~TAKE YOUR HEART~   作:10祁宮

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カッコの使い分けが辛い……



Turning Point/2

「おいジョーカー! いきなり何すんだよ! 危ねぇだろうが!」

 

文句を言う金髪ギャングの少年(スカル)を気にもとめず、銃を取り出すジョーカー。

そして今にも引き金を引きそうな認知上の明智に対して、前方に飛び込みながらまず3発、そして受身をとり立ち上がりながらもう3発、と流れるように撃ちこんだ。

 

「うぐゥゥッッッッ!」

 

その銃弾は的確に両手と両脚を撃ち抜き、たまらず認知上の明智は崩れおちる。

 

その様子に油断も見せず、ジョーカーは次々と指示を出していく。

 

「パンサー! 合図と同時に〈テンタラフー〉を使え!」

 

「えっ、あ、あたし!? わ、わかった!」

 

「ノワールは皆に〈テトラカーン〉と〈マカラカーン〉、フォックスとクイーンはそれぞれ〈マハスクカジャ〉と〈マハラクカジャ〉!」

 

「は、はい、わかりました!」

 

「…………承知!」

 

「いきなりすぎるわよ……了解!」

 

豹の面をつけた少女(パンサー)女怪盗姿の少女(ノワール)と、和装の少年(フォックス)ライダースーツの少女(クイーン)は咄嗟に返事をする。

 

「ナビ! お前は出来るだけ広い道を探しながら出口まで誘導しろ! モナ! 車でいけそうな場所はお前が皆を運べ!」

 

「オッケー、任しとけ!」

 

「おう、わかったッ!」

 

打てば響くように返事をするゴーグル少女(ナビ)二本足で立つ猫(モナ)

 

「って、オイ、ジョーカー! 無視すんなよ!」

 

「スカル、この中で一番力があるのはお前だ。モナの車が使えない場所はお前が明智を背負え!」

 

「お……おう、わかった」

 

そしてスカルも鋭い指示に気勢を削がれる。しかし、次のジョーカーの言葉を聞いて驚愕することとなる。

 

「俺が殿(しんがり)を務める。お前たちは一足先に明智を連れて脱出しろ」

 

「ハアァッ!? 何言ってんだよジョーカー!! それじゃ結局、明智じゃなくお前が————」

 

さすがに許容しかねるとばかりに声を荒げるスカルだったが、

 

 

 

問題無い(、 、 、 、)

 

 

 

そう断言するジョーカーに口を閉ざした。そして一拍おいて彼に背をむけ、倒れていた明智を引っ張りあげる。

 

「…………わかった。先に行ってるからな」

 

「……ああ、頼んだぞ」

 

そこに息も絶え絶えな明智が口を挟む。

 

「ジョーカー、お前…………」

 

「明智、話は後で聞いてやる。それまで少し待っていろ」

 

「待てというのは、こちらの台詞だ! お前こそこれだけの数を相手に一人で——!」

 

「……【バフォメット】! 」

 

明智の言葉を遮り、ジョーカーはそう叫んだ。すると瞬時に【アラハバキ】が消え失せ、今度は額に炎を灯した黒山羊のような悪魔、【バフォメット】がその場に顕現する。続いてジョーカーは、自らの仮面を顔から引き剥がしながら叫ぶ。

 

 

 

「〈淀んだ空気〉!」

 

 

 

するとみるみるうちに【バフォメット】の口から見るからにおぞましい瘴気のようなものが立ち込め、ジョーカーと認知上の明智、シャドウ達を包み込む。

この瘴気は敵味方を問わず、吸いこんだ者の様々な状態異常への耐性を低下させるものだ。

 

「パンサー! 今だ!」

 

「了解! 来て、【カルメン】! 〈テンタラフー〉!」

 

パンサーの呼びかけに応じ出現した踊り子のような格好をした【カルメン】はその手に持つ扇を振る。

すると、無数の小さな光が瘴気に包まれたシャドウへとむかって一気に放たれた。その光が当たったシャドウ達は突然暴れはじめたり、中には自分のもつ金をばらまく者もいた。

暴れるシャドウ達は自分が何をしているかもわかっていないようで、そこらかしこでシャドウの同士討ちが起きはじめた。

 

しかし、その[混乱]を招く光に耐えるシャドウもそれなりの数が存在した。正気を保ったシャドウ達は猛りながら、ジョーカーやその仲間へむかって迫る。

それを待ちうけるジョーカーは再び仮面に手をやりながら唱える。

 

 

 

「〈闇夜の閃光〉ッ!」

 

 

 

今度は先ほどの【カルメン】が放ったものとは桁違いの量の光が【バフォメット】の両眼から放たれた。

そのあまりの眩しさに[混乱]しなかったシャドウたちも軒並み[目眩]を引き起こされ、右往左往しはじめる。

 

「さて、まずはこんなところか……」

 

少し肩の力を抜いたジョーカーはそこでようやく振り向いた。

 

「一人で戦うなら『ペルソナ』を使いわけられ、どんな相手にも対応できる俺が最適……そうだったよな、明智」

 

「…………」

 

「…………言いたいことが山ほどある、って顔だな……悪いな。さっきも言った通り、今は聞いてやれない」

 

「お前と、いうやつは………………」

 

険しい表情をした明智に苦笑するジョーカーは何気なく首に手をやり——

そのままスッ、と仮面に手をかける。

 

「ジョーカー、何をッ——」

 

「〈ドルミナー〉」

 

静かなその呟きとともに、明智に泡のようなものがまとわりつく。

その泡に触れた明智はガクッ、と全身を弛緩させ、

 

「[睡眠]中は多少体力が回復する……しばらくはそうして眠っていろ」

 

崩れおちそうになる体をスカルに支えられる。

既にその目は閉じられ、意識もない。

 

「それじゃあ、頼んだぞスカル。それとパンサー。そいつが途中で起きたらお前の〈ドルミナー〉を使ってやってくれ。少なくとも脱出するまではそいつを休ませてやれ」

 

「あいよ!」

 

「ええ!」

 

威勢よく返事する二人に満足そうな頷きを返したジョーカーは、コートを翻しシャドウ達へと歩みはじめる。

 

スカルとパンサーは脇目も振らず、そこからだいぶ離れた扉の近くで、こちらを待っている仲間たちのもとへと走りだした。

 

二人が仲間たちと合流し、皆が一度だけジョーカーの方を振り向いた時、既に彼の目前には[混乱]や[目眩]から回復した敵が雲霞の如く群がっていた。

それを見た全員がジョーカーに何かを言おうとしたが……誰もがその言葉を呑み込み、黙ってその場を走り去った。

 

 

 

 

 

「…………さて、と」

 

 

 

 

 

仲間が誰もいなくなった後、たった一言そう呟き、ジョーカーは自分の武器である大型のナイフを握りしめた。

それは膨大な数の怪物を相手どるにはあまりに頼りなかった。しかしそれでも、彼の目に諦めの色は一片たりとも存在しなかった。

 

「はっ 、馬鹿が……仲間を庇って英雄気取りか!? 滑稽すぎて笑えるな! 彼我の戦力差もわからないか!」

 

ようやく立ち上がった認知上の明智はそう罵倒しながら嘲笑った。その銃を手で弄びながらジョーカーを睨む。

 

「たかが人間一人がこのパレス全てを敵に回して、生きていられるとでも思っているのか!? お前がたとえどれだけ抗おうと、こちらの戦力が途切れることはない! 対してお前は消耗する一方! 誰がどう考えても貴様が生きて帰ることなどできやしない!!」

 

勝ち誇ったように叫ぶ認知上の明智に対してジョーカーは、

 

「……………………………フンッ」

 

と、鼻で笑いクイクイッ、と左手で挑発した。

 

「————!!!!」

 

ブチッ、と何かが切れるような錯覚を覚えながら、激昂した認知上の明智は反射的に銃の引き金を引いた。

 

パンッ——

 

風船が割れるような音を立てて発射されたその銃弾は寸分違わずジョーカーを貫く軌道を描き飛翔する。

 

咄嗟のことにまったく動けないままのジョーカー。それを見て口元を大きく歪める認知上の明智。

引き伸ばされた時間の中で二人の視線が交錯し、再び戻っていく。

 

勝った。

 

認知上の明智はそう確信した。

 

そして少し後悔する。

 

もっといたぶってから殺すべきだった。衝動的に撃ってしまったが、コイツが無様に命乞いをするのはさぞ、見ものだったろうに…………

せめて、呆気なく死ぬコイツの顔を目に焼き付けてやろう。

 

そう思い、まさに銃弾が脳天を貫こうとする瞬間のジョーカーを凝視し続け——

 

「—————————ァ」

 

次の瞬間、自らの胸に軽い衝撃を感じた。見下ろすとそこには小さい穴が空いていた。

理解が追いつかないその光景に疑問を抱くことすらできず、力の入らない自分の手を、ノロノロとその穴へともっていこうとし。

 

 

 

バタリ、と倒れた。

 

 

 

その体が動くことは二度となかった。

 

 

 

倒れ伏した認知上の明智を冷静に見ながらジョーカーは独白した。

 

「銃を使ってくるのが最初からわかってるんだ………………対策くらい、誰だってするだろ」

 

そしてポケットに手を突っ込む。

そのポケットには一つだけあるものが入っていた。

 

「〈フィジカル軟膏〉…………明智との戦いで多用して、残り最後の一個もこれで無くなってしまったが……まあ、いいか。使いどころとしては上出来だ」

 

使用すると一度に限り、物理的な攻撃の全てを跳ね返す。それが〈フィジカル軟膏〉である。絶大な効果を発揮する反面、入手困難で貴重な道具でもある。

 

ジョーカーは先ほど本物の明智と話をしている間、ポケットに入れたままだった〈フィジカル軟膏〉に気付き、保険として使用していた。

 

それに気付かず[銃撃]という物理的な攻撃手段をとった認知上の明智はその銃弾をそのまま反射され撃ちぬかれた、というわけである。

 

とはいえこの手段も意図していたわけではない。

 

(本当はこの【バフォメット】を完全な盾として用意した【アラハバキ】に変えて、隙を見て攻撃しようと思っていたんだけどな……)

 

(その間に攻撃を受けることを考えての保険だったわけだが……まさか、あんなに簡単に挑発に乗ってくるとは予想外だったな。結果的にはよかったものの、さすがに焦った)

 

一度しか攻撃を反射できない〈フィジカル軟膏〉よりも、物理的な攻撃を常に反射し続ける【アラハバキ】を利用するつもりだった。

更にこの【アラハバキ】は文字通り、あらゆる攻撃を無効化する(、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、)。普通の【アラハバキ】には不可能な、まさに完全な盾。それを成し遂げるにはかなりの苦労を——————

 

(いや、今はそんなことはいいか……)

 

無駄に回想に入ろうとする自分を戒めながら、彼は大きく深呼吸した。

 

 

 

「【アラハバキ】」

 

 

 

【バフォメット】が消え失せ、【アラハバキ】がまた現れる。

それをきっかけに、シャドウ達も雄叫びを上げてジョーカーへと殺到する。

 

ジョーカーも一歩、二歩と歩き始め、次第にその速度は上がり、ついには風のように疾駆する。

 

殺到するシャドウと駆けるジョーカーと追従する【アラハバキ】。

広がっていた距離はみるみるうちに縮まり、零へと近づいていき————

 

 

 

 

地獄の蓋を開いたような大乱戦が始まった。

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