「そうだな、ここまでの我らの試しにも応えてくれた。俺もそれに応えるのが礼儀だろう。」
幹比古の遠慮はいらないという決意を受け取り、十門親分は隠していた事実を告げ始める。
「江戸中の豪商やそれなりにお金を持ち合わせている屋敷を狙い、窃盗が立て続けに起きている事は言ったな。」
「ええ、一刻も早く捕まえたいと。しかし妙だと思いました。」
「妙、と思ったのはなぜだ?」
「はい、その窃盗は……下手人は狙う標的をお金を持っている所に絞り込んでいる。それなら、こちらも次に狙われそうな所を目星付けて、そこを見張ったり、直接その標的になりそうな店や屋敷に忠告するなり、何か対策を取っていれば、下手人を追いこむ事が出来るはずです。十門親分がそれを考えなかったということは無いと思います。恐らくだと思いますが、既に実行しているのではないでしょうか?」
「……………」
「だったら余計不思議に思ったんです。今日の稽古を見たり、稽古相手になっていただいた時、皆さんはやはりかなり強かったです。もし下手人達と遭遇したとしても捕まえる事が出来たのではないかと、今のお話を聞く限りでですがそう思いました。
…ですが、捕まえる事が出来ていない現状の上で、一宿屋の居候である僕にお願いしてこられました。それが腑に落ちませんし、妙だと。」
「……そうだな、江戸に住む一人の民である君に今扱っている奉行所の最重要案件を話す事はご法度であり、許される事ではない。…本来ならな。」
十門親分の言葉に続くように服部たちがその先を話し出す。
「しかしお前自身が罪に問われることは無い。もちろん親分もだ。」
「ま、この部屋に入ってからの今までの話もこれからの話もここにいる者だけの公然の秘密だって事だよ。吉田。」
「つまり裏稼業って事だな。」
「お前達、話を進め過ぎだ。」
「「「申し訳ありません、親分っ!!!」」」
三人揃って頭を下げる姿勢は、息が合い過ぎていて、幹比古は笑いが込み上げてきたが、真面目な話をしている最中だという事を自分に意識させ、何とか不発で済んだ。
十門親分の方は、順序を通り過ぎて話し過ぎてしまった部下達を制し、今度は自分で話す事に決めた。ため息を吐くが、部下達に呆れているのではなく、ズルズルと引き伸ばしていた案件の内容をついに話す決心への意気込みとしてため息を吐いたのであった。
そして、威厳溢れる態度で幹比古に話しかける。
「すまないが、吉田にはこれから過酷な頼みをする。そのためにもその理由も話すとしよう。だがその前にもう一度だけ頼む。…あの卑劣な窃盗集団を捕える事に協力してくれ。」
大きく握りこめられた拳が畳にたたき込められる。その叩き込まれた拳がある畳は、どれだけ力を込めていたか分かるほど深くめりこんでいた。重量感あふれる拳が放つ圧迫感を感じるくらい十門親分が今回の事でどれだけの思いを抱いているかを言葉にしなくても分かるくらい、物語っていた。
十文字は次期当主…いやもう当主なんだからこれはまずいか?
(大丈夫だよ、だってこれは夢だから!!)
……ならいいか。♥
((いいのか、それで?))