魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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プレシアさんが出てくると指が走る法則。


第二十話

 

 

 

なのはの軌道をなぞって飛行すること数分、辿り着いたのは旅館のある峠の麓近くにある自然公園。それをすっぽり覆う様にほんのり茜色を帯びたドーム状の結界が張られているのが、プレシアの目に映る。

 

 

「これ……オノーレ式の結界魔法? こんな物を張るなんて、特定してくれと言っているようなものじゃない。馬鹿な天才ね」

 

 

 オノーレ式。ミッドチルダ式、ベルカ式、ガルディアン式と数ある魔法体系の中でも特に毀誉褒貶の激しい魔法式。

 

 ハイバランス、しかし発動に必要な魔力も比例して多く、AA以上の魔導師でないと発動すら出来ない魔法ばかりが多数を占めるのだが、これからプレシアが相手をするのはオノーレ式最上級に位置する魔法。“可能”を極限まで追求した結果突き抜けた幻想(ギフト)と称されるに至った、存在が確認されている結界魔法の頂点に君臨する天才達の夢の結晶。

 

 SS以上の魔導師が持つ平均魔力、その八割を要求する代わりに結界魔法が搭載しうる最高峰のステルス性は、AAランク以上の魔導師でなければ視認することも感覚に反応することもない。

 

 それを磐石にするのが座標混濁能力。結界を張った地点の座標を刹那単位で変更し、結界の中では念話は視認出来る距離でしか行えず、転移魔法は座標特定の行程を挟むが故に内外どちらからも不可能。強引に転移を行っても、行き着く先は次元の海。二度と帰還は叶わない。

 

 そして、なのはの様に結界の端を目指して行く者にも罠は存在する。方向感覚を狂わせ、結界の内側を周回させ続ける幻惑魔法が。単純だが、転移魔法が使えなくなった魔導師は大抵蜘蛛の巣の様なこの罠に嵌る。

 

 だが、この結界では機能していないようだ。なのはの飛行記録では此処を減速無しで突っ切っている。

 

 

 それの考察はさておき、この結界にはまだ面倒な物が幾つもある。

 

 侵入者対策に講じられているのは四つの言語で構成されている百文字単位のパスコードは、一文字入力毎に変更が為される。

 

 これに気を取られると待っているのは視力障害。結界表面に映る文字配列や発光の仕方、表示時間やタイミング等細部まで徹底的に計算しつくされた結果、二分も見ていれば失明、それ以下であっても視力に何らかの障害を齎す。

 

 他にもSランク以下の魔力攻撃を弾き返す反射装甲、物理攻撃でも戦艦の主砲にすら耐えうる防御力を持ち、一度発動してしまえば周囲の魔力を食い散らかして術者が命令するか死が訪れるまで稼動し続ける性質を持つ。

 

 そんな結界魔法に名付けられたのは“虜の檻”。理由については諸説あるが、発案者が当時置かれていた状況が原因では、というのが専らの見解だ。

 

 

「オノーレ式を使える人間、かつこのクラスの結界を張れる魔導師は――確か十五年くらい前に亡くなった覚えがあるけれど……」

 

 

 思考しながら、プレシアは結界に右手を伸ばす。しかし異物の侵入を防ぐ為か結界の壁が棘を形成し、瞬く間にプレシアの右手を串刺しにする。プレシアは痛みを認識した瞬間神経の電気信号を遮断して痛覚を一時的に無くすと、ゆっくりと手を開いていき、中指が結界の淵に触れた瞬間、棘が引っ込んで右手がずるりと入り込んだ。

 

 

「どうやら、成功のようね。相変わらず慣れないわね、この感覚」

 

 

 溜め息を吐いたプレシアは、そのままの体勢で指を打ち鳴らす。するとリニスとアルフがプレシアの両隣に現れた。

 

 

「うおっ!? 何、何さ!?」

 

「……、プレシア、呼ぶならせめて念話で一言断ってからにして下さい。もし一般人に見つかっていたら騒ぎになるのは確実ですよ?」

 

「ごめんなさいね。今呼ばないと色々と間に合わなかったものだから」

 

「何が――ッ? プレシア、手がっ!」

 

 

 冷静沈着で通っているリニスが目を見開いて驚く。次いで気付いたアルフも声を上げるも、プレシアはそれよりもと言って二人の興味を引く。

 

 

「治癒の前に、二人共私の体に掴まりなさい。見えにくいかもしれないけど手首から先は結界の中なの。この状態で治癒魔法を使われたら手首が千切れ飛んじゃうから、先ずは中に入りましょ」

 

 

 空いた手で肩を指すと、二人は大人しくプレシアの肩を掴む。二人が怪訝な顔をしたのも束の間、プレシアと共に前を進み出ると、その体に大きな違和感が駆け巡る。

 

 

「ちょっと、何だい今の、無茶苦茶気持ち悪かったんだけど」

 

「今、抜けたのが結界、ですか? 生き物みたいに体を這い回る感覚がしたんですけど……」

 

「呼吸はしているし、ある程度の自律神経は備えているから、敵か味方かの判別式に過剰反応しちゃったんじゃない? 貴方達みたいに魔力が構成元素の半分を占めてると、その辺り敏感だろうから」

 

 

 そんな事よりお願いね、と言い手の残骸と言った方が相応しい穴だらけの手を二人に差し出す。あまりのグロテクスさに顔を顰めながら二人が治癒魔法を掛けると、何かが弾けた様な音と共にプレシアの手から雷撃が放たれ、二人の指先を焦がした。

 

 

「熱っ! え、もう何だよ、驚かされてばっかだよ今日!」

 

「あの、プレシアこれは一体……?」

 

「恐らく結界の残滓が、魔法反射の術式が残っていたんでしょう。前に三人で潜った時は問題なかったから、ちょっと油断してたわ。二人共大丈夫?」

 

「アタシ等より自分の心配しなよ、その手放っておいたら幾ら姉御でも拙いよ」

 

「暫く治癒魔法を掛けるのは無理よ。だから早くフェイト達の救出に行きましょう。出来ない事に時間を掛けてる暇は無いわ」

 

 

 心配する二人を振り切る様にプレシアはユーノとフェイトが戦闘を行っているであろう地点へ急ぐ。その途中で幻惑魔法で右手の怪我を隠すと、視界の奥で茜色の煌きを見た。アルフとリニスの二人は後ろから追って来ている、もう少しスピードを上げても――そう思った時、プレシアの前方で僅かな歪みが発生した。

 

 

「ッ! フェイト!」

 

 

 バインドに縛られた娘が落下する前に抱き止めると、プレシアの魔力に反応してバインドが弾け飛ぶ。その様を見たプレシアは、フェイトが何故此処に現れたのかを察した。

 

 

「か、母さん!? 良かった、お願い、ユーノを助けて! ユーノ、ユーノが死んじゃうよ!」

 

 

 自分を抱きしめる母を見て、服を掴み涙を溢れさせありったけの思いを込めて懇願するフェイト。大丈夫、必ず助けるからと宥めながら、プレシアはユーノの行いに少しばかりの怒りを抱きつつ、大きく悔いていた。

 

 

 エスケープ・バインド。撤退や護送等に用いられるこの魔法には、他の転移魔法と異なる性質がある。それは多くの転移魔法に採用されている座標指定方式ではなく、魔力反応式を採用している点だ。

 

 個人、或いは物体が発する魔力を終点とするこの方式は座標の計算、及び指定をする必要が無い。エスケープ先に指定した魔力の元へ飛ばす、この一行程のみで、この魔法であれば理論上転移魔法を使うことは可能だ。

 

 本来は犯罪者に監獄の位置情報を悟られない為に用いられ始めた魔法であるが、現在は医療現場やレスキュー部隊の運用等においても使用されており、遺跡発掘を生業とするユーノであれば、緊急避難の為にこの魔法を習得していてもおかしくはないが……

 

 

(まさか私の魔力を登録していただなんて、気が付かなかった。あの子、こうなるを見越して……ッ! 男の子だからって無茶をしていい訳じゃないのよ!)

 

 

 焦りを面に出さないよう努めながら、アルフとリニスの到着を今か今かと待っていたプレシアの耳に、アルフの呼びかけが届く。

 

 

「姉御、取り敢えず止血くらいした方が、って、フェイト!?」

 

「先にフェイトを連れて戻っていなさい。私はユーノ君を助けに行くから。いいこと、せがまれても追いかけてきちゃダメよ」

 

 

 フェイトをアルフに持たせたプレシアは娘の呼びかけを態と無視してユーノの元へ急行する。ユーノが幼いながらも魔導師としての確かな技量を持っているとはいえ、その魔力値はAランクと、優秀だが想像の域を出ないレベル。その彼が対峙しているであろう茜色の光線は少なく見積もってもオーバーSは確実と見ていい。

 

 アレへ至るまでに少なからず消耗しているであろうし、エスケープ・バインドは行程を省く代わりに大きく魔力を食う。そして彼にはプレシア達が此処に来ていることを察する手段が無い。サーチャーを放っていれば話は別だが、そんな気配は微塵も無かった。つまり、

 

 

「貴方はまだ九歳の子供でしょうに……! 使命感に駆られて自殺するには早いわよ!」

 

 

 術式を組み上げる。巨大な光線を受け止める小さな淡い緑色、命の灯火にも見えたそれを消そうとする光線に向けて、プレシアが左腕を振るった!

 

 

「ズヴォルタ=サンダー・ロアー!」

 

 

 頭上の現れた紫色の円環魔法陣、直径二メートル程の魔法陣から放たれた雷の砲撃は先端に獅子を象り、大口を開けて光線を食い破ろうと牙を剥く。

 

 

 横撃を受けたことで消滅はせずとも軌道が逸れた光線、拮抗が崩れて片側の勢いに押されて弾かれ零れ落ちたユーノを、プレシアが下に回りこんで受け止めた。

 

 

「あ……プレ、シ、ア、さん……?」

 

「よく頑張ったわね、後は私に任せなさい」

 

 

 ユーノの目を塞ぐ様に手を翳し、催眠魔法を使う。この様な補助魔法の類はあまり得意ではないプレシアだが、ユーノが弱りきっているのもあって、直ぐに寝息を立て始めた。その姿に少しばかり安心するも、容態を見て顔は歪む。

 

 巨大な質量を受け止め続けた両手は爛れ、左手は中指と薬指が第二関節より先が無く、右手は中指と薬指の間から走る亀裂が掌の中心にまで及んでおり、右腕は肘から骨が飛び出し、左腕は手首から伸びる裂傷が激しい。

 

 娘と同じ年の男の子が、娘の為に文字通り命を張った。その結果に、プレシアは感謝を述べる。

 

 

「ありがとうユーノ君。貴方のおかげで皆が救われた。貴方の決死の行いは報われたの。だからゆっくり休んで頂戴。“大魔導師”プレシア=テスタロッサの名に於いて、貴方に敬意と、そして報恩を誓います」

 

 

「テメェかあ、俺の砲撃を食ってくれた奴は! 覚悟しろ、今――ッ!」

 

 

 自慢の砲撃を獅子に食われ怒る少年を囲む様に正方四隅を雷が走った。一寸でも動けば感電する位置に。砲撃に長けている少年は正確無比の制御と自身を一撃で落としかねない威力の砲撃で怖気を震い、その場に縫い止められる。

 

 

「今貴方と問答をしている暇はないの。失せなさい」

 

 

 其処に向けられるのは、純然な怒りを孕んだ視線と声色。先の砲撃で顔を出した恐怖心を刺激されるも、同時に顔を出したプライドが怯む事を許さない。

 

 

「う、うるせぇ! 獲物横取りされて黙っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 少年の頭上から駆け抜ける雷が走り、獣の様な悲鳴が響く。伸ばしていた掌で拳を作ると雷は止み、全身を焦がした少年が現れる。僅かに肩が震えている為、まだ意識があるのが見て取れた。

 

 

「見逃しなさい“イデアーレ”。貴方では私には敵わない。見せ付けた筈よ、その事は」

 

 

「――ァッ! テメェ、プレシア=テスタロッサかっ! 殺す、殺してやるテメェだけは!」

 

 

 顔だけを上げて、少年はプレシアに吼えた。表情には怒りではなく憎しみが、ありありと浮かんでいる。

 

 

「今の貴方に何が出来るというの? 殺したければ退きなさい。貴方が万全になれば何度でも相手をして、何度でも跪かせてあげるわよ」

 

 

 歯を剥いて、何かを噛み締める様に唸る少年は、クソッ! と吐き捨てると背後に生まれた黒い穴に身を投げた。プレシアはその様を見て、思わず目を細める。

 

 

「今の亜空間転移……? フレディ以外に出来る人間が居る筈がない、アレはグロウルが居てこそ成立する術式の筈……」

 

 

 思考に耽りそうになった頭を振って、ユーノの顔を見やる。早くこの少年を治療しなければ、先程の誓いは成立しなくなってしまう。体を翻し、ユーノの負担にならないよう飛行をしながら、背後で発生した竜巻を見やる。

 

 

「生きて帰ってきて頂戴、必ず」

 

 

 




色々聞きたいことあるかもだけどネタばらしまで待ってね!
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