2話 穏やかな日常
―――時が経つのは早いものだ。
そう独りごちるヴァリエール公爵。
(ギュスターヴとルイズ、あの子たちが生まれてからもう4年もの月日が経つ)
屋敷の庭園で笑顔で戯れる二人の子たちを横目で見ながら公爵は物思いにふける。
(ギュスターヴは物覚えも良く、4才とは思えないほどとてもしっかりしている。妹のルイズのこと
も兄としてよく見てくれている、将来が楽しみな子だ)
赤子の頃からギュスターヴはあまり泣かない子であり、両親としては手がかからないのは嬉しいことであったが、同時に心配でもあった。
2歳になる頃には双子とはいえ、兄としての自覚を持ち、妹の面倒をよく見るようになった。
従者や召使いたちに対しても、高慢に振舞うわけではなく、まるで家族や友人に接するかのような柔らかい態度で接している。
そのため、従者や召使いたちにも将来が楽しみな子として、とても可愛がられている。
(あまり馴れ馴れしい態度を取りすぎるというもの良くはないが、それがギュスターヴの生来の性格であり、人徳なのだろう)
公爵もその接し方に注意をしたこともあるが、ギュスターヴに
「れいをつくしてくれるひとには、れいをもってかえせとちちうえがおっしゃったのではありませんか」
と、たった一言で完璧に論破されてしまったのであった。
(まぁ、あの子は頭がいい。大きくなれば分別を持った立ち振る舞いが出来るようになるだろう)
そうしてもう一人の双子、妹ルイズのことに考えを切り替える。
(快活なのはいいことだが、ルイズはギュスターヴと比べ、少々お転婆でよく皆を困らせているな)
ルイズは礼儀作法の勉強などは退屈なようで、しょっちゅう抜け出しては講師を困らせている。
その度に少し困ったように笑いながらギュスターヴがむくれるルイズを連れて帰ってくる。
しかし、いかに退屈でも兄と一緒にいられるというのはルイズにとっては嬉しいようで、度々抜け出すつまらない勉強でも嫌々ながらも励んでいる。
(ルイズもギュスターヴと同じく物覚えは良いのだが、気性が激しいのが玉にキズだな)
落ち着いたしっかり者の兄、わがままながらも可愛らしい妹、年相応に健やかに育つ双子の遊ぶ姿を微笑みながら見やる。
「何を考えていらしたのですか?」
と、隣に座る公爵の妻カリーヌが先程まで中身の紅茶を楽しんでいたカップを置きながら尋ねる。
「うむ、あの子たちのことをな」
そう言い、今も楽しそうに遊ぶ双子に視線を向ける。
「ああして何事もなく元気に育ってくれて嬉しくてな」
「そうですね、あの子たちを見守ってくれていらっしゃる始祖ブリミルに感謝しなければなりませんね」
ー始祖ブリミル、6000年前ここより遥か東の地、聖地と呼ばれる場所よりハルケギニアの地に降り立ち、現在の系統魔法と呼ばれる神秘の力を人間たちに授けた偉大な魔法使い。
伝説の魔法「虚無」を使ったとされ、現在のハルケギニアでは神と崇められる人物である。
「うむ、あの子たちがああして元気に育ってくれているのも始祖の加護あってのことだな」
始祖に感謝の言葉を送りつつ、公爵はギュスターヴに関するある懸念を口に出した。
「しかし、不思議なものだな……」
「なにがです?」
「ギュスターヴのことだ、あの子はエレオノールやカトレア、ルイズとは違い、私たちとは違う髪の色をしている」
ギュスターヴは他の姉妹たちとは違い、金色や桃色、つまり両親とは違った髪の色をしている。
「えぇ、私も最初は驚きました、けれどいくら髪の色が違かろうとあの子は私がお腹を痛めて産んだ子です、そんなことは関係ありませんわ」
「私とて同じだ、ギュスターヴは大事な後継だ。そのような些細なことで非難することはない」
公爵と夫人が言うギュスターヴの髪の色……それは二人とは似ても似つかない黒であった。
なぜルイズは黒髪にならず、ギュスターヴだけが黒い髪になったかは二人にも分からない。
ただ一つ、はっきりと言えることは公爵と夫人の間に産まれた、まごうことなき実の息子であるということだ。
そこで、妻にしか聞こえないような声量で公爵は独り言のように呟く。
「私はな、カリン……いずれギュスターヴは大きな偉業を為し遂げるのではないかと、そう思っているのだよ」
公爵の呟きに夫人は
「ギュスターヴが……ですか?」
「うむ、あの子は髪の色、才覚もそうだが、見えているものが私たちとは違うと、そう思うのだ」
「まったく、親バカですわね……。でも、私も不思議とそれと同じ感覚がありますわ、確信と言っていいかもしれません」
その言葉を聞き、公爵も夫人も互いに微笑み合う。
「しかし、欲を言えば普通にこの家を継いでくれる後継が欲しかったよ」
テーブルに備え付けられた椅子の背もたれに体を預けながら言う公爵に
「あら、まだ先のことでしょう? 将来のことがどうなるかなんてわからないじゃないですか」
「フフ、それもそうだな……」
またお互いを見やり、今度は先程よりも大きな声で笑う。
「おとうさまとおかあさまなんだかたのしそうだね、おにいさま!」
ところ変わって庭園で遊ぶ幼い双子が話している。
桃色の流れるような髪の少女は、所々とがった黒い髪の少年にそう聞いた。
「うん、そうだね。なにかおもしろいことでもあったのかな?」
子供ながらに落ち着いた雰囲気の少年、ギュスターヴは妹ルイズの言葉にそう応える。
「なにはなしてるんだろうね? きになるからいってみようよ!」
ルイズのその問いかけにギュスターヴは
「うーん、どうだろうね。ぼくたちのわかるはなしじゃないかもよ?」
それを聞くルイズは少々むくれながら
「やー!きになるんだもん! ね、いきましょうよおにいさま?」
と、両親の話しに完全に興味が向いてしまっている様子でギュスターヴに懇願する。
「しょうがないなぁ、じゃあちちうえとははうえのところにいこうか」
妹のわがままに、ギュスターヴはいつものように少し困ったように笑い、両親の元に向かう。
「やったー! それじゃあいきましょ、おにいさま!」
ギュスターヴから承諾を得たルイズは喜び、兄の手を取り駆け出した。
「ルイズ、はしるとまたころぶよ?」
ルイズは、周りが見えないくらいにはしゃいで走り出すと、いつも決まって転んでしまう。
そしてその度にギュスターヴが起こしてやり、泣き止ませるのがいつものことであった。
「う~、は~い……」
そして、それをルイズもキチンと理解は出来ているようで、兄の言うことを渋々ながらも聞くのであった。
「うん、ルイズはいいこだね。いいかい? ぼくはルイズにはしるなっていってるんじゃなくて、まわりをちゃんとみないとあぶないよっていってるんだ。わかってくれるね?」
「うん! わかるよ、おにいさまやさしいもん!」
普段はとてもお転婆でも兄の言うことはキチンと聞く辺り信頼しているのがよくわかるルイズであった。
「じゃあこんどはあしもとにもきをつけて、ちちうえとははうえのところにいこうか」
「は~い!」
そう言い、手を繋ぎ直し両親の元に向かい直すギュスターヴとルイズ。
公爵と夫人にもその様子は見えていたようで、手を繋いで歩きながら向かってくる双子に手を振る。
「おとうさま! おかあさまとなにをはなしてたの?」
そんな娘の質問に公爵は
「ん? 何を話していたかって? それはギュスターヴとルイズが将来どんな大人になるかってお話しだよ」
公爵は娘の小さな頭を大きな手で撫でてやりながら質問に応える。
「ふ~ん、わたしとおにいさまのしょうらい? それがたのしかったの?」
ルイズにとっては、まだよくわからない話しだったのか珍しそうに聞くものの、興味を引くものではなかったらしい。
「えぇそうよ。あなたたちがどんな大人になるのか、どんなことをするのか、それを考えるだけで私たちはとても幸せな気持ちになるのよ」
母の言葉にルイズはよくわからないがとても嬉しくなった。
「よくわからないけど、おとうさまとおかあさまがうれしいならルイズもうれしい!」
花が咲いたような可愛らしい笑顔で応えるルイズに両親も釣られて笑顔になる。
「ね? おにいさまもうれしい?」
ルイズからそう問われたギュスターヴは
「うん、ぼくもルイズとおなじきもちだよ」
妹の笑顔にギュスターヴも自然と笑顔になり、素直に自分も同じ気持ちだと返す。
「おにいさまもおなじなんだ! うれしいな!」
大好きな兄と同じと分かり、喜びはしゃぐルイズ。
「そういうの、つづくといいよね! ず~っとつづくといいよね! おにいさま!」
「……うん、そうだね。ずっとつづくといいね」
先程の自分たちのように互いに笑い合う双子を微笑ましく思いながら、公爵もまた思う。
(始祖ブリミルよ……この子たちの言うように、どうかこの穏やかな日常がいつまでも続きますように、見守っていて下され……)
変わらないものなどありはしない、そのことを重々承知している公爵であったが、この時願わずにはいられなかった。
―――風の行方を知らないように、人が未来を知る術を持たないのだとしても……。
第二話でした。いかがでしたでしょうか?
一話よりは長く書いたけどさほど変わりませんね。
さて、ギュスターヴの髪なのですが、最初はサガフロ2のギュスと同じように金髪にする予定でした。
でも、それだと「なんかインパクト足りねぇよなぁ」ってことで黒髪にしました。
全体の外見で言えば、エア・ギアのイッキを想像していただければよろしいかと。
では、また次のお話しでお会いしましょう!