魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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後編開始。


第二十二話

 

 

週が明けて月曜日。アロンソから連絡を受けたフレディは、彼の指定した場所――昨日の夜到着したという次元航行艦“アースラ”の艦長用執務室に足を運んでいた。

 

 

「よう、久しぶりだなリンディ」

 

「お久しぶりですフレディさん。二年振り、くらいですか?」

 

「そんなもんかね。あまり昔に感じんが」

 

 

 挨拶を交わしながらソファーに腰掛けるフレディ。隣にはアロンソ、正面には黒髪の少年が何処か緊張した風に顔を引き締めている。

 

 

「それでは、フレディさんもやって来た事ですし、本題に入りましょうか」

 

「そうだな。では先ずそちらの意見と、頼んでおいた事柄についての報告を受けたいのだが」

 

 

 アロンソが促すと、リンディと呼ばれた女性が頷き話し始める。彼女の名はリンディ=ハラオウン。今回話し合いの場となったアースラの艦長を務める、管理局有数のキャリアウーマンである。

 階級上はアロンソとフレディの上役に当たる彼女だが、両名とも指導教官であった事から説得して(フレディは昔から変わらない)砕けた物言いをさせている。

 

 

「お二人に上げて頂いた報告書とアロンソさんに頼まれていた調査の結果を踏まえて考察を重ねた結果、お二人は何らかの目的に沿って“使われている”のではないかと推測しています」

 

「その根拠は?」

 

「アロンソさんに頼まれていた第九十四、第百管理世界駐屯連隊への聴取にて分かった事ですが、事件発生直後に“現場に居合わせたアロンソ=テスタロッサ”から応援は無用との指示があったと」

 

 

 リンディの報告に、アロンソの顔が一気に不穏な雰囲気を帯び始める。彼は事件直後、衝撃に因り空中に放り出された娘達を庇って負傷しており、救援と事故報告の通信はプレシアが行っている。結局、返答は無かったが。

 

 

「又、事件発生の翌日にユーノ=スクライアが地球に渡っておりますが、当初の報告では見識ある人物をアロンソさんが呼び寄せた、ということになっています」

 

「ちょっと待て、そこまで状況が出来上がっていながら何故フレディが呼ばれた?」

 

「フレディさんが呼ばれた前日、アロンソさんが負傷したので前線を離れる為、応援を寄越して欲しいと本部に直接連絡が届きました。当時アロンソさんクラスの魔導師はほぼ全員が出払っており、休暇中ながらも隣の世界に滞在していたフレディ=アイン=クロイツ一佐に初動調査を引継ぎをしてもらう。そういった体で、フレディさんは地球に来る羽目になりました」

 

「リンディ、その話“いつ出来上がった”?」

 

「アロンソさんが本部を尋ねてからですから、大体五日程前ですね。アロンソさんの言を元に通信記録を洗ったら、先に述べた様な事柄が山の様に出てきたそうで」

 

 

 くっくっと、今回の出来事に付き纏うきな臭さを面白がっている様に笑うフレディ。勘が確定事項となり、これからこの一件がどう推移していくのか、裏に隠れているのは何だ、考えることは止め処なく、深く深く潜り込んで行く。

 

 

「そして、お二人を誘き寄せた目的についてですが……」

 

 

 そこでリンディは言葉を止め、フレディに視線を向ける。その視線に微かな確信と多大な疑念が含まれており、その意を察したフレディが後を受け持ち言葉を発した。

 

 

「“プロジェクトF”が関わっている。そう言いたいんだろ、リンディ」

 

 

 やはりか、とアロンソが呟き、少年が驚愕に目を見開き、リンディが突きつけられた事実に溜め息を吐いて頷く。

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! あの研究は確か」

 

「殲滅対象研究になってるな。あの領域に足を踏み入れようとする奴は問答無用で死刑。管理世界の共通認識だ」

 

「だがそれでも人の欲は止まる事を知らん。“永遠”……その言葉に踊らされてどれだけの人間が無秩序に殺されたか」

 

 

 プロジェクトF。それはこの世に生きる人間が必ず覚えるであろう永遠への憧れを一人の科学者が形にし、結果四半世紀に及ぶ戦争を引き起こした管理世界史上に深い爪痕を残している研究の一つ。

 クローニング技術を“記憶”に至らせた事で注目を浴びたこの研究は瞬く間に権力者の知るところとなり、彼らはその研究成果によって永遠の命を手に入れたと嘯いた。

 そして擬似的にも尽きることの無い命を得た彼らが次に求めたのは力。強い肉体を作り、そこに自身の記憶を宛がう事で自身を強者へ至らせようとした。

 しかし、その研究は失敗に終わる。現場に出ず、また鍛錬を満足に行っていなかった彼らはその肉体を十全に扱う事が出来なかった。長い時間を掛ければそれも可能だっただろうが、欲深い彼らは即応性を求めた。そうして思索を深めていく内、ふと閃く。

 

 強者の記憶を強い肉体に植えつければ、強い兵士が出来上がるのではないか。

 

 そう考えた彼らの行動は速かった。自国他国問わずあらゆる土地から強者を呼び寄せ、研究の為と言って記憶を複製し、それに自分達の思惑を加えて、作り上げた肉体に植えつける。

 そうして生まれた兵士達は権力者達が開いた戦場に次々と投入され、その力と絶え間ない兵力がぶつかり合う地獄の様な時代が幕を開けた。

 やがて他の管理世界にその技術が渡り同様の様相を呈した事で、管理局の耳目に入ることとなり、禁止研究に指定されると共に専任チームが組織され、内戦介入と研究成果の殲滅が命じられた。

 プロジェクトFが世に出て、僅か二年の事である。

 

 そこから二十年以上に及ぶ長い長いいたちごっこの末、管理世界の首脳会談においてプロジェクトFを文明ごと消滅させるという前代未聞の決定が成され、賛否両論巻き起こる最中に総数二万超の艦隊による掃討作戦が展開、プロジェクトF発祥の地は地図上から姿を消した。

 

 

「あくまで状況から考えての推測ですから、プロジェクトFが絡んでいると考えるのは尚早では?」

 

「いんや、この件に関して言えば最も可能性の高い話だ。それに、研究が発展して新たな領域に達していると考えた方がいい。インヒューレント・スキル、臭いな」

 

「質量のある残像、だったか。となると、私の時に現れたのはそれか?」

 

「もう一人って可能性もある。記憶と体を作れる環境が整ってりゃ量産なんてお手の物だからな」

 

 

 アイツが満足する体なんてそうそう作れねえだろうが。そう言い不敵な笑みを浮かべるフレディ、それもそうだなと納得するアロンソ、平然と会話を交わす二人に慄く少年を心配そうに見つめるリンディに、フレディが問いかける。

 

 

「さて。プロジェクトFとの関連が疑われる以上、捜査方針は殆ど決まった様なもんだが、何か聞きたい事はあるか?」

 

「……もう、終わったと思っていたんですけどね」

 

「俺もそうだ。あの光景を見て諦めない奴が居るなんて、正直想像したくねえよ」

 

「また、始まるんですかね?」

 

「さあな。けど、俺を使って何かやらかそうとしているって事は、“本来の目的”を達しようとしてるのかもしれん」

 

 

 本来の目的? 気になって尋ねてみるも、フレディは何も答えず、ユーノと飯を食いに約束をしているから帰ると言い残して執務室を後にした。

 

 

「アロンソさん、本来の目的とは?」

 

「……申し訳ないが、私ではその質問に答えることは出来ん」

 

「では、それを知ってはいらっしゃるんですね?」

 

 

 無言で頷くアロンソ。その表情は厳しく、何処か険を含んだものになっている。何かに苛立っている様な……考察の種を増やそうと新たな質問をしようとしたのを見計らった様に、アロンソが席を立つ。

 

 

「私もお暇させて頂く。もう私に話せることは何も無い。後はリンディ、君の仕事だ」

 

 

 それでは。敬礼をするアロンソに答礼したリンディは、彼が扉の向こうに消えた途端大きく息を吐いた。年上の部下を相手にした疲労感ではなく、話の重さとそして――これから息子に覚悟を問わなければならない。その事がリンディの心に大きな痛みを与えていて、とにかく一度、落ち着きたかったから。

 

 

「ねえ、クロノ」

 

 

 息子の名を呼ぶ声は、優しかったが、震えていた。母の異変を感じ取った少年が、どうしたの? と気遣わしげに声を掛けてきて、思わず零れそうになった涙を堪え、告げる。

 

 

「貴方、人間を殺せる人間になれると、思う?」

 

 

 




一月振りの更新が短くてすいません。

取り敢えず言っておくことは、アリシアとフェイトはアロンソさんとプレシアさんが愛し合った結果生まれた子供達なので、プロジェクトFとは全く関係ないです。
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