魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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物語を動かす為の土台作り


第九話

 

 

昼。フレディはコンビニで購入した情報誌を片手に街を歩いていた。雑誌の購入資金は地球に来る前に滞在していた“ベルクヴェルク”の鉱山で働いている工夫達から、賭けポーカーの借金の形に取った貴金属を質屋に流して得ている。世の中何が奏功するか分からない。

 

 

 

「翠屋、翠屋――あ、此処か」

 

 

 

フレディが見上げるのは、地域情報誌“海鳴walk”に掲載されている喫茶“翠屋”だ。店の外観は喫茶店というより洋菓子店といった感じで、記事中でもシュークリームに始まりケーキにタルト、プリンやエクレアにクレープ等々、紹介されているのは洋菓子ばかりでしかも女性向けの特集ページ。世辞でも甘い物が好きそうには見えないフレディが訪れるには、少し違和感を覚える。

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 

カランと小気味良い鐘の音が鳴ると、店内のあちこちから歓迎の声が上がる。店内には雑誌の影響か女性の姿が多いが、その中にちらほら男性の姿も見受けられる。店内の観察を手早く済ませたフレディは、一番奥にあるカウンター席に座る。目の前にはうっすらと皺が浮かんでいるが、若々しく感じるエプロン姿の男性の姿。

 

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 

「コーヒー一つ」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 

即答すると男性は背を向け、フレディは情報誌に目をやる。今チェックしているのはステーキハウスやラーメン店などの記事。これ以上テスタロッサ家の居るつもりのないフレディは、既にホテルの部屋を一ヶ月分前払いして確保しており、食事は全て外食で済ます予定にしている。今回の仕事が待ちの姿勢を強いられていることもあり、暇な時間を潰された休暇の補填にする為、先ずは食から手をつけよう、という魂胆なのだ。

 

 

 

「お待たせしました。随分熱心に読んでらっしゃいますが、海鳴へは観光で?」

 

 

「いや、一応仕事なんですがね。暇な時間が多いんで、飯くらいはいいもの食べようかなと。どっかオススメの店あります?」

 

 

「そうですね、此処を出て右手に進んで三つ目の交差点を左に曲がった所にパスタの専門店があるんですが、そこは評判がいいですよ」

 

 

「パスタね、ありがとう。候補に入れときます」

 

 

 

話を切ってコーヒーを口に含むフレディ。すると何やら驚いた表情を浮かべて、カップを置いた。

 

 

 

「此処のコーヒー美味いね、ビックリした」

 

 

「はは、ありがとうございます」

 

 

 

ストレートな褒め言葉が気恥ずかしかったのか、男性は照れくさそうに笑みを浮かべた。それからフレディはまた雑誌を読み始め、男性は新たに訪れた客の相手に向かう。あーでもない、こーでもないと雑誌を読みながら呟くフレディの姿は、髪の色や風貌もあって目立つものだったが、一時間も経てば昼食時も過ぎ、店内にはフレディ以外の客は居なくなっていた。

 

 

 

「あー、えっと、マスターでいいのかな。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「この街に来た時にさ、街が壊れたとかいう物騒な話を聞いたんだけど、それ本当なの?」

 

 

「ええ、本当ですよ。幸い死人こそ出なかったそうですが、建物は全壊していましたね。テレビでは地殻変動による地層の隆起が原因だとか、そこに目撃者の証言を絡めて植物の異常生長が引き起こした惨事とか言われてますが、どれも眉唾物の域を出ていません。真相は闇の中、になるんでしょうね」

 

 

 

男性の見解にフレディは「怖い話だねえ」と呟く。内心に安堵の意を湧かせながら。フレディが翠屋にやってきた理由の一つは、昨日の惨事を住民がどう捉えているのかを知る事だった。街を歩いていても色んな人間の口の端に上っていたが、どれも野次馬の域を出ない内容でなかなか踏み込んだ内容を掴むことが出来なかった。そこで情報誌を購入したフレディは集まる飲食店、特に喫茶店やレストラン等を検索していった結果行き着いたのが翠屋だった。

 

 

飲食店というのはその性質上比較的長い時間居ること、それから腰を落ち着けられることもあって、話も広がりを見せることが多い。そうした環境下で洋菓子店兼喫茶店を兼ねているというのは、フレディにとって情報を集めるに都合のいい場所だった。そして、この一時間であらかたそれを集め終えたフレディは、住民達の話を否応なく聞き、尋ねられた時に答えられるよう自分でもある程度情報を仕入れて簡潔化しているであろうマスターに話を聞く事で、仕上げとした。上々の結果に満足し、事のついでにハムサンドとカレーを頼むと、入り口の方から鐘の音と何処かで聞いた事のある声が響いてきた。

 

 

 

「お父さんただいま。アリサちゃん達連れてき――――あれ?」

 

 

 

フレディが声の主と目が合って、そしてそれが高町なのはであることに気付くのにさして時間はかからなかった。彼女が着ているのは昨日見たバリアジャケットの意匠を簡素にしたもので、ツインテールと顔に張り付いている表情も昨日見たものと大差ない。ひらひらと挨拶の意を込めて手を振ると、なのはがフレディさん! と笑顔で駆けて来た。戸惑いの表情を浮かべる友人達を背に。

 

 

 

「昨日振りだねなのはちゃん。元気にしてた?」

 

 

「あ、はい! よく眠れました!」

 

 

『適当に話でっち上げるから合わせてね。君の友達凄い目で俺のこと睨んでるから』

 

 

『ふえっ!? あ、アリサちゃん……』

 

 

 

なのはの後ろに、アリシア・フェイト姉妹に劣らぬ艶のある金髪をストレートに下ろしているアリサと呼ばれた少女が、腕を組み怒っていますと言わんばかりに目をつり上げていた。その隣で藍色の髪の少女がフレディと少女を交互に見ながら怒りを宥めようと奮闘している。二人共なのはと同じ制服を着ている辺り、学校の友人だろうと当たりをつけているフレディは、席を立ちアリサの前で屈んで目線を合わせる。

 

 

 

「俺はフレディ。フレディ=アイン=クロイツ。昨日道に迷ってた時になのはちゃんの世話になった者だ。君は?」

 

 

「……アリサ。アリサ=バニングス。なのはの友達、です」

 

 

 

穏やかに微笑むフレディと、渦中の人物に自己紹介されて驚きつつもしっかり応対してみせたアリサ。アリサちゃんね、と言うと隣に視線をやり藍髪の少女を見やる。

 

 

 

「ということで、フレディ=アイン=クロイツ。好きなものは酒とコーヒーとベーコン。あと人に言えないもの少々。君は?」

 

 

「月村すずかと言います。好きなものは紅茶とクッキーと猫です」

 

 

「すずかちゃんね。アリサちゃんもすずかちゃんも、俺のことはフレディでいいから。また会うかは、分からないけどよろしくね」

 

 

 

フレディがアリサ達に自己紹介をしたのは、なのはとの事情を簡潔に説明する為。それと念話で以って話を合わせる時間を稼ぐ為。なのはが僅かに頷いたのを見届けたフレディはカレーの匂いに誘われて席に戻る。

 

 

 

「お待たせしました、カレーとハムサンドになります。――あの、なのはとお知り合いで?」

 

 

「どもども。知り合いって程じゃないです。昨日臨海公園へ向かう道が分からなくて困ってた時に助けてもらった、それだけです。えーと、娘さん?」

 

 

「はい。高町士郎、なのはの父です」

 

 

「フレディ=アイン=クロイツです。親しい人間はフレディって呼ぶんで、そう呼んで下さいな」

 

 

「では私も士郎と呼んで下さい。マスターと呼ばれるのは、あまり慣れていないので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレディと士郎が談笑を始めた頃、なのは達はテーブル席で二人の様子を窺っていた。

 

 

 

「フレディさんって、何処の人なの? 髪の色が独特だから生まれの想像がつかないのよね」

 

 

「生まれは分からないけど、住んでるのはイギリスだって言ってたよ。北の方だって」

 

 

「イギリスかあ。でも凄く日本語が上手だよね、発音もしっかりしてるし」

 

 

「日常的に日本語で会話できる環境があったんじゃない? じゃなきゃあそこまで流暢に話すのは難しいわよ」

 

 

 

フレディが日本語を話しているのは翻訳魔法の効果でそう聞こえているだけで、フレディ自身は母国語で話している。ちなみになのはは翻訳魔法の存在そのものを知らない。どのデバイスにも入っている初期機能であるから説明は不要というレインジングハートの判断に因るものだ。ユーノは説明を忘れているだけ。

 

 

 

「そういえばなのは、今度の温泉旅行なんだけどさ、追加で連れて行きたい人達が居るんだけど」

 

 

「え、誰々? アリサちゃんのお友達?」

 

 

「正確にはママのね。プレシアさんっていって、その人の娘が私達と同い年らしくてね。まだ越してきたばかりで学校に通う手続きもしてないから、良かったら友達になってあげて、ってことなんだけど。あ、ちなみに娘は双子だって言ってたわ」

 

 

「うーん、お父さんに聞いてみるね。ちょっと待ってて」

 

 

 

席を立ったなのはは、フレディと破顔している父の元へ行く。いつになく楽しそうに話している父の邪魔をするのは気が引けたが、なのはも自分の友達が増えるかどうかの分水嶺。退く事など考えていない。

 

 

 

「ねえねえ、お父さん」

 

 

「はっはっはっは! あー……、どうしたなのは?」

 

 

「今度の温泉旅行にね、アリサちゃんが連れてきたい人たちが居るんだって。いいかな?」

 

 

「ああ、別に構わないよ。誰で、何人来るのかな?」

 

 

「プレシアさんと、私と同い年の双子だから三人!」

 

 

 

ブッ! ケホッ、ゲホッ! なのはが任務を終えた直後、フレディが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。口を塞いでいた為飛び散る事はなかったが、カレーやテーブルにはコーヒーの雫が点々と跡を作っていた。

 

 

 

「お、おい大丈夫かフレディ?」

 

 

「も、申し訳ない。ちょっとびっくりしてな――なのはちゃん、さっき言ったこと復唱してみて」

 

 

「ふえ? えーと、プレシアさんと、私と同い年の双子?」

 

 

「……アイツいつの間にご近所ネットワークに参加してたんだ」

 

 

 

フレディの呟きは多分に驚きを孕んだものだった。事故が起きたのは今から約二週間前、引越しの手続きに多少時間を取られることを考えると、大凡十日程度で温泉旅行に誘われる程親交を深めている事になる。凄いのはプレシア=テスタロッサの社交性か、それともアリサママの人の良さか。一つ言えるのは、仲良きことは美しい。

 

 

 

「フレディ、知り合いなのか?」

 

 

「旦那が仕事仲間でね。いつのまにこっちに引っ越してきたんだか」

 

 

 

嘘は言っていない。旦那のアロンソは部署は違えど同じ組織の一員であるし、事故に遭ったのも地球に越してきたのもフレディは全く知らなかった。

 

 

 

「なあフレディ、再来週の週末は暇か?」

 

 

「いや、仕事だ。それと事情があって遠出が出来ない。誘いはありがたいけどね」

 

 

 

そうして士郎の誘いを断ると、なのはが来れないの? と言いたげな目でこっちを見る。まだ仕事が終わっていないからと念話で告げると、それじゃあそれまでにジュエルシード全部見つけたらいいんですね! とやる気に満ちた答えが返ってきた。それに苦笑しつつ頑張ってねと伝えると頑張ります! と声を上げた後アリサ達の所へ戻っていく。突然大声を上げた娘を見て士郎が不思議そうな顔をしている中、フレディはあの二人を一度此処に連れて来ようかと考えていた。

 

 

 

 




何気に今作最長。この次から物語が加速を始めます。前に行くか後ろに行くかは分からないけれど。
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