―――「チチチ、チュンチュン。」
「ぅ…ん……」
瞼の上からでも分かるカーテン越しに差し込む日の光と、外から聞こえてくる朝を知らせる小鳥のさえずり、その二つが目覚まし代わりのように俺の意識を覚ます。
「もう朝か……くぁっ、ふぁ~~~あ……」
むくりと上半身を起こし、腕を上げながら背筋を伸ばした拍子に大きく欠伸が漏れる。
「さて、起きなきゃな……」
まだ意識も半覚醒といった状態ではあったが、俺は寝ぼけ眼を擦りながらベッドから這い出るようにのそのそと動き始めた。
しかし、布団から出ようとした時俺は気づいてしまった、俺の隣に位置する部分の布団が不自然に膨らんでいるのを。
「…またか……」
何故布団が盛り上がっているのか大方の見当がついてた俺はそう呟き、片手で顔を抑えながら溜息を吐く。
そして俺のベッドに侵入してきた犯人を叩き起こすべく布団の端を掴んで―――
「さっさと起きろぉ!!」
大きく声に出しながら犯人が包まってる布団を無理やり引っ剥がして姿を現したのは―――
「キャ!? な、なに!?」
俺の声に驚いて何事かと寝ぼけ眼で飛び起きる妹のルイズだった。
「おはよう、ルイズ。 ……俺がなに言いたいか、分かるよな?」
笑顔で朝の挨拶をした後、俺はジト目で顔を近づかせながら『また』侵入したことについて言及する。
「お、おはよう、兄さま……。言いたい事は分かるけど、これはちょっとひどいんじゃない……?」
ルイズの言う『これ』とは、恐らく布団を無理やり剥がして起こす事を言ってるんだろう。
しかし、
「ひどくない。むしろ、何回も注意してるのに毎度侵入してくるお前が悪い。つーか、もう9才になる乙女が兄妹とは言え男と一緒に寝るのはどうかと思うんだけど? それにお前部屋もベッドも自分のがあるだろ、なんでそっちで寝ないんだよ?」
今しがた俺が言ったように、俺とルイズの部屋は俺がおかしくなってしまった時から別々になっていた。
何故か? それは俺がルイズとは別々の部屋にして欲しいと父上に言ったからだ。
理由としては、単純に誰かと一緒にいたくなかったからだ、狭い空間で一緒にいれば絶対にルイズに当たってしまう気がしたから、ましてやルイズは日中も俺にくっついて離れなかったから嫌な思いをさせてしまっていた、だからせめて夜くらい俺から解放させてやりたかったのだ。
俺に一方的にまくし立てられ、ルイズは「うぐ……」と呻き、少し恥ずかしそうに俯いて小さくポツリと呟いた。
「だ、だって、ホントはもっと一緒にいたかったのに兄さまが変わっちゃった時から急にお部屋が別々になっちゃったんだもん。 今までは恐くて来れなかったけど、元に戻ってくれたから久しぶりに兄さまと一緒に寝たくて……」
俯いて顔を赤くしながらルイズはそう言う、つまり寂しかったのだろう。
ルイズのその様子に今まで自分が妹にやってきた仕打ちの数々を思い出し、俺はそれに罪悪感を覚えさせられる。
(……けど、それはそれ、これはこれだ)
確かに慕ってくれることは素直に嬉しいと思ってる。
だが、これを期に俺から離れさせないといつまでも俺に頼り切ることになってしまうかもしれない。
俺もルイズといつまでも一緒に居られるわけじゃないんだから。
(何より……俺自身のためにも……)
周囲の皆が俺から離れていく中、ルイズだけが怯えながらもずっと側にいてくれた。
口には出せなかったが、俺はそれに感謝していたし安心もしていた。
けど、あの時の俺がルイズを心から突き放さなかった一番の理由、それはきっと俺自身がルイズの存在に甘えていたからなんだろう。
このまま俺がルイズに安寧を見出して傷の舐め合いに付き合わせてしまえば、ルイズも前に進めなくなってしまう、それだけは絶対に避けなきゃならないことだった。
そして、俺もルイズに頼ることなく自分の足で歩いて行かなきゃいけないから。
「……なぁ、ルイズ」
「な、なに? 兄さま?」
俺から呼ばれてルイズは何用かと俯かせていた顔を上げて首を傾げる。
「もう金輪際俺の部屋に来るなとは言わない。けど、やっぱりこういうのはお前のためにも良くないと思うんだ……」
「え…? どういうこと……?」
ルイズは、俺の言葉に本当に分からないと言うような疑問を浮かべて首を捻って答えを求める。
俺はルイズのその反応に苦笑し、言わなければいけないことに一抹の寂しさを覚える。
「…つまり、そういう時期が来たってことだよ……。突き放すような言い方になっちゃうけど、俺もお前も、お互いに頼り切るんじゃなく、自分で立ち上がらなきゃいけない時が来たってことだよ」
「それって……」
「いつまでも、俺に縛られるな……。お前は、お前のために自分の進むべき道を探せ……」
「兄さま……」
俺の言葉を聞きルイズはそれっきり黙ってしまい、俺も次に出すべき言葉を考えるために口を閉じてしまった。
そんな状況が少し続き、最後に言うべきことを伝えるために俺は口を開く。
「まぁ、何も話しかけるなとは言ってないんだ。悩みがあるなら相談に乗る。時々部屋に来て一緒に遊ぶことだって構いやしない。ただ、俺にもお前にも自分の人生がある。その中で、自分が自分のために出来ることを探さなきゃいけないんだ。誰かの夢に乗っかってたって、自分の望む『先』には辿り着けやしないんだから……」
急にこんな話をされて困惑してしまったルイズはまた俯いてしまい、どうすればいいのかと俺に問いかけてくる。
「そんなの……急にそんなこと言われても、私、どうすればいいのか分かんないよ……」
ルイズのその様子に俺は申し訳ない気持ちになるが、それでもたった一人の妹のために言わなければならなかった。
「ごめんな、ルイズ……。だけど決めるのはお前なんだ、俺には相談に乗ることしか出来ない。…それと、今までありがとう。お前の優しさには本当に救われてたよ……」
俺がそう告げるとまたルイズは黙ってしまい、少しの間を置いて急に立ち上がると勢いよく扉を開け、俺の部屋から出て行ってしまった。
その様子に再度罪悪感が芽生え、一言、
「本当にごめんな、ルイズ……」
そう呟くことしか出来なかった。
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「よし、行くぞギュスターヴ。準備は出来ているな?」
「はい、父上」
カトレアが倒れ、ギュスターヴの心が持ち直した日、あれから一月の時間が流れていた。
あの日、公爵は妻が部屋から出て行った後ギュスターヴのことについて考えを巡らせていた。
しばらくそうしていると、ルイズがカトレアが倒れたから来て欲しいと息も絶え絶えに駆け込んできた。
それを聞き公爵はシルマールを呼び、大急ぎでカトレアの元へ向かった。
カトレアが外に出て病状を悪化させてしまったことには驚いた公爵だったが、娘が倒れたという場所に着くとそれ以上に驚かせられるものが目に飛び込んできた。
あれほど荒んでいたギュスターヴが活気に満ちた目を取り戻しており、気を失ったカトレアの側で暖かみを取り戻した笑顔で涙を流していたのだから。
カトレアの介抱をした後ルイズに事の顛末を聞いた公爵は、ギュスターヴを救ってくれたカトレアに心から感謝し、同じ過ちを繰り返さないよう必要以上にギュスターヴに負担を掛けないことを己に誓ったのであった。
そして、公爵とギュスターヴが何処に出かけるかというと―――
魔法を使えないのであれば、せめてギュスターヴにも領地経営を覚えさせるべきではないかと公爵が思い立ち、彼と領内にある近くの村の視察に出発しようとしていたところであった。
「うむ、ではもう出発するから馬車に乗りなさい」
「分かりました」
しかし、大分落ち着いたとは言えギュスターヴは以前と同じというわけではなかった。
荒んでいた頃に比べれば幾らかの活力は戻ったが、その目には明らかに以前のような覇気が宿っていなかった。
彼は今、自分が目標としていたものが崩れ去り、「自分に何が出来るのか? 何をすべきなのか?」と新たな人生の目標を手探りで見つけようとしている最中であった。
公爵もそのことを重々承知しており、だからこそ家族にもあまりそのことに触れないよう厳命し、歯痒いが彼が自分で答えを見つけるまで己も静観に徹することに決めていたのであった。
『…………』
馬車の中では公爵もギュスターヴも、お互い何を話すべきか迷ってしまい沈黙が流れる。
しばらく沈黙が続き、ふとギュスターヴが思い立ったように口を開く。
「……そういえば、今から行く村ってどんなところなんですか?」
突然沈黙を破って話しかけてきたギュスターヴに公爵は僅かに動揺し、その質問に答えるべく咳払いをしつつギュスターヴに応える。
「すまなかったな、それを伝え忘れていた。これから向かう村は『ワイド』という名の村で、特色はないがのどかで牧歌的な雰囲気の村だ」
「ワイド……」
父から今から向かう村の説明を大雑把に聞いたギュスターヴは静かな村ということで少し安堵していた。
「まぁ、そんなに気を張らなくてもよい。今回は試しでの視察なのだ、一通り終われば村の中でのんびり羽を休めていて良いぞ」
公爵は、視察と言ってもそれがどういったものであるかまずギュスターヴに勉強させるため、そして何より気分転換になるのではないかと思い連れてきたのだろう。
ギュスターヴも父のその気遣いに気づいたのか、少しだけ頬を緩ませ礼の言葉を述べる。
「……お心遣いありがとうございます、父上」
公爵も心配していたが、少しでも余裕の出てきたギュスターヴからの礼の言葉に満足そうに頷き
「なに、気にすることはない。お前の人生だ、ゆっくり歩いて行きなさい」
そう公爵は言い、ギュスターヴに微笑みかける。
「さて、そろそろ着くようだ。……見えてきたぞ」
開いた窓から頭を出しながら公爵が目的地が見えてきと言い、ギュスターヴもそれに習い同じように窓から頭を出してみると
「あれがワイドか……」
優しく顔を撫でる風に軽く目を瞑りながら前方に視線を向けたギュスターヴの目に映ったのは、決して栄えているわけではないが、どこか懐かしさを感じさせるような、それでいて心に安らぎを与えてくれるような雰囲気を持った村だった。
(なるほど、父上の言った通りの村だな……)
目の前に見える村は先程の父の感想通りの村で、ギュスターヴは心の中でそう独りごち父とまったく同じ感想を抱いたのであった。
そんなことを考えていると村に着いたようで、馬車は止まり前に乗り馬を操っていた御者が扉を開ける。
「着いたぞ、ギュスターヴ」
開けられた扉に反応し、公爵が先に外に出てギュスターヴにも馬車から降りるよう促す。
「はい、今行きます」
こうして、ギュスターヴの初めての領内視察が始まった。
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「父上、僕はこのあとどうすればいいでしょうか?」
「む? そうだな、視察の方はあらかた終わったからな……。では、先程言ったように村の中をゆっくり見物してきてはどうだ? この村から出ないなら何処に行っても構わんぞ?」
特に何事も無く村の視察を終えたギュスターヴは公爵に自分はこの後どうすればいいのか問う。
先程馬車内で好きに羽を伸ばしていいと言われていたが、一応の確認を父に取っていた。
「ただし、出立は一時間後だ。それまでに戻ってくるのだぞ?」
「はい、分かりました」
ギュスターヴは父からの了承を得て、実は気になっていた村の中の探索に出かけることにした。
召使い達から話は聞いたことがあったが、彼がこのような場所に来るのは初めてのことだった。
故に平民の村というものがどんなものであるのか、視察の間も興味深々と言った様子で見るもの全てが新鮮に感じられた。
家畜が住む厩舎、作物を育てる畑、失礼な物言いだが窮屈に見えた家の数々、それらを見ているうちに気分も紛れ、住民の活気に当てられたのか彼の目も輝きに満ちていた。
そうして村の中を見ていること数十分、ギュスターヴの目に他とは違う一件の家が映った。
大きな煙突から真っ黒い煙を吹き出し、何かを叩く音を響かせる古い煤がかった家だった。
それが大層気になったギュスターヴは、その正体を確かめるべく不思議と高鳴る胸を抑えながらその家の扉を開けることにした。
「いらっしゃ―――あら、ひょっとしてあなたは今日来るって仰られてたヴァリエール公爵の?」
「はい、ヴァリエール公爵家長男ギュスターヴです」
ギュスターヴが扉を開けたその先にいた人物は、妙齢の婦人であった。
彼女は客が来たと思ったのか、営業スマイルで迎えようとするが、その扉から入ってきたのはまだ顔に幼さの残る少年であった。
娯楽の少ない村というコミュニティにおいて、噂というものはすぐに広まる。
この村の領主であるヴァリエール公爵が、長男を連れて訪れるということはすでに村中の誰もが知っていたので、今入ってきた見覚えのない少年がその公爵家の長男だと女性にはすぐに分かったようだった。
そのことを特に気に止める様子もなく、ギュスターヴは先程から気になっていたことを女性に尋ねることにした。
「少しお聞きしたいんですが、ここは何を売っている店なんですか?」
女性はギュスターヴの質問に笑顔を作りそれに答える。
「気になりますか? ここは家庭で使う包丁や農作業具を作る店です。簡単に言うと『工房』ですよ」
ギュスターヴは女性の言う聞きなれない『工房』という言葉に興味を惹かれるが、何かを作っているということは土メイジがそれをやっているのだろうと思い
「…え? じゃあその作ってる人って土メイジの方なんですか?」
とギュスターヴは女性に聞くが、返ってきたのは
「いえいえ、違いますよ。作ってるのは家の旦那で魔法は一切使ってないですよ」
そのような答えが返ってきた。
ギュスターヴにはそれは衝撃的な事だった。
通常何かを作る際には土メイジが魔法を使い、形を作り、完成させるものであるが、ここの主人は戦いで使う武器ではないとは言え、それを魔法も使わずに手ずから作っているというのだ。
ギュスターヴはそれに興奮を覚え、実際に作っているところを見せてもらおうとするが
「ギュスターヴ! 何処にいるのだ~? ギュスターヴ~!?」
外から父の呼ぶ声が聞こえ、時間を確認すると
「いっけね! もう約束の時間過ぎてる!」
村の散策と女性との会話に夢中になっていて気がつかなかったが、父から言われていた時間がとっくに過ぎていたのであった。
それに気づいたギュスターヴは慌てて外に出ようとするが、その帰り際に
「すいません、また来ます。それで、もしよかったらその時に工房の中を見せてもらってもいいですか?」
ギュスターヴからの頼みに女性は一瞬ポカンとした表情になるが、すぐに笑顔になり
「構いませんよ。旦那にも伝えておきますので、次にお越しになられた時は是非お立ち寄り下さい」
女性からそう了承の言葉を聞いたギュスターヴは、頭を軽く下げて礼の言葉を言う。
「ありがとう! 絶対また来ます!」
そして慌ただしく店を後にして、父の元に向かうのだった。
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―――それからしばらく
ギュスターヴは父にせがんでワイドに足繁く通っていた。
日に日に活力を取り戻していく息子の姿に、公爵もワイドで過ごす時間が彼に何か得るものを与えているのだろうと感じ、彼に為すがままにさせていた。
「では、時間はしっかり守るのだぞ?」
「はい! いってきます!」
今では何度も足を運んでいるのでワイドへの視察も彼に任せ、今日もある目的のためにワイドへ向かうギュスターヴを公爵は見送っていた。
―――ワイド村
「こんにちわ!」
いつものように工房を訪れて元気に挨拶を交わすギュスターヴに、工房の主人である親方は
「こんにちわ。よく来ますね、坊ちゃん。そんなに鍛冶屋が面白いっすか?」
物珍しさから来る興味なのであろうが、小さな村の一工房に頻繁に足を運ぶギュスターヴを不思議に思った親方はそう尋ねる。
「うん。実際に自分の手で作るのなんて初めて見たし、それにこういうのって全部土メイジが魔法で作るものだと思ってたから」
ギュスターヴは素直にそう思っていたので親方の質問にありのまま答える。
「がっはっは! まるで見世物小屋みたいな言い方だなぁ」
親方はギュスターヴの物言いに気分を害すこともなく、冗談を交えて豪快に笑い飛ばす。
それに気を良くしたギュスターヴは、金床の上にあるものを見て親方に
「ねぇ親方。今日は何を作ってるの?」
毎日のように違うものを作っている親方に、今日は何を作っているのか問いかける。
「鋼のナイフでさ。あっしはメイジの方のように大層なモンは作れやせんが、こういった小物だったらお手のモンですからね」
ふーん、と親方から返ってきた言葉に相槌を打ちつつ、ギュスターヴはあることについて考えを巡らせていた。
そして、考えを纏めたギュスターヴはそのことを親方に切り出すことにした。
「ねぇ、親方。この工房で『剣』が作れるかな?」
ギュスターヴがこの工房を見つけ、ずっと考えていたこと。
それは魔法を使わず、自分の手で『剣』を作れるかということだった。
もしそれが可能なら、ずっと思い悩んでいた自分の『道』に活路が見い出せることが出来るのではないかと、そう思っていたのだった。
しかし
「う~ん……そいつはちょっと難しいかもな、坊ちゃん。大昔の鍛冶屋は剣なんかも鍛えてたらしいですがね、あっしは包丁や農作業具程度が関の山でしてね。戦に使うようなのはちょっと難題ですわ」
ギュスターヴの質問に親方は難色を示す。
だが、ようやく見つけた活路に僅かでも可能性があるなら、それを逃す手はないとギュスターヴは考える。
「難しいってことは、やってやれないことはないんでしょ? だったら出来るまでやってみたいんだ、俺に作り方を教えてくれないかな? お願いだよ親方、この通り!」
ギュスターヴは、姉カトレアとの約束『投げ出さない』ということを教訓にし、力の続く限り打ち込むと心に誓っていた。
親方は頭を下げてまで頼み込む彼の熱心な姿勢に心を動かされたのか、
「う~む……分かりました。 引き受けましょう! 坊ちゃんの熱意にはこっちが頭の下がる気持ちですわ!」
先程のように豪快に笑って自分のお願いに快く了承の意を示してくれた親方にギュスターヴも顔を上げて笑顔になる。
「ホントに!? ありがとう、親方!!」
親方からの了承を得たことでギュスターヴは喜びガッツポーズを取り、どんな剣を作ろうかと思いを馳せていると親方から
「ただし! やるからには坊ちゃんといえど、真剣にやってもらいますよ。あっしが先生、坊ちゃんが生徒、ようござんすね?」
そう言われたが、舞い上がってしまっていたギュスターヴはつい、
「うん!」
「返事が悪い!!」
いつもの口調で返事をしてしまい、親方に怒られてしまう。
それを反省し、すぐに自分は親方にモノを教えてもらう立場なのを思い出し口調を変える。
「はい! すみません!」
物分りのいいギュスターヴの姿勢に親方は満足気に頷き
「では、今日はもう遅いので、始めるのは坊ちゃんが次に工房に来てからにしときましょう。」
「はい!」
こうしてギュスターヴは新たな可能性を見つけ、その『道』の師に教えを請うべく修行を開始するのであった。
・
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・
―――そうして、一年の年月が流れ。
カン!カン! カン!カン!
熱された鉄を打つ金属音が工房に木霊し、滴る汗が鉄に落ちて蒸発する。
その音が何度も響くと、音はピタリと鳴り止み、今度は野太い男の声が響く。
「……よし、後はこれを冷ますだけでさ」
「……はい!」
ギュスターヴは熱された鉄を大きな鉗子のようなもので掴み、水が張られた桶の中にゆっくり浸していく。
ジュ~!!と音が鳴り、熱された鉄がその熱を奪われ冷まされていく。
その音が止むと、ふと親方はずっと疑問に思っていたことをギュスターヴに問いかける。
「ずっと聞きたかったんですがね、ギュスターヴ様。なんでまた剣を鍛えようなんて考えたんですかい? わざわざご自分で剣を鍛えなくてもよろしかったでしょうに」
親方からの質問にギュスターヴは目を閉じてしばし考え込むようにして、こう答えた。
「……俺は魔法が使えない。だから、自分の力で出来ることを見つけなきゃいけなかったんだ。それに、どうせなら誰かの作った剣より、自分で作った剣の方が気も引き締まるだろ?」
ギュスターヴから答えを聞いた親方は感心したと言わんばかりに頷く。
そうして会話を交わしていると
「あなた~、ギュスターヴ様~、そろそろ休憩にしたらどうですか~?」
工房の上に位置する店先から一息付けばどうだ?という、女将さんの声が聞こえてきた。
「カカァの言う通りですな。ギュスターヴ様、上に行って一服しましょうか」
「うん、そうだな」
二人はそう言い水に浸かっていた鉄を引き上げ、休憩するために工房を後にする。
―――そうして、さらに一週間が経過した……。
「―――出来た……!」
ギュスターヴはようやく実を結んだ50サントほどの小振りの剣という努力の結晶を前にし、感慨に浸っていた。
「立派な剣が出来上がりましたな」
親方もまた弟子の成長と、剣の鍛造にいい仕事が出来たと感慨に浸っていた。
しかしギュスターヴは、
「まだまだ、これは練習さ。本当に作りたい剣はこの3倍は長いんだ」
あくまでこれは次に進むためのステップにしか過ぎないと言う。
それを聞いた親方は
「さ、3倍ですかい!? そりゃ大変な作業になりやすぜ……?」
ギュスターヴの発言に目を丸くさせて自分には到底出来ないことだと驚いていた。
「あぁ、分かってる。でも、それぐらいのことが出来ないようじゃ、俺の夢には到底たどり着けないから」
「ギュスターヴ様の夢……?」
「あぁ、それは……」
ギュスターヴの夢。
それを聞いた親方はそれが何であるかギュスターヴに問い、彼もまた答えるべく溜めるように息を吸い、高らかに出来たばかりの剣を掲げ宣言する。
「―――世界中の誰にも負けない、メイジだって敵わないような世界一の剣士さ!」
新たな『道』を見つけ、それを叶えるべく立ち上がったギュスターヴ。
その顔には、眩しいばかりの光が称えられ、明日への希望に満ち溢れていた。
―――少年は、また一歩前に進むことが出来たのだった。
どうも皆さん、MAXコーヒーです。
いや~、今回のお話は難産でした、特に導入部分が。
さて、ようやく活路を見出したギュスターヴですが、その道は前途多難です。
彼がどのような成長を遂げるかは、今は誰にも分かりません。(お前は知っとけ。)
ではいつものように感想、ご指摘などなどお待ちしています。
また次のお話で!