~TAKE YOUR HEART~   作:10祁宮

7 / 9
自炊系男子明智と適当料理描写
主人公の名前はコミカライズ準拠です
ほとんど飯関連……どうしてこうなった


Turning Point/7

すっかり明るくなった外から部屋に日の光が差し込んでいる。

静寂の中で眠っている少年は身じろぎする。

そして、

 

「…………ん……」

 

目を覚ました少年——来栖暁(くるすあきら)——はのろのろと上体を起こした。

体にまとわりつくような眠気は頭を振って払いのけ、目をこする。

そのうちに少しずつはっきりしてきた頭が回りはじめた。

 

(……………ここは…………)

 

見覚えのない部屋で自分が寝ていたことを知り、首をかしげる。

落ち着いた色調で統一された壁紙や家具。

自分が腰掛けているのも淡いブラウンのソファだ。

何故こんな場所に自分は寝ていたのだろうか。

 

とにかく起きなければ。

そう思った彼が足を床につけ、立ちあがろうとした瞬間。

目の前が黒く染まるような強い立ち眩みを感じた。

たまらずよろけて尻もちをつくように座りこむ。さらにその動作の拍子に全身にビキリと走った鈍痛に呻き声が漏れた。

 

その声を出したことによって再び走る痛みに体が強張り、体が強張ったと同時にまた痛みがやってくる。

声も出せずにビクビクと悶絶する彼をいつの間にかそばに立っていた明智は呆れた顔で見下ろしていた。

 

「ようやく起きたかと思えば、お前はいったい何をしているんだ……」

 

「……………………き、筋肉(、 、)()……ウッ……!」

 

返事をし、なおも引き攣ったように小刻みに震え続ける少年を、呆れを通り越して冷ややかな半眼で明智は見ていた。

 

 

 

暁の筋肉痛が徐々に和らぎほとんど無くなるまではしばしの時間を要した。

その頃には彼は息も絶え絶えにうつ伏せで床に倒れていた。

その様子をもはや見ることすら無く明智は一人でキッチンに立ち、包丁を握っていた。

 

黙々と玉ねぎをみじん切りにし、先に切って横においてあったニンニクや白菜、人参と一緒に鍋に放り込む。

鍋には既に水が張られている。

棚から取り出した和風だしのキューブを2、3個つまんで無造作に鍋に落とし、塩コショウを数回振ってIHコンロの電源を入れる。

 

冷蔵庫からはレトルトのハンバーグを出してから外袋を破き、電子レンジに入れて温める時間を設定。

電子レンジを待つ間にリビングのテーブルにコップやフォーク等の食器を並べる。

 

一通りの手順を終えた彼はそこで暁の方を見る。

 

「…………おい。自分で立てるか?」

 

「…………大丈夫、だ……」

 

荒い呼吸で返事をした暁はゆっくり立ち上がる。

それを確認して明智は目を逸らす。

 

「…………そうか」

 

食事の用意を再開する明智に暁は問う。

 

「モルガナは……いないのか?」

 

「…………あの猫なら外に出ている」

 

明智は手を止めずにそう答えた。

 

「あの男の手先が見張りをしている可能性があるから、この辺りの様子を見てくると言っていた」

 

「……そうか。ところで聞きたいんだが、ここは…………」

 

「……………………」

 

「明智? どうかしたか?」

 

暁は突然苦々しい顔で黙りこんだ明智の顔を怪訝そうに覗きこむ。

 

「………………だ」

 

「………………?」

 

ボソリと呟いた明智の言葉を聞き取れなかった暁は困惑した表情を浮かべる。

それを見た明智はますます顔を歪めて先ほどより大きな声で言う。

 

 

 

「俺の家だ」

 

「……………………は?」

 

 

 

理解しがたい言葉に困惑した表情を崩さないまま首を横に傾ける。

聞き間違いかと確認するような暁のその視線を真っ向から明智は睨みつける。

 

その反応から聞き間違いでもなんでもないとわかった暁は唖然となった。

 

「家? ……お前の? ……なんで?」

 

「お、お前のせいだろうが!」

 

悪意の無い純粋な暁の疑問に明智は思わず怒りをぶつける。

 

「パレスでお前がボロボロになって倒れた後、その姿をお前のとこのあの店主には見せられないから——なんて理由で俺がお前を押し付けられたんだぞ! それを肝心のお前がなんで、だと!? 知るか! むしろお前が俺に聞かせろ!! あいつらはなんなんだ!? 殺そうとしてきた相手をそんな易々と信用してどうする!! どうかしてんじゃねェのか!?」

 

「お、おう……そうか、悪い…………」

 

堰を切ったように不満を爆発させる明智に咄嗟に頭を下げる暁。

 

「そもそも! あんだけ自信ありげに一人で残っておいてなんだあのザマは! お前に負けた俺の立場が無いだろうが! 挙げ句の果てには馬鹿みたいに眠らされて運ばれるなんて屈辱まで……! 俺を道化にでもしたいのか!? アァ!?」

 

「いや、悪かったよ、本当に…………」

 

そこからも怒涛の勢いでまくしたてる明智と彼に謝り続ける暁。

そこに水を差すようにギュルルル……と間の抜けた音が響く。

音は暁の腹から鳴っていた。

 

「…………………………」

 

「これは、その……あー、うん……」

 

さすがに焦った暁は何か言い訳を探そうとするがどう考えても逃げ道は無い。

更なる罵声が飛んでくることを覚悟し、うな垂れた。

が、

 

「……チッ………………」

 

怒る気力も削がれた明智は小さく舌打ちをして苛立たしそうに頭を掻く。

そしてそれ以上の文句を吐くことなく中断していた作業に取り掛かった。

 

スープもハンバーグも明智が怒りを暁にぶつけている間に完成していた。

ハンバーグを皿に移し替え、スープも別の皿に掬いそれぞれをテーブルに置く。

 

手際の良いその流れをただ眺めていた暁を一瞥し、明智はまだ怒りの色が残る声を発した。

 

「…………おい、食べないのか」

 

「え?」

 

驚いた暁に再びイライラした様子で問う。

 

「腹が減ってるんじゃないのか? 不要なら不要とはっきり言え…………それとも俺の料理は食いたくないか? なら仕方な————」

 

「いや、待て。待ってくれ。……それは、俺の分なのか?」

 

「この流れでそれ以外の選択肢が有るとでも言うのか、お前は。先に言っておくがな、俺は猫に料理をしてやるような奇怪な真似をする気はないぞ?」

 

「い、いや、わかった。俺の分ということは良くわかった…………えーと、なら、うん。ありがたく頂戴する」

 

暁は素直にそう答えて食卓に座った。

それを見た明智はもう一度キッチンに戻り、丸パンを数個持ってきた。

テーブルにそれらを置いて、暁から離れた椅子を引いて座る。

 

「……いちいち米なんざ炊くのも面倒だからコレでも食ってろ。食えないだの嫌いだの、そんなことは俺の知ったことじゃない」

 

「あ、ありがとう。大丈夫、パンも好きだから」

 

「……………………」

 

どうやら本当に自分のための食事らしいということに困惑しながらも暁はスープを啜る。

 

「……美味いな」

 

「……既製品のだしを使って最低限の味付けで体裁だけ整えただけのスープだ。こんなモン誰だって作れる」

 

明智は指で机をコツコツと叩きながらそう言った。

 

「いや、それでも凄いと思うぞ。俺が作れるものなんてせいぜいがコーヒーとカレーくらいだからな」

 

「…………なんだ、その組み合わせは」

 

「いや、これが意外にもマッチしてて美味しいんだよ……俺も東京に来てから知ったんだけどな」

 

「………………フン……」

 

思わず尋ねてしまったことを後悔するように明智は素っ気ない相槌をうつ。

その間も暁はかなりのペースでスープとハンバーグをパンと合わせて腹に詰め込んでいく。

やがて全ての皿が空になり暁は満足そうに一息ついた。

 

「ふぅ……美味かったよ。ご馳走様でした」

 

「…………皿くらいは自分で洗えよ」

 

「ああ、勿論だ。それくらいはさせてもらわないと俺も申し訳ない」

 

食器を重ねてシンクに運び、置いてあったスポンジと洗剤で洗い始める。

しばらくの間、水の流れる音と食器どうしがぶつかる小さな音だけが部屋に響いていた。

 

食器を洗い終えた暁は手の水を払いリビングに戻る。

黙って椅子に座っていた明智も、暁を見て組んでいた足を下ろした。

 

「……………………」

 

「……何から話すべきかわからないが。とりあえず、ありがとう。泊めてもらった上に、飯までご馳走になるとは」

 

「……今さらそんなことはどうでもいい」

 

「まあそう言わずに……さて、本当に何から話そうか…………言いたいことは色々ありすぎて一つに絞るのも難しいしな……」

 

悩ましげにそう言う暁。

 

 

 

「…………話をしてる間にまとまってくるかもしれないから、まずは昨日のことから話してもいいか? お前が知らなかったことを話すから、お前も俺が気絶してて知らないことを教えて欲しいんだが……」

 

「……それで構わない」

 

「ありがとう。それじゃあ、まずはお前を連れて皆が逃げた後の話からだが————」

 

 

 

そんな切り出しから暁は昨日の顛末を語り始めた。




半端になりそうだったのでキリのいいところで分割
あと、次回以降の更新は1日ごとにならない可能性があります
本編の方をもう一度進めようと思っているため、どうしてもそちらに時間が割かれるからです
大変申し訳ありません……
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