十文字似の親分の発言によって、引き攣り気味の幹比古と昇天気味のミツがどう反応していいか困っていた。しかしそんなに間を空けることなく、会話が成立する。レオが間に入って、幹比古達に説明する事も兼て、十文字似の親分へ声を掛けるのだった。
「親分、そんな言い方だと誤解しまくりですって。」
「ん?俺のどこに誤解が生じると?」
「そんな上半身裸で『身体で男を見せようとしたのに』って言っても、本心は伝わらないって事です。実際に連れて行った方が分かると思いますよ。」
「そうか、なら話はあそこに連れて行ってからでいいか。君達も付いてきたまえ。」
「え?は、はい!」
すぐさまどこかへ行こうとする親分さんの後をついていきながら縁側沿いの廊下を歩く事になった幹比古とミツは、一緒に付いて行っているレオに小声で問いかける。
「レオ、どういう事だよ。どこに連れて行こうとしているんだい、十文字先輩は。」
「だから十文字さんじゃねぇ~って。…あ、まだ親分の名前言っていなかったっけか?
親分は………」
「俺の名は、十門克治郎(じゅうもんじかつじろう)だ。よろしく頼む。」
「………そう言う訳だからよ。」
「…僕の声、聞こえていたのかな?」
「多分?そうだろうぜ。朝議の時なんか、一番後ろで世間話していた奴らの会話の内容まで聞こえていたみたいでよ?『女に飢える暇があるなら俺が鍛錬をつけてやる。』って黙らせたからな~。」
「へぇ~、十文字先輩…じゃなかった、十門さんらしい?ね。」
自分で言っておきながら、未だに十文字の面影を重ねてしまう幹比古をレオは仕方ねぇ~よという顔で、励ます。なかなか区別するには時間がかかりそうだと自分に喝を入れる幹比古だが、それと同時に自分達がどこに連れて行かれそうになっているのか、今の会話で少しわかった気がした。そして幹比古の予想した通りの場所だったことが目的場所に着いてから判明した。
そこは、役人たちが己の剣の腕を磨くために日々鍛錬する道場だった。道着と袴を身に付けたかなりの男達が互いに稽古の相手をし、汗を掻きながら打ちこみを重ねていた。
「ここが俺達の稽古場だ。最近は江戸も物騒になりつつある。民を守るためにも我々が強くなければいけないのだ。」
「十門さんもここで稽古をしていたんですね?僕たちのためにわざわざ足を運んでくださりありがとうございます。」
「俺の事は親分と呼んでくれ。皆からもそう呼ばれているのでな。それよりもレオ。そろそろいいか?」
「俺はいつでもいいすよ。ちょうど俺も暴れたいと思ってたんで。」
「あくまで稽古だ。…それで君の名はまだ聞いていなかったな?」
「はい、吉田幹比古と申します。」
「そうか、では幹比古! お前も稽古に参加しろ。お前の中の”漢”を見てやる!」
(………やっぱりか。)
ここに連れて来られてからそうなるのではないかとは思っていたが、実際に熱く語られながら言われると、体力を絞り取られるくらい付き合わさせられるんだろうなと考えが浮かぶ。レオもやる気だし、どうしようかと思っていると、横からミツが話しかけてきた。
「幹比古さん、頑張ってくださいね。私、応援しています!」
満面の笑顔でそう言われてしまうと、引けない。
寧ろ頑張って、良い所を見せてやりたいという気持ちが沸き起こる。
「うん、ありがとう。頑張るよ。」
考えるより先、稽古に参加する事に了承してしまった幹比古だったが、本人もやる気に満ちていた。そんな幹比古を見て、レオが「上手くいった」と思ったのは、レオの心の中だけに留められる。
こうして幹比古は、”漢の世界”とも言える熱気にあふれている道場内に一歩足を踏み入れたのであった。
十文字にそっくりな親分は、十門克治郎といいます。彼の性格は更に加速していく事になるでしょう。