十文字にそっくりな奉行所を仕切る”親分”こと、十門克治郎に促され、まさに稽古中の御用人達と共に県の稽古を始めた幹比古は、稽古を始めて一時間も経たないうちから御用人達から只者ではないという印象を与えていた。
剣の稽古と言っても、実際に仲間を斬り捨てるわけにはいかないから、竹刀での稽古だが、幹比古は少し違った。竹刀なら実戦だと刀になる。リーチも長いから攻撃範囲も大きくなる。しかし幹比古の場合、竹刀ではなく竹刀の衝撃でも耐えうる丈夫な木の棒だった。長さなら指先から肘までの長さで、ちょうど小刀くらいの大きさだと言えば分るだろう。その小刀サイズの木の棒を使って、幹比古は稽古に参加していた。
ただこれを使って稽古をしているのは幹比古しかいない。他は全員竹刀で稽古している。無論幹比古の相手をしている御用人も、そしてレオも。レオは現状魔法が使用できないため、若干不満が残るが拳での戦闘は控え、エリカに扱かれた剣術を使った技を駆使して、竹刀で闘っていた。拳での戦闘スタイルはレオの最も得意なもので、本来の闘い方だと自負している。しかしそれが可能なのは、一番得意な硬化魔法をその身に発動し、鉄の身体のようになった状態になって初めて戦えるものだ。先程も指摘したが、魔法が使用できない今の状態では、拳での戦い方は相手が剣や鉄砲での攻撃の場合、不利になる。自ら危険に突っ込んでいくようなものだからだ。無謀だと言う事はレオ自身も理解している。そこまで頭が回らないほど愚かではない。意外に思うかもしれないがレオは知力がある。ただの突っ込み馬鹿だと愚痴られるほどの単純ではない。
だから、奉行所での稽古では、剣での打ちこみ稽古を行っているのであった。レオがしっかりとした練習用の竹刀で戦っているのに、幹比古は木の棒で戦っているのは差別的ではないかと捉えるかもしれない。
しかし、当の本人である幹比古は、そんな不満を口にも出していないし、表情にも出していない。今浮かべている表情は真剣に相手と向き合う逞しいものだ。そう、この結果になっているのは幹比古が自分から望んだ事だからだ。
古式魔法師である幹比古は、幼い頃から神童と呼ばれるだけあって、古式魔法に優れた一族の中でも卓越した存在だった。しかし、あの時の儀式以来、魔法が思うように使えなくなり、それを補うために武術にも力をこれまで以上に打ち込んできた。お蔭で身を護るためだけなら自信があると言えるくらいにはなった。古式魔法は隠密性が高い上に強い効果を与えるが、発動時間が現代魔法に比べて遅く、先に相手に魔法を行使され、敗れてしまうというデメリットがある。そのため、古式魔法師は相手の攻撃に瞬時に反応できない事が難となっている。幹比古は、これを打開するために護身術を身に付けたのだ。その際一番自分に合った武器が、小刀だった。だからこそ木の棒での稽古を自らお願いしたのだった。
十門は本来ならもっとちゃんとしたもので、稽古に参加してもらいたかったが、あいにく幹比古が求める練習用の小刀がなかったため、急遽用意した木の棒を渡した。申し訳ない気もしていたが、幹比古の稽古の様子を見ているうちにそれが吹き飛んでいった。
(こいつは面白い…。良い奴がいるな…。)
微笑を軽く浮かべ、幹比古とレオの稽古を様子見しながら、他の稽古している者達を扱きに道場内を回りだす。
…と言いながら、幹比古とレオについて語っただけでここまで行ってしまった…。