ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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新たにエルクを旅の共に加えたギュスターヴをある悲劇が襲う。
そして、そこではギュスターヴにとって運命の出会いが待っていた。



16話 冒険者の街

 

 

―――ゲルマニア帝国

 

 

「着いたぞ、兄者。ここがヴェスティアの街だ……」

「ここがヴェスティアか…。活気があって空気もうまいし、いいところだな」

 

テルムからさらに東に歩いた場所ある、冒険者や傭兵が集まる街『ヴェスティア』。

ギュスターヴ達はある目的のために、この街を次なる目的地にしていた。

 

「よし…それじゃあ、早速戦闘開始だ……」

 

ギュスターヴは軽く深呼吸をした後に覚悟を決めたように言葉にして歩き出す。

それを聞いたエルクも無言で頷き、ギュスターヴの後に続く。

彼らが何故こんなにも近づき難い決死の表情をしているのか……。

 

それはこの時より三日ほど前まで時間を遡る必要がある―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――三日前

 

 

エルクを新たに旅の共に加えたギュスターヴ達は、そのまま旅を続けてある街に辿り着いていた。

その街はギュスターヴが旅の中で見てきた街では一際活気に満ちていて、良く言えば人の盛り上がりをそのまま表したような場所であり、悪く言えばただ騒がしい喧騒に包まれた場所という、所謂賭博街と呼ばれる街であった。

ギュスターヴは騒がしい場は好きではなかったが、このような人々の活気に溢れた場所というものは嫌いではなかった。

初めて見るカジノを物珍しそうに見るギュスターヴを横目にエルクが話しかけてくる。

 

「なんだ、兄者。カジノを見るのは初めてだったのか?」

「あぁ、こういう場所に来る機会はほとんど無かったからな」

「そういえば…兄者が今までどんなところにいたのか聞いてなかったな」

「そういやそうだったな…。まぁ、今度ゆっくり話してやるよ」

 

余計なことは言わなかったが、実際ギュスターヴは屋敷の中で人生の大半を過ごしており、カジノどころか普通に外出したこともあまりなかった。

それに外に出たとしても行くところといえば鍛冶師の師匠である親方のいるワイドか、家族同伴で子供に刺激が強すぎない場所にしか行ったことがなかった。

ギュスターヴは初めて見るカジノに興味こそあったが、今はまだ旅の途中ということもあり、『余計な出費は抑えるべき』と思っていたので入るのはやめることにした。

 

「カジノも気になるけど今は旅の途中だからな、また今度にしよう。それより手持ちの傷薬や包帯と非常食やら諸々が少なくなってきてるんだ。悪いけどエルクとパックで買い足して来てくれないか?俺はその間に今日泊まる宿屋を探してくるから。二時間後くらいにまたここで落ち合おう」

「あぁ、任せてくれ。行くぞパック!」

「アイアイサー」

 

ギュスターヴはエルクにパックと一緒にお遣いを頼み、所持金の約七割を渡してその後ろ姿を見送る。

 

「よし、俺も行くとするか」

 

そしてギュスターヴも宿を見つけるために自身も宿のあるであろう場所に向けて歩き出す。

しかし、ギュスターヴはまだ知らなかった。

二時間後に訪れる、彼にとって悪夢のような出来事が起こることを……。

 

 

 

~二時間後~

 

 

 

ギュスターヴは宿の手配を済ませたあと、他にやることもなかったので時間まで街をブラつき、色々と見て回っていた。

いくつか安くて珍しい物もチラホラ目に入ったが、そこは節約ということで我慢して本当に必要になるであろう物だけを購入して買い物を楽しんでいた。

そうしているとエルク達との約束の時間が近づいてきていたので、ギュスターヴは先程のカジノ前まで足を運んで二人を待つことにした。

しかし待てども二人は姿を現さず、ギュスターヴは三十分以上も待ちぼうけをくらっていた。

 

「遅ぇな、あいつら……。なにやってんだ…?」

 

しっかり買い出しの時間に余裕を持たせて二時間という時間を設けたにも関わらず、なかなか来ない二人にギュスターヴはやきもきしていた。

ギュスターヴが腕を組んで指を苛立たし気に動かしていると、その視線の先に待ち人が歩いてくるのが見えた。

だが、その足取りは覚束なく、項垂れていて何処か弱々しく感じられた。

「何かあったのか?」とギュスターヴは思い、自分からもエルクに近づく。

 

「どうしたんだ、エルク? なんかさっき別れた時より萎れたように見えるけど……」

 

エルクの目の前まで近づいたギュスターヴはエルクに何があったのか尋ねると、その声に『ハッ』としたように顔を上げたエルクは目を固く閉じて震えだす。

その様子にただならぬことを感じたギュスターヴは彼の肩に手を置こうとするが、

 

「―――スマン、兄者!!」

 

突然エルクが土下座をしだしたのであった。

ギュスターヴもそれには驚き、道のド真ん中でそんなことをされると要らぬ誤解を招きそうだったので、とりあえず立ち上がらせて事情を聞くことにした。

だが、結論から言えば、それはギュスターヴにとってあまり聞きたくない内容であった。

その内容とは、

 

「―――カジノで渡した金を全額スッただぁ!?」

 

ギュスターヴがエルクに渡した自分達の所持金の七割をカジノで溶かしてしまったということだった。

それを聞いたギュスターヴはフラフラとよろけ、悲壮感の漂う顔で膝から崩れ落ちてしまった。

「金…俺の金が……」とギュスターヴは今にも消え入りそうな儚い声でブツブツ呟き、背景も暗い何かに埋め尽くされていた。

ギュスターヴの落胆ももっともだ。

ヴィーゴ捕縛の賞金、エメリー夫人からの礼金、貴族の金銭感覚から見れば裕福とはいえない金額であったが、それでも苦労して手に入れた金であったので、それがものの数時間でその大半が消えてしまったとあっては流石に凹んでしまうのも無理はない。

エルクはギュスターヴのその様子に居た堪れなくなり、何か言葉を掛けようとするがその時、

 

「…ぇぞ……」

「え……?」

 

『ボソッ』と何かギュスターヴが口にする。

よく聞き取れなかったエルク反射的に疑問の声を口にするが、すぐにその声をかき消される。

 

「ざっけんじゃねぇぞゴルァ!!!」

「んな!?」

 

ギュスターヴは怒りと哀しみに満ちた目から涙を流しながら立ち上がってエルクを睨みつける。

エルクはギュスターヴの豹変ぶりに困惑して、慌てて尻餅をついてしまう。

そしてギュスターヴは右拳の骨を鳴らしながらエルクにゆっくり近づき、

 

「小僧…覚悟は出来てんだろうなぁ……?」

 

最早キャラも何もあったものではない顔で威嚇し、拳を振り上げる。

エルクは理性のタガが完全に吹っ飛んでしまったギュスターヴに命の危機感を覚え、話だけでも聞いてもらおうと必死の弁解を敢行する。

 

「ま、待ってくれ兄者! これには事情が―――!」

「言い訳は……罪悪と知りやがれぇ!!!」

 

しかしその言葉はギュスターヴの耳に届くことはなく、無情にも振り上げられた拳はエルクの頭頂部にクリーンヒットする結果となった。

 

それからしばらくして、痛みで悶絶していたエルクは頭を摩りながら事のあらましをギュスターヴに説明した。

 

 

 

~さらに一時間前~

 

 

 

ギュスターヴから頼まれていた物を買い終わったエルクとパックは、少し早いが集合場所に向かおうとしていた。

歩きながら他愛のない話をしていると、パックが思い立ったように提案してきた。

 

「…なぁ、エルク。まだ集合時間まで余裕もあるし、ちょっと遊んでいかないか……?」

「遊んでいくって……お前まさか!?」

「ククク……今お前が思った通りだよ……」

 

パックが今言った『遊んでいく』という意味、それを的確に読み取ったエルクは冷や汗を流して驚く。

 

「だ、ダメだ! 兄者は共有資金として扱ってくれているが、これは元々は兄者が稼いだ金だ! おいそれと賭け事に使えるわけないだろうが!! お前も一回落ち着いて考えてみろ、本当にそれでいいのか!?」

 

自分を信頼して所持金の大半を預けてくれたギュスターヴを裏切りたくないエルクは、パックの提案に否定的な言葉を出すが、この時のパックは一味違った。

 

「ククク……これでいいのかって…? あたぼうよ……。これが最良…最良の選択だ……! エルク…お前の言いたいことは分かるが、まずはオレの話を聞けっ……! オレには考えがある…!」

 

背景に『ざわ…ざわ…』と付きそうな雰囲気を醸し出して言うパックの言葉には、言葉に出来ないような迫力…説得力が感じられた。

錯覚だったのか、心無しかパックのアゴと鼻も妙に尖っているようにも見えた。

 

「いいか…まずは今持っている所持金全額を種銭にして、ルーレットで倍額にする…! そうしたら稼いだ額の半分を財布に戻し、今度はオレが稼いだ金を使ってギャンブルをするんだ……! これならギュスの懐も痛まない上、オレ達は心置きなくギャンブルを楽しめるわけだ…どうだ、完璧な作戦だろう…?」

「ちょっと待て! そもそも前提条件である『ルーレットで所持金を倍にする』っていう時点でおかしいだろうが!! 素人でももう少し気の利いた作戦を考えるぞ!?」

 

パックは自信満々に自分の立てた作戦をエルクに話すが、エルクにとってそれは穴だらけどころか建てた瞬間に崩れ落ちる欠陥住宅…砂上の楼閣にも劣る、綱渡りなどと言うにもおこがましい子供の絵空事であった。

だからこそエルクはパックを一刻も早く正気に戻すために大声で諌めるが、それでもパックは何かに取り憑かれたように 持論を崩すことはなかった。

 

「ククク…何を言ってるんだエルク……。今オレ達には流れが来ている…分かるんだよ…。現に少し前まで懐が寂しかったギュスの財布の中は短期間でかなりの余裕が出来ている……。これは天から授けられたここで勝負に出ろと言う啓示だと思わないか…? 勝てるんだよ…俺達は今この場…この時…この勝負で勝つことが必ず出来るんだっ……! 勝つと分かってる勝負に乗らないバカはいないだろ…? こういうときは攻めの姿勢だ…とことん攻めの姿勢なんだよ……!」

 

目の焦点が合っていない今のパックにはもはや何を言っても無駄だとエルクは悟り、力づくでも止めようと抑えにかかるが、パックはそれを『ヒラリヒラリ』と身軽に躱す。

 

「エルク…いい加減に悟れっ……! ギャンブルの本質というものを……! 身を焦がすヒリつくような感覚……背筋の凍るような狂気の沙汰の渦……! 面白いじゃないか…その流れに身を委ねてこそ人生…! 男の生き様だ……!」

(ダメだコイツ…早く何とかしないと……!)

 

なおも避け続けるパックを追い、エルクは取り押さえようと躍起になる。

しかし、

 

「残念だよエルク…。お前になら分かってもらえると思ったのに……!」

「分かるわけないだろうが!!」

 

涙を流しながら言うパックに、エルクは同意することなど有り得ないと口にする。

それを聞いたパックは本当に残念そうに首を振り、エルクに背を向ける。

 

「分かったよ…お前がそう言うなら、悪いけどお前に構ってる暇はない…。見てなエルク…俺は今日男になる!!」

 

そう言ってパックはエルクも驚く速さで彼の懐から財布をひったくり、その勢いのまま飛び去ってしまう。

そしてエルクはいつの間にか財布をひったくられたことに気づき、急いで後を追おうとするがすでにパックの姿を見失ってしまっており、

 

「しまった…!!」

 

と、顔を青くして搜索に走り出す。

 

しばらく走り続けてあるカジノの前を通りかかると、エルクは真っ白に燃え尽きた羽の生えた物体が座り込んでいるのを発見する。

エルクはそれに気づくとすぐに駆け寄り、その小さな体を揺らしながら大声で問いかける。

 

「おい、パック! お前どうしたんだ!? ―――まさか……」

 

エルクは嫌な予感を振り払いながらパックに問いかけ、それを聞いたパックは俯かせていた顔を上げてこう言い放つ。

 

「―――やっぱ…ギャンブルって怖いな……」

 

その言葉を聞いたエルクはパック同様に真っ白になり、心の中で信頼する兄貴分に対して懺悔の言葉を呟くことしかできなかった。

 

と、これが事のあらましであった。

エルクから話を聞いたギュスターヴは今もエルクの隣で正座をしているパックにゆっくりと視線を移して開口一番、

 

「―――いっつも小うるせぇお前が黙りこくってるのはおかしいと思ってたが、そういうことだったんだな…。やっぱりお前は害虫だな……!」

 

パックの心を抉る言葉を浴びせて『コキャッ』と首を捻り上げる。

そしてパックは泡を吹いて痙攣して地面に倒れこむ。

 

「本当にスマン、兄者…。俺がパックの凶行を止められていればこんなことには……!」

 

エルクは自分にも非があると言い、正座の姿勢のままギュスターヴに頭を下げ続ける。

一連の元凶であるパックをシメたことにより、少しは冷静さを取り戻したギュスターヴはエルクの言葉に何も言わず、財布の中に目を向ける。

つい数時間前まで潤っていた中身が、今では隙間風でも吹きそうなほどに寂しくなってしまっていた。

目の前にある現実にギュスターヴは溜め息を漏らし、頭を抱える。

 

「どーすんだよこれから…。なんか手っ取り早く金を手に入れられる依頼でも転がってなきゃ、野宿と保存食塗れの生活直行だぞ……」

 

ギュスターヴは顔を手で覆い、ブツブツとこれからの資金繰りに頭を悩ませていると、道行く男達がある話題を話しているのが聞こえてくる。

 

「―――よぉし、飲みに行こうぜ! 今日は俺のオゴリだ!!」

「お前最近随分と羽振りがいいじゃねぇか! なんかウマイ話でもあったのか?」

「それがよぉ、コイツ『ヴェスティア』で珍しいモン掘り当てたらしくてよ、それを貴族に見せたら高額で買取りたいって言われたんだってよ。んで今じゃ俺らの中じゃ一番の小金持ちになったってぇわけだ!」

 

大きな声でそう言っていた男達の会話を耳聡く聞き逃さなかったギュスターヴは、エルクに一言、

 

「…エルク、お前『ヴェスティア』って何処にあるか知ってるか……?」

 

そう尋ねる。

そう聞かれたエルクは頷き、それがどうしたとギュスターヴに言う。

 

「知ってはいるが、もしかして…兄者……」

「あぁ…この状況を打開する方法は一つだけだ……」

 

一息間を置いてギュスターヴは拳を握りこんで覚悟を決めたように口にする。

 

 

「―――ヴェスティアに行って、探索行で一山当てるんだ!!!」

 

 

このようなことがあり、ギュスターヴ達はヴェスティアの街に向かうことに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、話は冒頭に戻る。

 

ヴェスティアに着いたギュスターヴは、エルクの「まずは情報と仕事を探すために、酒場に行ってみよう」という提案を受けて酒場の前まで来ていた。

酒場の扉を開けて中に入ると、そこには予想していたよりもずっと少ない人数しかいなかった。

冒険者や傭兵が探索行や力試しに来るということで、荒くれ共がたむろしているだろうと警戒していたギュスターヴだったが、そのようなことは無かったので少々肩透かしを食らってしまっていた。

居るのはカウンターの向こう側でグラスを拭いている酒場のマスターと思しき人物と、年の頃は二十代前半といった感じの金髪の男性だけであった。

しかし人が居ようが居まいが自分達のやることに変わりはなく、ギュスターヴはカウンターの向こう側にいる酒場のマスターに話を聞くべく話しかける。

 

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですが…いいですか?」

「なんだい?」

「実は俺達探索行の仕事を探してここまで来たんです。探索行というのは個人の自由にやっても構わないと聞いてきたんですが、本当ですか? それと決まりごとなんかがあれば教えていただければありがたいのですが」

 

ギュスターヴからそう聞かれたマスターは「ははぁ」とギュスターヴ達を見やり、その質問に答えてやる。

 

「あぁ。兄ちゃん達駆け出しの発掘者(ディガー)か」

 

 

 

―――発掘者(ディガー)とは、その名の通りお宝を発掘することを生業としている職業の人間である。

ディガーは国を問わず各地の地方に山のようにいるが、中でもゲルマニア帝国は特にディガーが多く存在する。

その理由の一因がここ『ヴェスティア』の街である。

ヴェスティアの街の近郊には、六千年以上も昔から存在する『ハンの廃墟』と呼ばれる新米からベテランまで力試しや探索にもってこいの大きな遺跡があり、ディガーの第一歩を踏み出す地域として冒険者達の間では有名な場所なのである。

そしてディガーとは別に護衛者(ヴィジランツ)と呼ばれる者達も存在する。

ヴィジランツはその名の通り、発掘を行うディガーを危険から守る職業である。

一般的にディガーは探索行に赴く場合このヴィジランツを護衛として雇うことが多い。

そしてヴィジランツもその働きに応じてディガー同様に名を上げることもあり、一定以上の名を上げたヴィジランツになるほど仕事は確実だが、報酬もそれに比例して高くなるということにもなっている。―――

 

 

 

「なら知らないのも無理はないな。んじゃ、いっちょ俺が教えてやるよ。まず最初の探索行は個人の自由にやっていいのか?って質問からだ。これは確かに自由にやっても構わない、護衛を雇うにしろ、他のディガーと組むにしろそれはそいつの裁量次第だ。ただ気をつけろよ? 大勢で組めば仕事の成功確率も上がるだろうが、人数が多いってことはそれだけ取り分が減るってことだからな。内輪揉めで命を落とすなんて馬鹿な話もたまに聞くからな、誰かと組むときは事前にしっかりパーティ内でのルールを決めとくのがベターだな。それと探索の決まりごとだが、そういうのは特にないハズだよ。基本的にお宝ってのは掘ったヤツが頂く早いモン勝ちだ。長い間この地域は治める貴族がいなくて半ば無法地帯になってたんだが、新しく統治することになった貴族も今更制度を変えて荒くれ共の反感を買うのが恐ろしかったのか、統治する以前のままの状態で構わないってことになったんだ。だからお前さんが気にしてるようなことは起こらないから安心しな」

「そうですか、ご丁寧にありがとうございました」

 

酒場のマスターから発掘に関する話を聞き終えたギュスターヴはマスター礼を言い、エルクとこの後どうするか話し合うことにする。

 

「とりあえず聞きたいことは聞いたけど、どうするか…。流石に俺とお前の二人だけじゃ何かあった時に対応しきれないかもしれないから、ここいらに詳しいベテランのディガーでもいてくれればな…」

「だが俺達には金が必要だろう、あまり誰かと組み過ぎるのは賛成しかねるが…」

「けど避けられる危険は回避するに越したことはないからな、組むといっても一人二人といったとこか……」

 

そうしてギュスターヴとエルクが今後の方針について話し合っていると、酒場の扉が小気味の良い音を出しながら開かれる。

ギュスターヴ達は開けられた扉の方に反射的に目を向ける。

彼らが目を向けた方向にいたのは、

 

「―――あ~あ、遅かったかぁ。もう出発しちゃったのね…」

 

息を切らして残念そうに言う、ギュスターヴ達とそこまで年の変わらないであろう少女だった。

ギュスターヴは、その少女を見たその瞬間…思わず目を奪われた。

腰まで伸びた亜麻色がかった金色の髪を二つに分けて三つ編みにし、やや勝気に聞こえるが優しそうな声をしており、瞳は赤みがかった色をした美しい少女であった。

ギュスターヴは自然と自分の胸が高鳴るのが分かった。

貴族の令嬢のような華やかさはないが、それでもそれに負けない魅力のようなものがあるのをギュスターヴは感じていた。

貴族の令嬢が温室で大切に育てられた高嶺の花だとすれば、自分の視線の先にいる少女は野山で咲き誇る美しい一輪の花という印象であった。

時間にしてほんの数秒だったのだろうが、ギュスターヴにとっては長い…とても長い時間に感じられた。

それほどまでにギュスターヴにとっては目の前の少女の存在は衝撃的であった。

何故こんなにもあの少女に惹きつけられるのか理由は分からなかったが、『彼女の美しさに惹き付けられて』と言う理由だけではない事は確かだった。

しかし、一つだけハッキリ分かることがあった。

 

それは俗に言う……―――『一目惚れ』と呼ばれるものであった。

 

そうしてギュスターヴが少女に目を奪われていると、

 

「―――じゃ……兄者!!」

「!! わ、悪い…。なんだエルク?」

 

いくら声をかけても反応しない惚けたような顔をしたギュスターヴに業を煮やしたエルクが大声で呼び、現実に引き戻したのだった。

兄貴分のその様子にエルクは少々呆れたような顔になり、溜息を吐く。

 

「なんだじゃないだろう……。 これからどうするって話をしていたのに、いきなりボケっとしてちゃ纏まる話も纏まらんだろうが。…で、実際どうするんだ? 仲間を雇うのか? それとも俺達だけで探索行に行くのか?」

「あ、あぁ、そうだったな。そうだな…」

 

エルクにお小言をもらったギュスターヴはそこまで言い、後ろに視線を移して席を立つ。

そしてその後ろでは酒場のマスターと先程の少女が話していた。

 

「残念だったね、お嬢ちゃん。ついさっき皆さん出発しちまったよ」

「さっきってことは、今から追いかければ間に合うかな?」

「無駄無駄、出発後に仲間を増やしたりしないもんだよ。分け前でもめるからね。お嬢ちゃん、さてはまだ駆け出しだね?」

「そんな言い方しないでよ! これでも実力には自信があるのよ、足りないのは経験だけよ」

「ハハハハ! 若い人はみんなそう言うね。まあ、焦らずにがんばる事だよ」

 

少女はマスターに自分も急げば加わることができるかと聞くが、通常ディガーは出発前にほぼ全ての取り決めをその場でするので、今更行っても遅いだろうと言われる。

それを聞いた少女は本当に残念そうに俯き、ポツリと呟く。

 

「でっかい探索行だって聞いてたんだけどなぁ…。はーあ、どうしよう……」

 

トボトボと少女は扉に向かって歩き出し、酒場を出ようとしていた時だった、

 

「―――あのさ、ちょっといいかな…?」

 

後ろから青年の声が呼び止めたのは。

少女がその声の方に振り向くと、そこにいたのは後ろ腰に剣を下げた黒い髪の青年…ギュスターヴだった。

少女は目の前の青年が呼び止めた要件が分からず、「ひょっとしたら自分と同じなのかな?」と思い、そう率直に尋ねることにした。

 

「どうしたの? あなたも間に合わなかったの?」

「いや、そうじゃないんだけど…。俺はギュスターヴ。ディガーの初仕事を探してここまで来たんだ。気軽にギュスって呼んでくれ」

「へ~、あなた新米のディガーだったんだ。私と一緒だね! 私は『コーデリア』。まだ新米だけど、あなた達ディガーを守る護衛者(ヴィジランツ)よ。よろしくね、ギュス。私のことは『コーディー』って呼んでね」

 

自分はディガーの初仕事を探してここに来たというギュスターヴに、コーデリアと名乗った少女は花の咲いたような眩しい笑顔で「私と一緒だね」と言う。

その言葉と笑顔を真正面から受けたギュスターヴはまた惚けてしまいそうになる意識を必死になって振り払い、若干赤くなった顔で本題を話すことにする。

 

「あ、あぁ…よろしく、コーディー。…それでさ、君何処かのパーティの探索行に加わるつもりだったんだろ? 君さえよかったら、俺達と一緒にパーティーを組まないか…?」

「え!?」

「い、いや! もちろん君が嫌だって言うなら無理にとは言わないけど―――!」

 

今のやり取りの中で「もし嫌われたらどうしよう……?」と、そう思ったギュスターヴだったが、コーデリアから返ってきた言葉は自分の考えるようなネガティブなものではなく、

 

「―――いいの!? やったー! 初仕事もままならないなんてどうしたらいいんだろって思ってたけど、ディガーの人の方から誘ってもらえるなんてツイてるなぁ! ありがとね、ギュス!!」

 

むしろ大賛成といった応えであった。

コーデリアからの応えを聞いたギュスターヴは沈んでいた様子の顔から一変させ、まるでその一言で救われたというような明るい顔になり、嬉しさからコーデリアに見えないように拳を握って小さくガッツポーズを作っていた。

だが、コーデリアからは見えなくてもパックとエルクには丸見えであった。

 

「何をやってるんだ、兄者は?」

「まぁまぁ、今はそっとしといてやれって。あれは所謂『青春』ってやつですよ。エルクにはまだ早かったかな?」ホントコイツガキダナー

 

エルクは首を捻ってギュスターヴが何をそんなに喜んでいるのか分からずにそう呟き、パックはパックで事の成り行きをニヤニヤと笑いながら見つめる。

パックとエルクがそんなことを話していると、ギュスターヴがコーデリアを連れてきて二人に紹介する。

 

「パック、エルク、紹介するよ。彼女はコーデリア、俺達の探索行に加わってくれることになったヴィジランツだ。コーディー、コイツらは俺の連れでパックとエルクっていうんだ」

「ほぉ、とりあえず一人確保したのか。兄者の選んだ者なら俺に文句は無い、俺はエルクだ。よろしく頼むぞ、コーデリア」

「えぇ、よろしくね、エルク。…それで、パックって人は……?」

 

ギュスターヴから紹介を受けたコーデリアはエルクと互いに自己紹介を交わし、もう一人のパックという人物にも自己紹介をしようとするが、どこを見渡してもそれらしき人物は見当たらなかった。

そこでギュスターヴに「パックという人は何処にいるのか?」と聞こうとした時、

 

「―――私をお探しかね、お嬢さん?」

「きゃ!?」

 

コーデリアの眼前に羽の生えた小人…パックが飛び込んできたのだった。

それに驚いたコーデリアは可愛らしい声で悲鳴を上げ、ひっくり返りそうになる体勢を必死に抑える。

一方コーデリアの目の前で羽をパタつかせているパックは、まるでイタズラが成功して喜んでいる子供のような顔で笑っていた。

ギュスターヴは今のパックの行動と、まったく反省の色がない全財産の七割を消失させられた前科に苛立ち、虫でも…いや、実際虫を叩くようにパックの頭を叩き、酒場の床と接吻させる。

そしてギュスターヴは虫でも…くどいようだが実際に虫を摘むようにパックの羽を掴む。

 

「ったく……いきなり驚かせてんじゃねぇよ、この害虫が。ごめんな、コーディー。こいつがさっき話したパックだ。…オラ、挨拶と謝罪はどうしたパック」マタヒネルゾコラ?

「…ハイ、スミマセン。オレはパック、さっきは脅かしてごめんよ」コレジャパックジャナクテサンドパックダヨ

「それって…妖精!? スゴーイ! 私妖精って見るの初めて!! ホントにいたんだー!! 私はコーデリア、よろしくねパック!!」

 

ギュスターヴの右手で吊るされているパックを見たコーデリアは、本物の妖精が実在したことに目を輝かせ、彼の手から開放してやり暖かい笑顔で挨拶を交わす。

そしてギュスターヴがコーデリアとパックの様子を微笑ましく見ていると、エルクが話しかけてくる。

 

「それで、どうするんだ兄者? この三人で探索行に行くのか?」

「いや、コーディーが引き受けてくれはしたけど、それでも三人共探索行に関しては素人だ。やっぱりベテランのディガーが一緒の方が心強いだろう」

 

エルクは「この三人で探索行に出るのか?」とギュスターヴに聞くが、ギュスターヴは首を横に振る。

そして探索先でどんなことが起こるか分からない以上、先達の指導が必要になるだろうとエルクに言う。

 

「だが、今から仲間の募集を募っても……―――兄者?」

 

エルクはギュスターヴの言いたいことは理解しているが、「今から募集をかけても出発がいつになるかわかったものじゃない」と言おうとしたが、目の前からギュスターヴの姿が消えているのに気づいた。

何処に行ったのかと周りを見回すと、ギュスターヴが店の隅で飲んでいる金髪の男に向かって歩いているのが見え、コーデリア達に声をかけて急いでそれを追う。

それを尻目に金髪の男の横で足を止めたギュスターヴは、その男に話しかける。

 

「あなたは探索行に加わらなかったんですか?」

 

ギュスターヴからそう問われた男はグラスをカウンターに置き、ギュスターヴを一瞥してこう言った。

 

「この酒場に来る奴は、みんな探索行が目的だとでも思ってるのか?」

 

まるで値踏みするかのような男の視線にギュスターヴは身じろぎすることなく、下手に出るように丁寧な言葉で返す。

 

「そうですね。そうとは限りませんよね。俺はギュスターヴといいます。新米のディガーです。ギュスって呼んで下さい」

「知っている、お前達の馬鹿騒ぎがこっちまで聞こえていたからな。それより、ギュスターヴか……まさかお前のようなガキが噂の『剣聖』のギュスターヴだったとはな。やはり噂というものはアテにならんな」

 

男はそう言うとカウンターに置いていたグラスを取り、小馬鹿にするように鼻で笑う。

ギュスターヴはそれに対して特に怒りは沸かなかったが、他の面々は違った。

『剣聖』の意味を分かっていないコーデリアも、彼の相棒であるパックも『ムッ』とした表情になったが、一際怒りを顕にしていたのはギュスターヴの弟分であるエルクであった。

ギュスターヴという理解者を得たことによりエルク本来の気性の荒さはナリを潜めていたが、尊敬にも等しい感情を抱いている兄貴分が馬鹿にされたとあっては黙ってはいられなかった。

 

「…おい、今お前はなんと言った? 兄者がなんだと……?」

 

エルクはギュスターヴを押しのけて男のすぐ横まで近づくと、ドスの効いた声で男にそう問う。

普通の人ならこんな威圧感のある声で迫られればすぐに謝罪の一つでもしたのだろうが、この男はそうじゃなかった。

 

「ふん……。こんな誰彼構わず喧嘩を売る愚かなガキを仲間に加えている時点で、その程度が知れるというものだ。『剣聖』などと呼ばれて浮かれている証拠だな。それと、お前も分かっていないようだから忠告しておいてやる……無駄に吠えるのは弱い奴の特徴だ、それすら分からんお前の態度では、その男の品位まで下げるだけだな。最後に、これが一番重要だが…喧嘩を売る相手くらいは選んだほうが身のためだぞ……?」

「!!! 貴様、言わせておけば!! 表に出ろ!!!」

 

ものの数秒で一即触発の険悪な空気になるエルクと男であったが、

 

「―――やめろ、エルク!!」

 

ギュスターヴによってその場は事なきを得る。

しかし、その制止の声に不満を抱いたエルクは抗議の声を上げる。

 

「だが、兄者……!」

「いいから、俺は気にしてないよ。だからお前もここは抑えてくれ」

 

エルクの肩に手を置いて彼を下がらせたギュスターヴは男に頭を下げて謝罪する。

 

「俺の身内が失礼しました。どうかこの場は穏便に収めてもらえませんか?」

「ふん……。一応礼儀はなっているようだな。まぁいい、お前の謝罪に免じてこの場は収めてやる。さっきはそこの小僧のせいで名を名乗ることが出来なかったからな、相手に名乗られたからには私も名乗っておかねばならん。私は『ナルセス』…ナルセス・ド・ヤーデだ。今はディガーとして活動しているメイジだ。探索行に加わるためにここに来た。だが、リーダーが気に食わない奴だった。だからやめた。」

 

男は懐から杖を取り出して見せてナルセスと名乗る。

なんと驚くことにその正体はディガーとして活動している熟練のメイジであった。

エルクはその事実に驚き、もしもギュスターヴが止めていなければ倒れていたのは果たしてどちらだったのかと思い、唇を噛み締める。

 

「なんだ、やっぱり探索行に来たんですね。それで、もしよかったら俺達と行ってくれませんか? ナルセスさんは経験も豊富なようですし」

「『ようだ』、ではない。豊富なのだ。取り分が半分なら乗ろう。普通は6・4でディガーの取り分が多いのだが、お前は新米だからな。授業料だと思え。それが飲めないならこの話は無かったことにさせてもらう」

 

ギュスターヴはナルセスからそのように言われ、普通ならば断る話なのだろうが、どのような人物であろうとそれがこの道の先達であることに変わりはないので、自分達の取り分は減ってしまうのは惜しいが、先のことを考えた結果素直に受けることにした。

 

「はい、それで構いません。よろしくお願いします」

「新米にしては賢明な判断だな。お前達のような新米トリオは『ハンの廃墟』ぐらいがお似合いだ。私が案内してやる。街の外に繋がる門の前で待っていてやるから、準備が出来次第そこに来い」

 

ギュスターヴから了承の言葉を聞いたナルセスはそれだけ言い残し、さっさと酒場から出て行ってしまった。

その後ろ姿を見ていたギュスターヴ以外のみんなは口々に愚痴を零す。

 

「なんというか、すっげーヤな感じの奴だったなー」

「ホントよ! 何よアレ!? 嫌味な男!!」

「まったく同感だ!! …なぁ、兄者。本当にあんな奴の手を借りるつもりか? 俺は正直奴に背中を預けるなど絶対にゴメンだぞ?」

 

どうやら三人にとってナルセスの第一印象は最悪だったようで、その言葉を聞いたギュスターヴは困ったように笑って頬を掻く。

だがギュスターヴは三人を宥めるように言い聞かせる。

 

「まぁ、そう言うなって。どんなに嫌な感情を持ったって教えを乞えるなら我慢しなきゃ。それに、時にはそういった人とも協力する必要があるもんだ。それが出来なきゃ避けられる危険を踏み抜くことだってあるんだからな」

 

ギュスターヴの言葉に渋々と言うように頷く三人であったが、ギュスターヴから見ればまだ不満全開であり、その前途は不安であった。

 

(さて…これからディガーとしての初仕事なのに上手くいくのかね……?)

 

結束も何もあったものではないパーティに、少々どころかかなりの不安を覚えたギュスターヴはそう独りごちる。

 

(まぁ、なんとかするっきゃないか……!)

 

酒場の扉を開けて外に出るギュスターヴは、いざとなれば体を張ってでもこの仕事を成功させようと意気込む。

 

 

 

―――こうして、ギュスターヴの発掘者(ディガー)としての第一歩がここから始まったのだった。

 

 

 




どうも皆さん、MAXコーヒーですよ。
ついに出せました、私の好きなキャラ二人が。
今回登場したのは、サガフロンティア2より『コーデリア』と『ナルセスさん』です。
前回の後書きでヒロインが出ると言いましたが、正直私はコーディーもナルセスさんもヒロインだと思っていますw
一方は純粋で健気な女の子、一方は毒舌だけど気に入った奴に対しては素直になれないツンデレオヤジ…やっぱり二人共ヒロインじゃないか!

さて、馬鹿なことはここまでにして、本題に入りましょう。
今回パックの行いによって全財産の七割強を失ったギュスターヴは、金を求めてヴェスティアに入りました。
そこで出会ったのはヴィジランツの少女コーデリアと、ディガーの先輩であるメイジのナルセスでした。
二人との出会いがギュスターヴにどのような影響を与えるかはこの先の展開で語っていきましょう。
ところで読み終わった後にいっつも思うんですが、サガフロンティア2の世界地図のBGMと共に『セーブしますか?』が頭の中に出てくるんですが、それ私だけでしょうか?
では、また次のお話で。
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