ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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テルムでの依頼を受けたギュスターヴ。
言い知れない不安が彼の心を過るが……。

遅くなってしまいすいません。
ちょっとやることがあったので。
それはそうとカブトボーグはやっぱり面白いですね(全話視聴)


15話 双牙の孤狼 後編

 

 

―――リュングベル男爵邸

 

 

エメリー夫人よりテルムに居る間は屋敷に滞在して欲しいと言われたギュスターヴは、いくつかの話を聞いた後屋敷の屋上で一人考え事に耽っていた。

 

(依頼を引き受けたはいいけど、具体的にはどうしたモンだろうな……)

 

ギュスターヴはこの依頼におけるいくつかの不安要素と自分の取るべき行動に頭を悩ませていた。

まず一つ目はグレムリンという魔獣に対して、平民で構成された自警団の者達と自分だけでどう戦うかということだ。

まずこれについては、真正面からの正攻法で戦うという選択肢は除外した方がいいと言う考えが早い段階で決まっていた。

近接攻撃を主体に戦う自警団の者達では、その物量差に為すすべもなく返り討ちにあう可能性がある以上なんらかの搦め手の策を用いる必要があるからだ。

二つ目は他の貴族による討伐の介入に対する懸念だった。

これがただの討伐依頼だったならば、協力してくれる人手があることは両手を振って歓迎すべきことなのだが、エメリー夫人の話を聞いた以上『敵の敵は味方』ということには十中八九なりえないので、現場で鉢合わせすることがないようにただただ祈っていた。

そして、三つ目はエルクのことであった。

エメリー夫人は『ある事情』からエルクは余所者……より詳しく言えば、自分に近しい家族と呼べる者達以外に心を開くことが無くなってしまったと言っていた。

これはエルクの個人的なプライバシーに関わることなので深く聞きはしなかったが、それだけ感情的で極端な反応を示すということは、過去に他人を信用出来なくなってしまうに足る出来事があったのだろうとギュスターヴは推測していた。

 

(心の傷か……)

 

ギュスターヴは、トラウマと呼べる心を蝕む根深い傷を負ったエルクにかつての自分を重ねていた。

自分が何者なのか、自分の足元さえ見えなくなって、目に映るもの全てが敵に見えた幼い頃……ギュスターヴはまるであの頃の自分を見ているような気さえしていた。

だからこそ、ギュスターヴにとってエルクは他人に思えなかった。

心を閉ざし、牙を剥き出しにし、決して他人を寄せ付けようとしないギラついた眼光、本当によく似ている感じていた。

 

(出来ることなら、その心の氷を溶かしてやりたいが……)

 

自身も同じような苦しみを味わった経験があるからこそ、ギュスターヴはなんとかしてやりたいと思うが、心の奥深くまで刻まれた傷はそう簡単には癒せない。

なにより、一方が与えるだけではそれは成し得ないのだ。

理解する者がいて、傷を負う者がそれに心を開いて、初めてその傷から開放されるのだ。

しかし、エルクはその理解しようとする他人自体を拒絶している。

ギュスターヴはそのことから自分が無理に話を聞こうとしてもトラブルになってしまうことが分かっていたので、「どう接すればいいのだろう」と頭を悩ませていた。

そうしてギュスターヴは溜め息を吐いて遠くを見ていると、彼の後ろから足音が聞こえてきた。

ギュスターヴはその音に気づいて振り返ると、

 

「……エルク」

 

そこには、如何にも『不機嫌です』といったような表情を隠そうともしない仏頂面を下げたエルクがいた。

エルクは何を言うでもなく無言で足を進め、ギュスターヴを一瞥することもなく彼の隣から人一人分の間隔を開けた位置まで歩き、そこで足を止める。

どうやらエルクは街を見渡すために屋上に来たらしく、それに気づいたギュスターヴはおそるおそると声を掛ける。

 

「……見張りか? お疲れさん」

「……」

 

しかし、エルクはその声に何も返さず、何も反応を返さないエルクにギュスターヴも黙ってしまう。

特に何も会話のないまま時間は過ぎ、手持ち無沙汰になったギュスターヴは屋上の縁に肘を掛けて視線を下ろしていた。

 

(気まずい……)

 

そのままの状態が数分ほど続き、ギュスターヴは「どうしたもんか」と考えていると、今まで押し黙っていたエルクが口を開く。

 

「―――お前、『アイシャ』を助けてくれたんだってな……」

「え…? アイシャ……って?」

 

唐突に口を開いたエルクに一瞬面食らったようになったギュスターヴであったが、すぐに意識を戻してその言葉に返そうとするが、聞き覚えのない名前に誰ことだか分からずに聞き返す。

ギュスターヴからそう返されたエルクは、ここで初めて視線を交わすようにギュスターヴの方を向き、その名前の人物のことを話す。

 

「お前は半日前のことも覚えていないのか? アイシャっていうのは、お前がボンクラ貴族共から助けた酒場で働いている娘のことだ。」

「あ、あぁ……あの娘か。アイシャって名前だったんだな、そういえば名前は知らなかったっけか」

 

エルクからアイシャのことを聞かされたギュスターヴはようやく得心がいったと頷き、エルクは改めて礼の言葉を口にする。

 

「ワッツ達から聞いてな……。すまなかったな、本来はアイツらが止めねばならんことだったのに、お前に余計な手を煩わせた。そのことについては礼を言う」

「…いいさ、気にしなくて。俺が許せなかったから勝手にやったことだ」

 

笑うことはなかったが、最初に会った時よりかは幾分柔らかくなった言葉で話すエルクにギュスターヴは「フッ」と笑い、気にすることはないと返す。

それからまたしばらく二人の間に沈黙が続き、ふとギュスターヴはエルクに質問をしてみることにした。

 

「…なぁ、エメリー夫人から聞いたけど、お前は…男爵の跡を継いでこの街の復興をするつもりなのか……?」

 

ギュスターヴから突然そう問われたエルクは、目を細めて軽く睨むようにギュスターヴに視線を向ける。

 

「…平民のガキが貴族の代わりをするなんておかしいか……?」

 

エルクはギュスターヴの言葉に威圧的な空気を纏わせてそう口にする。

ギュスターヴはエルクの刺さるような視線に怯むことなく真っ直ぐに見据え、

 

「そう睨まないでくれ、俺は別にお前のことを馬鹿にしてるわけじゃないんだ。…ただ、平民という境遇は、お前の『夢』にとって大きな試練になるかもしれない……」

「……」

 

そう遠くを見つめながら言葉に出す。

ギュスターヴが言った身分の違い、この社会において平民に比べて貴族の力…権力というものは実に強大なものである。

この街の交易や資源の管理も『男爵』という貴族としての肩書きがあったからこそ、維持することが出来ていたのだ。

それは一平民の影響力程度で同じ成果を実らせることが出来るような軽いものでは断じて無い。

男爵夫人という後ろ盾があるとはいえ、エルクにとってそれはこの上なく高く立ちはだかる壁になるだろうことがギュスターヴには分かっていた。

そしてそれはエルク自身も嫌になるほどよく理解出来ていた。

 

「…人は他人を形や表面でしか見れないからな……」

 

ギュスターヴは真っ直ぐに向けていた視線を下に落としながらそう言う。

この世界にはそういった人ばかりではないとギュスターヴは分かってはいるが、やはりその本質を見抜くことの出来る人間はそう多くないとも思っていた。

人は自分の理解出来ないことには極力近寄らないようにするものだが、ひどいものになれば危害の及ぶ前に排除しようとすることだってある。

ギュスターヴもそこまで他人の心の奥深くまで知るようなことは出来ないが、それでも心に傷を負う者の気持ちを察することは出来る。

だからこそエルクの行く末を心配していたのだった。

 

「…まるでお前自身、そんな経験をしたみたいな言い方だな」

 

ギュスターヴの言葉になにか感じるものがあったエルクはそう言う。

エルクの言葉を聞いたギュスターヴは肯定もせず、否定することも無くただ黙って街の方に目を向けていた。

その様子を見ていたエルクも「自分が知ったところで何があるわけでもない」と思い、街の方へ視線を移した。

 

「…………」

「…………」

 

それから互いに口を開くことなく、沈黙が流れる。

そうしていると、エルクが口を開き、ギュスターヴにある質問を投げかける。

 

「―――…なぁ、お前は俺達のような奴らのことをどう思う?」

 

もう三度目になる互いの沈黙が続いたあとに投げかけられるエルクの質問にギュスターヴは、

 

「お前達のような奴らって…『鉄の狼』のことか? まぁ、世の中意外な奴が善人だってこともあるからな。少なくとも俺にはお前達が悪人には見えないよ。」

「………」

 

エルクはギュスターヴの言葉に黙って耳を傾ける。

 

「それに、恩義に報いるために必死になって頑張ってる人達を笑うことなんて俺にはできないよ」

「ふん……意外な奴が善人か……」

 

ギュスターヴは優しく微笑みながら自分の思ったことをそのまま口に出し、それを聞いたエルクもまた小さくではあるが笑みを作り、一言だけ相槌を打つ。

そしてエルクは数秒の間目を瞑り、何かを決めたようにギュスターヴに話しかける。

 

「お前…エメリー様から話しを聞いたってことは、俺達が孤児だったってことも聞いたんだろ?」

「…あぁ、鉄の狼の半数以上は孤児だったっていうのは聞いたよ」

 

エルクが口にした内容……それは他人にはあまり話したくないであろうはずの自身の生い立ちについてであった。

急に触れられたくないはずの話しを振られたギュスターヴは一瞬戸惑いを見せたが、エルクの顔から真剣味を感じ取り、正直に話すことに決めた。

そしてギュスターヴから聞いているという旨の応えを聞いたエルクは街の中のある方向を指差し、少しずつ言葉に出していく。

 

「―――あそこにあるあの建物が見えるか?」

 

ギュスターヴはエルクが指差した方向に目を向けると、そこに見えたのはまだ幼い子供達が元気に走り回る庭つきの建物だった。

 

「あぁ、見えるけど…あの建物は?」

「あそこはな、俺達が育った孤児院だ……」

 

現在ギュスターヴのいる男爵邸から近くもなく、遠くもない場所に位置するその孤児院がエルク達の育った場所だと言う。

 

「俺もワッツやバーニィも…『鉄の狼』に所属する者の大半があの孤児院の出身だ」

 

エルクは目を細めて言葉に出す。

 

「孤児だったと言っても、孤児になった理由もその個人によって違う。親に先立たれて行き場を失った奴、勝手に産んでおいて親に捨てられた奴、自分が何故孤児になったのか、その理由すら分からない奴だっている。そして俺は…両親が亡くなった後に叔父夫婦に引き取られ、その信じていた叔父夫婦に裏切られ、人買いの手から逃れてここに流れ着いた……」

 

怒りを滲ませるような、哀しみを堪えるかのようなエルクの言葉にギュスターヴは黙って耳を傾けていた。

 

「そんな俺達に居場所を与えてくれたのが男爵様だ。あの人は、『帰る場所を失った子供のために僅かでも出来ることがあるのなら』と、あの孤児院を建てたんだ」

 

エルクは先程の怒りや哀しみを含んだ表情から、優しげな表情に変わりながらそう言う。

 

「俺は弱者が真っ先に犠牲になるような現在の社会を作った貴族は嫌いだが、男爵様だけは別だ。あの人は誰にでも分け隔てなくその手を差し伸べた。俺達のような孤児だけでなく、不当な理由で仕事を失った浮浪者、理不尽な税に耐え兼ねて逃げてきた一家、金に物を言わせて好き勝手に振舞う貴族から逃げてきたメイド……このテルムに住む者で男爵様の世話になっていない奴はいないほどだ」

 

この街を築き上げた男爵は本当に出来た人物だったのだとエルクは誇らしげに言う。

それを聞いたギュスターヴもまた、自身が理想とする貴族としての姿に尊敬の念を抱いていた。

そして出来ることなら存命の内に逢っておきたかったと残念にも思っていた。

 

「あの人はこの街を心の底から愛していた。鉱山から採掘された水晶を散りばめた髪飾り、街の名物の干物、職人の織った絨毯…この街の特産物を大切にして、住民と共にこの街を発展させてきたんだ」

 

『この街には男爵様の心が詰まっている、男爵様がいなくなってもそれは絶対に変わることのない事実だ』と、エルクは微笑みながら口にする。

だからこそその遺志を継ぎ、それがどれだけ辛い茨の道だろうと自分が男爵に代わってこの街を守ろうと決意したのだとギュスターヴは察した。

そこでギュスターヴは一つ疑問に思った。

 

「なぁ、エルク…何故俺にそんな話しを?」

 

ギュスターヴは絶対に他人を寄せ付けないと思っていたエルクが、何故自分にそのようなことを話したのか疑問に思っていた。

その疑問を投げられたエルクは一度だけ視線をギュスターヴに戻し、すぐにその視線を外した後にこう答える。

 

 

「さぁな…俺にも分からん。ただ、俺はお前に―――『あの人』の……」

 

 

そこまで言ったエルクはそこで口を閉ざして首を振り、ギュスターヴに背を向けて屋敷に繋がる扉の方へ歩いていく。

 

「エルク……?」

「……話は終わりだ。なんにせよ、俺はまだお前を信用したわけじゃない。この後に及んで出て行けとは言わんが、せめて邪魔だけはしてくれるなよ」

 

その言葉を最後にエルクは屋上を後にする。

そして一人残されたギュスターヴは溜め息を一つ吐き、

 

「……やっぱ、姉さんみたいには行かないな……」

 

そう自虐するように言う。

かつて自分を救ってくれた尊敬する姉『カトレア』。

ギュスターヴはかつてのカトレアのように、エルクの心の氷を溶かしてやりたいと思っていた。

しかし、カトレアのようにうまく言葉に出来ない自分に少し情けなくなり、ガラにもなく物憂げな気分になっていた。

しばらくそうしていると、

 

 

「ギュスーーー!」

 

 

突然、小さな光る謎の飛行物体が視界に入ってきた。

ギュスターヴはその物体には心当たりがあったので、とりあえず暴れないように鷲掴みにする。

なにやら急いでいたようだったので、何があったのか尋ねてみた。

 

「どうした、パック?」

 

パックに何があったのかギュスターヴは尋ね、それを聞いたパックは息を切らせて簡潔に答える。

 

「大変なんだ! グレムリンが数匹街の中に現れたんだ!」

「なに!?」

「それで『鉄の狼』の連中がお前を呼んでこいって!」

 

それを聞いたギュスターヴはすぐに駆け出し、屋敷の外に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パックの案内で現場に着いたギュスターヴが見たものは…所々に傷を負いながらも、統制された動き

でグレムリンと戦う『鉄の狼』の面々の姿だった。

ギュスターヴは巻き込まれた人がいないか辺りを確認するが、そこは流石に自警団ということはあり、付近の住民の避難はすでに済んでいるようだった。

戦えない人達の避難が済んでいるのであれば、その人達の安全に意識を奪われることなく戦いに集中できると判断したギュスターヴは、自分も手を貸すべく戦闘の場に駆け出す。

 

 

 

そして戦場では、ワッツとバーニィが一匹のグレムリンを相手に剣と槍を持って戦っていた。

二人は単純な馬力ではグレムリンに劣るものの、巧みな連携で少しずつ傷を負わせてグレムリンを押していた。

 

「よし! いけるぞワッツ!」

「あぁ! このまま押し切るぞ!」

 

ワッツとバーニィは自分達の優勢を感じ、このまま一気に勝負を決めようと意気込む。

だが勝負を焦るあまり攻め方が単調になり、バーニィは不用意に突っ込んでしまう。

それをまるで狙いすましていたかのようにグレムリンはバーニィの持っていた剣を腕のひと振りで払い落とし、体制を崩したバーニィに食らいつこうと飛びかかる。

 

「バーニィ!」

「ウ、ウワァァァァァァ!!」

 

相方のピンチにワッツはその名前を叫び、バーニィは死を覚悟して目を固く閉じて叫び声を上げる。

しかし、いつまで経っても痛みは訪れない、バーニィは恐る恐ると目を開けると、

 

「―――なんとか間に合ったな」

 

その目に映ったのは真っ二つになったグレムリンの亡骸と、鈍く光る剣を構えたギュスターヴの姿であった。

 

「剣聖の兄ちゃん!」

「よかった、妖精がちゃんと連れてきてくれたんだな!」

「怪我はありませんね? 今の状況を大まかでもいいので教えてくれませんか?」

 

ギュスターヴは尻餅をついたバーニィに手を貸して立ち上がらせると、駆け寄ってきたワッツに状況の報告を求めた。

 

「あぁ、街の中に侵入してきたグレムリンは確認されてるだけでも十匹……その内六匹、今あんたが倒したのを含めれば七匹倒したことになる。あっちでもまだエルクが戦ってる、こっちはもう大丈夫だから手を貸してやってくれ!」

「分かりました! 行くぞ、パック!」

「了解!」

 

ギュスターヴはワッツの指差した方向に視線を移し、目視できるくらいの距離にいるグレムリンと対峙しているエルクの元へ向かうべく急いで駆け出す。

 

「エルク! 加勢するぞ!」

 

急いでエルクの元に辿りついたギュスターヴは、残った三匹のグレムリンに囲まれるエルクに加勢するべく声を掛ける。

しかし、

 

「手出しは無用だ! お前の手を借りるまでもない!!」

 

多少は和解できていたと思っていたギュスターヴの耳に届いたのは、明らかに拒絶の意を含んだエルクの言葉だった。

 

「だけど……!」

「黙ってそこで見ていろ! 俺はお前のような奴に心配されるほど弱くない!!」

 

あくまでギュスターヴの手を借りようとしないエルクに、痺れを切らしたグレムリンは一斉に襲いかかる。

 

「―――甘い!」

 

しかしエルクはそれを全て難なく躱し、すれ違いざまの一閃で一匹の首を斬り裂く。

首を斬り裂かれたグレムリンは血を吹き出し、数秒だけピクピクと痙攣した後にそのまま絶命する。

仲間を殺されたことに怒りを覚えたのか、残る二匹もほぼ同時にエルクに飛びかかる。

それを見たエルクは一切焦りの表情を浮かべることなく、二本の剣を逆手に持ち、グレムリンを迎え撃つために飛び上がって体を回転させるように剣を振る。

 

「はぁっ!!」

 

空中での一瞬の交差を交わしたエルクとグレムリンが着地した後、エルクは傷を負わずにいるのに対し、二匹のグレムリンは着地の衝撃で頭と顎が真っ二つになって擦れ落ちる。

その鮮やかとすら言える技を見たギュスターヴは、

 

「す、すごい……!」

 

技の切れ味と剣速ならば自分よりも上かもしれないエルクの実力に目を奪われていた。

そう言うギュスターヴを尻目にエルクは何事もなかったように立ち上がり、剣に付いた血を払っていた。

そしてエルクは辺りを見回し、街に侵入してきたグレムリンを全滅させたことを確認すると、ギュスターヴに近づき口を開く。

 

「…これで俺の実力は分かったか? お前の手など借りなくても、鉱山に巣食ったグレムリンなど俺達だけで掃討してみせる。俺達はずっとそうやってきた、これまでも、これからもだ……」

 

それだけ言い残し、エルクはギュスターヴの元から離れようとする。

その時、

 

「大変だ、エルク!!」

 

恐らく『鉄の狼』の一員と思しき数人の男がエルクの元に駆け寄ってくる。

その尋常ではない焦りようにギュスターヴもエルクも嫌な予感が過ぎる。

エルクはとりあえずその男達を落ち着かせ、何があったのか報告を聞く。

そして男達の報告を聞いたエルクはその言葉に愕然とさせられることになる。

 

「ここに来ていた貴族共がいただろう!? 鉱山を見張ってた連中から今しがた報告を受けたんだが、あいつらが鉱山に入ってグレムリンの群れを中途半端に刺激しやがったらしいんだ! 街にグレムリンが降りてきたのもそのせいだったんだ!!」

 

その言葉を聞いたエルクは怒りと呆れに身を震わせ、怒鳴るようにこの場にいる団員に招集をかける。

そしてこの場にいない団員に対してもすぐに集まるようにそれぞれ指示を飛ばす。

 

 

「―――いいか! 今から俺達はスヴェルドルフ鉱山に赴き、グレムリンの討伐に向かう! まだこの場にいない残りの奴らに関しては、ワッツとバーニィが残って纏めて指揮を取ってすぐに向かわせろ! 先行部隊は俺と一緒に来い!!」

 

 

これ以上他所者に好きにさせられないという感情と、被害を拡大させられないという感情に突き動かされ、エルクは即座に討伐に向かうことを決意する。

しかし冷静に考えればそれは些か時期尚早と思える。

ギュスターヴはそう思い、エルクに苦言を呈す。

 

「待て、エルク! 相手は群れを成した魔獣の巣窟だ! 事前に入念な準備もせずに向かうなんて危険すぎる! せめて何か作戦を―――!」

「―――黙れ! 貴様に何が分かる!? この土地で好き勝手はさせん! 奴ら貴族にも、グレムリンにもだ! 余所者は口を挟むな!!」

 

最早ギュスターヴが何を言っても無駄というように出会った当初より目つきを鋭くさせ、完全に耳を貸そうとしないエルクにこれ以上は見ていられないとワッツが間に入って冷静にさせようとする。

 

「おい、エルク! 何意地になってんだよ? 剣聖の兄ちゃんの言うことも、もっともだろ? 少し熱くなりすぎじゃ―――」

「臆病者は付いてこなくてもいい! 行くぞ、お前達! 鉱山から貴族とグレムリンを叩き出すんだ!」

 

だがエルクはワッツの言葉にすら聞こうとしなかった。

エルクはそのまま三十人ほどの部隊を率いて鉱山に向かい出す。

頭に血が昇ったように誰の言葉にも耳を貸そうとしないエルクにワッツは溜め息を吐き、ここにいない団員を急いで集めるように再度指示を飛ばす。

 

「すまないな、あぁなったエルクはもう誰の言葉も聞きゃしないんだ……。嫌な思いさせちまったな……」

「…いえ、それより部隊編成を急ぎましょう。それとありったけの武器を集めてください。なるべく長さのあるものが望ましい。いくらエルクが凄腕の剣士だと言っても必ず限界は訪れる。出来るだけ早く救援に駆けつけなければ」

「あ、あぁ…やっぱ大した奴だよあんたは。エルクはあぁ言ったが、俺はあんたがいてくれて助かったよ。俺達だけじゃこの状況に焦るだけだったはずだ……」

 

ワッツはエルクの取った態度についてギュスターヴに謝罪し、それを聞いたギュスターヴは気にしなくていいと言う。

そしてそんなことよりも先にやるべきことがあるとワッツに言い、ワッツはギュスターヴの言葉に同意し、彼がいてくれたことに感謝の言葉を送る。

ワッツとこの時点で出来る話し合いを終えたギュスターヴは、腰のポーチを開けてパックに語りかける。

 

「パック、お前に頼みがある」

「お、仕事だな! で、何をすればいい?」

「お前は俺達より一足先に鉱山に向かって状況を把握しておいて欲しい。それで後から向かう俺達が鉱山に着いたらそれを教えてくれ」

 

ギュスターヴはパックにやって欲しい仕事を簡潔に伝えるとパックは「ラジャ!」と敬礼し、エルク達を追うために飛んでいく。

パックの飛んでいく姿を見送ったギュスターヴはエルク達の無事を祈りつつ、ワッツ達の手伝いをするために駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…」

「もう少しで鉱山だ! お前ら、気合入れろぉ!」

 

あらかた準備を終えたギュスターヴ達は、エルクが率いる先行部隊の救援のためにスヴェルドルフ鉱山に向かって全力で駆けていた。

やがて鉱山らしきものが見えてきて、一行はそのまま鉱山に突入しようとした。

だが、鉱山の入口には異様な光景が広がっていた。

 

「―――これは……!?」

 

ギュスターヴと『鉄の狼』の一行は思わず息を飲んだ。

そこには幾多のグレムリン死骸と、貴族の者と思わしき死骸がそこらに散乱していた。

どうやらこの入口付近で貴族達はグレムリンと争っていたようだった。

『鉄の狼』の団員の死体がないことから、おそらくエルク達が来る前にここで戦闘があったのだとギュスターヴは推測していた。

このままいつまでもここで呆然としているわけにはいかないと、ワッツとバーニィは部隊に指揮を飛ばす。

ギュスターヴもそれに続こうとしていると、

 

「お~い! ギュスーー!」

 

先に偵察に向かわせていたパックがギュスターヴの元に戻ってきた。

 

「パック! エルク達の状況は!?」

 

ギュスターヴは戻ってきたパックに状況確認をする。

そしてパックは焦ったように報告をする。

 

「ヤバイよ、ギュス! エルク達が中で貴族と鉢合わせしちゃったんだ!」

 

その報告を聞いたギュスターヴは目を見開き、冷や汗をかいて舌打ちをする。

 

「それであいつら敵地のド真ん中で言い争いなんか始めちゃって、もう一即触発な空気になったんだ。それだけならよかったんだけど、その騒ぎを聞きつけたグレムリンが集まってきて、エルク達に襲いかかって、それを今もエルク達が応戦してるんだ! 早く行かないと間に合わなくなっちまうよ!!」

「くっ!」

 

今ギュスターヴが聞いた話はワッツとバーニィにも聞こえていたらしく、団員を急がせて鉱山へと突入させる。

腰のポーチにパックが入り込んだのを確認したギュスターヴも全速力で鉱山内部へと走っていく。

 

(エルク……! 俺達が着くまで持ちこたえろよ!)

 

自分でも理由が分からないほど必死になる衝動を必死に抑え付け、ギュスターヴはエルクの無事を祈ってひたすら駆ける。

 

 

 

その頃エルクは、負傷した団員達を庇いながら二本の剣を振るってグレムリンの群れを相手にしていた。

何人かは意識を失ったり、骨が折れてまともに動けなくなっていたりと、すでに戦える状態ではなくなっていた。

それは『鉄の狼』だけではなく、貴族達にも言えることであった。

所詮知能の低い亜人と見下して意気揚々と討伐に来たはよかったが、その数は予想以上であり実戦不足も相まってその数はみるみる内に減っていった。

ましてや貴族達の戦力の半数以上が魔法を使えない成り上がりで占められており、その魔法を使える者も恐怖で逃げ出そうとしたところを襲われたり、考えなしに魔法を使ったせいで精神力が切れたりと徐々にその数を減らしていった。

 

「ちくしょー…! こんなことならこんなとこに来るんじゃなかった……!」

「泣き言言うな! 生きて帰りたかったら口より手を動かせ!」

 

最初は敵対してた『鉄の狼』と貴族達だったが、命の危機とあってはそんなことを言ってもいられず、生き残るために互いに共闘をしていた……―――ただ一人、エルクを除いて。

 

エルクはその命の危機に瀕してなお貴族達とは馴れ合おうとせず、誰の手も借りないまま剣を振るっていた。

それは自身の誇りからなのか、それともただの意地なのか分からないが、エルクは誰かの手を借りるくらいなら『死』を選ぶと決めていた。

エルクはどこまでも孤高で、どこまでも強くありたいと願っていた。

男爵の跡を継ぐにはそれが必要だと思い込んでいた。

そんなことを考えていると、グレムリンがまた一匹また一匹と奥から湧いて出てくる。

 

「ちぃっ……! 一体あとどれだけいるんだ……!?」

 

終りの見えないグレムリンの数にエルクは嫌気すら感じて舌打ちをし、さらに襲いかかるグレムリンに向かって段々重くなってきた腕と脚に鞭打ち剣を振るわせる。

斬っても斬っても際限なく湧いて出てくるグレムリンに、『鉄の狼』の団員も貴族達も少しずつ戦意を削がれていった。

誰もが膝を着き、ここまでかと諦めかけた。

 

だが、

 

「―――どきやがれぇー!」

「道を開けろぉ! この手長猿がー!」

 

後方から威嚇するグレムリンの群れを押しのけるように何人もの声が響いてくる。

エルク達はその声に振り返ると、ワッツとバーニィが部隊を率いて救援に駆けつけていた。

 

「エルク! 無事か!?」

 

後発部隊と共に鉱山に入ってきていたギュスターヴは、エルクの側まで駆け寄り安否の確認をする。

ギュスターヴにそう言葉を掛けられたエルクだったが、窮地を救われてなお他人の手を借りることを認めようとしなかった。

 

「…お前も来ていたのか、余計なことを。―――ワッツ、バーニィ! 部隊を合流させてこのまま一気にグレムリン共を掃討するぞ!!」

 

決して他人に靡くことを良しとせず、エルクはギュスターヴをなるべく視界に入れないように思ったままに指示を出す。

エルクの言葉を聞いたギュスターヴはエルクの肩を掴み、その考えを改めるよう言い聞かせる。

 

「待て、エルク! 今の皆の状態じゃ勝ち目はない! ここは一時撤退をするべきだ、それが分からないお前じゃないだろう!?」

「黙れ、リーダーは俺だ! 余所者のお前に指図を受ける謂れはない!!」

 

エルクはギュスターヴの言葉に何かを振り払うように反論し、ギュスターヴの考えを拒絶する。

何故こんなにも意地になるのか、何故ギュスターヴを見ていると苛つくと同時に、穏やかな気分にさせられるのかエルクには分からなかった。

いや、分からなかったわけではない。

エルクには、こんなにも心をざわめかせる原因に一つだけ心当たりがあった。

しかしそれをどうしても認めることができなかった。

 

(馬鹿なことを……それを認めてしまえば、俺は……!)

 

ギュスターヴの登場により、戦いに割いていた意識を思考に持って行かれ、エルクはらしくもない油断をしてしまっていた。

そんなことを考えていたために、エルクは先程切り捨てた一匹のグレムリンがまだ生きていて、後ろから近づいてきていることに気づいていなかった。

 

『ガァァァァァ!』

「―――エルク、後ろだ!」

「―――!?」

 

思考に気を取られていたエルクはギュスターヴの声で『ハッ』となり、意識を戻して後ろを振り向いたが、すでにグレムリンはエルクの目の前まで迫っていた。

そしてその凶刃を振りかぶり、エルクの体へと突き立て、エルクはその衝撃で吹き飛ばされる。

 

「エルクーーー!!」

 

そしてトドメを刺すために追撃を掛けようとするグレムリンをギュスターヴは寸でのところで斬り裂き、倒れるエルクの元へと駆け寄る。

 

「くっ…俺としたことが……」

「大丈夫か、エルク!? パック、すぐにエルクを―――!」

 

思った以上に傷が深いエルクの状態を看たギュスターヴはパックに手当をさせようとするが、エルクはそんな状況に至ってもそれすらも拒否した。

 

「―――俺に触るな!!」

「何言ってんだ! お前まともに立つことも出来てないじゃないか!」

「この傷は俺の失態が原因で招いたことだ……! 誰かの手を借りるなど絶対に認めん……!」

 

エルクは体を支えるギュスターヴの手を払いのけると、震える足で立ち上がり剣を構える。

 

「……悔しいが、こいつの言う通りここまでのようだな……」

 

エルクは誰にも聞こえないような声量で小さくそう呟くと、『鉄の狼』の団員と貴族達に聞こえるように大声で叫ぶ。

 

「聞け、お前ら!! このままでは全滅するのを待つだけだ、撤退するぞ! 動ける奴は負傷した奴らに手を貸してやれ!―――そして、殿は俺が務める!! 出来るだけ時間は稼いでやる! 急げ!!」

 

エルクはここに至り、ようやく冷静な判断が出来たというように撤退の指示を出す。

そしてボロボロの体を引きずり、果敢にもグレムリンの群れと正面から対峙する。

エルクの指示を受けて数秒の間迷ったような素振りを見せたワッツとバーニィはエルクを一人置いていくことに苦渋の表情を作るが、他に何か策も思いつかず後ずさってエルクの後ろ姿を見ているだけしか出来なかった。

ギュスターヴもエルクの気持ちは分かるが、それでも彼が一人残ることに後ろ髪を引かれる思いだった。

 

「…ちっ…こんなところで終わりとは、俺もヤキが回ったものだ……。締まらんな、これからだって言うのに……」

「エルク……!」

「いけ! …皆を窮地に追い込んだのは俺の浅慮が原因だ……お前達がここを出るまで、奴らは食らいついてでも俺が通さない……リーダーとしての責務はキッチリ果たす……。…最後にエメリー様に、よろしく言っておいてくれ……」

 

ギュスターヴはエルクのその言葉を聞いた時、時が止まったような錯覚に陥った。

まるで、エルクの姿が自分に重なったように見えたのだった。

 

そしてギュスターヴは眉間に皺を寄せて目を閉じ、「これが本当に正しい選択なのか」と自問自答する。

 

 

(確かにエルクの言う通りにすれば、エルク以外の皆はここから無事に出られるだろう……。エルク一人の犠牲でここにいる人達の命が救えるのなら、天秤に掛けるまでもないのかもしれない……。だけど、本当にそれでいいのか……? 運命と戦い、夢を掴もうとするエルクは……もう一人の俺自身―――鏡に写った俺自身の姿じゃないのか……!?)

 

 

自分は何故これほどエルクに拘るのか、その答えを出したギュスターヴは目を開けて剣を強く握り締める。

 

エルクは飛びかかってくるグレムリンに剣を向け、これまで生きてきた出来事が走馬灯のように過ぎっていく感覚を感じていた。

優しくも厳しかった両親、テルムにて出会った家族と呼べる仲間達、柔らかく微笑んでくれたエメリー夫人、そして…いつも頼もしく手を差し出してくれた男爵……。

 

(あぁ…今ようやく分かった、あの時俺が奴に言おうとした言葉の先……。俺は奴に『あの人』の―――)

 

そこでエルクは目を見開く。

今自分の目の前にいるのはグレムリンのはずだったのに、懐かしさすら感じさせる背中があったのだから。

そしてその背中は握っていた剣を力強く振ってグレムリンを両断すると、エルクの方に振り返り頼もしさを感じさせる素振りで手を差し出した。

 

「―――エルク、こんなところがお前の終わりなのか? 違うだろう…お前の『夢』は、こんなとこで潰えてしまっていいものじゃないはずだ! とっととこいつらを倒してテルムに帰ろう。そしてお前は男爵の跡を継いで、街の復興をはじめるんだ!」

(そうだ……俺はこいつに、『あの人』の―――)

 

 

―――男爵様の面影が重なって見えたんだ……

 

 

エルクはギュスターヴを眩しそうに見上げながら、その手を取り立ち上がる。

 

「皆、武器を取れ! 一人で戦うんじゃなく、背中合わせになって複数人で戦うんだ! 誰一人欠けることなく皆で街に帰るぞ!!」

 

ギュスターヴは士気を鼓舞するように大声でその場にいる全員に語りかけ、剣を振り上げる。

それを聞いた者達は呼応するように雄叫びを上げ、その目に闘志を再び燃え上がらせる。

 

「エルク、こっからが正念場だ。遅れを…取るなよ?」

 

ギュスターヴはエルクにそう声をかけ、エルクはその言葉に反応して震える脚で近づき、

 

「…貴様に、言われるまでもない。それに、俺はまだお前を完全に信用したわけじゃない……だが、お前と『二人』で戦えば、誰一人欠けることなく生きて帰れる……」

 

そう言い、エルクはギュスターヴと『背中合わせ』になる。

妙な居心地の良さに自然と口の端を釣り上げていた二人は、ここが戦場であることすら忘れてしまいそうであった。

そして、今も威嚇をしているグレムリンの群れに視線を移したギュスターヴとエルクは全くの同時に、

 

 

『いくぞ!!!』

 

 

そう掛け声を上げ、団員や貴族が戦いを繰り広げている群れの中心へ突っ込んでいった。

 

 

 

―――言っとくが、俺はお前のファンなんだぜ? エルク……

 

 

―――ふん、気持ちの悪いこと言うな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある街道

 

 

柔らかい風が頬を撫でる気持ちのいい日差しが降り注ぐ街道、そこにはギュスターヴが晴れ晴れとした顔で歩いていた。

少しそのまま歩いていると、二人の婦人が井戸端会議を開いて話しているのが見える。

ギュスターヴはそのまま通り過ぎようとしたが、つい最近関わった出来事について話しているのを耳にする。

 

「ねえ、知ってます? この近くの街で傭兵が街の纏め役になったんですって」

「まぁ、こわいっ! 一体どんな人達なのかしら?」

「きっと暴力に物を言わせてのし上がった荒くれ者よ」

「もしかしたら、もう何人か……」

『こわいわねぇ~』

 

そう口々に思ったままに言葉にする婦人達だったが、ギュスターヴは特に怒りを覚えることはなく、すれ違い様に横から口を挟む。

 

「―――それは街の安全を守る自警団の人達らしいですよ」

「え?」

 

急に横から声を掛けられた婦人はギュスターヴの方を見やり、何度か瞬きをする。

 

「その街では沢山の特産品も扱っているそうですよ。水晶を散りばめた髪飾りや、職人の織った絨毯…それに干物も美味しいらしいですよ」

「聞きました、奥さん? 水晶ですって!」

「家も新しい絨毯が欲しかったから丁度いいかしら?」

 

ギュスターヴの言葉を聞いた婦人達は特産品という単語に目を輝かせ、会話に花を咲かせる。

それを見たギュスターヴは微笑み、そのまま婦人達の横を通り過ぎる。

腰のポーチからその様子を見ていたパックは、ギュスターヴの顔を見て嬉しそうに声を掛ける。

 

「妙に上機嫌じゃん、そんなにあいつらの夢が叶ったことが嬉しかったん?」

「あぁ、そうだな。他人のことのはずなのに、まるで自分のことのように嬉しくってな」

 

パックにそう語ったギュスターヴの顔は、澄みきった空にも負けないくらいに晴々としていた。

 

(誇り高い狼エルク……熱い夢を持つ男か……)

 

雲一つない空を見上げながらギュスターヴはそう独りごち、

 

「俺も負けていられないな」

 

満面の笑みになり、再び歩き始める。

だが、その一歩を踏み出そうとしていると、

 

「―――ようやく追いついたぞ、ギュスターヴ」

 

後ろから誰かに声を掛けられて呼び止められる。

つい最近聞いたような声に振り返ると、そこにいたのは、

 

「方向は分かっていたが、何処にいるのかまでは分からなかったから時間がかかってしまったぞ」

 

テルムにて別れたはずのエルクであった。

 

「な、なんでお前がここに!?」

 

何故街の代表になったはずのエルクがここに居るのか分からなかったギュスターヴは、エルクに事の説明を求め、返ってきた答えに驚かされることになる。

 

「…それは、俺があの街を纏めるには自分の力不足を痛感したからだ。剣の腕にも、人としての器にも……だから旅を通して成長したいと思ったんだ、アンタの下で―――」

 

 

 

 

 

―――時は一週間前まで遡る。

 

 

見事グレムリンの討伐に成功したエルク達『鉄の狼』はその功績を認められ、爵位こそありはしなかったが、街の代表役としてテルムの街を纏める一団へとなった。

そして討伐の一番の功労者であるギュスターヴが街を出るのを見送った後、エルクは一人考えるようになった。

その原因にいち早く気づいたエメリー夫人は、エルクに優しく告げたのだった。

 

「―――エルク…あなたは彼に、ギュスターヴさんに付いていきたいのでしょう? ここ最近のあなたを見ていればすぐに分かりましたよ。この街のことなら心配する必要はありません。ワッツもバーニィも、それに私もいます、だから安心して行ってきなさい。部屋に篭って椅子に座っていては知りえないことも沢山あります、特にあなたは外の風に当たってこそ大きくなる子です。自分のためを、この街のことを思うなら…彼に付いていって沢山勉強してきなさい。そしていつの日か、大きくなって帰ってくるあなたを、暖かく迎えさせて頂戴……」

 

エメリー夫人は微笑んで、エルクを抱きしめながら言う。

まるで母親の愛情のようなエメリー夫人の言葉にエルクは涙を流し、嗚咽の漏れる声で頷くと、旅支度を整えて屋敷を飛び出す。

そしてエルクはギュスターヴにある感情を抱いていた。

 

(あの時、あいつの言葉に勝手に体が動いた…。何故あの男の言葉はあんなにも心に響いたのか? 何故男爵様とあの男が重なって見えたのか? 張りつめた心を解いていくような暖かさを持つあの男に、俺は興味が湧いた。……だが何より、―――不思議とあの男の声に従うのが心地良いと感じていた……)

 

高揚感を感じさせる足取りでエルクは走る。その視線の先にかつて憧れた人物と重なる男を見据えて。

 

 

 

 

 

その話を聞いたギュスターヴは旅の友が増えることは素直に喜ばしいと感じていたが、それが正しいのかどうかは測りかねていた。

顎に手を添えて悩むギュスターヴを見たエルクは、自分の素直な気持ちを口に出す。

 

「…俺は今まで、他人を信じることがどうしても出来なかった。だけど、アンタだけは違ったんだ。俺は……―――アンタなら信じられると思ったんだ、どうかアンタの旅に同行させてくれ! 『兄者』!!」

「あ、兄者……?」

 

深く頭を下げて旅の同行を許してもらおうとするエルクは、ギュスターヴのことを『兄者』と呼ぶ。

エルクはギュスターヴに男爵に抱いていた父性と同じものを感じ取ったのか、そう呼ぼうと決めていた。

だが、ギュスターヴは内心穏やかではなかった。

まさかまた同年代の者から兄呼ばわりされるとは思っていなくて、口元を『ヒクヒク』させて固まってしまっていた。

そんな心情を知る由もないエルクは「ダメだ」と言われるのではないかと気が気ではなかった。

互いに黙ってしまった二人の状況に救いの手が差し伸べられる。

 

「も~、なに男二人が往来のド真ん中で黙りこくってんだよ! いいじゃんかよギュス! 『旅は道連れ、世は情け』って言うだろ? 連れてってやればいいじゃん!」

 

軽い口調であっけらかんと言うパックに意表を突かれたギュスターヴは我に返り、頭の中を切り替えてエルクに手を差し伸べる。

 

「まぁ…この際あんま細かいことはいいか。これからよろしく頼むぜ、エルク」

「あ…あぁ! 任せてくれ、兄者!」

 

ギュスターヴの差し出した手を取ったエルクは、そのままギュスターヴと握手をする。

まるで、それが二人の義兄弟としての誓いであるかのように。

 

「んじゃあ、次の街を目指して……出発だ~!」

 

片手を高く上げて笑顔でそう言うパックにギュスターヴもエルクも釣られて笑ってしまい、大声で笑い声を響かせる。

 

 

 

―――三人の笑い声が木霊する蒼穹の如く澄み渡った空、ギュスターヴはこの日この空の下で、また一人信頼出来る友と巡り会えることが出来たのであった。

 

 

 

 




どうも皆さんMAXコーヒーです。
お久しぶりです、また筆の走りが悪くなってこんなに遅くなってしまいました。
原因は不明で、調子がいい時はホントにいいんですが、悪い時はトコトン悪い、困ったものです。

今回のお話においては、前編でギュスターヴが口にした『知性』と言う言葉を根底に据えました。
典型的な例が最後のご婦人方の会話ですね。
人物でも事柄でもそれを正しく判断するということは非常に大切なことだと思っています。

さて、今回ギュスターヴはテルムでの依頼をこなし、エルクを新たな旅の共に迎えました。
前編の後書きでエルクが仲間になることを予想できてた方もいたかもしれませんね。
なにせ元ネタのオボロが主人公を『兄者』呼ばわりですからね。
こうなることを予期していた可能性はかなり高いことでしょうw
今回は前後編に別れたお話でしたので、次のお話からは新展開に突入することになります。
軽く次回の予告をしておくと……次回からヒロインが登場する予定です!
期待でDカップになるくらい胸を躍らせていてください。(自分を追い込む)
ではまた次のお話で。
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