきモノが全身から放出されている。

 そのせいで物語に出てくる騎士と言うよりは魔王配下の騎士と言った方がしっくりくるだろう。

(オーガ)ッ!?」

 追い詰められた男が騎士――(オーガ)に向かって怒鳴るが、鬼は黙ったまま男を見据える

「おいおいおいおい、マジになるなよ? こりゃ所詮ゲームだぜ?」

 男が恐怖心を押し殺して鬼へと語りかけた。

「確かにログアウトできなくなっちまったが、仮想現実(ゲーム)で死んだら現実(リアル)でも死んじまう――なんて事は馬鹿げてると思わないか?」

 そう、この薄暗い森だけでなく、この世界全体がVRMMORPGという仮想空間を舞台としたオンラインゲームである。

 ナーブギアと呼ばれるヘッドギアのような形をしたハードであり、現実世界からプレイヤーの脳と繋ぐ事でこの仮想空間――ソードアート・オンラインとアクセスする事ができる。

 そのため、従来のコントローラーを使用する事もなく、プレイヤーがとろうとした行動そのものが仮想空間内で反映される。

 それは多くのゲーマーの心を鷲掴みにし、話題を呼んだ。

 だが、とある理由でこの仮想空間に一万人に及ぶプレイヤーが閉じ込められる事になる。更にはHPが零――つまりゲームオーバーになる事によって、ナーブギアを介してプレイヤーの脳を焼き切り、現実世界の命まで()たれるというデスゲームへと変貌した。

 それはもはや、プレイヤーにとって仮想空間(ゲーム)ではなく仮想現実(もう一つのリアル)となった。

「まあ、確かに俺たちはこのゲームに囚われちまったけどよ、それでもここで死んだら現実で死ぬってのがリアリティが無ぇつーか、もしかしたら死んじまったら現実に帰れるかもしれないじゃん?」

「……オォ……」

 男の問いかけに鬼はピクリと反応すると、地面に下ろしていた大斧を片手で振り上げる。

「ちょっ!? タンマタンマ!?」

「オオォォァアアアァァァァァァッ!!!!」

 しかし男の抗議を聞くこともなく、絶叫とも慟哭とれる声を発して異常な速さで大斧が振り下ろされる。

(チィッ……!? 逃げられねぇし、もうこうなったらやるしかねぇじゃねぇか!)

 だが、男はなんとか横っ飛びで避ける事ができた。そして思考する。目の前の鬼を倒すまでにいかないまでも、逃げ切れる隙ができれば、と。

(転送結晶があれば一番楽だったんだけどな。今は手元に無ぇし……)

「アアァァアァァァァァァッ!!!!」

(こうなりゃやぶれかぶれだろ!)

 男が思考し、決すると大剣を振りかぶる。

 鬼は大斧を振り切った後だ。体勢が制限されている。だから必ず当たる。

 男はそう思っていた。

「おりぃやぁぁぁっ!!」

 ギィンという金属同士がぶつかり合う音で男が目を見開く。

 大剣と大斧がぶつかり合った音ではない。大斧は未だに振り切られている。

「ガントレットだとっ!?」

 そう、男が着けている金属製のガントレットと鬼のガントレットがぶつかり合った音だ。

 大剣を振った男の腕に、鬼の空いている腕を滑り込ませて振り切る前に防いだという事だ。

 更に鬼の腕が力を込めて男の腕を払いのけ、体勢を逆に崩された。

(こりゃ、体術スキルの弾き防御(パリィ)か!? 酔狂なモンを!?)

 体勢を崩されたタネがわかり、内心で悪態を吐く。

 

 正直、体術スキルのパリィは使い手が少ない。何故なら、武器を振りかぶってくる相手に素手かグローブ等で攻撃を逸らすのだ。ちょっとでもミスればHPが削れる。つまり、この世界ではそれほど死に近づく、という事だ。

 そんなもの使うのなら、武器や盾でパリィしたり防いだ方が効率も良いし安全という事だ。

 

 だが、鬼はそれをやってのけた。

 

 そして男が体勢を崩した今、鬼がそれを見逃す筈もない。

 鬼が持つ大斧の刃が返され、そのまま男の体を切り裂き吹き飛ばす。

「かはっ……!?」

 大地に叩き伏せられた衝撃で思わず大剣を手放してしまう。男が視界の端で自らの命の残量を示すHPを見ると、ほぼ全開だったにも関わらずにイエローゾーンを超えてレッドゾーンまで突入している。

たった一撃でそこまで削られた事に男は動揺しながらも、立ち上がろうとする。

 だが、それをさせまいと鬼が男の胸を潰す勢いで踏み、立ち上がるのを阻止し、そのまま大斧を男の首へと突きつけた。

「お、おい。冗談だよな……?」

 自らの命が窮地に立たされ、男は押し込めていた恐怖があふれ出して体がガタガタ震えだす。

「…………」

 男の質問に鬼は答えない。しかし、これが答えだと言わんばかりに大斧を振り上げた。

「ちょちょちょっ、マジ洒落になんねぇって! 助けてくれ! お願いだ!」

 鬼の答えを知っ男が鬼の足をどかそうと掴んで暴れるがビクともしない。おそらくは先のダメージでもわかる通り、男と鬼のレベル差が大きく開いているからだろう。

 男の命乞いを聞いてから、鬼の機嫌が更に悪くなったように踏みつける力が強くなった。更に兜の目出し部分から覗く目は侮蔑(ぶべつ)と怒り、そして憎しみの色が浮かんでいる。

「やめろ! おまえはゲームで人を殺すのか!? この人殺――」

 男の言葉は続かなかった。

 鬼の大斧が振り下ろされ、男の首を刈り取ったのだ。その次の瞬間には男は青い光に呑まれ、ガラスが砕け散るような音と共に仮想世界と現実世界から永久的にログアウトした。

 砕けた男の破片の最後の一片が消えるのを鬼が見届けると、その体から湧き出る禍々しい真紅のオーラが霧散した。

「ゲームだから殺しても問題ないと言っておきながら、いざ自分がやられそうになると手のひらを返す……これだからPK(プレイヤーキラー)って奴は……」

 ここにきて鬼が初めてまともな声を発した。兜のせいでくぐもった声をしているが、誰が聞いても男だとわかる低い声だ。

「人殺し? わかっているさ。……でもな、それでも俺はお前達PKを許す事はできねぇんだよ」

 そう吐き捨てて鬼は大斧を引き摺ってその場からゆっくりと立ち去っていく。

(こうやってPKK(プレイヤーキラーキラー)してたらいずれは報復とかされるだろうが、そりゃ俺の望む展開だ)

 望むと思っておきながら兜の奥にあるその表情は笑みではなく、憎しみと憤怒によって険しいものだった。

「俺はお前らを狩り続ける。俺の命が燃え尽きるその時までな……」

 その言葉と共に、鬼の姿が薄暗い森の闇に溶け込み消えた。

 

 

 これは、ソードアート・オンラインで唯一、命まで奪う、とある(PKK)の物語。




約一年ぶりだわ(笑)
忙しかったり、PC壊れたりしてね。ちょっと加筆修正していきます。
後、要望に応えて話の展開とか変えていきます。
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