妄想が膨らんでしまい、これ以上は煩悩になってしまうと考えが浮かんだ幹比古は
我に返って、中断する。しかし、そのお蔭で目の前にいたはずのレオの姿が見当たらない事に気づく。
「しまった…。レオを逃がしてしまった。……覚悟決めろ~、幹比古…!
ここが僕の人生の分かれ目だ!!」
助けになってくれるレオがいなくなってしまったが、レオの言うとおり、ここは魅せ場でもあると思い直す事にして、自分に気合を入れる。
しかし言っておくことがある。
…ここは夢だから。人生の分かれ目を左右するかもしれないと断言するくらいの勇気は本番まで取っておくことをお勧めする。…と言っても、幹比古には聞こえないが。
真剣みが増した幹比古は、振り返ってミツと対面する。ミツも幹比古の顔を見つめ返す。ずっと幹比古が自分に話しかけてくるのを待っていた。何も言わずにただ幹比古の言葉を待つ。
「ミツさん…、実は君に言っていなかった事があるんだ。
僕には今、すごく気のいい友人達がいるんだけど、その中の一人に君に……ミツさんに瓜二つの姿をした人がいるんだ。姿だけでなく、性格も仕草も全く同じで、双子ではないかと思うくらいそっくりなんだ。初めて君に会った時はその彼女ではないかと驚いた。でも実際、君はその彼女ではなくて、別人だった。
だから、君の前で彼女の話はしないと決めていた。瓜二つだからと言って、彼女と重ねてしまうのは君に悪いしね。
………ごめん、辛い想い、させてしまったよね?」
「………そういう事ですか。」
「え?」
「時々幹比古さん、私に話しかける時に口を噤む事がありますし、私を見て挙動不審になる事もありましたから。もしかして何か記憶が思い出してきたのではないかと考えていたのですけど、勘違いだったんですね。」
「そ、それは…」
「よかったです。幹比古さん、記憶戻っていたんですね。先程の殿方ともお友達のようですし、”美月”…という方とも逢えるといいですね。」
笑顔でそう語るミツの言葉の矢に幹比古は見えないダメージを浴びていく。最終的に受けるダメージも大きくなり、最後は撃沈されていた。
笑っていても、心の中では憤りや蔑みがあるのは分かりきっている。幹比古は更なる誤解を与えてしまったのかもと感じ、なんとか誤解を解こうと口を開こうとするが…。
「それではまだ宿の仕事も残っていますから、先に戻っていますね? 幹比古さんはそのまま店先を掃いておいてください。」
話はこれで終いだと態度で表し、中断していた仕事を続けてくださいと頼んでから、宿屋の中へと姿を消した。宿屋の前に一人だけ取り残された幹比古は、一見突き放されたように見えるこの状況に(実際に幹比古もそう思っている)、冷や汗が止まらずかなり焦って慌てだす。
そんな幹比古の様子をさっきの争いからずっと見下ろしていた影が観察するような目を向けていたのであった…。
まだミツにビンタされなかっただけでもよかったと思う事にしようよ…、幹比古。