魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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予告は裏切る為にある。


第十六話

 

 

「お父さん!」

 

 

「おじさん!」

 

 

 

 咆哮の後、壁に走っていた亀裂が底に至り大地の揺れを感じたアリシアとなのはが悲痛な叫びを上げた。特にアリシアの動揺が凄まじく、なまじりに涙が溢れ俯きながら何度も父を呼び掌に食い込んで血が滲む程強く鈍銀の十字架を握り締めている。その心中は、己の無力への嘆きで満ちていた。

 

 

 アリシアは魔法を使うことが出来ない。具体的には魔力の制御が上手く出来ない。五歳の時からずっと姉妹で訓練を(おこな)っているが、いつも暴発したり発動が出来なかったりと、満足に魔法が使えた試しが無い。七歳になってからはデバイスも与えられたが、当時最新鋭の調整能力を以ってしても彼女の魔法は一向にその姿を現さなかった。

 

 

 訓練で失敗する度に両親は慰めてくれた。高い魔力資質を持つ子供は体が出来上がるまで魔法が上手く使えないことが多い、だから焦らなくてもいい、何度も繰り返して出来ることを見つけようと。しかし、半身とも言えるフェイトがめきめきその才を発揮し、両親から褒められる様を見ていたアリシアにとって、それは苦痛でしかなかった。

 

 

 苛立ちや嫉妬からフェイトを遠ざけ、傷つけ、訓練の最中に癇癪を起こして邪魔をしたこともあった。それに怒ったフェイトと殴り合いの喧嘩もした。そうして姉妹の仲が険悪になってしまった七歳の時、いきなり現れたのがフレディだった。

 

 

 彼は飲みの席で姉妹の仲が悪い、どうすればいい、と毎回相談してくる夫妻が鬱陶しくなり、その原因を直に見に来たのだとアリシアに語った。どうして私の所に来たの? と聞けばお前が原因だろと真顔で言われて、アリシアがカッとなって振り上げた手を掴まれて捻り上げられると、フレディが組んだ胡坐の上に座らされた。逃れようとしても筋肉の塊の様な腕で作られた格子に阻まれ、身をよじることすら難しい。逃走を諦めて大人しくなったのを見計らったように、フレディは問いかけてきた。

 

 

 

「お前が何が気に入らなくて妹が嫌いなんだ?」

 

 

 

 最初に浮かんだのは両親に褒められて笑うフェイト、次いで浮かんだのは魔法が使えなくて泣く自分。気に入らない理由を思い浮かべた時、魔法のことしか浮かばず、そのことに戸惑ったアリシアにフレディは「思ったことを口に出してみろ」と言う。

 

 

 自分が魔法を上手く使えなくて、妹が褒められているのを見て苛々する。そう言ったら“逆だろ、そりゃ”と返された。

 

 

 

「妹が褒められているのを見て、自分が上手く出来ないから焦ってイラついてるんだろ?」

 

 

 

 そう言われて、体がカーッと熱くなって、衝動的にフレディの顎に頭突きしていた。痛みに悶えるフレディは“何しやがんだ全く……奴のガキじゃなかったら圧し折ってるぞ”と悪態を吐きながら話を続ける。

 

 

 

「いいか、魔法なんてものはな、生きていく上でそんなに大事なもんじゃない。現にお前の母親は凄い魔導師だが、奴は魔法なんざ殆ど絡まん生体工学の研究者だ。お前はそれに似てるって言われてんだろ? なら張り合うなよ、面倒だから」

 

 

「……でも、それでも、魔法が使えたら、私だって、お母さんにお父さんに凄いねって、よく出来たねって言って欲しいもん……!」

 

 

「だから張り合うなっつてんだろ。妹が魔法で褒められてんならお前は勉強すればいいじゃねえか。丁度よくお前の母親は研究者だ、魔法と学問、どっちの道を選んでも背中を押してくれるし、褒めてくれる。父親だってそうだろうよ、普段から世話になってんだから」

 

 

 

 ぶっきらぼうな物言いだったが、それはアリシアに新たな価値観を芽生えさせるものだった。勉強を頑張っても両親は褒めてくれる、けれどそれでも、魔法が使えたら……言い募るアリシアに、フレディは大きく溜め息を吐いて話し始める。

 

 

 

「お前まだ七歳だろうが。出来ないことなんてあって当たり前なんだから、出来ることからやっていきゃいいだろうよ。何だ、お前勉強でも負けてんのか?」

 

 

「勉強は私の方が出来るもん! ……フェイトが訓練してる間、暇だし……」

 

 

「じゃあ今は頑張って勉強してろ。お前くらいの資質がありゃ魔法なんて遅かれ早かれ使えるようになる。使えるようになったらそっちを頑張ればいい。そしたら魔法でもお前を褒めてくれるようになるさ」

 

 

「ホントに? ホントに褒めてくれるようになる?」

 

 

「当たり前だろ。お前等が生まれた頃なんて笑ったり手を握ってきた写真を見せて可愛いだろ? って言ってくる親なんだぞお前の親は。ていうか、頑張って勉強してるお前を褒めてくれたことはないのか? あるだろ?」

 

 

 

 そう言われて思い返してみると、難しい問題が解けた時はいつも“よく出来ました”と頭を撫でられていた。その時の母の顔はいつも笑顔で、声は嬉しそうだった。食事の席でも今日はこんな問題を解いたと聞かされた父が普段は引き締まっている表情を緩ませて笑みを作り“凄いじゃないか”と褒めてくれた記憶があった。

 

 

 どれも、最近のことだ。けれど魔法のことばかり気になって、素直に受け取れなかったものだ。それらを思い出したアリシアの瞳から、涙で溢れ始める。

 

 

 

「ある。いっぱい、たくさん、ある。褒めてくれたこと、いっぱい、いっぱい……!」

 

 

 

 嗚咽が混じり、途切れ途切れであったが、想いの詰まった言葉はアリシアの自覚を生んだ。この時から、アリシアは魔法の訓練の時間を大幅に減らし、魔法でフェイトと張り合うことを止めた。そうすると自然に姉妹の関係も改善されていき、半年後にはフレディへの悪戯を一緒に考えるまでになっていた。

 

 

 魔法が上手く使えない、それはアリシアにとって“まだ出来ないこと”の一つで、最早気に病むことではなくなっていた。こんな状況にならなければ。

 

 

 

 転移特有の浮遊感に目を覚ますと、真っ黒な服に身を包んだ少年が視線の先にいた。その少年がアリシア達を指差すと、少年の頭上にあった大筒から茜色の砲撃が発射されて、それをユーノが受け止めて、余波をなのはとフェイトが障壁を張って防いで。砲撃を直接受け止めているユーノの顔は苦しさを表す様に歪み、余波ですら軋みを上げる障壁を維持する為に額を汗で滲ませながら懸命に努めるなのはとフェイト。

 

 

 アリシアは父から与えられた起動も未だ出来ないデバイスを握り締めて、三人の無事を祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 そうしている内に、今度は父が現れた。颯爽と現れた父の姿を見て、助かったと思ったのも束の間、父の姿は砲撃から身を守る為の壁によって見えなくなり、その壁は中に砲撃を叩き込まれ父の咆哮と共に大地を揺らした。アレは父の末期の声ではないか、そう思ったアリシアの胸中に湧きあがったのは“自分が魔法を使えていたら”という、過去に乗り越えた思いだった。

 

 

 自分が魔法を使えていたら、ユーノや父の援護が出来たんじゃないのか。使えていたら、父があんな目に遭うこともなかったんじゃないか。そんな思いからデバイスを握る力が更に強くなる。けれど、掌に食い込み痛みと血を流すだけで、何も応えてはくれない。

 

 

 どんなに魔力を込めても、どんなに思いを込めても、“メントーア”(助言者)は沈黙を貫く。沈黙を以って、答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動揺して動くことすらままならないなのはとアリシアを横目に、ユーノとフェイトは少年への警戒を最大限に高めていた。壁の向こうに居ることは間違いなく、となれば何時何処からどうやって仕掛けて来るのかを見極めなければならない。攻撃力はあちらの方が圧倒的に上なのだ、この上奇襲を決められれば壊滅は必至。

 

 

『ユーノ、倒すか逃げるか、今の内に決めておこう』

 

 

『倒すか。……策はあるの?』

 

 

『攻撃力は確かに凄い。けれどそれに慢心している節があるし、私達の時も父さんの時も同じ系統の魔法しか使っていないから、一極型の魔導師なのかもしれない』

 

 

『成る程、それなら高速移動や防御魔法が脆いって可能性も考えられるか。仕掛けの手は?』

 

 

『姿が見えたら私が突進するから、軌道上にある砲撃から私を守ってくれればいい』

 

 

『それ僕の負担大きくない?』

 

 

『ユーノなら出来る』

 

 

『その信頼はどこからくるのさ。――まあ、やれるだけやってみるよ』

 

 

 

 前方に居るユーノとフェイト、その三歩後ろで地面にへたり込んでいるなのは、更にその後ろでユーノの結界に守られるアリシアと眠ったままのアリサとすずか。それらを囲む様にユーノがドーム状の障壁を生み出すと同時に、周囲に現れた短筒から砲撃が放たれる。魔力光の眩さに視界が塞がれる中、フェイトは少年の姿を探す。地上三百六十度には居ない、ならば上、砲撃の隙間を縫う様に視線を動かしていくと、先に黒い靴が見えた。アレだ。

 

 

 

『ユーノ、二時方向上空に彼が居た。私が突進するから障壁に当たる瞬間穴を開けて』

 

 

 

 フェイトが少年の姿を発見したという二時方向は、障壁に掛かる負担が最も大きい砲撃の密集地帯だ。幾らなんでもそれは、と反対の意を伝えようとフェイトへ目を向けると、その装いが少々変わっていた。

 

 

 服装はそのままに光沢のある銀色のガントレットとブーツを着用し、肩にも同色のプロテクターが付け、それを留め具に白いマントがフェイトの背で靡いている。加えてバルディッシュも鎌から突撃槍へその形状を変化させており、その切っ先を少年の居る空へ向けている。横顔から覗く表情は覚悟に満ち、瞳は捉えた獲物を逃さぬよう瞬きすることなく見据えている。その姿はユーノに“騎士”を想起させ、反対の言葉を飲み込ませるのに充分だった。

 

 

 

『分かった、タイミングはそっちに任せる。援護はするから、よろしく頼むよ』

 

 

『こちらこそ、よろしく』

 

 

 

 互いに念話でエールを送りあうと、フェイトの体が金色の光に包まれ始める。父が考案し、母がアレンジを加えて完成させた高速移動魔法。雷の変換資質を持ち、高速機動戦闘に適正を示した彼女だけが扱える“最強の矛”。

 

 

 

「いくよ、バルディッシュ!」

『Lance Form Full throttle!』

 

 

 

 かくて少女は弾丸となりて、大地より放たれる。己が力の根源たる“雷”をその身に宿して。

 

 

 




いや、昨日まではユーノ君がゴットフィンガーやってたんだけど今日起きて書いてたらいつの間にかこうなった。あとアイマスCOREが終わってちょっとしんみりした。
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