12才となったギュスターヴは、その胸に一つの想いを燻らせていた。
遅くなって申し訳ありません、色々ゴタゴタしていたもので。
だから石投げるのはやめちくり~(懇願)
―――アルビオン王国
「よく来てくれたね、ギュス」
「大袈裟だって、ウィルからの招待なら来ないわけにはいかないだろ?」
俺は今ラグドリアン湖で知り合った親友『ウィル』からの招待を受けて、彼の故郷であるアルビオン王国まで足を運び、彼の自室で互いの近況報告などしていた。
ウィルとラグドリアン湖で別れる際に「今度は是非アルビオンに来て欲しい」という旨の話は聞いていたが、まさかこんなに早くここに訪れることになるとは思っていなかった。
アルビオン王国とは広大な大地が空中に浮かんだ、所謂『浮遊大陸』と呼ばれる場所だ。
何故それほどの規模の大地が浮かんでいるのか詳しいことは未だ分かってはいないが、上空から一望できるその景観の美しさから『白の国』という別名で呼ばれるほど観光名所として親しまれており、各地の諸侯が旅行に行くといえばアルビオンに行くというのが一種の様式美となっているのだ。
「どうしたんだい、ギュス?」
「あぁ悪い、なんでもない。アルビオンに来るのは初めてだったから、ちょっと外の風景に目を奪われてただけだよ」
そんなことを考えていると、少々ボーっとしてた俺を不思議に思ったウィルが顔を覗き込みながら問いかけてくる。
俺はウィルからの問いかけに軽く謝り、鼻の頭を掻きながら口に出す。
「はは、アルビオンの景色は君の眼鏡に適ったようでなによりだよ。それだけでも君に来てもらった甲斐があった」
そうウィルは笑いながら言い、自室に備え付けられた椅子の背もたれに体を預ける。
実際このアルビオンの景色は素晴らしいものだ。
アルビオンに来るまでの道中に乗った飛行船から見えた景観も圧巻の一言だったが、ウィルの部屋から見える景色もそれとは違った風情を感じ取れる。
今まで自分が見たことがないものを見ることができた。
それだけでもここに来られてよかったと思えるほどだ。
少しの間ウィルと語り合っていると、ウィルがおもむろに戸棚に手を伸ばして一本のボトルを取り出した。
「ところでギュス。君は酒は飲めるかい? 実はタルブのいいやつが手に入ったんだが…」
「そりゃいいな。もちろん飲めるさ、それじゃご馳走になろうかな」
「決まりだね、それじゃあ何か軽く摘めるものを持ってこさせよう」
「そうだな」
ウィルは召使いを呼ぶためのベルを手元に引き寄せて、涼やかな音のそれを鳴らす。
その音を聞いた召使いは用向きを伺うために俺たちがいる部屋の扉を軽くノックし、ウィルから酒の肴になるものを持ってくるよう言いつけられる。
少しの間を置いて召使いが摘みを持ってきて、それを合図に俺とウィルは互いのグラスにワインを注ぐ。
「それでは、僕らの友情に―――乾杯。」
「あぁ、乾杯」
カチン……、と静かに互いのグラスを触れさせ、それを乾杯の音頭とする。
俺はグラスに顔を近づけて、一口含むようにワインを口にした。
「……うん、うまいな」
ウィルが出してくれたワインはタルブ産というだけのことはあり、最近酒を嗜むようになった俺でも判るくらいに味わい深い一品だった。
しばらくはウィルとワインに舌鼓みを打ちつつ会話を交わしていた。
ボトルの残りがあと僅かになろうとした時、ふと何か気になることでもあったのかウィルが俺に尋ねてきた。
「―――どうしたんだいギュス? 何か心配事でもあるのかい?」
「な、なんだよ、突然? 特に何もないけど……」
ウィルからの問いかけに俺は少し焦ったように返事を返す。
「そうかい? けれどもさっきから返答といえば生返事しか返さないし、ここに来た時からもそうだったが、今日の君はどこか上の空に見えるよ。まるで、何かに迷っているかのように……」
俺はウィルのその言葉を聞き、思わず閉口してしまった。
なぜなら……
―――ウィルの言うことはまったくの正解だったから。
「……うまく隠せてると思ってたんだけどなぁ、なんで判ったんだ……?」
「なんとなくだよ。様子がおかしかったのもそうだが、君が隠し事をしている時は鼻の頭を掻く癖があるとアンから聞いていたから、もしやと思ってね」
どうやら俺は自分で思っているほど隠し事がうまくないらしい、アンに癖が見抜かれているということは、この分だと父上達にもバレているだろう。
自分でも自覚出来ていなかった癖に心の中で溜息を吐いていると、ウィルが口を開く。
「……なぁ、ギュス」
「ん……?」
心配したような声で呼ぶウィルに何だ? と返事を返す。
「悩みがあるなら聞かせてくれないか? 僕は君の友だ、だからこそ相談に乗りたいんだ……」
「…………」
本心からそう言っているのだろう、ウィルから投げかけられた言葉に俺は心から嬉しいと思った。
しかし、
「―――悪い、今は言えない。それに、これは俺自身が答えを出さなきゃいけないから……」
「……そうか、わかったよ。ただ、君が話したくなったらその時は遠慮なく言ってくれ。いつでも力になるよ。」
「あぁ、悪いな。それと……ありがとう」
「なに、気にしなくていいさ」
俺たちは互いにそう言葉を交わし、軽く笑う。
そう、これは俺が自分で決めなければいけないことだ。
「……今日はもう宿に戻るわ、悪いなせっかく呼んでくれたのに」
「なんだ、部屋くらい用意するのに。いいのかい?」
このまま城に泊まっていけばいいというウィルからのありがたい申し出が出てくるが、
「そういうわけにもいかないよ。それに明日にはアルビオンを発たなきゃいけないから、なるべく船着場に近い場所にいなきゃいけないんだ」
「そうか、それなら仕方ないか……。そうだ! 次に君が来た時は何処かに案内するよ」
「あぁ、その時はよろしく頼むよ」
ウィルと再会の言葉を交わした俺はハヴィランド宮殿を後にし、馬車を拾いロンディニウムから離れる。
正直もう少しウィルと語っていたかったが、これ以上あいつと一緒にいたら余計な心配をかけてしまいそうだった。
そんなことは俺の望むことではなかった、だから俺は逃げるようにウィルの部屋を後にしたのだ。
(…あいつにそんなこと話せるわけないじゃねぇかよ……)
―――親友だからこそ話せない。
俺は心の中でそう独りごち、揺れる馬車の中で星空に目を向けながら、未だ決めかねている自分の心の内に自問自答していた。
・
・
・
・
・
―――シティオブサウスゴータ
「…………」
ロンディニウムを後にして馬車に揺られること1時間、宿に着いても先ほどのやり取りが頭に残ってしまって寝付けなかった俺は悶々とした感情に苛まれていた。
「……少し夜風に当たってくるか」
少し歩けば次第に眠気がやってくるだろうと考えた俺は、気分を紛らわすためにベッドから飛び起きて外に出ることにした。
だが、いくら歩けど眠気が訪れることはなく、気がつけばいつの間にかサウスゴータ付近の森の中を歩いていた。
誰かの話し声さえなく、風に吹かれる木の葉の擦れる音、虫の鳴く声、そして月と星の光だけに支配された空間。
そんな場所に俺は少しの安堵と僅かな寂しさを覚えても歩き続けた。
そうして10分ほど歩いただろうか、茂みから抜け出した俺は月の光に照らされた小さな泉がある開けた場所に辿り着いた。
そこは泉が月の光を反射し、水場ということで蛍が集まる夜だというのに優しい光に彩られた幻想的な空間だった。
この場の清廉な空気に少し呆けていたが、ここなら考え事をするには丁度いいと思い、近くに座るのに手頃な石を見つけたのでそこに腰を下ろすことにする。
少しの間何をするでもなく考え事に耽っていたが、そう簡単に解決するわけもなく思考の海に嵌ってしまっていた意識を一旦打ち切り、周りを見てみることにする。
上空に煌く満天の星空、柔らかな光を灯しながら飛び回る蛍、緑に囲まれた透き通った泉、どれもが心を癒してくれるものばかりだった。
(……屋敷に引っ込んでたらこんな綺麗なものは見られなかったな)
―――屋敷にいるだけでは見られなかったであろう景色。
それを目の前にした俺は結局そこに行き着いてしまう思考に自笑してしまう。
そのまま俺は数分の間夜空を見上げたままだったが、いきなり背後から
『ガサッ』
という何かが茂みからこの場に現れる音が聞こえた。
「!?」
俺は咄嗟にそれが何であるのか確認するため、意識を切り替えて剣の柄に手を添えつつ後ろを振り向いた。
そして、そこにいたのは―――
「―――な……!?」
俺は目の前に現れた『存在』を認識したことによって驚愕の表情を浮かべてしまっていた。
歳の頃は俺と同じくらいだろうか、肌は透き通るように白く、金色に染まった髪は絹のように綺麗で、とても美しい顔立ちをしていた。
それだけなら俺もそこまで驚きはしなかっただろう。
そう……問題は別にあったのだ。
整った顔立ち……その左右にあるべきもの、耳が常人のそれとは違い、異様に長く発達していたのだ。
このことから連想させられる存在などただ一つ……!
「―――エ、エルフ……!?」
―――エルフとは、東方と呼ばれる砂漠地帯『サハラ』に住み、人類の天敵として恐れられる種族である。
彼らが何故それほどまでに恐れられているのか、その最も大きな理由はメイジのように杖を一切使わずに魔法を行使することが出来ることにある。
人類は彼らから『聖地』と呼ばれる土地を奪還することを至上の目的としており、歴史上でも幾度となく彼らに戦争を挑んでいる。
しかし、人類がエルフに勝利を収めることが出来たことなど片手で数える程しかなく、そのほとんどが彼らの膨大な魔力と先住魔法によって壊滅的な被害を与えられ、敗走を余儀なくされている。
故にエルフと戦う場合において、その力の差から有に10倍の戦力が必要だと言われているほどである―――。
(周りは森林、助けを呼べるような状況にはない、魔法も使えない、オマケに手元にある武器は剣一本、どうする……!?)
絶望的な状況とエルフの存在に震える手をなんとか動かし剣を抜き放つ。
目の前の相手と対峙した俺は、この状況をどう切り抜けるべきか考えを巡らせる。
逃げられるのならそうしたいが、相手は人類の天敵と呼ばれる存在だ。
そうやすやすと逃走を許してくれるはずはないだろうと腹を括る。
こいつと対峙して数秒しか経っていないのに背中が冷や汗でジットリと濡れるのがわかる、極度の緊張からか額からも一筋頬に沿って流れ落ち、地面に吸い込まれる。
(……なんだ? なんで何も行動を起こしてこないんだ?)
既に警戒態勢から臨戦態勢に構えている俺を尻目に、目の前のエルフは魔法を唱えてくるどころか、ただ怯えたように見つめてくるだけでこちらに対して何もしてこない。
それどころか、敵意というものが感じられないように見えた。
何かおかしいと思った俺は、剣を下ろしてエルフに話しかけようとした。
その時だった、
「……ぅ、うぅ、ごめんなさい……! お願いですから、許して下さいぃ……!」
突然その場に座り込んで泣き出してしまっていた。
いきなりのことだったので、それには流石に唖然としてしまい、ハッとした時にはなんとか泣き止ませようとあたふたしながら宥めてしまっていた……。
~十分後~
「……えっと、大丈夫か?」
「……はい。ごめんなさい、いきなり泣いちゃったりして……」
「いや、こっちもいきなり驚かすようなマネしちゃったから……。その、ごめんな……」
なんとかエルフの女の子を泣き止ませることに成功した俺は何故だか申し訳ない気持ちでいっぱいになり、
(やっぱ俺って女の涙にはとことん弱いんだなぁ……)
そう心の中で項垂れることしか出来なかったのであった。
そうしてさっきまで泣いていたエルフの女の子は、俺の隣にちょこんと座り俺と同じように泉を眺めていた。
特に話すことも見つからなかったので、二人共黙ってしまい本当にただ泉を眺めているだけだった。
そこで、俺はあることに気づいた。
(そういえば、まだ名前聞いてなかったっけか……)
そう、俺はまだ彼女の名前を聞いていなかったのだ。
まぁ、ただ単にそのタイミングが無かっただけなのだが……。
この短時間だけではあるが、一つ判ったことがある。
どうやら彼女は争いを好まない気弱な性格であるらしい、そのことから彼女は俺が思っているような危険な存在ではないと判った。
だから俺に剣を向けられてもただ怯えてしまっただけで、俺と同じく目の前の状況にパニックになってしまっていたのだろう。
何はともあれ、ここでそんな人と知り合ったのも何かの縁なのだろう、俺は彼女に名前を訪ねてみることにした。
「……あのさ、俺たちまだお互いの名前も言ってなかったよな? よかったら君の名前を教えてもらってもいいかな? 俺はギュスターヴって言うんだ、親しい友達からは『ギュス』って呼ばれてる。君はなんて名前なんだい?」
俺に突然話しかけられたことで完全に別の方に意識を割いていたエルフの少女は一瞬『ビクッ』という反応を示すが、すぐに俺に向き合って少しだけ戸惑うような仕草を見せたあとに小さな声で、
「……ティファニアです。えと、お父さん達には『テファ』って呼ばれてる……」
まだ警戒心は完全に解かれたわけではないが、それでも名前を明かしてくれる程度には心を許してもらえたようだ。
俺はそれに安堵し、少しだけ笑顔になる。
「そっか、ティファニアって言うのか。いい名前だな。よかったら俺もお父さん達と同じように『テファ』って呼んでもいいかい?」
とりあえず相手の愛称で呼ぶことで俺に対する不信感を少しでも和らげようと思い、このような提案をしてみる。
これを認めてくれれば彼女から話を聞くことも恐らく可能なのだが、という自分の打算的な考えに少し自己嫌悪していると、
「……うん、いいよ」
どうやら了承を得られるくらいには信用されていたようで、ホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとな、断られたらどうしようかと思ってたよ。あぁ、そうだ。俺のことはテファの好きに呼んでくれて構わないからな」
俺からその言葉を聞いたテファはどう呼ぼうか少し悩んでいたが、ようやく得心のいったものが見つかったのか恥ずかしそうにしながら俺に告げる。
「あのね、じゃぁ……―――『お兄ちゃん』って呼んでもいい?」
俺はテファが口にした呼び名に一瞬『ビシッ』と石のように固まってしまったが、すぐに我に返り何故そうなったのか問いただすべく彼女に質問する。
「な、なぁテファ……? なんで、そうなったんだ? あと、同じくらいに見えるけど、お前何才なんだ……?」
後頭部に大きく汗を垂らした俺からそう問われたテファは、軽く首を傾げて素直にその質問に答えてくれた。
「私? 12才だよ。それでね、私には血は継ってないけどお姉ちゃんがいるの。でもホントはお兄ちゃんも欲しくって、だからお兄ちゃん優しいからお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって。迷惑だった……?」
至極真っ当で純粋な返答に俺は何も返すことが出来ずにただ、
(俺って周りからそう見られてんのか……。頼りになるって言えば聞こえはいいけど、老けて見られてるって意味にも聞こえるよなぁ……。まぁ、アンみたいに年上から呼ばれるよりかは幾らかマシだけど……)
と、新たに発覚した現実と頭の中で虚しく戦っていることしか出来ずにいた。
その俺の様子に自分が悪いことをしてしまったと思ったテファはまたもや涙目になってしまい謝ろうとするが、それに気づいた俺は慌てて、
「ああ、違う違う! 別にテファが悪いことしたわけじゃないから、だから泣かないでくれ!」
また泣かれたらさらに心の中の何かが削がれてしまうという感覚に襲われた俺は、必死になってテファを宥める。
それが功を奏したのか、最早泣く一歩手前だった瞳からは涙は引っ込んでいた。
(俺の周りに居る女ってどうしてこう心臓に悪いんだ……)
完全にペースを握られてしまった少女を目の前にして、もう一人の女友達であるアンのことに思いを巡らせ、項垂れてる俺を他所にテファはクスクスと笑っていた。
「ふふ、ごめんねお兄ちゃん。私お父さんやお母さん、それにお姉ちゃん達以外とこんなにお喋りしたの初めてだったの、だから嬉しくって……」
そう言ったテファは本当に嬉しそうだった。
今までエルフということで彼女の周りには気軽に話せる相手が少なかったのだろう。
彼女とは境遇も立場も違うが、俺にはその気持ちが少しだけ理解できた気がした。
「……そっか。なら、テファにとって俺が初めての友達ってことだな。」
「え!?」
「なんだ、嫌だったか……?」
俺から『初めての友達』と言われたテファは意外そうな顔で驚き、それに「少し性急過ぎたか?」、とやらかしてしまったような感覚になる。
しかし、
「うぅん、そんなことない! けど、いいのお兄ちゃん? 私ハーフエルフだよ……?」
俺が友達だと言ったことは素直に喜んでくれているようだったが、彼女は自分がエルフであることに負い目を感じているようだった。
だが、そんなことは俺にとってはあまり関係無く、
「なんだ、そんなことか? 気にしなくていいんだよそんなの。俺はテファと友達になりたいからなるんだ。エルフだなんだなんてのは関係ないよ」
そう、そんなことは些細なことだ。
テファが実際に何かをしたなら話は別だが、彼女は心優しい普通の女の子だ。
例え大きな力を持っていようが、それを悪事に使わない限り誰が彼女のことを責められよう。
言葉が通じるのに相手のことを判ろうともせずに、エルフというだけで迫害しようとする奴らの方がよっぽど酷い―――
その時、俺は気がついた。
(そうか……。どうやら俺は、知らない間にテファに自分を重ねちまってたんだな……)
―――魔法が使えない。
それだけで一部の者を除いた人間から腫れ物扱いを受けた過去。
もうとっくに吹っ切れたと思っていたが、心の奥には確かな傷として残ってしまっていた。
だからこそ、目の前にいる少女にはそんな思いをさせたくないと思ったのだろう。
所詮は自己満足だと、しかしそれでも構わないと苦笑しながらテファから外してしまっていた視線を元に戻す。
そこにはなんと、
「うぇ!? テ、テファ!?」
「え……? あ、あれ? なんでだろ、悲しくないのに、なんで泣いちゃってるんだろ? 変だね私……」
目を見開いて涙に顔を濡らすテファの姿があった。
「なんで……? わた、うぅぅ~~~……!」
「…テファ……」
やはり彼女は俺と同じだったのだろう。
家族という確かな絆がある者たちは理解を示してくれるが、彼女を知らない他人はそうはいかない。
ウィルという友人と出会う前の俺がそうであったように、彼女もまた望んでいたのだろう。
心から理解を示してくれる友人という存在を。
ひたすら泣くテファを俺は何を言うでもなく、ただ胸を貸して泣き止むまで泣かせていた。
「―――落ち着いたか?」
「…うん、ごめんねお兄ちゃん。私、お兄ちゃんの前では泣いてばっかりだね……」
ようやく泣き止んだテファは赤く腫らした鼻を啜りながらみっともないところを見せたと謝罪をしてくる。
しかしそんなのはもう今更なわけで。
「別にいいさ。吐き出したいモンがあるならそうしたって構わないんだ。これは人生の先輩からのアドバイスだ」
「フフフ、なにそれ? 同い年なのに人生の先輩って……」
少しおどけた様に言う俺の冗談に笑って聞けるくらいに余裕が出来たテファに俺も釣られて笑顔になり、二人して互いに笑いあった。
そうしてその後は少しの間二人で語り合っていた。
「―――へぇ~、ここってテファのお気に入りの場所だったのか。」
「うん! 私の秘密の場所なんだよ!」
テファは俺の俺はテファの家族のことや自分のことをお互いに聞かせ合っていた。
俺には三人の姉妹がいることを聞かせるとテファは羨ましいと言い、テファが『マチルダ』という姉のことを俺に聞かせれば優しいなと思うと同時にエレオノール姉さんに劣らずおっかない人だなと言う。
そんな楽しい時間を過ごしていたが、俺はふと気になったことをテファに聞いてみることにした。
「はは、はぁ……なぁ、テファ。お前が現状に満足出来なかったり、今とは違う景色を見てみたいと思った時、お前ならどうする……?」
ウィルには結局話すことはなかったが、俺と似ているテファにならすんなり話すことが出来た。
これは自分で解決しなきゃいけないことだと散々言い聞かせてきたが、堂々巡りしてしまう思考に痺れを切らせてしまった俺は自分と似ている彼女ならどんな答えを出すのだろうと興味が出てしまった。
―――いや、答えはもう出ている、ただ、俺にそれを踏み出す勇気がないだけだ。
彼女も同じ答えを出すのならば、「俺も一歩を踏み出せるのではないか?」そう思っていた。
そうして彼女の言葉を待っていた俺だったが、彼女から聞かせられた言葉は、
「え? う~ん、そうだねぇ……。私はお父さんがいて、お母さんがいて、お姉ちゃんがいて、皆がいてくれるなら不満なんかないよ?……でも、それでも違う場所に行きたいって言うなら、旅に出ちゃうかも。……なんちゃって」
「!? ……フ、フフ、アッハッハッハッハ、ハッハッハッハッ!」
小さく舌を出しながら口にしたテファの言葉に俺は目を見開き、溜まっていたものを吐き出すかのように大声で笑ってしまった。
それにビックリしたようにテファは身をすくませたが、自分の答えを笑われたと勘違いしたのか、
「ひ、ひどいよお兄ちゃん! いきなり笑うなんてぇ!」
「あぁ、悪い悪い……。別にテファのことを笑ったわけじゃないんだ……」
プリプリと怒ったテファについ笑ってしまったがテファのことを笑ったわけではない謝罪する。
なにせ、
「はーあ……ありがとなテファ、おかげでようやく決められそうだ」
「決めるって、何を……?」
「あぁ、それはな―――」
ようやく落ち着いた俺に今の質問の意図を判り兼ねていたテファは当然のように聞いてくる。
それに答えるべくテファに応えようとするが、
「テファー! テファ、どこにいるんだ~い?!」
凛とした女性の声がテファの名前を呼ぶのが聞こえてきた。
それにテファは少し慌てたように、
「今の声……お姉ちゃんが迎えに来たんだ! ちょっと話し込みすぎたみたい……」
お姉ちゃんと言うと、さっき話題に出たマチルダのことだと俺は察した。
「……そっか。悪いな、長々付き合わせちゃって。迎えが来たなら行かなきゃな」
「う、うん……」
迎えが来たというのに中々行動に移そうとせずに、テファは頻りにこちらをチラチラと見てくる。
おそらく俺と別れることに後ろ髪を引かれているんだろう。
しかし、迎えが来たなら帰らなければならない、それを伝えるべくテファに優しく語りかける。
「……テファ。何も今生の別れってわけじゃないんだ、そのうちまた会えるさ。だから今は笑ってバイバイしよう」
「……うん、わかった。でもお兄ちゃん約束だよ? また会いに来てね?」
「あぁ、約束するよ」
まだ未練が残っている様子のテファに苦笑しつつ、俺は彼女との再会の約束をする。
そうして言い聞かせてようやくその場を離れようとする彼女に、
「またな、テファ!」
『また会おう』と最後に言葉を掛ける。
その言葉を聞き、テファは笑顔で振り返り、
「うん! またね、お兄ちゃん!」
俺もテファもお互いの姿が見えなくなるまで手を振っていたが、やがて完全に彼女の姿が見えなくなったことでその動きを止める。
そして俺も宿に帰ろうとその場を後にしようと踵を返そうとして気がついた。
泉に映る俺の顔がさっきとは比べようもないほど晴れていることに。
どうやらこの出会いで救われたのは彼女だけでなく、俺も同様だったようだ。
自分の顔にニヤついて妙な気分になりつつも彼女との出会いをくれた『二人だけの秘密の場所』に感謝し、今度こそ宿に戻るのだった。
・
・
・
・
・
―――ワイド
三日前アルビオンから戻ってきた俺は、『ある物』を完成させるためにワイドを訪れていた。
一番最初に作った剣が完成してからも、俺は親方から鍛冶技術を学んでいた。
その甲斐あってか、今では親方から「剣に関しての鍛造ならもう教えることはない」と太鼓判を貰う事が出来た。
そして今日、これから俺がやることのために必要になるであろう物を完成させるつもりだった。
「―――よし、完成だ……!」
工房中に立ち込める熱気によって顔から吹き出す汗を拭いながら、ようやく出来上がった自身の新たな武器を前に感慨に浸っていた。
そうしていると、店先から親方が工房に降りてきて、
「―――これはまた……。最初の剣も見事なモンでしたが、一層見事な剣に仕上がりましたな」
そう言う親方の視線の先には、柄を含めればその全長は1メイル以上はあるであろう一本の剣が鎮座していた。
俺が作っていた『ある物』とは、今しがた親方が口にした俺の『新しい剣』だったのだ。
「あぁ、ようやく現時点で満足いくものが出来た。これからはこの剣に恥じない剣士になれるよう精進していくつもりだよ」
「がっはっは! こりゃもう完全に弟子に追い抜かれてしまいましたな!」
親方は豪快に笑って俺を認めてくれるが、俺がここまで来られたのはこの人が鍛冶技術を惜しみなく教えてくれたおかげだ。
それについては、どんなに礼の言葉を述べても返しきれるものではないだろう。
だからこそ、今言わなければいけないと思った。
「……親方、おそらく俺はこれからしばらくここに来ることが出来なくなると思います。ですが、俺が親方から教えて頂いたことは絶対に忘れることはありません。…今まで、ご指導のほどありがとうございました! 親方から教わったことは俺にとって、人生で一番の宝物です」
頭を下げて述べる俺に親方は一瞬呆けたような表情になるが、そのすぐ後に如何にも照れくさそうに頭を掻きながら俺の方に向き直ってポツリと口を開く。
「…いいんですよ、ギュスターヴ様。あっしはそこまで畏まられるほど大層なことを教えたわけじゃありやせん。それに、ギュスターヴ様がここまで来れたのはご自身の努力あってのことでさぁ」
あくまで自分は大したことはしていないと親方は謙遜するが、そんなことはない。
親方がいてくれたからこそ俺は自分の新たな道を見つけることが出来たのだし、生涯の目標を持つことが出来たのだ。
「それでもですよ。俺は親方に本当に感謝してるんです。あなたは俺にとって鍛冶技術だけでなく、色々なことを教えてくれた心から尊敬している人生の師なんですから……」
俺からこれほどまでに敬われているとは思ってなかった親方は、顔を赤くして誤魔化すようにいつものようにただ豪快に笑い飛ばしていた。
俺もそれに釣られて大声で笑い、二人して笑っている俺たちを女将さんは微笑みながら見つめていた。
「―――じゃあ、俺はそろそろ屋敷に戻ります」
「わかりやした、道中お気を付けて下さい」
親方と女将さんに別れの挨拶を済ませた俺は工房から出て、数歩離れると今も俺を店先から見送ってくれている夫妻に向き直る。
そして、ふと後ろ腰に下げた新しい剣に触れて軽く目を瞑る、
(……本当に、お世話になりました)
心の中でこの四年間の思い出が詰まった、色々なことを学んだ場所とそれを教えてくれた師に深々と頭を下げ、それを最後に俺は工房を後にする。
・
・
・
・
・
―――ラ・ヴァリエール公爵邸
「―――さて、こんなもんかな……」
ワイドから戻った俺は、明日に備えて必要最低限の荷物だけをバッグに詰めて、簡単な荷造りをしていた。
何故荷造りなどをしているかと言うと、それは今から二日前まで遡る。
・
・
・
・
・
「父上、母上、実はお二人にお話があるんです」
修練場にて、いつものように訓練を終えた俺は決心がついた心の内を話すべく両親と向き合っていた。
いつになく真剣味を帯びた俺の表情に両親も表情を引き締めて俺に向き直る。
「……お前がそのような顔になる時は決まって重大な話だったな、言ってみなさい」
―――覚悟は出来てる、決意も固い、例え反対されようがもう揺らぐことはない。
軽く息を吸い、自分の心の内を伝えるべく俺は気を引き締める。
「―――父上、母上、お二人は反対なさるかもしれませんが、俺にこの屋敷を離れて旅に出ることを許して頂きたいのです」
「―――な!?」
俺からその言葉を聞き、父上は驚愕に目を見開き声にならない声をあげる。
母上は父上とは対照的に僅かに動揺してはいたようだが、ただ静かに俺の目を見つめていた。
「ならん! お前が剣を持つことは許しはしたが、次期当主であるお前がこの屋敷を離れるなど言語道断……! 多少の腕はあるがお前はまだ12才だ。そのようなことは認められん!!」
予想通り父上は俺が屋敷を離れることに反対の意思を示す。
しかし、俺も決して軽い気持ちで言い出したわけではない、確固たる決意の下に決めたことなのだ、
いくら反対されても自分の意思を曲げるわけにはいかない。
最早聞く耳持たんという態度の父上をなんとか説得しようと口を開きかけた時、
「―――ギュスターヴ、何故急に旅に出ようなどと考えたのですか?」
母上が横から俺に言葉を投げかけてくる。
「あなたも少し落ち着いて下さい。まずはそれを聞いてからでもよろしいのではないのですか?」
「う、むぅ……」
諭すように言う母上の言葉に父上も冷静さを取り戻し、改めて俺に真っ直ぐ向き合う。
「…話してくれますね? ギュスターヴ……」
母上は表面上は優しく、しかしその瞳は厳しく俺を見やって語りかけてくる。
俺はその瞳を真っ直ぐに見つめ返し、何一つ偽ることなく正直に自分の心を伝えるべく口を開く。
「……俺は、ただ純粋にここにいるだけじゃ見られない、今と違う景色を見てみたいんです。そして、自分に何が出来るのか、自分がどこまでやれるのか、自分を試してみたいんです。公爵家の嫡男としてではなく……『ギュスターヴ』という、一人の人間として」
―――言い切った。
俺は自分が間違ってるとも、父上が間違ってるとも思ってない。
だが、これは俺にとって絶対に譲れない想いだということだけはハッキリと声を大にして言うことができる。
俺からの言葉を聞いた母上は一言だけ、
「……そうですか」
と呟き、一度瞼を閉じて少しだけ考え込むような仕草を見せ、ゆっくりと目を開き俺に向き直る。
「―――判りました。あなたの決意は固いようですね、私は認めます。あなたの好きになさい」
「な!? 何を言っている、カリーヌ!?」
父上はまさか母上が認めるなどと思ってもみなかったようで、先程よりも明らかに動揺が見て取れた。
あくまで平静を装おうとしていたが、あまりに突然のことだったのでそれは俺も同じだった。
こんなにもすんなり母上が認めてくれるなんて、正直意外でしかなかった。
「考え直せ、カリーヌ! 旅などギュスターヴには早すぎる!」
「あら、この子が自分で言い出したことですわよ? 自分の子供の自主性を認めるのもまた親の勤めではありませんか。それによく言うでしょう? 『可愛い子には旅をさせろと』」
「しかしだな……!」
「あなた……ギュスターヴは自分のことは自分が一番良く解っているはずです。自分にとって必要だからこそ、そのような道を選んだのでしょう。ここは暖かく認めてあげることが、私達にも必要なことではないのですか?」
母上の有無を言わせぬ捲し立てに反論の余地がないと判断した父上は、渋々ながらも俺が旅に出ることを許可してくれた。
我が家の最終決定権はあくまでも父上にあったが、このように母上に言われてしまえばそれを引っくり返さなければならないことがあったのを忘れていた。
俺は両親のその様子を苦笑いで頬を掻きながら見ていると、母上は寄り添うように近づいてきて優しく抱きしめながら囁くように言葉にする。
「ギュスターヴ……前にも言いましたが、あなたが決めたのならば私が言うことは何もありません。ただ、一つだけ約束して頂戴……? 必ず元気な姿で無事に戻ってくること、いいですね……?」
「はい、母上。絶対に……」
・
・
・
・
・
このようなことがあり、無事両親の許可を貰ったことで明日から屋敷を離れて旅に出ることになったのだ。
しかし、心残りも一つだけある。
それはルイズのことだ。
ルイズは昔に比べれば俺にベッタリということはなくなったが、それに比例するように一人で悩んでいることが多くなっていた。
おそらく、前までの俺と同様に自分の進むべき道を決めあぐねているのだろう。
どうしたいのか、なにをすればいいのか、それが解らずに葛藤しているのだろう。
しかし、
「……そんな簡単に割り切れるわけねぇよな。」
俺はベッドに背中を預けて、仰向けの状態になりながら天井を見つめて呟く。
親方と出会えていなかったら、俺もきっとルイズと同じように今も悩んでいただろう。
そう、俺も剣を手にするようになるまでは完全に杖を捨てることなど出来なかったのだ。
―――自分が憧れていた夢を諦める。
それは今までの自分を捨て、暗闇の中に己の身を沈めるに等しい行為だからだ。
とてもではないが、普通なら出来ようはずがないことだ。
だが、俺がそうであったようにルイズもまた選ばなければならない……己のために。
俺はしばし目を瞑り、ルイズと過ごした12年間のことを思い返す。
本当に色々なことがあった。
いつも俺に引っ付いて離れなくて、ちょっと目を離せば転んでベソをかき、それに気づいた俺が慰めて、今度から転ばないように手を繋いで歩く。
俺が変わってしまった時もルイズだけは側を離れず、優しく微笑んでずっと一緒にいてくれた。
―――たった一人の掛け替えのない双子の妹。
「…………」
ルイズとの思い出を思い返していると、急にジッとしていられなくなった。
何故だか無性にルイズの声が聞きたくなったのだ。
思えば、俺は父上と母上、姉さん達には旅に出ることを直接話したが、ルイズだけにはまだキチンと伝えていなかった。
父上達に旅に出ることを伝えてから、ルイズは俺の顔を見るなり逃げるように俺の前から去っていってしまうようになっていた。
ルイズにはきっとなんとなく判っていたんだろう、俺がいなくなってしまうことが。
そして、認めたくなかったのだろう、自分が置いていかれてしまうことを。
気づけば俺は部屋を出て、ルイズの部屋の前まで来ていた。
俺はルイズの部屋のドアをノックしようとするが、直前で踏みとどまった。
今ルイズの顔を見てしまえば『決心が揺らいでしまう』、そんな気がしたから。
ドアの正面を向いていた俺はそれに背を向け、そのまま背中を預けるようにもたれ掛かり、俺は自分の本音を伝えるべく口を開く。
「―――ルイズ、起きてるか……? 起きてたらそのままでいいから聞いてくれ……」
俺は扉越しに語りかけるが、中からは気配も反応もない。
しかし、それでも俺は話すことをやめない。
「……俺は明日の朝にはここを発つ、俺が自分のために必要だと思ったからそれを選んだ。正直悩んだよ、『本当にこれでいいのか?』って……。けどさ、やっぱり自分の気持ちには素直でいたかったんだ。今まで後悔することも反省することも沢山あったけど、そういうのを全部踏まえて出した結論なんだ……」
ルイズはいつだって俺を支えてくれた。
ならせめて、俺がいなくなる前に立ち上がる切っ掛けくらいはあげたい。
「こういうこと言うべきじゃないと思ってるけど、俺……自分のことがあんまり好きじゃなかったんだ。けど、そんな俺でもそういうのを全部引っ括めてお前が認めてくれた『俺という人間』なんだって気づいたんだ。だから、お前がこの先どんな人間になろうが、どんな道に進もうが、俺だけはお前の味方で居続ける。俺にとってはいつまでも、どんなことがあっても絶対に変わることはない……たった一人の可愛い妹だから……」
そうだ、俺にとってルイズは大切な妹だ。
俺なんかよりずっと強い自慢の妹だ。
ルイズならきっと自分の道を見つけられるはずだ、そうであると俺は信じてる。
「出ていく前にそれだけは伝えたかったんだ。それじゃ、おやすみ……」
それだけ言い残し、俺はルイズの部屋の前から立ち去る。
俺は気づくことができなかったが、俺が曲がり角に差し当たろうとした時にルイズの部屋のドアが少しだけ開き、中から桃色の髪が僅かに姿を見せていた。
「…兄さま……」
ルイズは顔を俯かせ、寝巻きの裾を握り締めながらポツリと小さく俺の名を口にしていた。
・
・
・
・
・
「忘れ物はありませんね? 坊ちゃん」
「あぁ、大丈夫だよ。ギャリソン」
翌朝、もうすぐ屋敷を離れる俺にギャリソンが忘れ物は無いかと訪ねてくるが、昨夜の内に準備は整えておいたのでそんなものはなかった。
そもそも、持っていくといっても忘れ物をするほど大したものは詰めていない。
旅で必要になる路銀、いざという時の干し肉などの非常食、傷薬や包帯、携帯用のナイフ、そして新たに鍛えた俺の剣、他にもあるが身軽にするために基本的にはこのくらいのものだ。
「さて、名残惜しいけどそろそろ行くよ。今まで世話になったな、ギャリソン」
「勿体無きお言葉です、坊ちゃん……」
いい加減に行かなければいけないと思い、今まで俺の世話を焼いてくれたギャリソンに礼を言う。
それをギャリソンは深々と腰を曲げつつ謙遜する。
少し鼻声なのに気づいたが、それを言ってしまえばギャリソンに恥をかかせてしまうと思ったので言わないことにした。
貴族としてではなく、あくまで一人の旅人として旅に出ることを決めていたので、それに相応しい身なりに着替えた俺は屋敷を出るために屋敷の扉を潜る。
そして、外に出た俺は見送りに来てれた家族の皆を目にする。
不本意ながらも認めてくれた父上、俺の気持ちを汲んでくれた母上、厳しいながらも寂しそうな眼差しのエレオノール姉さん、いつものように優しく微笑んでくれるカトレア姉さん、そして・・・俯いてしまっている双子の妹のルイズ。
「…行くのだな、ギュスターヴ……」
「はい、わがままを許してくださってありがとうございます、父上」
「よい。但し、私の反対を押し切ってまで旅に出るのだ。……相応の物を見つけてくるまで戻ることは許さんぞ」
「もちろんです。……では、父上。そろそろ俺は―――」
俺が父上に最後の挨拶を言おうとしたその時、
「―――兄さま!」
後ろから大きな声でルイズが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「私、兄さまがいつでも帰ってきてもいいように、『世界一の剣士』になった兄さまの隣に立っても恥ずかしくないような『立派なメイジ』に必ずなるから……! だから、絶対に帰ってきて……約束だよ……?」
嗚咽の漏れる声で俺にそう言うルイズ。
ルイズにはいつか話したことがあった、俺の夢は『世界一の剣士』であるということを。
そしてルイズもまた俺に宣言した、俺がかつて諦めた夢……『立派なメイジ』になることを諦めずに追うことを。
(……お前は本当に強い奴だよ、ルイズ)
俺は自然と溢れる笑みを抑えようともせずゆっくりとルイズに近づき、その頭を撫でてやる。
「あぁ、楽しみにしてるよ。お前なら絶対になれるさ、俺が保証する。だからお前も楽しみにしてろよ? しばらくは戻れないだろうけど、とびきり強い剣士になって必ずお前の所に帰ってくるから」
俺からその言葉を聞き、堰が切れたように顔をくしゃくしゃにしてルイズは泣き出す。
泣き止むまではそのままにしていたが、やがて落ち着いたのを見計らってまた頭を撫でてやる。
そして、最後に家族に別れの挨拶をする。
これが今生の別れになることはない、そういう意味も込めて。
「じゃあ、皆……いってきます」
それを最後に屋敷の前の跳ね橋を通り、俺は家族と12年間暮らした我が家を後にする。
僅かばかりの寂しさと不安、しかしそれ以上の希望を胸に抱いて新たな一歩を進みだした。
―――こうして、少年は暖かな巣を飛び立ち己の翼で羽ばたくために選択し、未だ見ぬ世界へ踏み出したのであった。
どうも皆様お久しぶりです、MAXコーヒーです。
大分更新遅れてしまったようで申し訳ありませんでした。
さて、ギュスターヴは12才となり、自分を試すために旅にでました。
この選択が吉と出るか凶と出るか、それはこれからの展開で語っていこうかと思っています。
そして、幼少期はこのお話にてようやく終了となります。
次のお話からは青年期という章に入ります、いや~長かった。
青年期からはおそらくバトル展開も増えてくるかと思いますが、正直うまく書けるか不安でいっぱいです。
では、また次のお話で!