「ボーナス確定!」
液晶に音声と共にその文字が躍った瞬間、フレディは小さくガッツポーズ。ニヤニヤしながら手馴れた様子でボタンを押していく様は周りの人間から奇妙に思われているが、液晶の演出に興奮する外国人は大体こんな感じである。
テスタロッサ家の歓迎会から一週間経ち、温泉旅行に出かける面々を見送ったフレディは、海鳴市とその隣遠見市との境界付近にある最近リニューアルオープンしたばかりのパチンコ&スロット店でスロットを打っていた。ちなみに現在打っている機種は前世代において爆発的人気を誇り、その色を充分に残しながら現行機仕様になって帰ってきた、大○技○の看板機種“押○! 番○2”である。
『ほんと解析魔法って便利だよな』
『スロットの設定チェックする為に使うのを便利と言うアンタは凄いよ』
地球、特に日本のスロットは当たりやすさを六段階に分けて設定することが出来、フレディはその中で一番当たりやすい設定六の台を打つ為に解析魔法を使っている。最新技術の無駄遣いも甚だしいが、フレディは荒事以外で稼げる手段は? と問われれば“賭博か日雇いの現場仕事”と即答する程度の人間であり、金遣いの荒さも相まって、最近は暇があればこうしてスロットを打っている。
『しかし旦那とアロンソに加えてアースラの連中まで投入とはね。後ろに何が控えているのか分からないからとはいえ、過剰戦力だと思うのは俺だけ?』
『お前だけ。“テスタロッサ”の情報を封殺して俺を此処に呼び込んだんだ、敵が奴一人ってことはまず無い。二十年前の話とはいえ、俺はサシで勝ってるしな』
歓迎会が終了した翌日、アロンソは時空管理局本局に赴き事の次第を報告。“上層部、及び情報部に隠蔽を図った者が居る者は確かであろう”“それを含めて敵勢力と認め、存在が確認された“執務官狩り”以外にも高ランク魔導師が潜伏している可能性を考慮し、現地で初動調査を行ってもらったフレディ=アイン=クロイツ一佐と共同して事に当たって欲しい”アロンソからその旨を告げられたフレディは、話を持っていった人間の顔を想像して、帰ったら殴ると決めていたりするがそれは余談。
今回アロンソが出向いた事の収穫として、ジュエルシードに纏わる事柄が正式に事件として認定され、現在次元航海中の巡洋艦“アースラ”に所属する部隊が今回の事件調査、及び事後処理に加わる事となった。艦に詰めている実力部隊は三十人を超える大所帯で、前線で指揮を務める執務官は切り札とも称される実力者。現状から推測出来る可能性に対する備えとしては、グロウルが過剰戦力と評するのも頷ける話。
『いやさ、俺が言いたいのはさ、数があった所であんまり意味を為さないんじゃない? って話で』
『……ジュエルシードが目的でなく俺やアロンソ、つまり個人が狙われてるっていうアレか』
『そういうこと。人為的事故で散逸したジュエルシードが妨害もなく簡単に集まってる現状、んで実務に当たってるのが旦那。旦那を知っていて誘い込んだ連中が漁夫の利を狙おうなんて考えを起こすのはまず有り得ないし、となるとジュエルシードは旦那を誘い込む為の単なる餌。そう考えるとアロンソ達が事故に巻き込まれたのも偶然とは思えないんだよね。次元航行は個人艇を用いる場合でも管理局に航路を教えなきゃいけないでしょ? 本局の上層部が関わっているのは確定なんだし、旦那もアロンソも上層部の連中には相当怨み買ってるからね、動機は充分。分からないのは目的くらいでしょうよ』
『次元世界の守護者を標榜してる連中が次元世界の平和を乱すか、笑えねえ話だな』
『それで終わればいいけどね。管理外世界で事を起こす連中って碌なの居ないから、街の壊滅くらいは視野に入れとくといいんじゃない?』
『壊滅、ねえ……』
呟いて、深く息を吐いた。「頂ィィィィッ!」とボーナス消化中にチャンスを掴んだ結果が液晶と音声によって伝えられるも、憂いの表情は晴れない。淡々とボタンを押していくフレディ、その最中、声が漏れた。
「キッチリ、しねえとな……」
「おーい、あんまりはしゃぐと転ぶよー」
「だいじょぶだよー! ――あう!」
強かに尻餅を突いて涙目になるアリシアを、言わんこっちゃないと呆れながら介抱するアルフ。
海鳴市郊外にある温泉旅館へ二泊三日の旅行にやってきた高町家、テスタロッサ家、バニングス家、月村家の面々は、食事の前に温泉に入りたいというアリシアの要望により、大浴場を一時間貸し切る形で皆揃って浴場に足を運んでいた。
「フェイト、貴方達本当に双子よね? あの姿見てるとそこはかとなく疑問が湧くんだけど」
「アハハ……ほら、姉さんって、行動力があるというか、積極的というか……ね?」
「姉のフォローをするのはいいけど、アレを見た後だとそそっかしいとしか思えないわよ?」
うう、と唸り声を上げた後フォローの失敗に落ち込むフェイトとそれを慰めるなのは、そしてアリサを窘めるすずか。そんな子供達の様子を横目にそそくさと湯に浸かるアルフを除く大人達。
「ふー。何というか、浸みますね。温泉って」
「あらリニスさん、温泉は初めて?」
「私達が前に住んでいた所は、こういった施設がありませんでしたから」
「そもそも、家族以外の人と共に入るというのが、一般ではないんです。銭湯、でしたっけ? 先程話しに聞いた施設もありませんから」
「でも、エステやサウナはあるのよね? 土地は違えど、美容に対する意識はどこも変わらないのね」
「あの皆さん、美容を保つコツを教えてもらって良いですか? 後々の為に……」
現役女子大生が三人の出産経験者に美容の秘訣を聞いて落ち込んだり、娘や妹達の将来を話し合ったり、フレディの話題が出た際にプレシアが姉妹が懐き過ぎて旦那が五月蝿いと心情を吐露したり、恭也のシスコンが最近悪化しているので桃子と忍が手綱の握り方について情報交換をしたり、キャリルに胸を揉まれてリニスが艶やかな声を出して、それに反応したアルフがキャリルの胸も揉み出して騒がしくなってきたのを、竹を連ねて作られた壁の向こう側で旦那達が酒の肴にしていた。
「まったくアルフの奴、幾ら貸切とはいえもう少し静かに出来んのか」
「そう目くじらを立てるな。若い子の元気は有り余るくらいが丁度いいんだよ」
「俺達が年を食って落ち着いた分を補填していると考えればいいさ」
見かけは若いが中身は四十手前のおっさん達は、熱燗を呷りながら談笑している。先日アルフの口から酒に酔って暴れて武道場を半壊させた事がバレて飲酒制限が課された為、湯に浮いている熱燗は一人頭二つ。この程度では水を飲んでいるのと変わらないと豪語するザルな三人は、互いに酌をしてお猪口に注がれた酒を楽しむ中でアロンソの肩に乗っているユーノは、体を硬直させてこの時間が過ぎるのを待っていた。
『おいどうした、のぼせたのか?』
『えっ、ああ、いえ、大丈夫です』
『そういえば、先程はアリシアが手荒な真似をして済まなかった。言い含めてはいるのだが、どうにも感情の抑えが効かん性質でな』
お前までとは言わずとも、その一割でもあの子にあればなと感情に素直な娘を憂うアロンソに、苦笑するユーノ。そんなユーノをチラと見て、アロンソは眉間の皺を僅かに深めて話し始める。
『滞在許可は管理局を通して取っておいたが、スクライアに合流しない理由は何だ? 怪我はリニスとアルフのおかげで完治しているし、お前ほど聡明であればこれ以上の滞在は自分と部族の立場を悪い方へ導く材料になることは容易に想像がつく筈だが?』
『ご存知でしょうが、僕はジュエルシードの発掘者です。それに関する知識は勿論、なのはやフェイトを今後も捜査に参加させる方向なら、結界・治癒魔導師として実力のある人間が居ることはマイナスにはならないと思いますが』
『確かにお前の持つ知識は収集作業を進める上で重要な物であるし、魔導師としての力量に疑いはない。八歳にして“皆伝”を与えられた神童であることは聞き及んでいるしな。しかし、知識に関しては資料を残して貰えれば俺とフレディ、それに妻の頭脳があれば対処可能であるし、魔導師としてもアルフとリニスが同じタイプである故に困らん。もう一度問う、此処に留まる理由はなんだ』
士郎とデビットが傍に居る為、アロンソはユーノに一切視線を向けていないし、威圧を放ってもいない。にも関わらず、ユーノは強烈な息苦しさに襲われた。筋肉が引き締まり、それが高じて体を動かせなくなった。その原因はアロンソでなくユーノ自身、彼が奥底に秘めていた理由に対する罪悪感から生まれたもの。少しずつそれらを噛み砕いて、消化していく過程で「言えないのか?」と疑問を投げかけてきたが無視。そうして体の硬直が治まってきたところで、ユーノは告白する。
『僕はなのはを、魔法なんて知らなくて良かった子を、巻き込んでしまいました。だから僕には責任があります、なのはを無事に家族の下へ帰す責任があります。ジュエルシードについては、アロンソさん達管理局の人に任せます。けれどなのはの事だけは僕に任せて欲しいんです。この事件が終わって、なのはが普通の女の子に戻れるまでキチンと見届けるのが、僕の責任、義務なんです』
『責任、義務か。――民間協力者の安全を確保すること、それは管理局の局員規約に明記されている事項だ。お前がその“安全”になると、万一の場合身を挺してあの子を守ると。そういうことか?』
『はい。何があっても、自分を犠牲にしてでも、なのはだけは守ります』
強い意思が言葉に込められていた。それはアロンソの胸を強く打った。子供らしからぬ言葉遣い、子供らしい真っ直ぐさ。そこにとある少年の姿を幻視したアロンソは薄く笑い、
『いいだろう。お前の言葉と意志を、信じよう』
そうユーノを肯定すると、はい! 落ち着き払っていた少年らしからぬ熱さが返ってきて、ふと湧いた感情に笑みが浮かんだ。
『……フレディが言っていたのはこれか』
『フレディさんが、何か?』
『たまには若者と接するのもいいな、という話だ』
それでユーノとの念話を切ったアロンソはその後、いきなり笑い出したのを士郎とデビットに下ネタ混じりに弄られてキレてプレシアに見つかって三人纏めて怒られるという醜態を子供達に晒しながら、旅行一日目の夜は更け行く。
日常パートです。フレディさんはプータロー、ユーノ君がイケメンになった筈。多分、恐らく、もしかしたら。