魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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展開がしっくり来なかったのでしっくり来るように書いたらまた次回予告を外した。ついでにサブタイ変更。


間話後編

 

 

フレディとユーノは、すっかり練習拠点と化した湖畔へとやってきた。火照った体に気持ちの良い風が通り、深呼吸をすれば新鮮な空気が肺を満たしていく感覚に浸りながら、ユーノはフレディを見て自身の認識を改めていた。 

 フレディの体格は比較的大きい。身長は百八十を超えているだろうし、体重も全身に満遍なく妥協無く絞り込まれている筋肉の鎧から見て八十キロ後半は固い。にも関わらず、山を小走りで駆けた体には汗が浮いておらず、呼吸の乱れも見られない。

 普通、彼くらいの肉体になると持久力に乏しくなる。大きな力を発揮出来る反面、それを使う度に体を支える筋肉も疲労していくからであり、魔法で強化したところでそれは変わらない。 

 目算ではあるが山まで五キロ、なだらかではあるが寄り道の多いハイキングコースが一,三キロ、合計六キロ弱を魔法無しで走って疲れた様子が無く、汗もかかない。これは即ち、この程度ウォーミングアップにもならないという証左で――

 

「おーいユーノ君、ぼーっとしてどうした?」

「え、あっ、すいません! いや、フレディさんの体凄いなあって」

「何、ユーノ君もしかして筋肉フェチ? 俺そういう子はちょっと……」

「違いますよ! 何ですか、僕みたいなもやしっ子は筋肉に憧れちゃいけないんですか!」

「いけないことはないけど、ユーノ君がムキムキになったら俺引くよ?」

「憧れるくらいは許してくださいよ! 僕だって、自分のスタイル的に合わないって自覚はあります……」

 

 そう言ってそっぽ向いてしまうユーノ。すかさず“あー、ユーノ君可愛いもんね”と本人が気にしている部分を抉るフレディ。九歳くらいでは性差が出にくいのはザラなのだが、それでも気になるのが子供、そして男の子という生き物。

 

「フレディさんには分からないですよ! 初対面の人に女の子に間違われる気持ちなんて!」

「そう拗ねるなって、子供の頃可愛くても大人になってから格好良くなった奴なんて沢山居るから。アロンソだって昔はユーノ君みたいな美青年だったんだぞ、今じゃ顔も態度もお堅いおっさんになっちまったが」

「……流石に想像がしにくいんですが」

「いやホントだって。アイツ昔から髪長かったんだけど、十代の頃は体の線も細かったし優男風な面してたからよく女に間違えられてな。そのクセ性格は今と変わんないからよく悶着起こしてたよ」

「あの、それだと僕も十代の頃は見込み無いって事に……」

「さあ、時間が勿体無いし訓練しようぜユーノ君!」

「ちょっと、誤魔化さないで下さいよ!」

 

 フレディの態度に怒るユーノを無視してさあ来い! と言わんばかりに腰を落として待ち構えるフレディ。身長から推測した中段突きの打点に右手を突き出した姿に応じようとユーノが構えを取った瞬間、それは訪れる。

 受け止められた拳が弾け血と骨と肉を撒き散らすイメージ。

 拳を打ち出す為に引いた腕から骨が飛び出していくイメージ。

 躊躇っている内に掌から少しずつ割かれていき腕までも真っ二つにされるイメージ。

 どれもイメージ。されど、痛みの記憶は確かにあり、イメージが反芻される度に走る痛みは紛れもなく本物。手足が震え、痛みに苛まれる恐怖から逃げ出そうと構えを解き掛けた時、フレディの手が目に入った。

 自分の拳が最も自然に打ち出せるであろう位置に突き出された手は静かに佇み、体の震えで揺れる視界の中でも不動を貫いている。待っているのだと直感した、けれど。

 

「腕をゆっくり引いて、ゆっくり俺の手まで拳を届かせてみな。先ずは自分の腕を動かしても大丈夫って認識を持つことが大切だ」

 

 見かねて、フレディが声を掛けた。ユーノが腕を動かす事自体を恐れている節があると見たフレディは、動かせるイメージを持たせる事を優先した。

 今回ユーノを苛んでいるのは腕の壊滅を目の当たりにした事による心的外傷であるが、これらの治療が難しい理由として治療を急かしても後回しにしても良い結果が出にくい事が挙げられる。

 急かしたところで恐怖が鮮明な内に向き合わせれば、益々自分の殻に閉じこもってしまったり突発的に解放を求めて自殺に走ったりする事態を招きかねないし、かと言って後回しにしても恐怖が根付いてしまい、腕を扱うこと自体を忌避する様な状態にもなりかねない。

 腕の治癒具合を見るつもりがユーノが震えだし顔が怯えに覆われたのを見てトラウマを抱えてしまったのでは、と思考したフレディは先ず言葉で促してみたものの、始動の兆しは見えない。

 今回の訓練に付き合うと言った辺り、腕を振るう事自体はまだやる気がある筈――そう考えたフレディはゆっくりとユーノに歩み寄り、感覚を確かなものとする為に少々強くユーノの腕を握る。

 

「っ! あ、あの、フレディ、さん?」

「先ず俺の手で腕を引いてやるからその感覚をしっかり頭と体に叩き込め、いいな」

 

 先ほどまでの優しさが滲んでいた口調が一変し低く有無を言わさない厳しさが垣間見える物言いにユーノが思わず首を縦に振ると、間髪入れずに腕を後ろに引いていくフレディ。

 その様を目で追っていけば不思議とイメージが沸いてくる事はなく、フレディの握られている部分が僅かに痛む程度。やがて肘の部分が二つ折りされる形になると、今度は腕を前へと進めていく。

 これも目で追っていけばやはりイメージは沸かず、腕が伸ばされていく様をしっかり目に焼き付けていく。そうして肩から指先がすらりと伸びた一本の線になったところでフレディが声を掛けてきた。

 

「どうだい、感覚は掴めたかい?」

「あ、はい。少なくとも、イメージが沸く事はなくなって……」

「そうかい。なら次は腕は握っててやるから、自分で動かしてみろ。ゆっくりでいい、今の自分の感覚に馴染ませる様に、自分のペースでやっていい」

 

 たった一度で出来るものか。自分への疑問と、フレディへの罵声が同時に脳裏を駆けて、直ぐに飲み込んだ。

 やらなければいけないのだ、自分にはまだ、やらなければいけない事がある。

 

「僕、アロンソさんと、約束したんです」

「へえ、何を?」

「なのはの事は、僕が守るって」

「ハハッ、男の子だねえ、ユーノ君」

 

 腕を後ろに引く感覚を目と触覚で知覚しながら、フレディと言葉を交わすユーノ。その額には大量の汗が浮かび、腕が目に見えて分かる程に小刻みに震えている。

 

「なのはは、僕が巻き込んじゃいましたから。僕の所為で、関わらなくていい道に、踏み込ませてしまった」

「そうだね。ユーノ君が此処に来なきゃ、なのはちゃんが魔法に目覚める事はなかっただろう」

「封印くらいなら僕にも出来ると思ったんです。それで、一つ目が事の外上手くいったから気を緩めてしまったばかりに、あっさりやられてしまって」

「気が逸っていたんだろうね、それで油断が生まれた」

「だと、思います」

 

 肘が限界まで曲がった。そう思い今度は腕を前へ押し出していく。少しだけ、フレディの握る力が強くなった気がした。

 

「それで、体を休める為にフェレットになっていた所をなのはに見つけられて、巻き込まないように逃げ出したら暴走体に追われて、逃げていたら、僕を探しに出ていたなのはに出くわして」

「そこでレイジングハートを渡した訳だ」

「僕はなのはを逃がしたかったんですけど、なのはが聞き入れてくれなくて。逃げるうちに魔力も尽きて、苦肉の策と言うか、破れかぶれと言うか、そんな気持ちでなのはに渡したら、あっと言う間に封印してしまって」

「まあ確かに、あの砲撃なら無理矢理封印、なんてのも出来そうだねえ」

「その時、実際出来たんです。それで、僕が万全になるまでこの子に手伝ってもらおうって考えて、考えて……」

 

 ぽつり、ぽつりと、瞳から涙が零れ始めた。それでも腕を動かす事は止めず、能動的に動いていながらも満足に力の入っていなかった腕が僅かに引き締まった。

 

「訓練を重ねる内になのはが凄い魔導師になれる素質を秘めていることが分かって、この子なら僕の代わりに全部集めきってしまうかも、とか考えてしまって」

「まあ、あの才能を見れば誰だって驚くよ。ユーノ君がそういう思考に流されちゃうのも無理はない」

「けど、フレディさんと会った日。僕は初めてなのはの泣き顔を見て、思ったんです。僕はとても酷な事を、この子に強いていたんだって」

「ユーノ君はいい子だからね。きっと、なのはちゃんには全部説明したんだろ? ジュエルシードがどういうものなのか」

「はい。なのはは優しいですから、自分の出来る事は何だってしてしまう。自分にしか出来ないから抱え込んでしまう」

 

 腕の震えはいつの間にか止まり、腕が伸びるスピードが徐々に速くなっていく。それを感じ取ったフレディは、言葉から伝わるユーノの力の心底を見てほくそ笑む。

 

「フレディさんと会った日の夜、なのは泣いてたんです。自分ではどうにも出来なかった大樹をあっと言う間に何とかしてしまった人なら、ジュエルシードなんて直ぐに集めてくれるって」

「ハハッ、期待値高かったんだなあ俺」

「良かった、良かったって、凄く嬉しそうに泣いているなのはを見て、僕はやっと思い至ったんです。僕の期待がなのはを押し潰していた事に」

「まあ、その時のユーノ君には何も出来なかった訳だし、出来るなのはちゃんを頼るのは自然な流れだよ」

「初めて会った時も言ってましたよね、それ」

「あれ、そうだっけ?」

 

 ハハハ、と軽い調子で笑うフレディに釣られて、これまで強張らせていた顔を綻ばせるユーノ。既に腕は伸びきり、適度に力が篭ったのを確認したフレディの補助が外れた腕を勢い良く引く。

 

「僕はなのはを魔法少女にして、戦いの場に引きずり上げてしまった。勝手な期待を背負わせて、押し潰してしまいそうになった。だから!」

 

 右足が浮かせ、前を進み、勢いを掴むべく地面を噛んだ瞬間、ユーノの腕が衣擦れの音を残して弾かれる様に前へ進み、一寸の内に肌と肌がぶつかり合い風が爆ぜた音が聞こえた。

 

「僕はなのはを守ります。僕がなのはを守ります。腕がボロボロになっていく様を見た時に感じた嫌な思いは多分、それが出来なくなるから」

「ユーノ君、今の君カッコイイな」

「フレディさんが言うと、何だか嘘臭いですね」

「おいちょっとそれどういう意味かお兄さんに詳しく説明しなさい」

        

 “いやフレディさんて本気なのかそうなのかイマイチ掴み辛くて”“今の雰囲気で嘘は吐かんよ、俺だって空気くらい読めるわ!”再び軽口を交わしだした二人。やがて不利を悟ったフレディが強引に訓練へ移行し、朝の山中に少年の叫びが木霊することになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 





ユーノ君のリハビリ回です。自分が壊れるよりもなのはが壊れる方が嫌だ、そんな思いが形になった結果、ユーノ君は無事にイメージを乗り越えました。ユーノ君は頭が良いですが、子供で、そして男の子です。だから思考の深い部分では素直で直情的な部分が顔を出します。これからも頑張る男の子を応援してやって下さい。

次回は本編復帰+ハラオウン親子登場。ミッドチルダの超エリートが遂にそのベールを脱ぐ!来週の更新を見逃すな!

そして出来れば感想が欲しいので読んだ人書いて!読者の生の声に飢えてます自分!あとお気に入り100突破嬉しいですありがとー!
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