魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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碌でもない話。あと少し時間軸戻ってます。


裏話

 

 

 旅館を離れ、ユーノを抱えて一人自宅に戻っていたプレシアは、呼び出しておいたフレディにユーノの診察を依頼した。フレディは何十年も最前線に携わっている戦士であり、重傷者の診察を行うのは隊長格の役目であると聞いていた為で、ベルカ式の三角陣の上に横たわるユーノの状態を示すモニターがフレディの顔付近に展開されると、フレディの顔に苦味が走る。

 

 

「やはり、芳しくない?」

 

「見た目も相当だったが、中身の方は最悪だな。特に右腕が酷い、芯だけ残して骨が砕けて筋肉やら神経やら、腕の運動に関する組織が一つ残さず傷ついてやがる。左腕の方も傷に沿って骨が割れてるが、こっちはそれだけで、むしろヤバイのは掌だな。この状態で原型保ってるのが不思議でしょうがない」

 

「結論としては?」

 

「一度取り除いて、再構成掛けた方がいいだろうな。それから肋骨が左右それぞれ三つ折れてるのと、肩の骨に皹が入って外れかかってる。まあ、この辺りはいい。ただ、腕のリハビリがな……」

 

「再構成を掛けるから指の幻痛もそれなりに残るでしょうし、少なく見積もっても三ヶ月は見た方がいいわね」

 

「それについては放浪者流を頭か体かどっちで覚えてるかに依るな。この年の子で才能に恵まれてるとなると、大抵体だから、感覚を取り戻すのにそれなりの時間と切っ掛けが要る。こればかりは治療を終えて、一度様子を見てみないと何とも言えんが」

 

「ありがとうフレディ。それじゃ、此処からは私が」

 

 

 三角陣が掻き消え、代わりに紫の円環陣が現れる。これから行われるのはユーノの治癒、そして肉体組織の再構成。管理局最高峰の医局魔導師五人掛かりで行う超高難易度の荒業を、プレシアは“裏技”を用いて成し遂げる腹だ。

 

 

「術式、開始」

 

 

 プレシアに背を向けて胡坐を掻いていたフレディの下にユーノが横たえられている物と同系の魔法陣が現れ、そこから伸びる触手がフレディの腕や足に取り付き、光を発し始める。すると、フレディが顔を歪め、触手が呼吸を始め、ゴキュゴキュと何かを飲み込む様な音と共に、触手の体に真紅が灯る。

 

 灯った真紅は魔法陣の中に飲み込まれ、ユーノの所に触手を伸ばしながら現れると、ユーノにもフレディと同じように取り付いていき、体に真紅が供給されていく。その瞬間、ユーノの体が跳ね、それを見たプレシアが指先でユーノの手首から腕をなぞっていき、やがて至った肘から突き出た骨の外周を傷口に沿って指を這わせると、骨が僅かに紫を帯びた。

 

 

「摘出」

 

 

 ズルリ。粘つく音と赤い紅い血を供に、ユーノの骨がゆっくりと傷口から這い出始めた。途端に濃厚になって鼻をつく血の香に不快感を覚え目を細めるプレシアだが、身じろぐ事はなく、ユーノの様子から決して目を離さない。

 

 骨が抜け落ち、肉の塊と化した部分に魔力を挿入し骨の代わりを担わせると、新たに傷口を作ってそこから上腕部分の骨も摘出する。それが終わると同じように魔力を挿入し、ユーノの腕を中心に魔法陣を巻きつける。

 

 

「骨片摘出」

 

 

 中に挿入した魔力が、ユーノの腕中に散った骨片を吸い寄せ、全て集め終えると骨の時と同じくゆっくりと這い出てくる。プレシアは骨片を吸収した魔力に代わって再び魔力を流し込むと、骨片を吸収した方の魔力に元々あった骨を浸した。これを左腕、そして掌でも同様の事を行うと、一度大きく息を吐いた。

 

 

「疲れたかよ?」

 

「まあね。少し、目に来るわ。けど、此処から苦しいのは貴方なんだから」

 

「分かってる。気合入れられてる内にさっさとやってくれ」

 

「……ありがとう」

 

「お前の我侭は今に始まったことじゃねえ」

 

 

 フレディの物言いに僅かに笑みを零したプレシアは、ユーノを挟む様に魔法陣をもう一陣展開する。同時にフレディの頭上にもそれは現われ、そこから新たな触手が這い出て取り付き、真紅を吸い上げていけばユーノの体の上に展開された魔法陣から伸びた触手がそれを供給していく。

 

 フレディの魔力光と同じ真紅、だが吸い上げているのは魔力ではない。“治癒力”だ。

 

 プレシアはフレディから治癒力を吸い上げ、それをユーノに絶えず供給することで、術式の最中で起こる体の負担や拒絶反応を強引に押さえ込んで命を紡ぎ繋ぎ止めている。プレシアの繊細さと才気、そしてフレディの“特異な体”が無ければ成立しない唯一無二の“裏技”である。

 

 

「治癒開始」

 

 

 宣言と共に光りだしたのは腕以外の部位。真紅と紫が混じってそこはかとなく毒々しい色合いではあるが、治癒はしっかりと行われている。供給された治癒力が時間経過と共に生まれる自然治癒のサイクルを速めていき、排出された老廃物をプレシアが読み取っておいた細胞の情報から再構成を仕掛けて元の状態に戻し、それをユーノの体内に戻すというサイクルで。

 

 

「治癒完了。再構成術式起動」

 

 

 今度はユーノの腕が光り始めたが、その色は赤く、そして強い。しかしプレシアの魔力はきちんと混ざっており、傷ついた神経に取り付いた極小の魔力が電気信号の通り道となることで神経の復元を脳に伝え、脳内で引き起こされた錯覚と想像を生かしフレディの有り余る治癒力によって復元されていく神経に脳からの情報と足から採取した情報を元にユーノの神経を形作っていく。

 

 フレディが齎す治癒力によって不完全なまま治癒されていく神経の“正常”を書き換えるという作業は、プレシアが保持するマルチタスクを全て動員してようやく叶う代物で、思考回路の七割を埋め尽くす情報が秒単位で更新されていく現状はプレシアの精神と集中力を容赦なく削り取る。全身が汗ばみ湯気が立ち上る程に。

 

 しかし、プレシアはその精神と集中力をたった一つの執念で踏み止まらせていた。

 

 

「大丈夫よ……大丈夫だから……ッ!」

 

 

 ようやく意識が浮上してきたのか、苦しそうに顔を歪め始めたユーノに締めていた顔を緩めて言い聞かせると、震えた手をユーノの顔に翳し、再び催眠魔法を行使する。それによって脳に激痛が走るも、悲鳴は上げず、飲み込んで、ユーノの神経に再び向き合う。

 

 プレシアは誓った。己の名を、称号を賭けて、報いると。今の行い、治癒の行程は正にそれだ。仮に地球より遥かに進んだ医療技術を持つミッドチルダの医療機関に連れて行ったとしても、その全てが義手、義腕の生活を宣告するだろう。

 

 今現在プレシアが行っている肉体の再構成術式は本来一年以上の時間を掛けて行うもので、加えて元の状態に戻れるかと問われれば不可能と言わざるを得ない。ユーノの様な重症者の場合、元となる神経が壊死して再構成どころか腕そのものを蝕みかねないからだ。

 

 そうした可能性を覆す為に、プレシアは動いた。フレディに対価を示し、それに頷いたことで彼女の賭けの半分が成った。残り半分は自分、“大魔導師プレシア=テスタロッサ”が失態を犯さなければいい。優秀な彼女は、それだけで意思を持ち、執念を持てる人物であった。

 

 

「再、構……成、術式……完了……」

 

 

 なればこそ、結実した。力が抜けたのかゆっくり、長く、噛み締めるように息を吐くプレシア。溜まり溜まった全身の熱を放出する為に、一気に汗が吹き出るも、それを気にした様子はなく、むしろ清々しさを感じる。

 

 

「おい、まだ終わってねえんだから悦に浸って凭れ掛かるな、汗臭ぇ」

 

「いいじゃないの。疲れたのよ、休ませなさいよ」

 

「そういうのは骨突っ込んでから言え。早くしろよ、いつまで吸い取らせてんだよ痒いんだよ」

 

 

 はいはい、といつもの調子で応じたプレシアは、治癒の範囲外としていた傷口から魔力を抜き取った後骨を挿入し、擬似神経としていた自らの魔力を徐々に縮めながら傷口を引き合わせて接合すると、直ぐにフレディの治癒力を作用させて傷口を塞ぐ。フレディの治癒力によって骨以外が完治している左中指と薬指には、全身の骨から集めた細胞の余剰と全身の治癒で生まれた老廃物を転化させて作った新たな骨を挿入してある為、ユーノの体は見た目も中身も五体満足と相成った。

 

 それを確認したプレシアは魔法陣を解くと、意識を飛ばしてしまい床に倒れこんだ。体は疲れ切って脱力しているが、顔には穏やかな表情が浮かんでいる。

 

 音と感触に反応して振り向いたフレディは、プレシアの顔に手を翳し、二三問いかけて反応が無いのを確かめると、脱力したプレシアを抱え上げてユーノを置いたままテスタロッサ家を後にする。

 

 

「好都合だ。この状態なら二回楽しめる」

 

 

 心底愉しそうな笑みを湛えてそんな事を呟いたフレディは、プレシアと共に黒い穴の中へ消えていった。

 

 

 




何かもう途中から自分でもよく分かってないのだが、取り敢えずプレシアさん頑張りました。
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