ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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ディガーとして初仕事に向かったギュスターヴ達であったが…?

おまたせ☆
こんな話しか作れなかったけど、よかったかな?


17話 初探索

 

 

―――ハンの廃墟

 

 

 コーデリアとナルセスを仲間に加えたギュスターヴ達は、ヴェスティアの街の近郊に位置する遺跡、『ハンの廃墟』の前まで足を運んできていた。

 廃墟の外観は所々が崩れていて、足場にも崩れた壁や捲り上がった石畳、それにモンスターの餌食になったのであろう動物の白骨死体が転がっており、如何にもな雰囲気を一行に印象づけていた。

 ギュスターヴは辺りを警戒するように視線を廃墟に向ける。

 

「ここがハンの廃墟か……」

「そうだ。詳しい文献は残っていなかったが、なんでも六千年以上も昔に実際に存在した古代帝国の中心都市だったようだ。…だが、時が経てばこの有様だ。お前達もあそこに転がっているような物の仲間入りをしたくなければ、周りに気を配って用心することだ」

「…お前に言われなくてもそのつもりだ」

「エルク、抑えて抑えて……」

 

 ナルセスはギュスターヴの言葉に軽く頷き、ハンの廃墟に関する説明をする。そして、そのすぐ後に全員に警戒を怠らないよう言い渡す。それを聞いたエルクは「そんな当たり前のことを今更言われるまでも無い」と反抗的な物言いで返す。

 パックとコーデリアは廃墟に着くまでにギュスターヴの顔を立てて、どうにかナルセスがそういう人物なのだと割り切って折り合いをつけられることが出来るようになっていた。しかし、エルクはやはりというかなんというか、ナルセスとはトコトンまで反りが合わなかった。

 パックとコーデリアはエルクを宥めるように落ち着かせ、ギュスターヴとナルセスのいる方を見てみる。そこにはナルセスの話を聞きながらも、申し訳なさそうにコーデリアに視線を送るギュスターヴの姿があった。

 ギュスターヴはコーデリアに折角探索行に加わってもらったのに、こんなギスギスしたような雰囲気になってしまったことに心から申し訳ないと思っていた。だからこそエルクにもナルセスにも仲良くとまでは言わないが、どうにか手を取り合って欲しいと考えていた。

 ギュスターヴがそんなことを考えていると、ナルセスが口を開く。

 

「…ところで、お前達は何の目的があってディガーになったんだ? …まぁ、多方金に困って一山当てようと考えていたのだろうがな」

「はは……。まったくその通りです、返す言葉もありません……」

 

 ナルセスはギュスターヴ達に『ディガーになった経緯』を尋ねるが、どうやら大体の予想が付いていたようで、やや皮肉の込もった言葉で言う。ギュスターヴはナルセスのその言葉に図星以外の何物でも無かったので、苦笑いになって恥ずかしそうに答える。

 

「私は誰がどんな理由でディガーになろうとしているかなどどうでもいいことだが、ディガーを目指す者の大半はお前達のように一攫千金を狙う人間ばかりだ。ここ『ハンの廃墟』を訪れるディガーは後を絶たん。故に何度も探索が行われている。今更めぼしい物……特に『クヴェル』が見つかることなど、まずありはしないだろうな」

 

 

 

 ―――クヴェルとは、始祖ブリミルの存在した六千年前よりもさらに古い時代から存在する古代文明の遺産である。

 クヴェルは通常の使用者の魔力を媒介にして発動される『マジックアイテム』とは違い、クヴェル自体が『無限の魔力』を内包しており、魔法の扱えない平民ですらその力を行使することが出来る代物とされている。その力が枯渇することは決して無く、また物理的な衝撃にも非常に強い強固な作りになっている。

 さらに一概にクヴェルと言っても多種多様な形状の種類が存在する。指輪や首飾りなどの装飾品であったり、剣や槍、斧や弓などの武器、中には杖のクヴェルがあることも確認されている。

 だが、発掘されるクヴェル自体の絶対数は非常に少なく、発掘された物の多くは王侯貴族が所有しており、数いるディガーの中で一流と称される者達であってもクヴェルを所有しているのは恐らく一割にも満たないと言われるほど稀少な財宝なのである。

 平民でも扱えるということで非常に便利に聞こえるが、当然なことに強大な力には代償が存在する。意志の弱い者が手にしたり、その力の使い方を誤れば相応の危険を伴う面も持っている。

 そして、当然クヴェルという未知の存在は各国の研究機関に目を付けられている。

 現在王立アカデミーにて研究が行われているが、判明している研究結果は現在の魔法体系と同じ四系統からなる魔法具があるということだけであり、材質、製法、使用目的など多くの謎が残っており、長年研究を続けていても未だにブラックボックスという扱いとなっている。―――

 

 

 

 ナルセスはハンの廃墟は既に何度も探索が行われており、ここを探索しても珍しい何かが見つかることはないと言うが、それでもギュスターヴは諦めることを良しとしなかった。

 

「そうですね、俺も流石に初探索でクヴェルなんて珍しいものが見つかるなんて思うほど楽観的じゃないですよ。……けど、ひょっとしたら何か見つかるかもしれませんよ?」

「……希望を持つのはお前の勝手だが、ディガーというのは決して甘くないぞ。苦労したのに何も見つからないなんてことも当たり前の職業だ。命の危険も当然ある。勇み足でいざ探索に向かったはいいものの、モンスターに恐れをなして逃げ出した者や重傷を負って諦めた者、命を落とした人間だっている。私はそういった者達を腐るほど見てきた。お前も尻尾を巻いて引き返すなら今の内なんじゃないのか?」

 

 ナルセスは「小遣い欲しさで務まるような職業ではない」とギュスターヴに言い、まるで挑発でもするような口調でそう告げる。

 それを聞いていたエルクはナルセスを睨みつけ、最早我慢の限界だと言うようにナルセスに向かって歩を進めようとする。そのエルクの状態を見たパックとコーデリアは必死になって止めようとするが、完全に頭に血が上ってしまったエルクは二人の制止も聞きはしなかった。

 そして、エルクがコーデリアを押しのけてナルセスの方に向かおうとした時、

 

「―――心配してくれてありがとうございます、ナルセスさん」

 

 ギュスターヴの口からこのような言葉が出てきたのだった。

 その言葉を聞いたナルセスは、まさか礼の言葉を言われるなど思ってもいなかったので、固まったように動きが止まっていた。それは他の三人も同様だったようで、何でそこで礼の言葉が出てくるのか分からずにいた。

 四人は時が止まったようにギュスターヴに目を向けていた。しかしギュスターヴはその視線を特に気にした様子も無く言葉を続ける。

 

「大丈夫ですよ。俺達はそんなにヤワじゃありません。それに、そうならない為にナルセスさんのような人に助力を頼んだんですから。だから、そんなに心配してくれなくても大丈夫ですよ」

 

 ギュスターヴは四人を見回して、朗らかに笑いながら言った。

 その言葉を聞いたナルセスは照れてしまったのか、ギュスターヴに背を向けてそっぽを向いてしまう。

 

「ふ、ふん……! 何を言うかと思えば、下らん…。私がいつお前達の心配をしたというのだ……」

 

 心配をした覚えなどないとナルセスは言うが、その様子は明らかにギュスターヴのストレートな表現に動揺した言動であった。

 

 ナルセスは幼少の頃より生来の性分から、素直な物言いが出来る人物ではなかった。貴族子弟として魔法学院に通っていた少年時代も、まるで上から物を言う言動が原因で友人と呼べる者もあまり居らず、衝突をしてしまうことも多々あった。そしてそれは男性だけでなく、女性にも同様の態度を取ってしまうことがあった。特に在学中は『ある女生徒』と何度も衝突を繰り返していた。しかし、その不遜と言える態度も憎まれ口を叩くのも、全ては相手の為を思っているが故の事であった。

 ギュスターヴはナルセスの言動は確かにあまり褒められた言い方ではないと思っていたが、それでも彼の言葉からは敵意や悪意、相手を傷つけようというような感情を感じることがなかった。

 そのことからナルセスは純粋に相手のことを心配して、ワザとキツイ言い方をしているのだろうと思い至ったのであった。

 

 ギュスターヴがそんなことを言ってナルセスが照れたような、困ったような態度になったのを見て、パックとコーデリアは意外な一面につい笑ってしまい、先程まで怒りを顕にしていたエルクもその様子に毒気を抜かれてしまったのか、溜め息を吐いて激情を霧散させていた。

 幾らか柔らかくなった一行の雰囲気にギュスターヴは満足し、それを見たナルセスは少々不機嫌そうに、

 

「さっさと行くぞ。いつまでもこんな茶番をやっていては日が暮れてしまう」

 

 そう言ってその場から離れて歩き出す。

 ナルセスの言葉に全員は頷き、案内役のナルセスの後に続いて足を進める。

 

 

 

 それからしばらくギュスターヴ達は廃墟の外側を探索していたが、特にめぼしい物を見つけることは出来なかった。

 廃墟の探索ということで外周といえども、モンスターが襲いかかってくるであろうと予想していたギュスターヴだったが、ここまでモンスターが襲ってくるどころかその姿を見ること自体がなかった。

 それを不審に思ったギュスターヴがナルセスに尋ねたところ、「ここに居る奴らの大半が夜行性のモンスターだ。昼間に活動する奴もいるが、そういう奴は総じて弱った獲物にしか襲いかからない大した力を持たない雑魚だ。故に、本能的に勝てないと悟った相手の前には出てこない」と、そんな答えが返ってきた。

 ギュスターヴはそれを聞いて得心がいったと頷く。

 そんなことを話しているとナルセスが立ち止まり、ある提案をする。

 

「…当然だが、やはり外周など探していても何も見つからんな。このままでは埒があかん。廃墟内に入るぞ」

 

 ナルセスは「外をいつまでも探していてもお宝など見つかるはずもない」と言い、十メイルほど先にある廃墟内への出入り口の一つであろう場所を指差して、廃墟内に入って本格的に探索をすると一行に言い渡す。

 それを聞いたギュスターヴ達は一度意思確認をするように互いを見やり、皆同じ考えなのを確認した上でその提案に頷く。

 

「そうですね。このまま何も見つからないんじゃ、収入どころか報酬も払えないですからね。二人もそれでいいな?」

「あぁ、俺は兄者の意見に従う」

「私も構わないよ。正直張り合いがなくて退屈してたところだもん」

「よし…では、案内をお願いしますナルセスさん」

「いいだろう。ただし、ここから先はさらに用心しろ。中のモンスターはその環境に適応した奴等ばかりだ。一瞬の油断が命取りになることをしっかり頭に叩き込んでおけ」

 

 ナルセスはそう言葉にし、それを聞いたギュスターヴ達は再度頷いて廃墟内に繋がる横穴に向かう。

 廃墟内に足を踏み入れたギュスターヴは辺りを見回してみる。

 まだ入口付近だから日の光は届いているが、少し進めばそこは一切光の無い暗闇に支配された空間であった。

 

「ひゃ~、廃墟ってくらいだから中は暗いだろうと思ってたけど、ホント真っ暗だなあ~……」

「そうだね…それにちょっと不気味で、オバケでも出てきそうな雰囲気ね……」

 

 ギュスターヴがそう思っていると、パックとコーデリアも暗闇に少しばかりの不安を覚えたように話していた。そしてギュスターヴは見つめていた暗闇にふと違和感のようなものを感じ取り、目を細めてその一点を凝視してみる。

 そこには何か動くものがあり、どうやらギュスターヴ達の方に向かってきているようだった。

 自分達の方に何かが近寄ってきているのを確認したギュスターヴは、

 

(早速お出ましか!)

 

 腰の剣に手をかけて臨戦態勢を取る。

 それを見たギュスターヴ以外の全員もモンスターが出てきたと思い、エルクは二刀を、コーデリアは槍を、ナルセスは杖を、パックはザックリ丸を構える。

 暗闇から近づく正体の分からない足音に一行は緊張感に包まれる。

 だが、暗闇から現れたのは、

 

「―――武器を仕舞ってくれ。俺は怪しいものじゃない」

 

 モンスターではなく、斧を背負った人間だった。

 

「俺は『タイラー』。ここにお宝を探しに来たディガーだ。お前達は?」

 

 『タイラー』と名乗った男は、どうやらギュスターヴ達と同じ目的で廃墟を訪れた同業者だった。

 それを聞いたギュスターヴ達は武器を仕舞い、安心したように息を吐いてタイラーに近づく。

 

「同業者の人でしたか…。いきなり失礼しました。俺は新米のディガーで、ギュスターヴと言います。『ギュス』と呼んで下さい」

「ギュスターヴ…それに黒い髪…ということは…―――お前が『剣聖』のギュスターヴか……! 噂には聞いてたが、本当にまだ若いんだな。その歳でメイジを倒すとは大したものだな」

 

 タイラーはギュスターヴの名前を聞いた途端最近聞いた噂に思い当たり、正直に驚いたと言う表情を作っていた。ナルセスの時とは違い、決して馬鹿にしたような態度ではなかったのでエルクも一瞬だけ視線を向けたが、それ以上のことは何もなかった。

 それを聞いたギュスターヴはかなり広まっている噂に苦笑いで頬を掻き、タイラーとの会話を続ける。

 

「ははは……『剣聖』なんて大層な二つ名で呼ばれてるみたいですけど、まだまだ若輩者の身ですよ。それよりタイラーさんを見たときはモンスターじゃないのはよかったんですけど、最初は野盗かと思ってしまいましたよ」

「ん? そうか、まぁ気にしなくてもいい。俺も自分の容姿のことは自覚してるからな。今更言われてもどうも思わないさ」

 

 ギュスターヴの言ったことは、恐らくタイラーを見た九割の人が思うであろう感想であった。

 タイラーの外見…それは、野盗に間違えられてもおかしくない厳つい顔つきと威圧的にも見える筋骨隆々の体格、そして何より目を引くものが頭を縦になぞって切り残された髪型……所謂モヒカンカットと呼ばれるものだった。

 正直『世紀末の世界』にいてもおかしくない風貌のタイラーだったが、どうやら心根は穏やかな優しい人物だったようでギュスターヴ達は『ホッ』と胸を撫で下ろしていた。

 少しの間そんなことを話していると、タイラーからある提案を持ちかけられる。

 

「ギュス。お前達はこれから廃墟の奥に向かうのか? もしそうだとしたら、俺と組んで行かないか? この先の地下は予想以上にモンスターが多いんだ。俺もさっきまでそこにいたんだが、一人では対処しきれないと思って引き返してきたんだ。分け前は最低限貰えればそっちのリーダーの指示に従おう。どうだ?」

 

 タイラーはギュスターヴに自分もパーティに加えて欲しいと言う。

 ギュスターヴは正直報酬が減ってしまうと思って少し考えたが、タイラーはそれなりに場数を踏んでいる十分戦力になる人物であり、報酬もこちらの裁量に任せると言っているのだから拒む理由もないと思った。

 

「分かりました。よろしくお願いします、タイラーさん」

「そうか、感謝する」

 

 ギュスターヴはそう言ってタイラーと握手を交わし、タイラーはそれぞれに自己紹介をする。

 粗方紹介も終わったところで「いい加減に先に進むぞ」とナルセスがギュスターヴに言い、一行は暗闇に向かって足を進める。

 

「とりあえず明かりが必要だな。今松明に火を点けるから―――」

「―――待て」

 

 暗闇を照らすための松明をエルクが取り出そうとした時、ナルセスがそれに待ったを掛ける。

 

「お前は二刀の剣士だろう。片手が塞がっていては実力の半分も出せないだろうが。明かりは私が点けていてやる」

 

 ナルセスはエルクにそう言うと、杖を振って一言、

 

「―――灯れ、『ライト』」

 

 ナルセスがそう口にした途端、杖の先から十メイルくらい先まで照らせそうな光が灯る。

 エルクはそれを見て、「そういえばコイツはメイジだったな」と呟く。

 

「光源は私が出していてやるが、見ての通りそれで私の手は塞がってしまう。故に戦闘は基本的にお前達に任せることになる。どうしても私の手が必要な場合は松明を灯すか、そこの妖精を光らせろ」

 

 ナルセスの言葉に全員は頷き、準備が整ったとギュスターヴはその場の全員に声を掛ける。

 

「よし…それじゃあ行こう。皆気を引き締めろよ」

 

 ギュスターヴの言葉を合図にして一行は暗闇の蔓延る廃墟の奥へと足を進めていく。

 

 

 

 

 

 廃墟の中へと足を踏み入れたギュスターヴ一行は、階段を下って下層へと向かっていた。

 もしモンスターと遭遇しても即座に対応することができるようにギュスターヴ達は隊列を組んでいた。前衛には、単純な力比べならパーティの双璧になるであろうギュスターヴとタイラーを先頭に、中列には臨機応変に距離を取りつつ攻撃も援護もできるであろう槍使いのコーデリアと、魔法でパーティの視界を確保しているナルセスを据え、最後尾の殿には背後からの奇襲を警戒するべくエルクが任されていた。

 この隊列の組み合わせを提案したのはギュスターヴであった。

 急造のパーティだからと言って、無闇やたらとバラバラになって戦えば全滅の危険性もあるからと全員に話したのだ。ギュスターヴの提案に誰一人として否定的な色を示すものはいなかった。

 そして一行は階段を下りきって広間のような場所に出た。

 

「やっと階段が終ったか…。俺には少し窮屈な幅だったな」

「はは、同感です。でも、タイラーさんはガタイがいいから余計にそう感じたでしょうね」

「それよりさっき私の顔の横をコウモリが横切って危うく転びそうになっちゃったわ」

「あれは本当に危なかったな…。あの時俺が支えなければ、そのまま俺以外の全員がここまで転げ落ちてたかもしれなかったからな…」

 

 ようやく狭い幅の空間から解放された四人は口々に思っていたことを言うが、そこでパックがギュスターヴの腰のポーチから頭を出して『ピクッ』と耳を動かして全員に告げる。

 

「―――皆、なんか来るぞ! 多分モンスターだ!」キケンサッチ!レーダーホソク!

「ふむ…モンスターが来たか……。丁度いい、お前達の実力を見るいい機会だ。この場はお前達だけで片付けてみろ」

 

 パックがモンスターの接近に気付いて全員に告げるが、ナルセスはこれが全員の実力を測るいい機会だと言い、その場を任せることにした。

 

 「…分かりました。皆、陣形と距離を考えて戦うんだぞ! タイラーさんは俺と最前線でお願いします! エルクは周囲の警戒と俺達の討ち漏らしを頼む! コーディー、初戦闘だけど硬くならなくていい、君は俺達の援護に徹してくれ! パック、お前はナルセスさんの側にいてくれ!」

 

 ナルセスからの言葉を受けたギュスターヴは即座に頷き、全員に必要最低限の指示を飛ばして剣を正眼に構える。ギュスターヴからの指示を聞いた三人もほぼ同時に武器を正面に構える。

 四人が臨戦態勢を整えたと同時に、暗闇から緩慢な動きで腐った足を引きずる人のようなものが見える。

 それを見た瞬間、相手が何であるか全員が理解した。

 

「―――屍人(ゾンビ)か…!」

 

 

 

 ―――屍人(ゾンビ)とは、人間が死を迎えたにも関わらず活動を続ける死霊に属するモンスターのことである。

 ゾンビは生前に深い未練や生存に対して強い執着を見せる、命を落とした人間の成れの果てである。ゾンビは生きた人間を好んで襲う攻撃的な性格をしており、その特徴的な性質から光の当たらない暗闇に潜む習性を持っている。知能は生きていた頃に比べるとかなり退化しているが、人間であった頃の記憶や習慣が残っているのかそれに基づいた行動を行うことが多い。

 そしてゾンビは知能の大半を犠牲にするような形で驚異的な耐久を備えており、生半可な攻撃では動きを止めることも出来ないほどのダメージに対する鈍感さを誇っている。―――

 

 

 

「厄介な奴が出てきたな……!」

「あぁ…だが、何が出てこようとやることに変わりはないぞ」

 

 ゾンビの集団の出現にエルクは一筋汗を垂らし、少しばかり表情を固くして言うが、タイラーの激の込もった言葉を受けてすぐに表情を戻す。

 エルクとタイラーの会話を耳だけを傾けていたギュスターヴは、軽くコーデリアに視線を移す。

 どうやら緊張こそしているものの無駄な力は入っておらず、ゾンビの集団をしっかりと見据えていて、その目には力強い光が宿っていた。

 

(これなら皆大丈夫そうだな…)

 

 ギュスターヴは全員の状態を確認し、自分も気合を入れ直すように剣を両手で強く握る。

 そうしているとゾンビ達に変化が訪れ、緩慢な動きから明らかに敵意を持った獲物を見つけた捕食者の動きになる。

 

「―――来るぞ!!」

 

 命ある者を憎むような、羨むような、まるで光に群がる羽虫のようにギュスターヴ達に一斉に向かってくるゾンビを睨みつけて、ギュスターヴとタイラーは前に踏み出す。

 

「タイラーさん、まずは俺が突っ込んで牽制します! その隙を突いて下さい!」

「了解だ!」

 

 ギュスターヴの言葉を受けたタイラーは頷き、勢いをつけて突っ込むギュスターヴよりも一歩下がる形でタイラーはそれを追う。

 先頭にいたゾンビは近づいてきたギュスターヴを掴もうと手を伸ばすが、ギュスターヴはその手に掴まれる前に素早く身を翻し、その脇を滑るようにして剣で切り払って駆け抜ける。

 

「シッ! ―――次ィッ!」

 

 ギュスターヴを取り逃したゾンビはすぐにそれを追おうとするが、体が腐敗によって脆くなっていた為に斬られた脇腹から崩れそうになり、彼を追うことを中断する。

 バランスを整えたゾンビは再度ギュスターヴを追おうとしたが、自身の体に被さるように影が指したのに気づき、そちらを見ると、

 

「―――オォォーーー!!」

 

 巨漢の男―――タイラーが斧を振りかぶっていた。

 そしてタイラーはそのままゾンビの頭部目掛けて斧を振り下ろし、ゾンビの頭をカチ割る。

 

「まず一匹!!」

 

 ゾンビが動かなくなったことを確認したタイラーは、今も戦っているギュスターヴに加勢する為にゾンビの集団の中に突っ込んでいく。

 その二人の熟れた戦いを見ていたコーデリアは、

 

「す、すごい……」

 

 そう一言呟くが、援護を任されているのに「いつまでも呆然としているわけにはいかない」と頭を振って自身も戦いに参加するべく駆け出す。

 

(そうよ……私は護衛者(ヴィジランツ)なんだから! 守る対象のディガーばかりに戦わせてなんていられない!!)

 

 コーデリアは槍を強く握りしめて、そう心の中で力強く己に喝を入れる。

 駆け出したコーデリアを見たエルクも、二刀を持ち直して、

 

「ふっ…兄者め、何が『打ち漏らしを頼む』だ。この分じゃ、俺の仕事が無くなってしまうな…。兄者達ばかりに任せて、俺だけ何もしない訳にはいられんな……俺にもひと暴れさせてもらうぞ!!」

 

 そう言い、エルクも戦いに参加する為に駆け出す。

 

 仲間を常に視界に収めて指示を飛ばしながらも、自身も決して油断することなく敵を翻弄するギュスターヴ。素早い身のこなしと鋭い剣技で的確に敵を斬り倒していくエルク。初実戦にも関わらず、敵に臆さず槍の持つ距離感で上手く戦うコーデリア。そして持ち前のパワーと培われた技術で有利に戦局を進めるタイラー。

 皆の戦いを遠巻きに観戦していたナルセスの目から見ても、四人の戦いは急造にしても連携の取れた見事な戦い方であった。

 

(……なるほど。まだ荒さはあるが、それでもそれぞれが光るものを持っているな)

 

 ナルセスは四人の実力を冷静に分析して、そう評価する。

 

(…中でも特に―――)

「―――エルク、右から来てるぞ! コーディー、深追いはするな! 間合いを詰められたら一気にやられるぞ!」

 

 ナルセスにとっては四人全員が素材として一級品のものを持っていたが、その中にあってギュスターヴだけが別格として写っていた。

 自身の戦闘、仲間への指示と援護、如何に動きの遅いゾンビとの戦いであってもそれだけの動きが出来ることにナルセスは内心舌を巻いていた。

 ギュスターヴはまだ十三才と言っていたが、正直その実力と戦術だけを見れば熟練の剣士と言っても差し支えないほどのものを持っていた。

 

(『剣聖』か……名付けた奴も随分とピッタリな二つ名を付けたものだな。これで発展途上とは、末恐ろしいものだな……)

 

 ナルセスがそんな考えに浸っていると、

 

「―――これで…終わりだ!!」

 

 エルクが大きな声で剣を振ってゾンビの首を斬り落とした。

 どうやら決着がついたらしく、ギュスターヴ達四人は息を整えながら生き残りがいないかを確認していた。

 だが、地に伏せているゾンビは一匹たりとも動くものは居らず、警戒態勢を解いてそれぞれ武器を仕舞う。

 その様子を見ていたナルセスは四人に近づき、

 

「よくやったな。まだ危なっかしさはあるが、十分お前達の実力は見れた。この分なら私の足を引っ張ることはなさそうだ」

 

 ナルセスは皮肉を忘れずにそう言う。

 だが、口ではそう言うが、彼らの戦いを見て合格点には届いたようで何処か角が取れたような口調であった。ナルセスの言葉に少しだけ眉を寄せたエルクは「褒めるなら素直に褒めろ」と小声で言うが、ナルセスには聞こえていなかった。しかし、ギュスターヴとコーデリア、タイラーにはその言葉が聞こえていたようで、その様子を見て小さく含み笑いをする。

 

「誰も傷を負ったものはいないな? いないなら奥に進むぞ。まだ探索は始まったばかりなのだからな」

 

 「先を急ぐぞ」と言うナルセスの言葉に全員は頷いて進もうとするが、ふとコーデリアが何かに気づいたように後方に目を向ける。

 そこには息絶えたゾンビの亡骸があっただけだった。

 

(…動くはずないよね……)

 

 コーデリアはそう言い聞かせるようにするが、目を離せずにいた。

 

「お~い! 置いてくぞ~、コーデリア~!!」

 

 だが、数歩後ろにいるパックから呼ばれたコーデリアは「置いていくぞ」という言葉に反応して、そちらに向かおうとする。

 仲間達のところに向かおうとコーデリアが歩きだそうとした……その時だった―――

 

 

「―――グォォォォオォ!!」

 

 

 倒したはずのゾンビが突如起き上がってコーデリアに襲いかかってきたのは。

 

 コーデリアは突然に後ろから聞こえてきた雄叫びに驚いて振り返り、悲鳴を出すことも忘れていた。飛び上がって自身の頭上に迫り来る醜悪なゾンビの形相に、コーデリアは足が完全に震えてしまっていて槍を構えることすら出来ずにいた。

 

 このまま終わってしまうのか。

 こんなところで死んでしまうのか。

 コーデリアは流れる時間がとても遅くなったように感じていた。

 コーデリアの頭の中は、死を待つというのは長く、そして…死というものはこんなにも唐突に、呆気なく訪れるものだったのかという思考に支配されていた。

 固く目を閉じて、やがて来るその瞬間に備えていたコーデリアだったが、その時は訪れなかった。

 何故なら―――

 

 ―――彼女のすぐそこまで迫っていたゾンビは、空中で回転するように剣を振ったギュスターヴに真っ二つに切断されていたからだ。

 

 上半身と下半身が真っ二つになったゾンビが地上に落ちてくると同時に着地したギュスターヴは、立ち上がり様に一言口にする。

 

 

『―――空円斬』

 

 

 あと一瞬遅ければゾンビの餌食になっていたであろうコーデリアはその場に『ペタン』と崩れてしまい、呆然として剣に付着したゾンビの体液を払っているギュスターヴに目を向ける。

 ギュスターヴに助けられて安心したのか、コーデリアの体は急に震えだす。

 そのコーデリアの様子を見たギュスターヴは彼女に近づこうと歩を進めようとするが、小さく『ビシッ』と何かにヒビが入るような音が彼の耳に届く。そしてそれはコーデリアも同様だったようで、彼女はその音の発信源を見つけようと周りを見回す。

 だが、ギュスターヴがもう少しでコーデリアの元にたどり着こうという時にそれは起こった。

 

「―――え……?」

 

 コーデリアの足元が急に消えるように崩れだしたのだった。

 老朽化からだったのか、それとも先程の戦闘のせいだったのか分からないが、彼女のいる足場だけが局所的に崩れたのだった。

 突如大きく口を開けた奈落へと続く暗闇の落とし穴に吸い込まれたコーデリアは、言葉を発することも出来ずにただ落ちていくだけだと思っていた。

 しかし、無意識に伸ばしていた彼女の手を力強く掴む者がいた。

 コーデリアが咄嗟に上を見ると、その手を掴んでいたのは―――ギュスターヴであった。

 

「ギュス…!」

「コーディー…もう少し待っててくれ……! 今引き上げてやるか―――!?」

 

 間一髪暗闇に引きずり込まれる寸前でコーデリアの手を掴むことに成功したギュスターヴは、彼女を引き上げようと力を込める。

 だが、足に力を込めた瞬間、彼のいる足場も崩れて落とし穴の一部と化してしまう。

 

「―――兄者!!」

 

 コーデリアが落ちかけた時点でギュスターヴ以外の皆も彼女のいる場所に駆け出していたが、コーデリアだけでなく、ギュスターヴまでが落ちかけていることにエルクは咄嗟に手を出すが―――その手がギュスターヴが差し出していた手に届くことはなかった。

 そして、ギュスターヴはコーデリアを抱きかかえる形で暗闇の中に消えていった。

 

「…兄者……兄者ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 エルクは力の限りギュスターヴの名を叫び、意を決したような表情を作って自身もそれを追おうと飛び込むような姿勢になる。

 だが、それをナルセス達も黙ってみているわけもなく、

 

「止せ、エルク! お前まで飛び込んでどうする!?」

「だが、タイラー!!」

 

 その暴挙をパックとタイラーに押さえつけられるように止められる。

 そしてエルクは妙案を思いついたと言うようにナルセスに向かって、

 

「ナルセス! アンタはメイジだ、アンタなら『飛行』(フライ)の魔法で兄者達のところまで行くことが出来るんじゃないのか!? そういう魔法があるという話は聞いてるぞ!?」

 

 そうナルセスに言うが、

 

「ダメだ。穴の深さが分からん以上、私の精神力が持つか分からん。それに、ここでさらに戦力を分散すればあいつらだけでなく、お前達まで危機に瀕してしまうことにもなりかねん」

「だが―――!!」

「―――お前は、あいつを…『ギュスターヴ』という男を信じていないのか? 少なくとも私はあいつは必ず無事でいると信じているぞ」

「―――ッ!!」

 

 ナルセスにそう説得されたエルクは、悔しさから唇を噛み締めて壁に拳を叩きつける。

 

「…だが、このまま何もせずにいれば状況が変わることなどまずありえん。パック、お前がこの穴を通って二人の元へ行け。お前が行けば光源としても役に立つだろうし、傷を負っていても処置ができるだろう」

「わ、分かった! 皆も気をつけてくれよ!」

 

 ナルセスはパックに二人の元に向かうよう言い渡し、二人と合流するための道を探すために歩き出す。

 

「いつまでグズグズしているつもりだ? 時間が惜しい、さっさと行くぞ。私達は別のルートから道を探すのだ」

「はい、ナルセスさん」

「……分かった」

 

 パックを見送ったナルセスはエルクとタイラーにそう言い、二人もそれに従うように後に続く。

 

(…ギュス、コーデリア……。―――必ず無事でいろ……!)

 

 

 ―――血が滲むほど拳を握りこんだナルセスは二人の無事を心の中で祈る。『奈落の底に落ちようが関係無い、仲間の命は必ず救う』。彼らの中にあるのはそれだけであった……。

 

 

 

 




お久しぶりです、小説投稿者のMAXコーヒーです…。

近頃『いんすぴれーしょん』が働かずに遅くなりましたが、それだけが理由ではありません。
諸事情により、なかなか筆を持つ時間が取れずにこんな遅筆になってしまいました。
ひょっとしたら、これからはこのぐらいの間隔になってしまうかもしれませんがご容赦下さい。
ですが、もしかしたら筆が乗って早めに仕上がることもあるかもしれないので、なんとも言えないところではありますが……。

さて、今回ギュスターヴはハンの廃墟に探索行に来てコーデリアと落とし穴に落ちてしまいましたが、はてさてどうなることやら。(ベタな展開で申し訳ない
まぁ、続きが気になるところでしょうが、次の投稿を気長に待っていてくれたらと思います。
ではまた次のお話で。

追記:今回出た剣技とクヴェルについての説明が抜けていたので書き足しておきます。

『空円斬』

ギュスターヴの剣技の一つ。
空中で前方に縦回転しながら敵を斬り裂く対空剣技。
イメージとしてはテイルズシリーズの『裂空斬』を想像していただければと思います。
それだけ。

『クヴェル』とは、サガフロンティア2の世界の言葉で『水源』を現す意味。
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