魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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ちょっと話作りに手間取りました。


第十一話

 

 

 

「――あ、えっと、私なのは、高町なのは、なのはだよ!」

 

 

「なのはだね。私はアリシア、アリシア=テスタロッサだよ!」

 

 

「あの、えと、妹のフェイト、です……」

 

 

「俺の後ろに隠れながら言ってどうする」

 

 

 

 あくる日の朝、なのはと約束の訓練を行う日。フレディは集合場所として指定した湖畔にアリシアとフェイトを伴って出向き、なのはと面語させていた。連れて行きたい子が居る、仲良くしてやって欲しい、それを伝えた時興奮したなのはに嬉しそうに早口で捲くし立てられたフレディとしては、顔を合わせた途端緊張でガチガチになったなのはに“おいおい”と思ったが、それは心の内に秘めておくことにした。

 

 

 三人娘の中で唯一通常運転のアリシアは満面の笑みで元気よく返したのに対し、フェイトはフレディの体から顔を出して囁く様に言って直ぐに隠れてしまった。親しい人間だけの時は姉と同じく爛漫に、魔法を使っている時は母の影響で冷静沈着なフェイトだが、その二つ以外では大人しく人見知りで押しに弱い女の子に様変わりする。

 

 

 初対面の時に手こずったフレディはせめて人見知りだけはどうにかせねばと、テストロッサ夫妻と組んで機会があれば積極的に人と関わらせることにしている。フレディ、そして両親と同じ道を歩みたい。そう語ったフェイトに対する教育であり試練だと、娘馬鹿というか子煩悩な父親に言い聞かせるのに三日三晩掛かった末に二人掛りで文字通り“封殺”したのは遠き日の思い出。

 

 

 

「あ、僕はユーノ=スクライアです。ユーノって呼んで下さい」

 

 

 

 器用に前足を折り畳んでお辞儀をするフェレット、その名はユーノ。なのはに促されて挨拶をした彼は、可愛いを連呼するアリシアに捕獲され頬ずりされている。テンションが上がっているのか握る力が強いらしく、フェレットの身では耐えられないとフレディに救援要請が飛ぶ。微笑ましい光景だが、始まる前に気絶されても困るので「そろそろ訓練始めるから放してやれ」と言い聞かせて救出に成功。ぐずるアリシアに後で膝を貸す約束をして宥めたフレディは、未だ自分の背中に隠れるフェイトを強引に前に出すと、なのはに向き合わせる。

 

 

 

「今から二人に模擬戦をやってもらう。但し、フェイトはミドルレンジ以遠で戦うこと。制限時間は十分、フェイトがなのはちゃんを時間内に落としたら勝ち、それ以外はなのはちゃんの勝ちね。今回はなのはちゃんの対人での動きと、フェイトの訓練の成果を見るから、両方とも本気でやること。さあ、デバイス起動させて上昇して」

 

 

 

 白を基調に青のラインが入った制服姿のなのは、黒基調の装いにミニスカートの白が映えるフェイト。お互いバリアジャケット姿になると、二人はゆっくり上昇していく。その間“よろしくね!”“頑張ろうね!”と声を掛けるなのはに対し、目を瞑り集中を深めていくフェイト。取り付く島も無い様子に落ち込むなのはだが、模擬戦が終わればゆっくり話せる筈、と気持ちを入れ直し、十分な高度まで上がった所でフレディの指示に従い所定の位置に移動する。視界の先に居るフェイトは、まだ目を瞑ったまま。

 

 

 

『よし、じゃあカウント行くぞ! 3、2、1、始め!』

 

 

「バルディッシュ!」

『Photon Lancer Gatling!』

 

 

 

 念話による開始の合図が出されたと同時に、目を見開いたフェイトの周囲に金色に光る四つのスフィアが出現。そこから小さな槍が雷を纏い怒涛の勢いでなのはに攻めかかる。

 

 

 

「レイジングハート!」

『Protection!』

 

 

 

 迫り来る槍のスピードを目の当たりにしたなのはは回避は難しいと判断、自身の前面に防護壁を展開する。ユーノとの訓練を重ねる中で、なのはは射撃と砲撃、そして防御魔法に優秀な才覚を有していることが判明している。ジュエルシードの暴走体に抗する為にその三つをお重点的に学んできたなのはは、訓練と実戦を経てそれなりの自信をつけていた。その自信が、牙を剥いて襲い掛かる。

 

 

 

「う、うう、くううぅ……」

 

 

 

 槍の威力、その一つ一つは小さい。しかし豪雨の様に撃ち掛けられる槍は、受け止めたなのはの足を完全に止めた。シールドから伝わる断続的な衝撃は、痛みよりも先に精神に突き刺さり、なのはから冷静な思考力を奪っていく。フェイトの弾幕を防ぎきろうとシールドに込める魔力を増やそうとするなのは、それを悪手だと忠言しようとするレイジングハート。双方が行動に移る直前、唐突に弾幕が止んだ。

 

 

 

「次は、貴方の番」

 

 

 

 フェイトは周囲に展開していたスフィアを霧散させ、逆手でなのはに手招きをする。言うまでもなく、挑発だ。先程までフェイトに押されっ放しだったなのはは、この挑発に簡単に乗った。

 

 

 

「むっ! それなら私は一番の魔法を! レイジングハート!」

『Divine Buster!』

 

 

 

 レイジングハートの先端に現れた四連の環状魔法陣、それらが回転を始め桜色の魔力が杖の先に集まっていく。やがて一つのスフィアが形成された時、そこから極大の光線が撃ち放たれる。現時点でなのはが扱える最強の魔法、ディバインバスターは悠然と佇むフェイトを飲み込もうと唸りを突き進む。

 

 

 

「バルディッシュ!」

『Lance Defensor!』

 

 

 

 迎え撃つのは、円錐状の防護壁。突撃槍の名を冠した盾はディバインバスターを真正面から受け止める。激突の衝撃にフェイトの顔が険しくなるが、真芯を穿たれた光線は防護壁に沿う形で分かたれていく。感触でそれを察知したなのはは、盾を抜く為に更なる魔力を込めて光線の圧力を高めるが、フェイトがそれに応じた事でこれ以上の砲撃は無駄と判断したレイジングハートは、彼女の意志で砲撃を止めた。

 

 

 

「っ! レイジングハート?」

 

 

『これ以上の砲撃は無意味です。今のマスターにあの防御を破る力はありません』

 

 

「そんな、私はまだ」

 

 

『冷静になって下さい。挑発に乗って魔力を浪費するのは相手の思う壺です。幸い相手は接近を禁じられています、此処は牽制をしっかり行い、相手の防御を崩す術を考えましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い、なのはの砲撃を真正面から止めた……」

 

 

「なのはちゃん砲戦魔導師だったのか、すげえ威力だなオイ」

 

 

 

 地上で模擬戦を観戦しているユーノとフレディは、先程の攻防の感想として驚愕と関心の言葉を口にした。ちなみにアリシアは胡坐を掻くフレディの足の中に座って、グロウルが展開する“超エキサイティンカメラ”による迫力偏重の生中継(グロウルの実況付き)を観戦しており、二人のことは眼中にない。

 

 

 

「フレディさん、さっきフェイトさんが展開した円錐状の防御魔法って、砲撃を拡散させるものなんですか?」

 

 

「そんなとこだね。なのはちゃんが使ったものを面とするなら、フェイトが使ったのは点だ。砲撃を拡散させるという一点に効果を集約させた、対砲撃用の魔法だよ」

 

 

 

 対砲撃用の魔法。それを聞いてユーノは前足を顎につけてブツブツと呟きを始める。どうやったらフェレットの体でそんな器用な真似が出来るのかを頭の隅で考えつつ、フレディは視界に浮かぶ模擬戦の観戦に意識を注ぐ。

 

 

 

「さて、なのはちゃんはどうするのかな? 俺は“撤退”以外悪手だと思うがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのは。彼女は正しく天才と呼べる人種である。才能の領域と呼ばれる魔力値において“最低でも”AAAランク、初めて魔法に触れたその日にディバインバスターでジュエルシードの暴走体を封印してみせた。実戦経験の乏しさと幼さ故の精神の不安定さが欠点であるが、扱う魔法はどれも一級品と称されるレベル。レイジングハートがそんな風に評した彼女は今、フェイト=テスタロッサに対する無力感に苛まれていた。

 

 

 

「遅い。私に当てたいのなら、もっと速く」

 

 

 

 フェイトの背後で、斬り捨てられた弾丸が力の行き場を失い爆発した。またも同じ結果を招いたことに歯噛みしながら、なのはは再びスフィアから弾丸を打ち出す。この状況になって二分が経過し、八度フェイトに弾丸を向けたがその全てが斬り捨てられている。レイジングハートの提案はディバインシューターでフェイトの体勢を崩しながら拘束魔法を設置した地点まで誘導、防御以外の動きを止めた後に魔力を限界まで集束させた一撃を――というものだったが、現実は最初の位置で足を止めたフェイトを動かす事が出来ず、魔力と時間を悪戯に浪費しているのが現状だ。

 

 

 レイジングハートは、自信の読みの甘さが原因で招いた結果を打開しようと試行を重ねるものの、悉く不可能と診断される現状に、相棒たるなのはを助けられない自分に、信頼に応えられない自分に、ひたすら苛立ちを募らせていく。その結果――

 

 

 

「あ、あれ? シューターが……何で?」

 

 

 

 魔法の扱いに関して未だ初心者の域を出ないなのはは、制御のほぼ全てをレイジングハートに任せていた。そのレイジングハートが現状の打開に過大なリソースを割いた結果、スフィアからシューターが発射されなくなってしまった。大いに戸惑うなのは、時遅く気付いたレイジングハートは直ぐ様リソースを振り直すも、なのはの異変に気付いたフェイトがフレディに模擬戦の中止を提案。受け入れたフレディが念話で一度降りてくるよう二人に促し、涼しい顔をしたフェイトと顔が真っ青になったなのはが地上に降りてきた。

 

 

 

「どうしたなのはちゃん、具合が悪くなったのかな?」

 

 

 

 顔色を見てフレディが問いかけるも、なのはは“魔法が、魔法が……”と囁いた後、泣き出してしまった。これに驚いたフレディはなのはを抱き寄せ、背中を一定のリズムで優しく叩きながら落ち着くよう促していく。するとフレディの服を掴んで縋る様に嗚咽を漏らし始めたので、困ったフレディはなのはの相棒に話を振った。

 

 

 

「おいレイジングハート、何があった?」

 

 

『……私が窮状の打破に焦りを抱き、魔法制御のリソースをも割いてしまい、魔法が発動出来なかった事に動揺した結果だと思われます。申し訳ありません、全て私の責任です』

 

 

 

 レイジングハートは“インテリジェントデバイス”と呼ばれる人工知能(AI)を搭載したデバイスであり、最も希少で最も扱いにくいとされるデバイスである。その最たる要因として使用者とAIの相性があり、これが悪いとデバイスが魔法に対するリソースを上手く割く事が出来ず、魔法の出力が弱まったり、果ては発動出来ないといった状態になる事が知られている。こういった事例が考慮された結果、インテリジェントデバイスは自分でパーツを購入しての個人製作の物か、管理局の中でも指折りの人物以外には支給されない一種のワンオフ品の様な扱いを受けている。

 

 

 そして、今回の件はレイジングハートの忠心の高さが仇になったもので、時間を掛ければ幾らでも改善は図れそうだと考えたフレディが当たり障りのない説得に移ろうとした時、なのはの顔をフェイトが覗き込んだ。

 

 

 

「なのは、魔法が使えなくなったこと、悲しい?」

 

 

「……うん」

 

 

「だったら、レイジングハートと、もっとお話しないと」

 

 

「お話? レイジングハートと?」

 

 

「私も、昔バルディッシュと喧嘩して、魔法が使えなくなったこと、あるんだ。けど、ちゃんとお話して、仲直りしたら、喧嘩する前よりずっと、魔法が使えるようになった。だから、なのはも」

 

 

 

 フェイトが指差した先には、いつもより力なく点滅するレイジングハート。なのはが視線を向けると、申し訳ありませんでしたと悔恨を滲ませて謝罪の言葉を述べるレイジングハート。

 

 

 

「……気にしないで、レイジングハートに任せきりにしてた私も悪いから」

 

 

『ですが、私はマスターの』

 

 

「だからね、これからは二人一緒に考えよう? そうしたら、出来ることが増える筈だから』

 

 

 

 涙を拭いて、フレディから離れたなのはは、そう言ってレイジングハートに笑いかけた。それから少し遅れて『改めて、よろしくお願いします』といつもの調子で返すレイジングハート。一転して微笑ましくなった光景を目の当たりにして、フレディが呟く。

 

 

 

「――今回はフェイトのお手柄だね」

 

 

「そうだ、フェイトちゃんありがとう! フェイトちゃんのおかげで――」

 

 

「あ、ええと、あ、あわ、ふ、フレディ!」

 

 

「感謝されてんだから素直に受け止めろっちゅーの」

 

 

「そうだよフェイト、いいことしたんだから堂々としなきゃ!」

 

 

「ね、姉さんまで! だって、だって、私はただ」

 

 

「ねえフェイトちゃん、最初に見せてくれた魔法ってどうやるの? 私にも出来る?」

 

 

「えっ? ええと、それは、その、あああ、フレディ!」

 

 

 

 その後、フレディの影に隠れてしまったフェイトを落ち着かせて魔法の指導に当たらせた頃には、なのはは学校で昼食を取っていて、フェイトと念話を交わしながらニヤニヤしているのを一緒に居たアリサとすずかに見られて気味悪がられていたのは余談である。

 

 

 

 




このお話は子供達の成長を大人が生暖かく見守る話です。色々未熟が目に付く子供達ですが、どうか皆さんも暖かい目で見守ってやってください。
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