ゼロの使い魔 ~小さな物語~   作:MAXコーヒー

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ようやく魔法の訓練を開始するギュスターヴであったが・・・?


6話 裏切られた現実

 

 

―――ある日の晩餐時、その言葉は公爵夫人カリーヌの口から唐突に出てきた。

 

 

 

 

「ギュスターヴ、ルイズ。あなたたちにも、そろそろ魔法の訓練を始めさせようと思います」

 

 

 

―――『魔法の訓練』

 

 

 

カリーヌが発したその言葉に、ギュスターヴもルイズも一瞬『ポカン』とした表情となったが、その意味を理解した時、二人して身を乗り出して、

 

「ホントですか!? 母さま!?」

「ようやく魔法の訓練の許可を頂けるんですね!?」

 

カリーヌから魔法の訓練の許可を貰ったギュスターヴとルイズは、顔を見合わせて待ちに待ったこの瞬間を喜び合った。

 

 

 

―――ここハルケギニアにとって、魔法を使えるということは一種のステイタスであり、貴族が貴族たる最も大きな理由であると言える。

貴族の子弟は平均して7才ほどになると、魔法使い(メイジ)になるための魔法の訓練を始める。

魔法には大別して、火・水・風・土、この四つの属性を扱う『系統魔法』、基本的で系統に関係なくメイジなら誰でも扱える『コモン魔法(マジック)』、そしてエルフや亜人と呼ばれる種族の扱う『先住魔法』の3つが存在していることが確認されている。―――

 

 

 

「やったね、兄さま! これでやっと私たちも立派なメイジになれるね!」

「あぁ、そうだな! これから始まるんだ、メイジとしての第一歩が!」

 

喜ぶギュスターヴとルイズを見つめる両親と姉二人、彼らもそんな二人のはしゃぎ様をまるで我が事であるかのように微笑みながら見やる。

今二人が言ったように、二人はこの日を一日千秋の想いで待ちわびていた。

 

 

 

―――『立派なメイジ』

 

 

 

これはギュスターヴにとってもルイズにとっても、自分が目指すべき理想の姿だった。

しかし、ルイズにとっては立派なメイジになるということが最上の目的でも、ギュスターヴにとってはそれ以外の目的の他に、また別の想いがあった。

それは、「公爵家の嫡男として両親の期待に応える」という恩返しにも似た感情。

責任ある貴族の嫡男として生まれたことに対して、彼は少々窮屈に感じている部分こそあるが、それでも何不自由無く育ててくれている両親に対して負の感情があるわけではない。

むしろその逆で、自分の将来に多大な期待を掛けてくれている両親に、なにか返せるものがあるならと、常々思っていた。

そして、考えた彼が出した答えの一つが、『誰にも負けない立派なメイジ』になることだった。

 

(そうだ…、これでやっと父上や母上に一つ恩を返すことが出来る!)

 

ギュスターヴは興奮する気持ちを無理やり抑えつけるように両の拳を握り込む。

 

「母上、訓練の方はいつからの予定なんですか?」

 

それでも待ちきれない気持ちは変わらないのか、ギュスターヴは訓練の予定日を母に問う。

 

しかし、父ヴァリエール公爵に

 

「ハッハッハ。まぁ落ち着け、ギュスターヴ。逸る気持ちはわかるが、焦っても良い結果は出せんぞ?」

 

珍しく興奮した様子のギュスターヴに公爵は笑いながら落ち着くように宥め聞かせる。

父の言葉に冷静さを取り戻し、ギュスターヴは少し恥ずかしそうに頭を掻きながら椅子に座り直す。

 

そんなギュスターヴの姿に、夫人は可愛い一面を見れたというように口元で笑いながら

 

「あなたたちの訓練には、特別に家庭教師の方をお呼びしているの。ですから、訓練の方は先生がお越しになる三日後を予定しています」

 

母の言う家庭教師という言葉にギュスターヴもルイズも反応して、疑問符を浮かべる。

 

「家庭教師ですか? 私はてっきり父さまと母さまが指導して下さると思ってたんですけど。」

「僕も同じです。なぜわざわざ家庭教師の方に?」

 

ルイズとギュスターヴが当然の疑問を母に投げかけると夫人は

 

「そのことについてですが、本来なら私たちが手ずから指導したかったのですが、お父様が『どうせなら一流のメイジに家庭教師に来てもらおう』と言って聞かなかったのですよ」

 

母のその言葉に二人は父の方を見るが、公爵は照れくさそうにそっぽを向いて咳払いをするだけであった。

 

「ゴホン!! とにかくだ、先生がいらっしゃるのは三日後だ。それまで魔法の勉強の予習をするくらいはいいだろう」

 

ギュスターヴとルイズは、「自分たちはそれだけ期待されているのだ」と両親の想いに応えるために気持ちを奮起させ、来るであろう三日後に備えることにした。

 

「頑張りなさいね、二人共」

「ふふ、応援してるわ」

 

エレオノールとカトレアも二人に激励の言葉を送り、この日の晩餐はつつがなく終わることになった。

 

 

 

―――就寝前にギュスターヴとルイズは、自室にあるそれぞれのベッドの上でこれからについて語り合っていた。

 

「三日後からやっと魔法の訓練か~、…ね? 私たちの系統って何になるんだろうね?」

「まだわからないな~……、けど、どんな系統でも自分に出来ることを精一杯やれば、きっと立派なメイジになれるさ」

「そうだね……。うん、そうだよ! 兄さまの言う通りだね!」

 

楽しみで仕方ないと言った様子で語る二人だったが、ギュスターヴが夜も更けてきたことでそろそろ寝ないといけないと思い、ルイズに

 

「結構長く話し込んじゃったな。さ、今日はもう寝よう? 夜更かしして寝坊したら母上に叱られちゃうぞ?」

 

兄のその提案にルイズも流石にそれは勘弁して欲しかったのか

 

「そ、そうだね、じゃあもう寝よっか。おやすみ、兄さま……」

 

そう素直に兄の言葉に従い、床に着くことにした。

 

「うん、おやすみ、ルイズ……」

 

自分の言葉に従うルイズが就寝したことで、ギュスターヴも床に着く。

 

全ては三日後……。

 

明るくなるであろう未来に想いを馳せ、ギュスターヴとルイズは眠りにつく。

 

 

 

 

 

しかし……そんな二人の夢を嘲笑うかのように、運命が残酷な現実を突きつけることになろうとは、今の二人には知る由も無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後は、何事も無く三日が過ぎた。

 

当日の早朝に全くの同時に目が覚めた俺とルイズは、ようやくこの日が来たか、と跳ね起きるようにベッドから起き上がる。

 

「やっと今日からだね、兄さま…」

「うん。この三日は長く感じたけど、いざ迎えるとあっという間だったな…」

 

俺たちは神妙そうな顔を見合わせて言葉を交わすと、次の瞬間には途端に破願し、今日の準備をするためにいそいそと着替え出す。

朝食の準備が出来た旨を召使いが伝えに来るまでに身支度を整えていた俺たちは、今日一日の英気を養うため食堂へと向かうことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、もうそろそろお越しになられても良い時間だな」

 

父上は懐から懐中時計を取り出し、時間を確認してそう呟く。

家族全員で朝食を済ませた俺たちは食休みを取りつつ、今日来るであろう件の家庭教師のメイジについて父上に聞いていた。

 

父上が言うには、なんでもその人は父上や母上とは旧知の間柄で、心から尊敬できる人物だと言う。

軍にいた頃はなにかトラブルを起こす度に、優しいながらも有無を言わさぬ口調で説教をされていたらしく、父上も母上もそのことを思い出し苦い顔で笑っていた。

実力の方は、なんと四系統全てを扱えるスクエアメイジであり、戦闘術・魔法・指揮能力・後進の育成・そして何よりも人格においても誰もが認める人物だったらしい。

その上、王族の魔法指南役に抜擢されたことがあるほど、国王陛下からの信頼も厚い人であったようだ。

しかし、その人は『自分には身の丈の合わぬ身分』と国王陛下からの指名を断わり、軍を退役した現在は平民の暮らしがより良くなるように自分に出来る範囲で尽力しているらしい。

その人も最初は、俺とルイズの専属家庭教師になることに難色を示していたが、一年という期限を設けたことと、父上の根気と熱意に負けてこの一件を快諾してくれたようだった。

 

俺はその話しを聞いた時、心が震えるのがわかった。

貴族でありながら平民を見下すでもなく、国の基盤である者たちのために自分の力を惜しみなく振るうその人柄に、俺は自然と尊敬の念を抱いていた。

『早く会ってこの目でその人を見てみたい』、そんな衝動が頭の中を駆け巡っていた時だった。

 

 

コンコン

 

 

扉をノックする音が聞こえて、執事長であるギャリソンが扉を開けて一礼し、待ちわびた一言を発する。

 

「失礼します。公爵様、今しがた先生がお見えになられました」

 

その言葉に俺とルイズは満面の笑顔になり、父上も

 

「そうか! では、応接室にお通ししてくれ、私たちもすぐに向かう」

「かしこまりました。では、そのように」

 

一礼したギャリソンが食堂から出ていくのを確認した後、少しの時間を置いて、父上と母上に連れられて俺とルイズもその先生が控えている応接室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前たち、準備は良いな?」

 

応接室の前に着いた公爵はギュスーヴとルイズにそう問う。

 

「はい、もちろんです」

「私も大丈夫です」

 

心の準備は万端と、二人は父の言葉に力強く頷く。

その二人の様子に公爵もまた頷き、応接室の扉をノックする。

数瞬の沈黙が流れたが、その音に反応するように

 

「はい、どうぞ」

 

と静かな、それでいて優しげな男性の声が入室を促す。

 

「失礼します」

 

まず公爵が扉を開けて部屋に入り、それに続き夫人が、最後にギュスターヴとルイズが部屋に入る。

 

「お久しぶりですね、ヴァリエール公爵、それにカリーヌ夫人……」

 

掛けていたソファーから立ち上がりながら公爵と夫人にそう言葉を掛けるのは、年の頃は50代半ばといった髪の白み始めた壮年の男性だった。

 

「本日は我が子達のためにわざわざお越し頂き誠に感謝致します、『シルマール先生』」

 

頭を下げて言う公爵から『シルマール』と呼ばれた人物は、その言葉に優しく微笑みながら

 

「構いませんよ、私はあなたの熱意に当てられて自分から来たのですから」

 

シルマールが返した言葉に嘘偽りはなく、長年の付き合いからそれが分かった公爵も夫人も「この人はいつになっても相変わらず優しいままだな」と夫婦揃って同じことを思った。

と、そこでシルマールの口から公爵夫妻にとってはあまり子供達に聞かれたくないことが飛び出してくる。

 

「それにしても……、あのヤンチャばかりして私や上司の皆を困らせていたあなたたちが、今や四人の子の親ですか。ふふ、年月が経つのは早いものですね。」

 

昔を懐かしむように言うシルマールであったが、二人にとってはそれどころではなく、なんとかギュスターヴとルイズに弁明をしようとするが、時すでに遅く、二人の我が子から「両親にもそんな頃があったんだなぁ」という生暖かい視線で見られることになった。

そんな状況を作り出しておきながら、今も呑気にお茶を楽しんでる張本人に、公爵も夫人も「やっぱり相変わらず変わってない!」と心の中で盛大に項垂れる。

すっかり忘れてしまっていたが、彼にはナチュラルに人の痛い部分を突いてくるところがあったのを思い出し、再会してわずか数分で二人は上下関係を再確認させられたのであった。

 

「? どうなさったのです? お二人してそんなに渋い顔をなさって……」

 

思慮深く、人望も厚く、誰もが認める人格者である彼だったが、少々天然の気があり、意図せずに出てきた先程の言葉も、悪気があって言ったわけではなかった。

そのことを夫妻も分かっており、だからこそ対処に困るといった具合にこめかみを抑えながら渋い顔をするしかなかった。

 

「シ、シルマール先生……。わ、私たちのことは後でもよろしいでしょう。本日お呼びした理由は、他にあるのですから……」

 

夫人が「これ以上この人に昔話をさせたら、自分たちの威厳が保てなくなってしまう」とでも言うように自分たちへの話題を逸らす。

 

「あぁ、そうでしたね。いけませんね、年をとってしまうとつい昔話に花を咲かせたくなってしまう。悪い癖です…」

 

シルマールは夫人の言葉に反省したというように謝ると、公爵の話していた二人の子供に近づき、目線を合わせるように片膝になって屈む。

 

「初めまして、私はシルマールと申します。あなたたちのお名前を聞かせてもらってもよろしいですか?」

 

先程までと全く同じく、優しく語りかけるように言葉を掛けるシルマールに

 

「はい、僕はギュスターヴ・フリークス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します」

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。今日からご指導のほどよろしくお願いします。ミスタ・シルマール」

 

威圧感のない口調に、いつもなら緊張してしまうルイズも、彼の柔らかい雰囲気に解きほぐされたのかギュスターヴと同じように元気よく自己紹介をする。

 

「元気があって大変よろしいですね。流石はお二人の子達です」

 

シルマールからのお褒めの言葉を聞き、ギュスターヴとルイズは少し照れくさそうに、公爵と夫人は誇らしげにそれぞれ笑う。

 

「では、自己紹介も終わったことですし、早速魔法の訓練に入りましょうか。よろしいですね? お二方」

「はい、よろしくお願いします。それと、訓練の時は我が家の裏庭をお使い下さい。あそこならば多少荒くお使いになっても構いませんので」

「シルマール先生、この子達のご指導のほどよろしくお願いしますわ」

 

シルマールからの提案に快く頷き、二人のことを任せたと夫妻は恩師に頼む。

 

「えぇ、お任せ下さい。この子達はきっと立派なメイジになれるでしょう」

 

夫妻の言葉にシルマールも頷き、自分が二人の子供に感じた『力』から来る感想をそのまま告げる。

 

「さぁ、では行きましょうか」

『はい!』

 

シルマールの号令にギュスターヴとルイズは大きな声で返事をし、訓練の場である裏庭へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「まず始めに、君たちは魔法のことを知識としてどのくらい知っていますか?」

 

裏庭に着き、実技の前に基本的なこととして座学の授業をすることにしたシルマールは、二人がどのくらい魔法に対して知識を有しているか訪ねてみる。

 

「はい、魔法とはかつて始祖ブリミルがお広めになった神秘の力です。魔法には、四属性からなる系統魔法・基本的なコモン魔法・エルフの使う先住魔法・そして始祖ブリミルがお使いになった伝説の『虚無』。この四つがあることです」

 

ルイズは胸を張りながら、シルマールの問いに教科書に載っているような模範解答で自信たっぷりに答える。

 

「よく勉強していますね、その通りです。この分なら、座学の方は分からないところがあればくらいで良さそうですね。優秀な生徒のようで教え甲斐がありそうです」

 

優しく笑いながら、柔らかい物腰でシルマールはギュスターヴとルイズをそう褒める。

 

「では、早速実技の方に移ってみましょうか。二人共『杖』は持ってきていますね?」

 

 

 

―――シルマールが言った『杖』。

これは、メイジが魔法を使う上で絶対に必要不可欠なアイテムである。

杖のなくなったメイジはメイジではなく、魔法を使えない一般人と同じ存在となってしまう。

だからこそメイジは常に杖を携帯していなければならず、非常時にはすぐに取り出して魔法を唱えられるように訓練するのである。

しかし例外も存在する、それは先程ルイズが言った『先住魔法』。

これは通常のメイジのように杖を必要とせずに、通常の魔法よりも強力な力を行使することが出来る魔法のことである。

これを扱うのは一部の亜人や人類の天敵『エルフ』などであり、謎の力とされている。―――

 

「はい、この日のために用意していました」

「私もです!」

 

ギュスターヴとルイズはようやく実技に移れるのが嬉しいのか、新品の杖を取り出して溢れる笑顔を抑えきれずにいた。

 

「大変よろしいですね。では、まずは簡単な魔法……コモン魔法から覚えていきましょうか」

 

シルマールのその言葉にやや興奮しながらも素直に従う二人。

 

「最初はコモン魔法の一つ、『念力』(テレキネシス)から学んでいきましょうか」

 

少しずつ進んでいく魔法の講義に食いつくように聞き入る様子の二人にシルマールは

 

「では、最初に私がお手本を見せますので、二人共よく見ておくんですよ?」

 

シルマールはそう言うと10歩ほど先にある手頃な石に杖を向けて一言

 

「浮かべ…」

 

と言葉を発する。

 

その瞬間。

地面に身を任せていた小石は浮かび上がり、シルマールの杖の動きに合わせて円運動をするようにクルクルと回転を始める。

これにはギュスターヴもルイズも興奮を抑えきれずに

 

「すごいです先生! 僕もやってみたいです!」

「あっ! ずるい、兄さま! 私もやってみたいんだもん!」

 

とまくし立てるようにシルマールに詰め寄る。

 

「ハハハ、そう慌てなくてもいいですよ。順番にやっていきましょう。」

 

シルマールは興奮して詰め寄る二人に宥めるようにそう言い聞かせ

 

「では、まずはギュスターヴ君からやってみましょうか。」

「はい!」

 

シルマールは、最初は兄であるギュスターヴにやってみるよう指示を出す。

それを聞いたルイズは少しだけむくれているが、ギュスターヴのやり方を見て、少しでもいい結果を出せるようにと兄の様子を見始める。

 

「いいですか? まずは、落ち着いて集中しなさい。それが出来たら杖を目標に向けて、心の中で『浮かべ』と念じて言葉に出すんです。」

「はい!」

 

―――ついに来た、この瞬間。

 

ギュスターヴは興奮する気持ちを落ち着けるように深呼吸して、視線の先にある小石に意識を集中させる。

 

―――大丈夫だ。出来る、出来る、それが当然だと思え……。

 

ギュスターヴは心の中でそれが出来て当然だと自分に言い聞かせる。

 

―――石に意識を集中させろ。『浮かぶ』と信じろ……。

 

先程シルマールに言われたように心の中で石が『浮かぶ』と強く念じると

 

「浮かべ!」

 

そう全霊をかけたように言葉に出して、石に向かって杖を突きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……、

 

「う、浮かない……?」

 

ギュスターヴは目の前の出来事が信じられなかった。

 

言われた通りにやった。

 

イメージも完璧だった。

 

なのに、石は浮くどころか1サントも動いた気配はなかった。

これには流石に気落ちしたギュスターヴだったが、すぐに気を取り直してもう一度念力を唱える。

 

だが、何度やっても結果は同じだった。

何度やってもうまく行かないことに焦りを感じて、もう一度と思ったところに

 

「そこまでにしておきなさい、ギュスターヴ君」

「ぁ……、先生……」

 

シルマールから肩を掴まれながら制止の声をかけられる。

そこでようやく気づく、自分が服に張り付くほど大量の汗をかきながら息を切らせていることに。

 

「これ以上は君の精神に良くない。大丈夫だ、はじめからうまくいくことなんて、一つとしてありはしないのだから。……ルイズ君、済まないがギュスターヴ君を、落ち着いて休める場所まで連れて行ってあげてくれないか? 申し訳ないが、君の練習はその後にしておこう」

「は、はい!……兄さま、大丈夫? きっと緊張してうまくいかなかっただけだよ。だから一休みしたらすぐに出来るようになるわ」

 

ルイズは完全に憔悴しているギュスターヴに向けて励ましの言葉をかけるが、それが届いたどうかは分かりかねなかった。

 

 

 

ルイズがギュスターヴを連れて屋敷の中に入っていったのを確認したシルマールは、ふと思ったことを心の中で整理していた。

 

(念力を発動しようとする時の彼からは、石を浮かばせるだけなら十分なほどの強い力を感じたはずだ……。なのに現実は何も起こらなかった……。どういうことなんだ……?)

 

事実シルマールはギュスターヴが最初に念力を唱えようとした時に、彼の中に渦巻く溢れんばかりの強い力を感じた。

「これは間違いなく成功する」とシルマールには分かった。

だが、石は浮かずに微動だにしなかった、何度やってもそれは変わることはなかった。

シルマールにはそれが不思議でならなかった、だからこそこの現状を理解できず困惑しているのだった。

 

(一体、彼に何が起こっているんだ……?)

 

シルマールはいくら過去にあった頭の中の出来事を掘り返してみても、結局堂々巡りになってしまう思考を一旦中断させ、先程まで念力の目標になっていた小石に目を向けてみる。

石に何か特別なものがあったわけではない。

何かあれば彼の魔法と同じく、自分の魔法も作用しないはずなのだから。

シルマールは小石に近づき、おもむろに拾い上げてみる。

しかし、いくら調べてもやはり何の変哲もないただの石、謎が深まるとばかりに小石を元の場所に戻そうとした時、シルマールはそれに気づいた。

 

例え小石が埋まっていたとしても、その小石の形では絶対にならないであろう形……。

 

 

 

 

 

 

 

―――まるで、『削り取った』と形容するのが正しい、小さな半球状の丸い空間に……。

 

 

 

 

 




どうも、皆様。MAXコーヒーです。
今回は始めてゲストキャラを出させて頂きました。
サガフロンティア2より『シルマール先生』に出演してもらいました。
サガフロ2好きの方にはこのシルマール先生に違和感を持たれた方がいらっしゃるかもしれませんが、私の中のシルマール先生はこんなイメージなんですww
不快な思いにさせてしまったら申し訳ありませんが、どうか広い心で許して頂けたらと思います。
さて、とうとうギュスターヴになにが起こるのか少しずつ明かしてまいりました。
が、まだ序盤も序盤なので、お気づきの方はいらっしゃるかもしれませんが、あまり多くは語らないことにしましょう。
それと、感想の方で質問があったのですが、ヒロインは誰にするの?って質問がありました。
候補は何人かいるんですが、ぶっちゃけまだ未定です。
いっそのことヒロイン無しにしたろうか?なんて思っていたりww
なにか意見がお有りでしたら感想の方で頂ければと思っております。
では、また次のお話で!
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