でも、原作ではヘタレだからな~…。
公共の場で爆発した将輝は、自分が理性を欠いていたことに気付き、慌てて身だしなみを整え、咳払いする。
達也がいるという事は、深雪が来ている=先ほどの不始末を見られてしまった…と解釈し、羞恥に浸りながら、深雪の姿を探し、せめて謝っておこうとした。
しかし、先ほどの尋常じゃない取り乱し方をしたため、先ほどまで将輝を取り囲んでいた少女達は、「感情が高ぶりやすい、短気な男の子」と位置付けたらしく、熱烈なほどのアタックが冷たい視線で見られ、広場から散っていく。
それを将輝は疎いのか、慣れているのか、少女たちの温度差の激しい気分の沈み具合をものともしていない。
…いや、単に別の興味に気を捉えているからか。もちろんその興味がさすものは、深雪だが。
達也は、将輝がきょろきょろと辺りを見回して探しているのは知っていたが、別に聞かれてもいないので、ほっておいた。それよりも、少女達の態度の急激な変化にある意味で感心していた。
(まるで『氷炎地獄(インフェルノ)』だな…。
魔法ではなく、人の感情だけでここまで真逆を表現するとは…。)
「おい。」
感心していたのもつかの間、すぐに興味が尽きたのと同時に、将輝から声がかけられる。
「み、司波さんがいないが? どこかに行っているのか?」
「ああ、そのことか。いや、今日は深雪は来ないぞ。」
「…………は? なんだって。」
「だから深雪は来ないと言っている。 …一条、まだ耳が完治していないのか?」
「!! そういう意味で尋ねたわけじゃない! そもそも去年の事を穿り返すな!!」
去年の九校戦で、三高の優勝と確信していた『モノリス・コード』の決勝戦…。
その時に、達也を意識していたために、達也の作戦にまんまと嵌り、耳のすぐ傍で、振動系単一魔法の音波の増幅で、鼓膜を刺激され、三半規管が麻痺し、倒された。あの時の悔しさは今まで味わったことがないくらいだった。
それからは、更に体力を鍛えた始めたし、相棒のジョージの助言も受け、奇策を使われた際の対応力を身に着けるようになっていた。
それを今ここで穿り返されて、気分がいい訳がない。
しかし、またこんなに人通りが多いところで、同じことを繰り返すほど落ちぶれていない。将輝は、胸に募る悔しさを仕舞う。
「…では、司波さんは何処か具合が悪いのか?」
話を繰り出した言葉がこれか?…と、レオと幹比古が訝しく思う。その表情を見て、自分が彼らと何かかみ合っていないことに気付く。
「なんだ、俺はなにか間違ったことを言ったか?」
「………今日は俺たち4人での外出だ。元から深雪が来る話はない。」
「そんな馬鹿な!! だって…、電話でお前が…」
「俺は一言も、深雪も行くとは言っていないが?」
「……………」
達也の言葉を聞きあの時の電話の事を思い起こしていく。
そして達也の言うとおり、深雪が一緒に来るとは言っていなかったことを思い出した。
(そうか…。
俺は、あの時、電話の無効から美しい…、鳥の歌声のような女神の笑い声を聞いて、そう勘違いしたのか…!!
俺とした事か…!!
あまりにも浮かれすぎてしまって、思い込みしてしまった!!
くそっ!!こいつに一杯食わされた!!)
自分の失態に気付き、一気に血の気が引いていく。
「どうやら、お前の勘違いだったという事に気付いたみたいだな。」
「……ああ、そのようだ。すまない。」
本当は達也に謝りたくはなかったが、ここで認めないのは、一条の人間として恥ずかしい行為だと思い、ここは自分の非を認めることにした。
もし、この場に一条家当主、一条剛毅がいたなら、息子の尻を蹴って、一層強めに叱咤しただろう。「ここで男を見せろ!!」と喝入れたかもしれない。
だが、こうなる事は既に昨日の段階で達也は予想…、作戦を立てていた。
将輝は、普通に誘っても、何かに理由をつけて、来ないと踏んでいた。自分からかければ、なおさらだ。
そこで、深雪に協力してもらい、電話の奥で、深雪の存在を匂わせ、明日は深雪も行く…とも取れる台詞を出してもらったのだ。
おかげで、将輝を誘う事に成功した。
達也は、深雪への褒美に何か買って帰ろうと、何をプレゼントするか、考え始めるのだった。
学校で見せる、将輝のリーダー格を感じさせる物言いとは違い、達也にいいようにからかわれているのを見て、レオと幹比古は自分達と変わりない普通の少年に見えてきて、妙に親近感が湧いてきた。
最初の出会いは、九校戦だったが、それからは今年の京都での論文コンペの会場視察、今回の一高での転校(二人はこっちの方がじっくり来るからそう言っている)で話すようになり、将輝の人となりを理解してきていた。
しかし、やはり達也への対抗心と深雪への恋煩いを隠そうともしない様子に、一高で再会した時は、わざわざこんな場所までやってきて、友達である達也と深雪の仲を壊そうとするのかと怪訝にさえ思った。だが、達也が気にしないそぶりを見せたため、本人が気にしないのであれば、自分達がとやかく言うべきではないと納得し、昼食も一緒に食べるようになった。
まだ打ち解けていないかもしれないが、こうして遊んで、もっと一条の誰も見た事がない素顔を見てみたいと思うレオと幹比古だった。
ただし、ここで興味が終わらないのが、レオの性分か。
謝ったものの、達也に物凄い対抗心という名の炎を湧き上がらせている将輝と、それを無表情で見返している達也との睨み合いを、去年の九校戦、深雪がアイス・ピラーズ・ブレイクで披露した魔法、『氷炎地獄(インフェルノ)』みたいだなと思いながら、(先程の達也と同じ考えをしていたとは知らずに。当たり前だ)二人に近づいていくレオ。
「それじゃ、みんな揃ったわけだしよ!行こうぜ!!」
「ああ、そうしよう。……で、どこに行くというんだ?」
「そう言えば、俺も聞いていなかったな。まあ、レオに任せるよ。」
「ぼ、僕も聞いていないよ。」
「行ってみればわかるって!!
楽しいぜ!! きっと盛り上がるに決まってるからな!!」
「なら、問題はないな。」
「ちょ、達也。 それってどういう意味だよ。」
「いや、これだけ盛り上がっているレオなら、大体決まって……」
「おい、達也!! 分かっていても言うなよ!! 」
「………分かった。すまない。」
「悪いな~! じゃ、行くぜ!!
一条も今日は目いっぱい遊ぼうぜ!!」
「あ、ああ。 此方こそよろしく頼む。」
「そんなに固くなるなよ。 俺は一条と男の闘いをしてみたかったんだ。今からでもぞくぞくして、血が騒ぐぜ!!」
「あまりはしゃぎ過ぎるなよ、レオ。」
レオの『男の闘い』と聞いて、この近くに魔法試合ができる所でもあるのか?と訝しく思う将輝。
裸になって、拳での戦闘にでもなる気か…!!
…とズレた妄想をする。
だが、それもまた勘違いだったと気づくのは、目的地に着いてから。
またもや勘違いをしていたと気づいた将輝は、一回頭を強打したら元に戻るかとも考えるほど、感じなくてもいい羞恥を抱くのだった。
将輝、振り回されっぱなしだな。
まぁ、がんばれ!! 学校では、十師族らしくしないといけない重圧があるから、気分転換として、気遣ってくれているのさ!…たぶん。