ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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ゲルマニアに入ったギュスターヴは、ある少女と出会った。
そしてその出会いを引き金にして、ある事件が起きようとしていた。


12話 異郷の地にて

 

 

―――カローナの街

 

 

 

「―――おばちゃん! これおかわり!」

「ふぃんごのほほひふ~。(リンゴもよろしく~。)」

「…口の中の物を飲み込まなきゃ何言ってるか分からないわよ……」

 

カローナの街の一角に構えられた大衆料理店。

現在ギュスターヴとパックは、キュルケと名乗った少女に連れられてここで食事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の騒動でギュスターヴに助けられたキュルケは、その礼を兼ねて是非我が家に招待したいと提案していた。

だが、ギュスターヴは「そこまで大したことはしていない」とその招待を遠まわしに遠慮した。

ギュスターヴの謙虚な姿勢にますます好印象を覚えたキュルケであったが、どうやら彼女にも譲れない矜持があったらしくなんとかして屋敷に招こうとするが、ギュスターヴもまた首を縦に振ろうとはしなかった。

しばらくその会話は平行線を辿っていたが、ふとパックが思いついたように、

 

「ならその辺でメシでもご馳走になりゃいいじゃん。それならキュルケからのお礼にもなるし、俺らの腹も膨れるし両方共良いこと尽くめじゃない? ん~、我ながらナイスアイディア♪」

 

ポーチの中から顔を出しながらそう提案する。

ギュスターヴもキュルケもその考えは盲点だったようで、数瞬動きを止めた後に互いに目を見合わせて笑い合う。

ギュスターヴはそれが最良の解決策だと思い、

 

「パックの言う通りだな。キュルケもそれでいいかな?」

 

キュルケに対してパックの提案に便乗することにしたのだった。

そしてキュルケもギュスターヴにこれ以上言っても了承を得られないと察し、その案に妥協することに決めたのだった。

 

「えぇ、仕方ないわね。ここから少し歩いた所にレストランがあるからそこでご馳走するわ」

 

そう言いギュスターヴとパックを連れてレストランに向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてレストランに着いて、彼らに料理を振舞ったまではよかった。

しかしそのすぐ後にキュルケが目にしたものは、一応テーブルマナーの形を成してはいるものの凄まじい勢いで料理を口に運んでいくギュスターヴの姿と、その彼のすぐ横に積み上げられていく皿の山、山、山!!!

さらにはテーブルのド真ん中で、明らかに自分の体積以上の果物の数々を平らげるパックの姿であった。

キュルケもこれには流石に唖然としてしまい、まさに空いた口が塞がらないといった表情をしてしまっていた。

彼女は紅茶の入ったカップを片手にしばらくその様子を見ていたが、ようやく満足したのかギュスターヴはナイフとフォークを皿の上に置き、口元をナフキンで拭いて礼の言葉を述べる。

 

「いや~、食った食った。ありがとな、キュルケ。お陰で助かったよ」

「ケプッ! ホントだよ、こんな後先考えないで食ったのは久しぶりだな~」

 

ギュスターヴとパックは満腹になった腹を抑えて、如何にも満足したと言うように破願する。

二人のその様子にキュルケは多少驚きつつ、見ていて自分まで気持ち良くなるほどの食いっぷりに頬を緩ませていた。

 

「どういたしまして。それにしても、あなた達体に似合わずもの凄い健啖家なのね。本当に驚いたわよ」

 

若干呆れはしていたが、それでも先程の礼を少しでも返せたならそれに越したことはない、とキュルケは思いながら二人の言葉に返す。

そして、キュルケから自分達の食欲について指摘されたギュスターヴは、恥ずかしそうに頭を掻きながら、

 

「あ~、それについては本当に申し訳ない……。実はこの一週間、この街に着くまでまともなモン食ってなくてさ。保存食も尽きちまってたし、路銀も心許なかったしで満足な食事にありつけてなくてな。……その、悪いな。つい遠慮することも忘れて食っちまって」

 

自身の横に積み上げられた皿の山を見てそう悪びれる。

しかし、キュルケはそんなことは一切気にした様子も無く、むしろギュスターヴの心配をする。

 

「一週間もまともな食事をしてなかったの?! それじゃこうもなるわよ……」

 

またもや呆れたと言うようなキュルケからそう言われたギュスターヴは苦笑いで頬を掻き、

 

「仰る通りで……」

 

と返すしか出来なかった。

と、そこでキュルケは一つの考えを閃く。

 

(ちょっと待って? 彼は今懐の状態が芳しくない、ならそれを解消出来るだけの案があれば……)

 

さっきは諦めたが、これをうまく使えばギュスターヴを屋敷に招くことが出来るのではないか、と思い至ったのであった。

頭の中でその考えに到り、ある程度の策を練ると作戦を実行するべく行動に移したのであった。

 

「…ねぇ、ギュス? さっきの活躍を見た限りでは、あなた結構腕が立つと思うんだけど、仕事を紹介するって言ったら……どうする?」

 

妖艶に笑うキュルケの口からまさに渡りに船とでも言うべき提案が出てくると、その言葉にギュスターヴは一瞬目を見開き、喜色を顔に貼りつけながら身を乗り出し、

 

「マジで!? もちろん乗るに決まってるって! で、何すればいい!? 野盗の捕縛だってゴブリンの退治だってやるぜ!?」

 

と、予想以上の食い付きを見せてキュルケの提案に肯定の意を示す。

キュルケは予想以上にうまく行った作戦に心の中でガッツポーズを取り、小踊りでも始めてしまいそうなほどウキウキした様子のギュスターヴに軽く顔を近づけながらその内容を話し始める。

 

「うふふ、焦らないで。あなたにやって欲しい仕事っていうのはね、私の実家、ツェルプストー伯爵家に用心棒として滞在してもらいたいことよ。あなたは礼節もキチンと弁えた言動も出来るようだし、私が口利きすればすぐにでも雇ってもらえるわ。もちろんお給金の方も安心してもらっていいわよ。最低でも月に40エキューは貰えると思っていいわ。どう? 悪い話じゃないでしょう?」

 

確かに悪い話ではない。

むしろ一介の遊歴の剣士に提示する条件としては破格の待遇である。

キュルケもこれだけの好条件をチラつかせればギュスターヴを抱き込めると確信していた。

しかし、

 

「……それってさ、この先何年かキュルケの実家に滞在しなきゃいけないんだよな? だったら、悪いんだけど断らせてもらうよ」

 

ギュスターヴはそう言い、キュルケからの提案にハッキリと拒否を示す。

彼の口からその言葉を聞いたキュルケは何故断るのか納得が出来ず、自分が納得の行く説明を求める。

 

「あら、なんで断るのかしら? これだけの条件で雇ってくれることなんてそうそうないと思うのだけど、何が不満なのかしら?」

 

―――何が不満なのか?

 

キュルケからそう言葉を投げかけられたギュスターヴは、少しの間目を閉じ、それを開くと同時に彼女の問いかけに答えるべく口を開く。

 

「……不満なんて無いさ。むしろ、こんな得体の知れない男にそれだけの好条件を出してくれて嬉しく思ってるくらいだ」

 

断られたからには相応の理由があると思ったキュルケであったが、ギュスターヴの口からは不満などないと言う言葉が出てくる。

その上自分に対して好印象を抱いてくれているようだった。

だからこそ判らない、何故あえて双方に益のあるであろうこの話を断る必要があるのか。

自分の提案を受ければ金銭にも余裕が出来て、安定した生活も送れるというのに。

ギュスターヴの真意を測りかねないキュルケは、尚も彼を諦めきれないのか詰め寄ろうとする。

 

「なら―――」

 

そこまで口にしたキュルケだったが、

 

「―――それに、これは俺が自分で選んだ『道』だから」

 

不意にギュスターヴが言葉を出したことによって遮られる。

 

「自分で選んだ『道』……?」

 

ギュスターヴが口にした『道』という言葉に、キュルケは首を傾げて疑問符を浮かべる。

だが、それがギュスターヴが自分の話を断った理由なのだということだけはなんとなく判った。

そしてキュルケは視線だけを動かし、ギュスターヴに続きを話すよう促す。

その視線を受けたギュスターヴは軽く頷くと、どこから話したものかと目を瞑り、やがて淡々と言葉を紡ぎ始める。

 

「……俺さ、一年前に故郷を出てきたんだ。自分に何が出来るのか、自分がどこまでやれるのか、自分を試すために。そして、故郷に篭ってるだけじゃ見られない場所を見てみたかったんだ。この一年、傭兵や冒険者の真似事をしながら剣一本を頼りに色々な場所を見てきたけど、それでもまだ俺が知らない場所を見てみたいと思ってるんだ。だから本当に悪いけど、キュルケの誘いに乗ることは出来ない……」

 

そう言い、語り終えたギュスターヴは真っ直ぐにキュルケを見据える。

二人の間に数秒の間沈黙が流れ、しばらくそうしているとキュルケが動きを見せる。

おそらく本音なのだろうギュスターヴの言葉を聞いたキュルケは、『フゥ……』と息を吐き、

 

「仕方ないわね、無理強いしてもいい結果は出ないしね。残念だけど、この話はなかったことにしましょう」

 

まだ少しだけ諦めれきれない様子のキュルケだったが、ギュスターヴの気持ちを汲んで自分の提案を撤回することに決めた。

その残念そうなキュルケの様子にギュスターヴは本当に悪そうに苦笑いを作り、彼女に対して謝罪をする。

 

「折角誘ってくれたのにごめんな。長期間滞在するようなことは出来ないけど、その代わり短期間で片付くような仕事だったら大歓迎だからさ」

「えぇ、分かったわ。なら、もしも何かあればあなたを頼らせてもらうわ」

「あぁ、任せてくれ」

 

そう言って互いに顔を見合わせて二人は笑い合う。

しかしキュルケには言わなかったが、ギュスターヴには先程吐露した想いの他に実はもう一つ断るに足る明確な理由が存在した。

その理由とは、

 

(……キュルケにゃ悪いけど、俺がこうしてツェルプストー家の人間と仲良く話してるってだけでもマズイのに、ましてやそこに雇われるなんて母上達に知られでもしたら……後が怖すぎる)

 

そう、ギュスターヴの実家ヴァリエール家とキュルケの実家ツェルプストー家の間には浅からぬ因縁が存在するのだ。

なんでもツェルプストー家の人間は、ヴァリエール家の婚約者を男女問わず奪い去ってきた過去があるらしく、それが両家の領地が隣接している以上に諍いの火種を有していると言うわけなのだ。

特に母やエレオノールからは、ルイズ共々ツェルプストー家との確執を口が酸っぱくなるほど言い聞かせてこられており、自分がこの話に乗ればそれこそ勘当どころか、地の果てまで追い回された挙句その場で折檻でもされかねないので、どれだけ美味しい話だろうが絶対に乗るわけには行かなかったのであった。

 

「じゃあこの話はここまでにしましょう。折角こんなに素敵な殿方と出逢えたんだから、いつまでもこんな話じゃ気が滅入っちゃうものね」

 

キュルケは両手を叩きながらそう言い、ギュスターヴとパックに目配せする。

 

「そうだな、お互い気になってることもあるみたいだしな」

 

キュルケからの言葉に話題を変えることにほんの少しだけホッとし、ギュスターヴも肯定する。

 

「それじゃあ私からいい? さっきから気になってたんだけど、あなたどうやってパックと知り合ったの? 最初に見たときはビックリしたわよ、まさか妖精が実在したなんて思いもしなかったもの」

 

先程からの話をテーブルの上で黙って聞いていたパックに目線を移しながら、キュルケはギュスターヴにそう問いかける。

 

「まぁいいけど、大して面白い話じゃないと思う―――」

「―――なになに、気になっちゃう?」

 

しかし、彼女の質問に答えるのは問をかけられたギュスターヴではなく、今しがた話題に上がったパック張本人であった。

 

「話せば長くなるし、深い理由があるんだけど、あれは半年くらい前だったな~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――半年前

 

 

とある日ギュスターヴは、横に森が広がる街道を歩きながらいつものように旅を続けていた。

しかし、ふと街道を脇に逸れた茂みに何か光るものを見つけたのだった。

普段なら見向きもしなかっただろうが、この時に限って何故だか非常に興味を惹かれたのだ。

その茂みに近づいて手で掻き分けてみると、そこには羽が生えた小人のような物体が横たわっているではないか。

 

「―――これって、まさか妖精……!?」

 

ギュスターヴも幼い頃母や姉に読み聞かせてもらった絵本の中に、このような姿をした存在を目にしたことはあった。

しかし、実際に目にしたことなどありはしなかったので、その心の中は平常心を保てずにいた。

少しの間呆然としていると、

 

「―――うぅ……」

 

と妖精が僅かに身じろいで呻き声を発した。

ひょっとしたら弱っているのかと思ったギュスターヴは、介抱をしようと妖精を優しく手の平に乗せる。

 

「大丈夫か? どこか怪我してるのか?」

「うぅ……」

 

声を掛けても呻くことしかしない妖精の容態を心配したギュスターヴは、効くかどうかも判らない傷薬を取り出そうとして、小さく聞こえる呻き声以外の声に気付く。

 

「なんだ!? どうしたんだ!?」

 

それを聞いた瞬間に、何か伝えたいことがあるのかと自分の手の平ほどもない妖精に耳を近づける。

しかし、妖精から聞こえてきた言葉は、

 

「―――は、腹、減った……」

 

妖精がその言葉を発した瞬間にギュスターヴの周りの空間に沈黙が流れ、我に返った途端に急にバカらしくなり、とりあえずバッグの中にある保存食を妖精の口の中に乱暴に突っ込んだのだった。

そうして妖精は、その五分後には喧しいくらいの元気を取り戻したのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――とまぁ、このようなことがあって現在に至るわけなんだよ。いや~、あの時ギュスに助けられなかったらオレ死んでたかもね」

 

栗のような頭になりながらそう宣うパックにギュスターヴは片手で顔を覆い、キュルケも呆れたような顔になり、ただただ何とも言えない視線を向けていた。

 

「……別に長くも深くもない微妙な話だったわね」

「……だから言っただろ、大して面白くないって」

 

ギュスターヴもキュルケも溜め息を吐きたい気持ちを抑え、これ以上この話を続けていても得るものは無いと判断する。

しかし、パックはそんなものお構いなしな様子で次の話題をキュルケに振る。

 

「そいやさ、キュルケは何であいつらに追われてたん? 明らかに堅気には見えなかったよな~」

 

パックからその話が出たと同時にギュスターヴも顔色を変えてキュルケに向き直る。

 

「俺もそれが聞きたかった。あいつらかなり怒ってたみたいだけど、お前一体何したんだよ?」

 

先の騒動では、追われる少女とそれを追い回す暴漢という構図にしか映らなかったので助けはしたが、それでもあの怒り様はただ事ではなく、間違いなくキュルケがなにかしら彼らの逆鱗に触れるようなことをしたのだろう、とギュスターヴはなんとなくだが予想出来ていた。

二人から先程何故賊から追われることになったのか聞かれたキュルケは、髪を指先で弄りながら思い出すもの腹立たしいと言った様子で語り始める。

 

「あ~、それなんだけどね。街を歩いてたら、あいつらがいきなり私に喋りかけてきてね。相手をするのも面倒だったから無視してたんだけど、あんまりにもしつこかったから―――」

 

キュルケはそこまで口にして一瞬息を吸い、吐き出すように言葉に出す。

 

「―――思いっきり引っ叩いちゃったの♪」

 

軽く舌を出しながらそう宣うキュルケにギュスターヴもパックも頭の痛くなる思いで眉間を抑え、少々呆れた様子で彼女の言葉を聞いていた。

 

「だって仕方ないじゃない。あんな品がない上に、タイプでもない男にしつこく言い寄られたら誰でもああするわよ」

「いやまぁ、お前の気持ちも判るよ。けどよ、俺が言えた義理じゃないけど、貴族の令嬢がいきなり手を出すのはどうかと思うぜ……?」

 

ギュスターヴはそう言い、パックもまた同じ感想だったのか「ウンウン」と首を縦に動かしていた。

 

「だってぇ、魔法を使って撃退しても良かったんだけど、あんまり大事にはしたくなかったし……」

「魔法にしろビンタにしろ、ああいう手合いには手を出した時点で大事になるんだっての……。ま、これに懲りたら次からは温厚な対応を心掛けろよ?」

「はぁーい……」

 

そうしてギュスターヴ達が会話を続けていると、唐突にレストラン内にある時計が鳴り出す。

その音に気づいたキュルケが急いで自分の時計を確認すると、

 

「あっ! いけない、もう屋敷に戻らなきゃいけない時間だわ! ごめんねギュス、私もう行かなきゃならないの」

 

屋敷に戻らなければならない時間になったため、キュルケはそう告げる。

彼女からそれを聞いたギュスターヴとパックは、

 

「あぁ、じゃあまたな」

「ありがとなキュルケ、ごっそ~さん」

 

そう別れの挨拶を彼女に言う。

それを聞いたキュルケは薄く笑い、

 

「何かあればすぐに連絡頂戴ね? 必ず力になるから♪」

 

キュルケはギュスターヴの目にも魅力的に映る笑顔を向け、ウィンクをしてその場を後にする。

それを見送ったギュスターヴとパックは、自分達も席を立つべくバッグを片手に掴む。

 

「なんと言うか、個性的な娘だったね~」

「それをお前が言うか?」

「にゃにおう!?」

 

予想外の事態ではあったが、思わぬ巡り合せにより腹を満たすことが出来た二人は軽口を叩き合いながらレストランを後をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュスターヴとパックがレストランを後にして一時間ほど経った現在、彼らは宿を探すために夕暮れ時の街の中を歩いていた。

ギュスターヴは少しでも節約をしようと考えていたので、宿はなるべく安い場所にしたいと思っていたが、中々自分の財布に優しい値段の宿は見つからなかった。

そうこうしていると自分のいる場所からほど近い広場がざわついているのが聞こえてくる。

何事かとギュスターヴは歩いていた足を止めてそちらに視線を向け、パックもポーチから顔を出す。

 

「何かあったのかね?」

「さぁな、行ってみるか……」

 

ざわめき立つ広場の方に何か嫌な予感を感じ取ったギュスターヴは、自分の直感に従って野次馬の後ろを陣取るように裏路地に入り、丁度いい位置にあった木箱に乗って騒動の中心地を覗き見てみる。

 

そこにはなんと―――

 

「―――ちょっと、離しなさいよ!!」

「大人しくしやがれ!!」

 

レストランにて別れたキュルケが先の騒動で捕縛されたはずの賊共に捕まっていた。

それにはギュスターヴもパックも驚きを隠せず、何故賊共がここに居るのか分からずにいた。

とりあえず様子を見ようとしていると、近くにいる衆人の会話が聞こえてきた。

 

「なぁ、あいつらって昼間に騒動を起こして憲兵に連れてかれた奴らだよな? なんだってここに居るんだ?」

「お前知らないのかよ? あの後詰所が何者かに襲撃されて、捕まってた賊に逃げられたらしいぜ。なんでも襲撃してきたのはメイジだったって噂だけど、現場を見てたわけじゃねぇからハッキリとした証言もないらしい……」

 

その話しを聞いたギュスターヴは、

 

(もしそれが本当なら厄介なことになりそうだな……)

 

そう確証にも近い考えに到った。

ギュスターヴの中ではキュルケを救出することは確定事項になっていたが、懸念も存在した。

武器を持っているとは言え、その行動においてほぼ近接攻撃に限定される賊なら相手をするのはまだ容易ではある。

しかしメイジが相手ではそう簡単には行かない。

メイジは常人には不可能な『魔法』という超常の力を行使して戦う。

それは近距離での戦いは勿論、中距離や遠距離での戦闘も可能にするのだ。

ギュスターヴはありとあらゆるパターンを想定し、いつでも動くことが出来るように頭の中を切り替える。

ギュスターヴが奇襲のための策を練っていると、広場から唐突に賊の大きな声が響いてきた。

 

「オイ、ガキィ!! 聞こえてるかァ!? 聞こえねェとは言わせねェぞ!? これが見えてるだろ!? 見ての通りこの貴族の嬢ちゃんは人質としてとっ捕まえさせてもらった!! 勿論杖は奪ってあるから自力で抜け出せるなんざ思わねェこったな!!」

 

おそらく自分に言っているのであろう下衆な口調で響かせている賊の声に、ギュスターヴは舌打ちをする。

有り得ないとは思っていたが、やはりキュルケの杖は奪われているようだった。

もし奪われていないようならキュルケを救出した後に二人で一網打尽にすることも可能だったのだろうが、それが出来ないとなればやはり自分がこの状況をなんとかするしかないとギュスターヴは腹を括る。

 

「オレァよォ、オメェに蹴られた[ピー!]がまだ痛むんだよ……! この恨みを晴らさなきゃぁ、オレは夜も寝れそうにねェんだよ……。10分だ! 10分以内に俺の前に出てこい! さもなきゃこの女がどうなるか分からねェぞ!!?」

 

賊の男は姿の見えないギュスターヴにそう脅しをかけ、キュルケの首筋に剣を近づける。

その様子を冷静を保つように観察していたギュスターヴは、

 

(どうやら、奴の狙いは俺みたいだな……)

 

狙いがキュルケではなく、自分に対する復讐ならうまく行くかもしれないと判断し、ある程度の策を纏めると行動に移すためにパックに指示を出す。

 

「―――」

「―――!!」

 

ギュスターヴはパックにやって欲しいことを伝えるとある物(・・・)を渡し、人垣を掻き分けて広場へ歩を進める。

 

「しかし兄貴ぃ、本当にあのガキ来るんですかね?」

「あぁ~? なに、来なきゃ来ないで構わねェさ。代わりにこの嬢ちゃんにひでェ目に遭ってもらうだけだからな」

(ギュス……!)

 

自分達を陥れた憎い小僧が来ないかもしれない考えを巡らせた下っ端1がリーダー格の男にそう問うが、リーダー格の男は来なければ来ないで構わないとキュルケに舌なめずりをしながら言う。

そんな会話をして賊全員の舐るような視線がキュルケに集まっていた。

その時であった、

 

 

「―――おいおい。そっちから呼んでおいて、折角お越しになったお客さんを放ったらかしか?」

 

 

広場の真ん中、賊達とキュルケの正面に自信満々な表情の青年、ギュスターヴが軽口を叩きながら現れたのは。

その声に賊達、特にリーダー格の男は憎しみだけで人を殺せるような表情でそちらに振り向き、キュルケもまた彼が来てくれた嬉しさに表情を綻ばせていた。

 

「……随分早いご到着じゃねェか。それとも、後悔しすぎて頭がおかしくなっちまったか?」

「俺の心配してくれて感謝するよ。けど、人の心配するより自分の行動を省みたほうがよっぽど有益じゃないか?」

 

現れたギュスターヴの軽口にイラつきを覚えていたリーダー格の男は皮肉でもって返すが、それもさらなる皮肉で返される。

その言葉に額に青筋をいくつも浮かばせて今すぐにでも殺してやりたい衝動に駆られるが、それを必死に抑え付け、ギュスターヴを乏しめる言葉を絞り出す。

 

「テメェ……調子に乗ってんじゃねェぞ……? テメェがアン時オレを倒せたのァ狡い不意打ちだったからだ!! まともにやったらテメェみたいなガキがオレに勝てるわけねェだろうが!! もうアン時みてェな不意打ちは通用しねェぞ!?」

「おや……どうやらトラウマ植え付けちまったみたいだな。余計な心配しなくても、んな汚ぇモン一日に二度も蹴りたかねーよ」アシガクサル

 

普通の人間が聞けば怯えすくんでしまうような賊の言葉だったが、ギュスターヴを怯えさせることは適わず、それどころか小馬鹿にする態度に拍車を掛ける結果になった。

いくら脅そうとも一向に口が減る気配のないギュスターヴに、リーダー格の男は今にも発狂するのではないかと思わせるほどに怒りを顕にしていたが、キュルケには彼の態度に違和感が感じられた。

まるでわざとそのような態度を取り、時間を稼いでいるように見えたのだった。

 

「クソガキィ、そんな余裕で居られんのも今のうちだけだ……! 『先生』、やっちまってくれェ!!」

 

リーダー格の男が後ろを振り向きながら『先生』と誰かの呼び名をを呼ぶと、賊の一団の中心部から『杖』を持った男が前に出てきた。

 

(やっぱりメイジが味方に付いてたか……)

 

メイジと思わしき男がその場に出てくるとギュスターヴは先程までの態度を一変させ、鋭い視線を向けた真剣な面持ちになる。

そして、その突き刺すような視線を受けた『先生』と呼ばれたメイジは、ギュスターヴからの視線に心地よさを覚えたのか愉悦に口の端を歪ませ、リーダー格の男に一つだけ問う。

 

「なぁ……アレ、『壊しても』いいんだろ……?」

「あ、あぁ…。報酬分の働きをこなしてくれさえすりゃ、後は好きにしてくれて構わねぇ……」

 

焦点の合わない目で笑いながらそう聞いてくるメイジを不気味に感じたリーダー格の賊は、仕事さえキッチリこなすなら目の前の小僧がどうなろうと構わないとメイジに言う。

了承の意を確認したメイジは、目の前に現れた新しい『素材』をどう『芸術的』に壊してやろうかという狂った考えに耽っていた。

 

「お、俺の名前はヴィーゴ。く、『傀儡』のヴィーゴだ。お、お前の名前を教えろ。お、俺は、『作品』に加えると決めた人間の名前は、だ、誰一人例外無く聞いているんだ」

(『傀儡』のヴィーゴ……。確か、全国指名手配の快楽殺人者だったか……? 詳しい情報は載ってなかったが、その系統は『土』だったはず……)

 

『ヴィーゴ』とメイジが名乗ったと同時に衆人から一層強いざわめきが起こり、ギュスターヴも警戒の色を濃くし、目の前の男に関する自分が知り得る情報を頭の中から引き出す。

 

「……まさかこんなとこでこんな奴に遭っちまうとはな。だが、名乗られたからには名乗り返すのが筋ってモンだ。……俺はギュスターヴ。二つ名なんざ無い、ただのギュスターヴだ!!」

「い、イイな、お前……。お、お前みたいな素材は、俺の芸術家としての血を騒がさせてくれる……!!」

 

腰に下げた剣を抜き放ちながら高らかに名乗りを上げるギュスターヴを、ヴィーゴは狂気に歪んだ瞳で捉える。

 

 

―――ギュスターヴは狂気に囚われたメイジと対峙し、今まさにその戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 




どうも皆さん、MAXコーヒーです。
最近ジメジメして気持ち悪いですね、私は梅雨が嫌いです。
さて、前回に続いてゲルマニアにて行動していたギュスターヴですが、またもやひと騒動起きてしまったようです。
次回からは待ちに待ったバトル回になるので、私の文才がハッキリと見えることでしょう。
つーか自信なんてあるわけないので、期待ハズレだったらごめんなさい☆彡
あと、通貨の価値はなんとなくわかるんですが、平民でも貴族でも平均収入がわからないので、とりあえず「1エキュー」=「一万円」と現代の価値と同じように当てはめて判断してみました。
では諸君、サラダバー!
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