九つの影が宙に舞い、フレディを目指して跳躍疾駆する。フレディの視界内に居るのは五つ、その内先駆けになりそうな二つに意識を向け、駆逐に至る“最短”を思考する。
右前方から小ジャンプして両腕を叩きつけるように振り下ろされた剣の間に右足を差し込んで蹴り飛ばし、左下から掠めるように動いてきた影の剣を軸足で垂直に飛び上がるという荒業でかわし、限界まで持ち上げた足裏で剣先を捉えそれを軸に延髄蹴りを見舞い、引っ掛けた足首を支点に体を一回転させて影の頭上へ舞い飛ぶとそのまま踏み潰して塵に返した。
切り替わった視界に居るのは三人、その内一人は既に突貫の体勢に入っており、他の二人は剣に魔力の流れが窺える。囮か諸共か、選択を頭の中で巡らせながら接近した影の突きを手甲で受け止め、同時に放たれた振り下ろしを手首を握ることで止め、捻り上げて光刃の群れに向けて蹴り出す。
数多の光刃を受け止め無残に霧散した影から光刃の群れが飛び出し、対処に移ろうとした瞬間に思考に割り込んできた感覚に身を翻らせる。代わって視界に入ったのは右を順手、左を逆手にして“連撃”の体勢になっている影の姿。それを見咎めた瞬間フレディの選択肢から“回避”が消え、“迎撃”が追加される。
背を、足を、腕を。体の裏を光刃に晒し切り裂かれるに任せながら無造作に縦横無尽に振り下ろされる剣を弾いてはその先を狙うフレディ。互いに攻撃の間隙を狙い合うこと六十余り、光刃が止み背後の気配が動き出し、視界の端に別の影が見え出したのを機と捉えたフレディは、左の剣を弾き上げ空いたスペースにショルダータックルの形で入り込むと、
『目指すぜ音速! Augenblick Beschleunigung!』
一秒で時速六十キロに至るフレディの高速移動は大地に軌跡を作り木々をなぎ倒しながら影を押し込んでいく。その身に掛かる強烈なGが傷口を蝕み全身を苛んでも意に介さず、痛みに呻く頭の中で、後ろから迫る影と前方に現れた本体への対処を試行していく。接敵まで一秒余り。
「双・剣閃=
強さの果てに“最速”を見出した男が至った、剣撃の極致。一撃を双子に、それを一対の剣で放つことで四つ子に。そうして生まれ出でた者達を“先”で分かち
影が掻き消え、視界が開けた先に待っていたのは四様の剣。勢いがある、このまま蹂躙出来る、そんな甘い考えは遠い昔に捨てている。加速を切り、肉薄していた剣をかわす、食らう、かわす、食らう、かわす、食らう、食らう、かわす。
「八だと、テメェどうやって……!」
「スゲェスゲェスゲぇ! 初見でかわすかよ、今思いついて出来た技だったのによお!」
ダメージを受けて崩れた体を右腕と右足を用いて跳ねさせて距離を取るフレディと、必殺の攻撃から逃れたフレディに賛辞を送る男。
互いに驚きあれど、その色は正反対。背後から迫っていた影には出来ぬ技だと思い回避をしていたフレディは、前後共に初撃こそかわしたものの交わった剣に対応し切れず右肩と左肘、左の内腿にダメージを受けた。特に左肘のダメージが色濃く、肉が削げ骨が露出しその骨も周辺が砕かれ肘から先がぶら下がっているような状態。
男は二撃目でフレディの右肩を貫くことで勢いを止めることに成功、そしてフレディが背後からの一撃をかわしたことに驚いたものの感情の揺れが上手く作用し体勢を崩していたフレディの左肘に前後から攻撃を加えることに成功。しかし最後の一撃をかわされた事で必殺に至れなかった。
けれど男には、そんなことどうでも良かった。自分が見出した力は通用した、しかしフレディ=アイン=クロイツを殺すには至らない、その事実が堪らなく嬉しい。成長の余地が有る。驚きながらも左肘を壊されながらもその目と雰囲気は未だ戦意を失っていない男はいつも、自分に伸びしろがあることを教えてくれる。
「クソが、時間が経つほど面倒になってんじゃねえかお前」
「ありがとよ。お前からそう言ってもらえるのは嬉しいぜ」
会話の最中、フレディは右手で露出した骨を摘んで砕くと零れ落ちた左腕を踏み潰した。そして右肩をグルグル回し、顔を顰めながらもそれなりに動くことを確認し、男へ向けて構え直す。
「まあいい。右が動きゃお前を殺すには充分だ。あの時と同じように腸飛ばしてやる」
「クキャキャ! そりゃ恐ろしい、あんな死に様、二度はごめんだ。右腕切り落として憂いを無くさねえとなあ!」
掌で剣を回し、両方順手で握りこんだ男は、堪えきれぬ昂りを獰猛さを孕んだ笑みにして向かい合う。
少し風が出てきた。木々が揺れ、葉鳴りの音が耳を打つ。フレディの拳を真紅が包み、男の剣を藍の流れが伝う。
「殴貫撃!」
『Augenblick Beschleunigung!』
「双・剣閃!」
『acceleration immediate!』
フレディの導き出した“最短”と男が導き出した“最速”は初めての一致を得、音の壁を超えようかと言わんばかりの速度で互いの距離を侵食していく。近接を得意とし必殺の間合いとして鍛え上げてきた二人の決着は、機を窺うでもなく隙を作るでもなく、己の最強を叩き付ける全身全霊を賭けた一合に委ねられた。
フレディの拳に満ち満ちている魔力がその圧力に唸りを上げ、男の剣を高速で伝う魔力が限界だと金切り声を上げる。秒すら遅い時の流れの中で刹那より速い思考が巡る。瞳に映る世界には確と相手の姿があり、己が死の具現が鮮明に窺える。引き絞るフレディ、振り上げる男。輝く真紅、沈みゆく藍。
「ブンナグゥルルルゥゥゥウッ!」
「
ぶつかり合ったその時、二人を月明かりが照らした。夥しい量の血が体から吹き出し、二人の体が支えを無くしたようにゆっくりと崩れ落ちる。喉を穿たれ肺を貫かれ、右手首と左足を斬り落とされたフレディ。胴体を貫いた“砲撃”で中身を根こそぎ持っていかれた男。倒れ伏す直前、二人は相手の視界に入るように、中指を立てた。
「ああ、クソ、が。けっ、きょくこ、のざ、まかよ。や、り、きれね、え。なお、す、のに、どんだけ、じ、か、ん、かか、るとおもっ、てん、だ、よ。おまえ、と、ちがって、こち、とらし、ぜん、にな、おった、り、しねえ、のに……おぼ、え、とけ。つぎは、必ず……!」
男の体が、黒い穴にゆっくりと吸い込まれていく。そんな中フレディは“両足で”立ち上がり、右手首を“拾い上げて”傷口に付けると、血泡が傷口を包みこんでそれが消えた頃には“元通り”になった手首の感覚を確かめる様に捻っている。
「すーはーすーはー。あ゛ーあ゛ーあー。よし」
同じように血泡の発生した喉も、貫かれていた筈の肺も、いつのまにか傷口が塞がり調子を確かめるフレディの姿があった。
『昔はアレで死んでたのに、随分しぶとくなったもんだねえ』
「あの時は触れる前に腹抜いてやったからこんな醜態晒してねえよ。クソが、何なんだISってのは……」
悪態をつきながらフレディは森を出る為に自分が作った軌跡を辿っていく。“五体満足”の体を伴って。
ごめんなさい、これ以上文章思いつかなかった。今の限界ってことなんでしょうが、この現実受け止めるのはキチィなあ……