ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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皆さんお待ちかねのお姫様回ですよ。


5話 白百合の姫君

 

 

―――ガラガラガラガラ……。

 

 

今、俺とルイズは父上に連れられて王都トリスタニアに向かう馬車に揺られていた。

ルイズは初めて王都に行くことがよっぽど嬉しいのか期待で胸を弾ませ、まだかまだかと待ちきれない様子で目を輝かせていた。

一方の俺は、馬車内に付いてる窓の淵に肘を乗せて流れる景色をただボーっとしながら眺めていた。

なぜ王都に向かっているのか?

それは遡ること昨夜の晩餐の最中、唐突に父上がこう切り出したのが切っ掛けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちも七才になったことだし、そろそろ国王陛下に挨拶を賜りに行こうと思っておるのだ」

 

急に何故?とこの時の俺は思い、父上に理由を聞くことにした。

すると父上は

 

「うむ。お前たちは国王陛下と王妃様の間にはご息女がいらっしゃることは知っているな?」

 

 

―――トリステイン王国を収めるヘンリー国王陛下、彼には現在一人の愛娘がいた。

名をアンリエッタ・ド・トリステインと言う。

国民にはその容姿から絶大な人気を得ており、形容するなら『穢れ無き純白の白百合』と、そう評されるほどの可憐さ持っている。―――

 

 

「えぇ……もちろん姫殿下のことは存じ上げてますけども、それがどうかなさったのですか?」

 

トリステイン王国に住む国民ならアンリエッタ姫殿下のことは知っていて当たり前だ。殿下のことはこの国だけではなく、諸外国の平民たちだって知っているのだから。

姫殿下の話題が出た時からなんとなく予想はついていた俺だったが、一応の確認のために父上に理由を問う。

 

「実はな、政務の合間に偶然アンリエッタ姫殿下にお会いして歓談していたのだが、その時にお前たちのことを話したら是非会ってみたいと仰ってな」

 

やっぱりな、というか予想通りというかなんというか。

父上は殿下と年の近い俺たちに「殿下の遊び相手になってやってくれ」と言っているのだろう。

 

「なるほど、それで僕たちを姫殿下にお会いさせるついでに、これがいい機会だから陛下にもお目通りを願うというわけですね」

「言い方は悪くなってしまうが、概ねその通りになるな。お前たちのことだから心配はいらないとは思うが、くれぐれも失礼のないように心掛けるのだぞ?」

 

父上も言葉通りにそんな心配はいらないと考えているのではあるんだろうが、念のためというやつだろう、俺とルイズにそう釘を刺しておく。

 

「はい、承知しています。大丈夫だよな、ルイズ?」

「うん、もちろん!けどトリスタニアか~……王都に行くのは初めてだから楽しみだね、兄さま」

「ハハ、そうだな。どれだけ大きいのか今から楽しみだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、このようなことがあって現在王都に向かっているわけだった。

 

しかし……父上には申し訳ないが、正直に言ってしまうと面倒だというのが今の俺の心情だ。

次期ヴァリエール公爵家の当主として、挨拶に行くことが必要なのはもちろん理解できる。

だが、変な話ではあるが王族に謁見するということがそもそも『柄じゃない』とも思っていた。

ここだけの話、父上や母上には言えないが、俺は公爵家という身分を少々息苦しく感じている部分が心の底に芽生えていた。

恵まれた者のわがままだということも重々承知している。

家族や周りに仕えてくれている人たちが嫌いというわけでもない。

ただ、何もしなくても与えられるだけの生活に対して何かが違うと、最近は強くそう思うようになってきていた。

有体に言えば窮屈でしょうがないのだ。

 

そう思うようになったのはある時からだった。

ヴァリエール家に奉公に出てきているよく俺の面倒を見てくれる一人の召使いがいる。

俺は彼に小さい頃の話をねだったことがあった。

それを聞けば『平民の暮らしなど、貴族にとってはとても耐えられたものではない。』と大半の貴族は口を揃えて言うのだろうが、俺にとっては違った。

彼の口から出てくる話題の数々、貧しいながらも充実した生活、心から信頼し合った親友、結局告白出来ず仕舞いで故郷にて別離した幼馴染、家族のように笑い合う他人であるはずの隣人……そのどれもが、俺にはどんな宝石よりも輝いて見えた。

俺は時が経つのも忘れて彼の話に耳を傾けていた。

不思議だった……、彼の話に憧れのようなものを感じる自分が……、なぜこんなどこにでもあるような話に夢中になるのか……、それはきっと俺の願望だったんだろう。

 

 

 

 

―――『自由』

 

 

 

 

なぜ現状を窮屈に感じるのか、答えはおそらくこれなのだろう。

 

普通に朝起きて朝食を食べ、普通に親の仕事を手伝い、普通に何気兼ねなく外に出て、普通に仲の良い友人とバカなことやって遊び、普通に成長して、普通に恋をして、普通にその日あった出来事を家族と笑い合う。

そんなどこにでもありふれた普通の『自由』な生活を、俺は望んでいるのだろう。

 

しかし……何度も言うがそれは俺のわがままだ。

そんなことを父上に言って期待を裏切って失望させるわけにはいかない。

 

俺は馬鹿な考えだと自分に言い聞かせ、払拭するように頭を数度振る。

そんな俺の様子を心配したのだろうか、ルイズが何かあったのかと訪ねてくる。

 

「兄さま、どうしたの……? どこか痛いところでもあるの……?」

「ん? 大丈夫だよ、ルイズ。少し考え事をしてただけだよ」

 

心配した顔のルイズになんでもないと俺は返す。

 

「これこれ、ギュスターヴ。もうすぐ城に着くのだからしっかりしてくれんと困るぞ?」

 

笑いながら言う父の言葉に軽く謝りながら俺は外を見る。

考えに没頭する前までは街道を走っていた馬車は、気づけば王都に入り城の目前まで来ていた。

完全に周りが見えなくなるまで熟考していたようで、そのことに俺は反省しつつ気持ちを入れ替える。

 

(これから国王陛下にお会いするんだから、いつまでもボーっとなんてしてちゃまずいもんな。)

 

城に着いたのであろうか。

馬車が止まり、これから迎えるであろう大事に向けて、俺は少し憂鬱になりつつも馬車を降りるために足を地面に降ろして、ルイズと一緒に父上の後を追い、敬礼をする兵士の横を通り過ぎトリスタニア城へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~、すごぉ~い……」

 

目を丸くさせて数々の調度品が飾られた煌びやかな廊下を見たルイズはそう言葉を溢す。

確かにすごい、と俺も心の中で呟く。

あまり派手なのは好きではない俺だったが、この城内の醸し出す空気に……なんというか、本物だけが出すことが出来るオーラのようなものを感じ、つい唖然としてしまっていた。

俺たちが調度品や風景に目を奪われていると、父上が口の端を少し上げながら勿体つけたような口調でこう言葉にした。

 

「どうだお前たち、素晴らしい品の数だろう? だがな、この城で最も価値のあるものはそのようなものとは比べ物にならんくらいに可憐だぞ?」

 

父上のその言葉になんのこと―――いや、誰のことを言っているのか即座に理解した俺は、薄く笑いながら少し意地の悪い言葉で返す。

 

「父上。そのように誤解されるようなことを仰っていると、家の可愛いお姫様に愛想を尽かされてしまいますよ…?」

 

含みのある俺の言葉にルイズは首を傾げているが、父上は見る間に青ざめ心の中でルイズに謝るように慌てて懺悔の視線を向ける。

普段は威厳に溢れた父上だが、いざ娘のこととなると途端に甘くなるその様子に俺は苦笑して、からかったことを謝る。

 

「ウォッホン!……そろそろ国王陛下方のおわす謁見の間に着く、粗相のなきよう気をつけるのだぞ?」

 

父上は誤魔化すようにそう言い階段に足を踏み出す、その先にある光景を見上げてみれば重厚そうで厳かな扉が目に入った。

 

「は、はい、父さま!」

 

流石に緊張してきたのだろうか。先程まで芸術品を見て目を輝かせていたのに、ルイズは父上の言葉にどもりながら返す。

 

(このままじゃちょっとまずいかな……?)

 

そう思った俺は、ルイズの緊張をほぐしてやるために手を握ってやる。

 

「? 兄さま……?」

「大丈夫だよ、ルイズ。俺が一緒にいるからさ」

 

俺のその言葉に安心したのだろう、冷たくなって震えてた手は徐々に温かみを取り戻し、震えも収まっていた。

 

「……ありがと、兄さま」

 

ルイズは俺の手をギュッと握り返し、微笑みながら顔を赤らめてお礼の言葉を口に出す。

 

「いいさ、気にしなくて。兄妹なんだから当然だろ?」

「うん! ……けど、それでもありがと」

 

お互いの顔を見て微笑み合う俺たちの様子を見つめていた父上は

 

「二人共準備はいいようだな、では、開けてくれ」

 

父上のその言葉に、扉の横で待機していた兵士は一礼してから謁見の間への扉を開く。

 

扉が開くとまず父上が先に入り、俺とルイズもそのあとに続いて謁見の間へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――トリスタニア王城謁見の間

 

 

 

この国の姫アンリエッタは、ただいま楽しみで仕方ないと言った具合に落ち着かずに、そわそわしながら扉と部屋の周りとを忙しなくキョロキョロと見ていた。

彼女がこんなにもそわそわしている理由……それは、つい先日彼女の叔父にあたる人物、ヴァリエール公爵と楽しくおしゃべりをしていた時に交わした、ある約束からくるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私には殿下と年のそう変わらない双子の息子と娘がおりましてな、とても将来が楽しみな子たちなのですよ」

 

その話を聞いたときアンリエッタは、公爵の口から出てきた双子のことが非常に気になっていた。

前から女官たちの間で噂になっていたことを偶然聞いたのだが、なんでも彼は超が付くほどの子煩悩で、自分の子供たちのことを会う人物全員にしつこい位に語って聞かせているようなのである。

その話の中で特に気になったのが、「我が家の後継は、きっと将来この国にとってなくてはならないくらいの貴族になるだろう」という話であった。

もちろんもう一人の公爵自慢の愛娘の存在も気になった、年の近い同性の女の子、「きっといいお友達になってくれるかもしれない」と思った。

アンリエッタはその二人に是非とも会ってみたいと常日頃から懸想していた。

幼い頃から友人と呼べる存在を作ることが出来なかった彼女は公爵の子供たちならばと思い、公爵に頼み事をしてみることにした。

 

「ヴァリエール公爵、あなたに一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか……?」

「ふふ、麗しの姫殿下のお頼みとあってはお断りすることなどできませんな。どのようなご用件でしょうか?」

「その…今しがた公爵がおっしゃったご子息とご息女と会ってみたいのです。ダメ……でしょうか?」

 

彼女のその言葉に公爵は一瞬目を瞬かせた後、すぐに破顔して

 

「そのようなことでしたか、もちろん構いません。姫殿下にお会いできるのならば、あの子たちもきっと喜ぶでしょう」

 

断られたらどうしようと内心とても不安だったアンリエッタだったが、公爵のその言葉を聞くとその不安が晴れ、途端に笑顔になる。

 

「ホントですか?! 絶対…、絶対ですよ?! 約束ですからね?!」

「えぇ、約束しましょうとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして公爵に、二人の子供たちと会わせてくれるという約束を交わしたアンリエッタは、未だ姿の見えない双子に思いを馳せていたのであった。

まだかまだかと胸がワクワクする衝動を抑えきれずにいると、近衛隊士の一人が謁見の間に入室し、国王に近づきなにやら耳打ちで報告をする。

何があったんだろう?とアンリエッタが思っていると、父である国王から待ちわびた報告が聞かされる。

 

「アン、公爵が城に到着したと知らせがあったぞ。これでもう間もなくお前の会いたがっていた噂の公爵自慢の嫡男と愛娘にも会うことが出来るな」

 

そう父から聞かされたアンリエッタは、その場で飛び上がりたい衝動をなんとか押さえ込み、もうすぐ会えるであろう双子を待つことにする。

 

そうして5~10分ほど待っていたであろうか、この場所に続く扉が開き待ち人の一人である公爵が姿を現す。

公爵は扉の前で一礼し、入室する。

そして、ふと公爵の後ろに見てみると、アンリエッタと同じくらいの年格好の二人の子供が公爵の動作を真似るかのように入室するのが目に映った。

一人はまるで鳥の巣のようにツンツン尖った黒髪を持ち、どこか不思議な瞳をしている少年。

もう一人は、綺麗で流れるような桃色の髪を持つとても可愛らしい少女。

あれが公爵の言っていた二人なのだと、アンリエッタはすっかり興奮してしまっていた。

二人に目を向けていると公爵が国王から5歩程度の距離まで近づき、恭しく片膝を付いて挨拶をする。

 

「よく来たな、ラ・ヴァリエール公爵。そちらは変わりはないか?」

「は。私の方には特に変わりは御座いません。陛下こそ御健勝の御様子でなによりで御座います」

「うむ。ところでだ、本日お主がここに参った理由、それは後ろに控えておる幼子たちで良いのであろう?」

 

互いに社交辞令のような挨拶を交わし、早速と言うように国王は今日の本題である双子に目線を移す。

 

「は。その通りで御座います。国王陛下並びに王妃様と姫殿下への顔見せとして、我が公爵家嫡男と三女を連れて参った次第です」

「ふむ……そちらが噂の嫡男か」

「はい、こちらが次期ヴァリエール家当主のギュスターヴです。ギュスターヴ、お前から陛下にご挨拶を」

 

父である公爵からの言葉にギュスターヴは軽く頷き、居住まいを正して父と同じように片膝を付き、挨拶を交わすため言葉を発する。

 

「……お初に御目にかかります、国王陛下並びに王妃様に姫殿下。ヴァリエール家嫡男ギュスターヴ・フリークス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。本日は皆様にお会いすることが出来、恐悦至極に御座います」

 

堂々と、それでいて優雅に言葉を紡ぐその少年の挨拶に、その場にいた者は高貴な騎士の姿を連想させられる。

アンリエッタは、とてもまだ七才とは思えないようなその少年ギュスターヴの挨拶を聞いた直後、まるで林檎のように顔が赤くなるのが自分でもわかった。

 

「ほう……これは、公爵の大言もまんざら嘘でもないようだな……」

 

公爵は、国王から息を呑むように発せられた驚嘆したと言わんばかりの言葉に内心ほくそ笑んでいた。

自慢の息子であるギュスターヴのことは、常日頃から語っていたことだったのだが、聞くものは皆「いくらなんでも親の色眼鏡で見過ぎではないか?」と話半分でしか聞かない有様だった。

しかし、その言葉が嘘などではないと今日この場で証明されたのである。

 

「陛下からそのようなお言葉を頂けるとは、息子共々恐悦至極の極みで御座います」

 

公爵は感無量と言った様子で国王の言葉にそう返し、もう一人の双子、愛娘である三女ルイズに挨拶をするよう促す。

 

「では、次はこちらの三女ルイズのご紹介とさせて頂きます。ルイズ、ご挨拶を」

「は、はい!」

 

ギュスターヴが先程落ち着かせたおかげで体の力は抜けていたが、それでも緊張するものは緊張するのだと言うような風体のルイズであった。

 

「お、お初に御目にかかります、国王陛下並びに王妃様に姫殿下。私はヴァリエール家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します」

 

そうたどたどしく述べた少女の挨拶は、先程の少年のように凛々しさを感じさせるものではなく、とても初々しい姿であり、その場で見ていた者たちは微笑ましさを覚える。

 

「ははは、そう緊張しなくても良い。なるほど、こちらの娘も公爵の話し通り随分と可愛らしいではないか」

「ふふ、陛下にお分かり頂けたようでなによりで御座います」

 

そう軽口を交わし合う国王と公爵を尻目にルイズは「もう、父様ったら……」と恥ずかしげに顔を俯かせる。

 

「礼を言おう公爵、本日は良きものを見れた。この子達ならば娘を、ひいてはこの国を支えてくれる良き重臣となるであろう」

「勿体無きお言葉です、陛下」

 

素直にそう感じた国王はそのまま心の内を言葉にし、それを聞き国王に頭を下げる公爵もまた口ではそう言いつつも、そうなるであろうと確信していた。

 

と、そんな話しをしていると

 

「あの……お父様……」

 

国王の横から小さな声で何事かを訴えるようにアンリエッタが口を開く。

 

「おぉ、そうであったな。本日ここに参ったのは、私に挨拶をするためだけではなかったな。私としたことが思わぬ傑物との出会いに少々舞い上がってしまっていたようだ」

 

国王はそう言いながらギュスターヴを見やる。

どうやら、国王の目にもこの目の前の少年は将来の楽しみな者として映ったようである。

 

「既に聞き及んでいるであろうが、本日君たちが父上にここに連れられてきたのは他でも無い、私の娘アンリエッタと交友を深めてほしいと思ったからなのだ。さぁ、アン」

 

国王にそう促されたアンリエッタは、まだ少し顔を赤らめたままギュスターヴとルイズの前まで歩き、にこやかに自己紹介をする。

 

「初めまして、アンリエッタ・ド・トリステインと申します。今日は私のために来て頂いて本当に感謝しています」

 

まだ幼ない可憐な笑顔で優雅に一礼して挨拶をするアンリエッタに、ギュスターヴとルイズも釣られたように笑顔で言葉を返す。

 

「いえ、仕えるべき王家の姫様からお呼び頂いたのです。参上致すのは当然のことで御座います」

「兄さまの言うとおりです、姫殿下のお呼びならば当然のことで御座いますわ」

 

その言葉を聞きアンリエッタは溢れる笑顔を抑えきれずに父である国王に話しかける。

 

「お父様! 二人を私のお部屋にお連れてしてもよろしいですか?」

 

一刻も早くここから出て二人とおしゃべりして遊びたいのだという気持ちを隠しもせず、アンリエッタは国王に告げる。

 

「ハッハッハ、どうやら君たちはアンに相当気に入られたようだな。いつまでもこのようなところにいても退屈だろうしな、いいだろう。二人共、アンの相手を任せるぞ」

「ありがとうございます、お父様! さぁ、こっちですよ二人共!」

 

父からの了承を得たアンリエッタは二人の手を引き、待ってましたと言わんばかりに駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが私のお部屋です、どうぞ遠慮せずにお掛けになって」

「はい、では失礼します」

「し、失礼します」

 

終始はにかんだ笑顔のままのアンリエッタに連れてこられた二人は現在彼女の自室にいた。

 

「何か欲しい物があったら言ってくださいね? すぐに用意させますから。」

「ありがとうございます。けど、そんなに気を使って頂かなくてもよろしいですよ?」

「いいんです、だって私にとってお二人は初めてのお友達なんですから」

 

アンリエッタは、ニコニコとギュスターヴの言葉に彼女なりの持論で有無を言わさず反論する。

 

「そうだ! お二人共喉は乾いていませんか? 今お茶をお持ちするよう頼みますわ」

 

そう言いアンリエッタは部屋の外で控えている侍女を呼ぶためにベルを鳴らし、お茶を持ってくるよう言いつける。

 

「お二人はお茶請けにはどのようなものを召し上がるのですか? 私は今は林檎のタルトに夢中なんです」

「私たちの好物ですか? 私はクックベリーパイが好きで、兄さまは桃ならなんでもです」

「まぁ、そうなんですの。ルイズはクックベリーパイ、『お兄様』は桃がお好きなのですね?」

 

ギュスターヴは何気なく自分が呼ばれている『お兄様』という単語に困ったように苦笑していた。

 

それは遡ることほんの少し前のことであった。

 

 

 

アンリエッタは二人のことをどう呼ぶか、先程部屋に着く前までに歩きながら聞いていた。

ルイズに対する呼び方はすぐに決まったのだが、ギュスターヴの呼び方については一悶着があった。

最初はアンリエッタがなんと『ギュスターヴ様』と呼ぶなどと言ったのだった。

それには焦ったギュスターヴがなんとか他の呼び方にして欲しいと頼み込み、渋々ながらもアンリエッタもそれに従ったのだった。

ならばと、アンリエッタはそこで少し言い辛そうに「それでは、『お兄様』と呼んではダメでしょうか?」と提案してきたのであった。

後頭部に汗を垂らしながら困惑したギュスターヴが理由を聞くと、彼女曰く「あの挨拶の時思ったのです。こんなにも凛々しくて素敵な方がお兄様であったならどれだけ素敵なのだろう!と。」

これには流石に開いた口が塞がらないといった表情になってしまったギュスターヴであったが、さらに彼の横からもう一つ問題がやってきたのだった。

なんとルイズが大好きな兄を取られると思ったのだろうか、半ベソをかきながらアンリエッタにそれだけは許さないと喚き散らしたのであった。

双方譲らないルイズとアンリエッタに、『ハァ……』とギュスターヴは心底疲れたように溜息を吐きながら二人の仲介をして、二人がギリギリ妥協出来るラインを探しながら呼び方を決めたのだった。

そうして、ルイズは渋ったが結局年下であるにも関わらず、ギュスターヴに『お兄様』という呼び方が定着してしまったのであった。

 

「どうしたの? 兄さま?」

 

ルイズは先程のやり取りを思い出して話しに参加せずにボーっとしていたギュスターヴに何かあったのか問う。

 

「あぁいや、姫様が思ってたよりお転婆な方だったからそれが意外でね」

「まぁ、ひどいですわお兄様。レディに対して失礼ですわよ?」

 

いたずらっぽく冗談を言うギュスターヴにアンリエッタもまた冗談で返す。

そして、そんなやり取りに三人は皆お互いの顔を見て大声で笑い合う。

 

こんなに楽しい会話なんて生まれて初めてかもしれない。

アンリエッタは心の底からそう思ったが、一つだけ自分に友達が出来たなら自分に対してこうであって欲しいということがあった。

普通ならば叶うことはないと思いつつも、この二人ならばと意を決して相談してみることにする。

 

「あの……二人に相談したいことがあるのですがいいですか?」

 

アンリエッタからの言葉に二人は一瞬なんだろう? という表情をするが、すぐに、

 

「なんでも仰って下さい。私たちはもう姫様のお友達ですから、なんら遠慮することなど御座いませんよ?」

「そうです。私たちは姫様のお友達ですよ? そんな水臭いことなど仰らないで下さい」

 

とギュスターヴもルイズも優しく微笑み、なんでも言って欲しいとアンリエッタに告げる。

アンリエッタはその言葉を聞きパァっと笑顔になり、先程のギュスターヴの件よりも言い辛そうにしながらも期待を込めて自らの願望を口に出す。

 

「その、相談というのはですね……、私と、普通のお友達のように接して欲しいのです」

 

その言葉にギュスターヴは一瞬声を失い、ルイズもまた事の重大さを理解出来たので同じように反応できないでいた。

 

「…姫様、それは何卒ご容赦頂けませんか……?」

 

重々しくそれは出来かねないと口を開くギュスターヴに対し、アンリエッタは、

 

「なぜです?あなたたちはさっき『なんでも言って欲しい』と仰ったではありませんか……?」

 

まさか断られると思っていなかったアンリエッタは、涙目でギュスターヴの否定の声に反論する。

 

「確かにそうは申しました。ですが、お分かり下さい。一公爵家の子弟如きが仕えるべき王族の一員たる姫様に対してそのような態度で接するなど許されることではないのです……」

「そんな……私、あなたたちならばと思い相談しましたのに……、あんまりですわ……」

 

先程までは涙目だったアンリエッタだったが、今では完全に泣き出し、嗚咽を漏らしながらそう声に出す。

 

ルイズはその様子にどうしたものかとオロオロして必死に宥めようとするが、火が点いたように泣きじゃくるアンリエッタには届かなかった。

対してギュスターヴは、自分たちを信頼し、自分たちにならと己の心の内にある感情を吐露した上で、なお拒絶され傷ついたアンリエッタのその様子に良心を痛めていた。

 

彼は今、貴族としての忠誠と友としての友情とをかけた秤の間で揺られていた。

 

チラ、と一向に泣き止まないアンリエッタを見やり、さらに良心を痛めつけられる結果になったギュスターヴは、その様子に先程この部屋に辿り着く前に吐いたものよりも一層深く溜息を吐き、忠誠と友情とを秤にかけていた天秤が友情に傾くのを確認してアンリエッタに告げる。

 

「……負けました。姫様、そのご相談引き受けましょう」

「兄さま!?」

 

両手を上げて参ったというポーズを取るギュスターヴにルイズは心底驚いたように兄の方を向く。

 

「……ホントですね?」

 

その言葉を聞きアンリエッタはピタリと泣くのをやめてギュスターヴに真偽を問う。

 

「はい、二言はありません……。他の誰もいないという状況付きでしたら……」

 

その瞬間、アンリエッタは言質を取ったとばかりに両手で覆って伏せていた顔をバッと上げる。

 

「では、これからはそれに加えて私のことは『アン』とお呼び下さい。あぁ、もちろん拒否は受け付けませんよ?」

 

先程まで泣きじゃくっていたのが嘘のようにケロっとした態度のアンリエッタにルイズは、まさかと思い

 

「あ、あの、姫様……?」

「あら。いやですわ、ルイズ。今さっき『アン』と呼んで下さいと言ったばかりではありませんか。」

「姫様……もしかして、さっきの……」

「うふふ……男の方に対する女の一番の武器は、涙だというのは本当のことだったのですね」

 

そのアンリエッタの言葉にルイズは口をヒクつかせ、ギュスターヴは、

 

(嘘泣きだったのかよ……!?)

 

と、「してやられた!」というツッコミを心の中でしていた。

 

「さぁ、約束ですよ二人共」

 

小悪魔のように笑うアンリエッタの言葉に「これは完全に俺の負けだな……」と腹を括ったギュスターヴは、

 

「はぁ、分かりました……いや、分かったよ『アン』」

 

と交わした約束を履行するのであった。

 

「うふふ、やっぱりお友達というものはこうでありませんと」

 

ギュスターヴはアンリエッタの将来が―――いや、いずれ彼女と関わりを持つであろう世の男達に対して本気で心配になってきており、心の中でこの心配が杞憂で終わるようにただただ祈っていた。

 

 

 

 

その後は、ルイズとアンリエッタがまたもや一悶着を起こし、殴り合いの喧嘩にまで発展して、ギュスターヴが体を張って二人の仲裁に入るなどの事件も起こったが、それ以外は何事もなく時間が過ぎ去った。

公爵の使いの者が迎えに来るまで仲良く三人で遊び、帰り際にはアンリエッタと、

 

「絶対にまた来て下さいね! 約束ですよ!」

 

という約束を果たし、ギュスターヴとルイズの初めてのトリスタニア城訪問は幕を閉じた。

そして、帰り際に父である公爵にギュスターヴは、

 

「どうしたのだ? ギュスターヴ。少々やつれた様に見えるが……」

 

と、心配されたこともあった。

時間にしてほんの数時間のことであったが、ギュスターヴもルイズも友人と楽しいひと時を過ごし、帰りの馬車の中では二人共眠ってしまっていた。

その夢の中には三人の少年と少女がおり、仲良く遊ぶ姿があった。

 

 

 

―――こうして、公爵家の双子と王家の姫君は邂逅を果たしたのであった。

 




うひ~、書いた~。
なんか更新を重ねる毎に文字数が多くなっていく、いい傾向なのかな?
さて、アンリエッタ姫との邂逅回でしたがいかがでしたでしょうか?
敬称とか言葉遣いとかあまり詳しくないから文法変になってなきゃいいけど……。
なにか間違いがあったりとか誤字、脱字があったら感想の方で報告してくださるとありがたいです。
では、また次のお話で!
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