「お兄様?」
「…ん、どうした、深雪? 」
「あ、いえ…、お兄様が大層お疲れのようにお見受けいたしましたので…。お声を掛けてしまい申し訳ありません。」
腰を折り、手を添えて丁寧にお辞儀して謝る深雪に若干の驚きを見せた後、達也は目の前のモニターから目を外し、振り向く。
いつものように深雪が用意してくれていた夕食を食べ、地下室で研究していた達也に、これまたいつも通りにコーヒーの差し入れに来た深雪が顔色を窺うような仕草をした後の先程の台詞だったので、達也は軽く訝しく思いながら、深雪の話に耳を傾けるために作業を中断したのであった。
「別に深雪に声を掛けられたぐらいで気が散るほどミスなんてしないさ。それより俺に言いたい事があるんじゃないのか?」
「……はい、お兄様。今日はもうお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか? 帰宅なされた時もいつもより疲れているようでしたし、私が作りすぎてしまった夕食を残さず食べていただきましたし、お兄様の御身体が心配で…。」
達也は深雪に言われた事をただの思い過ごしだとは言えなかった。実際にその通りなのだから。初めて、友人と遊びに出掛け、色んな事があった。足早に帰ってみると、大量の深雪の手料理が待ち構えていた。動き回ったから空腹ではあったが、さすがに全部食べきるのはきつかったほどの量だった。まだわずかに消化しきれていない具材が胃にある。
しかし達也は自分の事は無頓着と言ってもいいほど興味を持たない。深雪に言われるまで自分が思う以上に疲れている事に気づかなかった。
だから、深雪の話を聞いて、これからの予定の変更を頭の中のスケジュールで素早く行い、達也は深雪に柔らかい笑みを向けるのであった。
「そうか…、深雪の言うとおり俺は疲れていたみたいだ。今日はもう切り上げて寝る事にするよ。ありがとう…、深雪。部屋まで送るよ。」
「…はい!お兄様。」
開いていたファイルを閉じ、モニターの電源をオフにして片付けする達也に深雪は部屋まで送ってくれるという短いデートを心の中で待ちわびるのだった。
★★★
達也が自室に入り、眠げ代わりに一般教養の課題をしていた同じ時刻、他の三人は……
レオは夜の散歩を終えると、そのままベッドに横たわり、一瞬のうちに熟睡した。
幹比古は心身ともに疲れて、既に布団に包まって眠っていた。
そして将輝は吉祥寺真紅郎と会話を弾ませた後、明日に備えて(愚昧に付き合う事になっているため体力を回復する算段である)ベッドで横になる。
達也も課題を終え、眠げが襲ってきたので、ベッドに入り、規則正しい呼吸をして、すぐに眠りについたのであった。
”…………眠ったみたい。 ”
四人が寝静まったのを確認する存在…。
ずっと四人を見ていた存在は、ネットワークを通じて情報を集めた。すぐに目的の情報が集まり、ネットを介して今日の四人の行動を眺めていた。ただしその四人の中で一番興味があるのはただ一人…。でも気付かれてはいけないから関係のない周囲の人に視線を向けながら、見ていた。
そしてそうするうちに、もっと知りたいと思った。
もっと近くに行きたい。
もっと、もっと、声を聴きたい。
もっと、もっと、もっと、顔を見ていたい!
”あなたの全部を……知りたい…!”
そう願わずにはいられなかった。
でもこのままでは自分の存在を知ってもらう前に消滅させられるかもしれない…。器が欲しい…。
でも、器を手に入れるだけの力はない。
そうだ…、人間はどうしても叶えたい願いがあれば、天にお願いするという。天に住むという神様という人にお願いすれば…!
”神様…、私のたった一度だけの願いを聞いてください…。”
小さな存在はただ、お願いした。
そして、その存在の願いはあるものが叶えてしまった。
本来なら叶える事など不可能に近いが、あるものによって、願いは届けられた。
その存在の願いは、達也たちを巻き込んで波乱な展開を引き起こす事になるのだった……。
達也たち…、これからどうなるんだろうね~。
巻き込まれた所からもうやばい展開連続になるから、そろそろダク変えも考えないといけないな~。