魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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ただの説明回。この世界の魔法はこんなんです、と主張する回。


間話~プレシアさんのパーフェクト魔砲教室~

「え? なのはってお菓子作れるの?」

 

「お母さんに手伝ってもらいながらだけど、ケーキとかタルトなら一通りは出来るよ」

 

 

 怒涛、と形容すべき温泉街での一夜から数日。精神的に疲れが見える、とフレディが判断したことにより訓練を中止させられていた二人は、解禁となった土曜日の朝に早速十分二セットの模擬戦をやり、今は休憩に雑談を楽しんでいた。

 

 

「羨ましいなあ。私は母さんがまだその辺りの事教えてくれないから、料理の方はからっきしで」

 

「そうなの? プレシアさんなら、頼めばOKしてくれそうだけど」

 

「何度か姉さんと一緒に頼んだことあるけど、まだ早いって取り合ってくれないんだ」

 

「……それなら、今度私のお母さんに頼んでみようか? お母さんはプロだから、お母さんから頼めばプレシアさんもいいって言ってくれるかも」

 

「あ、そっか。じゃあ、訓練終わったらなのはの家に」

 

「ダメよフェイト」

 

 

 二人の耳に渦中の人物の声が届き、思わず視線を彷徨わせると、向かってくる人影が一つ。白いブラウスの上に柔らかい青のカーディガンを羽織り、下はヌードベージュのチノパンと比較的カジュアルな装いのプレシアは、フェイトですら見たことのない黒縁の眼鏡を掛けた姿で二人の前に現れた。

 

 

「フェイトやアリシアに料理を教えていないのにはちゃんと理由があるの。桃子さんには説明してあるから……なのはちゃん、気を使ってもらったのに悪いわね」

 

「い、いえ! そんな、大丈夫です!」

 

 

 温和なお母さんが“出来る大人の女性”として現れた。これまで抱いていたイメージを惑わせる出で立ちに緊張して、声を跳ねさせてしまったなのはに、プレシアは微笑みながらありがとうと謝意を述べる。

 

 

「そういえば母さん今日はどうして此処に? 母さんが私達の訓練を見に来るなんて、ちょっと嬉しいな」

 

 

 プレシアは普段家事を専らにしている為、早朝や昼間に行われるフレディの訓練には顔を出さない。アロンソは一度だけやって来たが、単なる様子見だったようでそれ以来顔を出していない。フレディの訓練も身が入るが、フェイトにとっては身近な存在である両親に自分を見てもらえる事の方が嬉しかったりする。

 

 

「今日は見学じゃなくて、私が二人に訓練をつけに来たの。フレディが今忙しいらしくて、代わりにって頼まれてきたのよ」

 

「ホント!? 母さんが訓練してくれるの久しぶりだ!」

 

 

 やった! と喜びを露にするフェイトに対し、ちょっと気後れているなのは。あの日見たサーチャーの映像から凄腕の魔導師であることは分かっているが、同時に垣間見た苛烈さを今更ながらに思い出して内心ビクビクしている。実は鬼軍曹とかそういうタイプなのではと。

 

 

「落ち着きなさいフェイト。今日は実技じゃなくて、やるのは座学の方だから。なのはちゃんとフェイトの知識をある程度均等にしておかないと、今後の訓練にも影響が出るでしょうからね」

 

 

 そういう訳だから。プレシアがパチンと指を鳴らすと二人が座っていた切り株の近くにテーブルと椅子、そしてテーブルの上にサンドイッチの詰まったバスケットと紅茶の入ったピッチャーが現れた。これも転移魔法の一種であり、割とポピュラーなものだが、学んできたのが悉く戦闘関係のなのはは、応用の幅に目を丸くしていた。

 

 

「朝食を食べてからにしましょう。運動して、お腹空いたでしょ?」

 

 

 

 

 

 三人が朝食を取り始めてから二十分程経ち、バスケットの中にあったサンドイッチも粗方食べ終えた頃、そろそろ始めしょうかとプレシアが言って、なのはとフェイトは居住まいを正す。

 

 

「なのはちゃん。自分が使ってる魔法が何か、知ってる?」

 

「えっと、ミッド式。って聞いてます」

 

「ミッド式、これは略称で正式にはミッドチルダ式と言うのだけれど、世界で最も多くの人が使っている魔法体系で、得意魔法はなのはちゃんが扱ってる射撃魔法や砲撃魔法。それからユーノ君が使ってる結界魔法や防御魔法ね」

 

 

 自分と見知った名前が出てきて、ふんふんと何度も頷くなのは。知識を吸収しようとしている姿勢に微笑みながらプレシアは続ける。

 

 

「最も多くの人が使っているという事は、扱っている人の数だけ魔法の幅があるということ。フェイトやアロンソおじさんみたいに、近接戦を得意としている人も居るわ。数は少ないけどね」

 

「じゃあ、フレディさんもそうなんですか?」

 

「いいえ。フレディは別の魔法体系を使っているの。ベルカ式って聞いたことある?」

 

 

 プレシアの質問に首を横に振るなのは。自分が使ってる魔法の説明くらいしときなさいよと微笑みの裏で毒突きながら、プレシアは説明を始める。

 

 

「ベルカ式というのは基本的に単騎、つまり一人で戦う事を前提にした魔法体系で、多くの人が近接戦を得意としているわ。遠距離戦が得意だっていう人は滅多にいないけど、“サーチ(射抜く)・アイ()”と呼ばれる世界的に有名な弓の名手が居るわ。ベルカ式を扱う人に共通しているのは、皆が何らかの武器を持っているということ」

 

 

 身近なベルカ式の使い手を思い浮かべて、頭に疑問符を浮かべるなのは。少なくとも、フレディが武器を持っているところなんて見た事がない。

 

 

「あの、フレディさんって武器を持ってないですよね?」

 

「フレディは得物……剣とか槍とかじゃなくて、拳とか足を武器に戦う格闘家なのよ。今度見せてもらうといいわ」

 

 

 はい! と元気よく返事をするなのはに、フェイトがフレディは父さんより強いとか、私の憧れだとか、ミッドでフレディに勝てる人は居ない等々碌でもない情報(プレシア主観)を吹き込んでいくのを阻止する為、一度咳払いをして注意を向けると講義を再開する。

 

 

「次にこの前なのはちゃんやフェイトが男の子が使ってた魔法式の説明をするわね。アレはオノーレ式といって、ミッド式の源流になった魔法体系なの。ミッド式より強力で、使えさえすればそれだけで一流の魔導師と胸を張れるでしょうね」

 

 

 へえーと感嘆の声を漏らしたなのはに対し、難しい顔をするフェイト。なのはと違い直接対峙したからか、あまり良い印象を持っていないようだ。

 

 

「ただ、ミッド式より多く魔力を使うし、難解な術式を扱う為の知識と技術も要求される極めて難易度の高い魔法体系で、扱ってる人をあまり見たことは無いわね。私と、フレディと、後は管理局に百人ちょっと居たかしらね。全員がSランクを保持する押しも押されぬ特級の魔導師ばかりだから、なのはちゃんが魔導師を続けていればその内お目に掛かれるかもね」

 

「百人って、少ないんですか?」

 

「ミッド式が約百二十万人、ベルカ式が約三十四万人、後で説明するガルディアン式が約八十万人だから、ね。廃れている訳じゃないけど、使い手を選ぶ魔法だから全然普及してないのよ」

 

「そんなに差が……」

 

「ただ使える人間は居た方がいいってことで、オノーレ式の情報はAAAランク以上の人間には開示されているの。見たければどうぞ、って感じね」

 

 

 紅茶を飲み終えたプレシアは、再び指を鳴らしてバスケットをどこからか持ってきた。中にはマフィンや一口サイズのエッグタルトが入っていて、最初に自分が一つ取り出すと二人にも感想が欲しいと言ってバスケットの中身を見せてなのははエッグタルト、フェイトはチョコレートマフィンを頬張る。

 

 エッグタルトはパイで作った小さな皿の上に砂糖控えめのカスタード風フィリングを流し込んで焼き上げたもので、パイ生地のサクサク感と滑らかで口溶けの良いフィリングの甘みが広がる手軽に作れて美味しい洋菓子の一つであり、翠屋でも取り扱っているのだが、母の味とはまた違った風味に頬を緩ませて美味しい……と幸せそうに呟くなのは。

 

 チョコレートマフィンの方はケーキカップを使ったアメリカ式と呼ばれるタイプを採用し、一度チョコレートマフィンを作った後にプレシアの繊細な調理技術と魔法技術の結晶である“ナノ・スルー(糸通し)”を用いて中にとろりとしたチョコレートを挿入したプレシア自信の一品に、食べ慣れていれども感じる美味しさに満面の笑みで応えるフェイト。

 

 娘とその友達から貰った最大級の賛辞に思わず目頭が熱くなるプレシアであったが、ぐっと堪えて食べながらでいいからと講義を再開する。

 

 

「最後に紹介するのがガルディアン式。ベルカ式と同じく近接戦を主体しているけどこっちは複数人、二人から十人くらいのグループで戦う為の魔法が多いというのが特徴ね。ベルカ式と違って近距離、中距離、遠距離。どの位置からでも攻撃が可能な、万能型の使い手が多いわ」

 

「私のガトリングも元を正せばこの魔法体系の流用なんだよ」

 

 

 その言葉になのはが模擬戦での様子を思い出すと、確かにあの魔法はどの位置に居ても飛んできてなかなか砲撃のチャンスを作らせてくれなかった。万能型、というのもフェイトの戦闘スタイルからすれば納得のいく話だ。

 

 

「ただその分他の魔法体系と比べて“主砲”となるべき魔法が少ないのが欠点ね。無い訳じゃないし、使い手の魔力や使い方で幾らでも補えるけど、基本的には仲間と連携して確実に仕留めるのが一般的ね。使ってるのはフレディとアロンソおじさん、それからさっき言ってた通りフェイトも少しかじってるわ」

 

 

 取り敢えずはこんなものかしら、と再び紅茶を飲み終えたプレシアが言い、なのはがこれまで聞いた事を小声を出しながら反芻していく。

 

 

(楽しいんでしょうね、きっと)

 

 

 自分が子供達と同年輩だった頃は――思い出しかけてやめた。面白くなったのはもう少し後だった。ちょっぴり憂鬱になったプレシアの気分を察してか、フェイトが気遣う声をかけると急いで取り繕って笑顔を搾り出す。母と大人の業は深い。

 

 

「それで、なのはちゃんの訓練なんだけど、なのはちゃんが覚えてる射撃魔法に“ダブル・バースト”(二点射)があるでしょ? アレ、最大で幾つ同時に出来るか知ってる?」

 

「うーん……取り敢えず十個に出来るよう頑張れって言われたので、その倍くらいですか?」

 

「相変わらず無茶言うわねアイツ……正解は五十八点射。それを百二十八発同時に撃てる魔導師がバースト技術の生みの親よ」

 

 

 二点射、五発同時が今の限界であるなのはにとって、それは遠い夢の様に思えた。想像もつかないのだ。二点射だけでも十二分な威力を持つのに、その数十倍の量を連ならせて百以上撃ち出せる魔導師が存在しているなどということは。

 

 

「想像しにくいかもしれないけど、魔法を覚えたてのなのはちゃんがこれを使えるってことは、将来そうなれる可能性を秘めてるってことなの。だからなのはちゃんの訓練はこれを重視していこうと思うんだけど、それでいい?」

 

「はい! って、プレシアさんが教えてくれるんですか?」

 

「私もそれなりに出来るからね。目の前で見せて覚えた方が何かとやりやすいでしょ?」

 

 

 フレディは使えない筈だからどうせ術式だけ渡して後は任せたに決まってる、と思いながら問い掛けると少し苦い顔をした後笑みを浮かべてよろしくお願いします! と元気のよい返事が届いた。苦い顔をさせた原因に心の中で呆れながら、プレシアはこちらこそと笑顔で応対する。その横目に、期待の篭った眼差しを向けて来る愛娘が一人。

 

 

「母さん、私の訓練は……?」

 

「ああ、フェイト、ごめんなさいね、何も無視してた訳じゃないのよ? サンダースマッシャーの改良案を考えてあるから“先ずは”そこから、ね?」

 

 

 僅かに涙目となった愛娘に慌てて、早口で言い切ったプレシアの言葉をしっかり受け取ったフェイトはありがと母さん! と一転笑顔に。歓喜に打ち震えてにやける顔を隠す為に二人から視線を外した途端に二人から届く心配の声。いけないいけないと頭を振って正気を取り戻したプレシアは、先程より少し笑みを深くして二人に訓練の開始を告げた。      

 

 

 







この世界におけるプレシアさんは二十代後半。

つまりプレシアさんは若くて美人でエリートの雰囲気をかもし出す蝶! イイ女なのだよ!
眼鏡を掛けるともう誰も抗えない……



あとプレシアさんが料理を教えない理由は二人の身長が足りないからです。百二十センチくらいだとコンロが大体肩辺りに来ますので、手を持ち上げる形になって非常に危ないんですね。踏み台を使えばいいとおっしゃる方もおられるでしょうが、それにしたって足場が不安定な状況で万が一踏み外しでもしたら火傷じゃ済みませんからね。娘が大事なプレシアさんらしい考えですね。


ちなみにエッグタルトはレシピ通りに作れば本当に簡単な上に割と小さいお菓子なので女の子にも気軽に振舞えるリア充レシピの一つなのでみんなも覚えてみるといいよ!
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