魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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第二十三話

 

 

 

ユーノが放った右レバーブローを体を捻って避け、続け様に放たれるこめかみを狙った左フックを避けようとしゃがみ、反射的に両手に携えたククリ刀仕様のバルディッシュでユーノの足を挟む様に振るう。

 しかし、足元の警戒を怠っていなかったユーノは両足に触れた風に反応して飛び上がり、フェイトの肩を掴み支点にしてクルッと回転すると即座に身を翻しフェイトの背中に下突きを叩き込む。

 肩を強く握られていた痛みで体が強張っていたことで回避が間に合わず直撃を受け、その威力に呻き声を上げて倒れそうになったのをぐっと堪えて踏ん張るが、その隙が命取りとなりユーノが後ろから両腕を引っ張り背中を足蹴にしたことでアルフが止めに入り、そこで二人の手合わせは終了。

 アルフがフェイトの体を支えたのを見て手を離したユーノは一息吐くとフェイトに気遣いの言葉を掛ける。

 

「フェイトごめん、背中大丈夫?」

 

「……何とか。やっぱりユーノ、強いね」

 

「フェイトこそ。あそこでしゃがんだの、僕の投げを警戒してのことでしょ?」

 

「腕が残ってるのが分かってたしね。けど、こうなるなら投げさせた方が良かったかな」

 

 悔しいな、と少し苦い笑みを浮かべるフェイトに、またやろうと声を掛けるユーノ。そんな二人を遠巻きに見つめるなのはに、傍に立っていたリニスが話しかける。

  

「羨ましいですか、二人が」

 

「ふえっ? ……うん、楽しそうですから」

 

 共に近接戦を主体としているフェイトとユーノが手合わせをするようになったのは昨日からの事。

 魔法無し(バルディッシュは除く)、純粋な体術武器術による手合わせはアルフが審判を務める形で行われ、アルフが止めに入るかどちらかが参ったと言うかで勝敗が決せられる。

 昨日はランスモードのバルディッシュを用いてユーノを近付けさせず、焦れたユーノの仕掛けに的確にカウンターを返したフェイトの勝利。

 そして今日はククリ刀を両手に持つスタイルでユーノに挑むも、逆に間合いを的確に詰めてフェイトを追い込んだユーノが自ら仕掛けを打ってそのまま勝利。

 昨日のユーノはそこかしこに切り傷を負い、今日は痛みに呻くフェイトの背中をアルフが治療している。どちらも痛い思いをしているのに、終わった後には笑っている。それが楽しそうで、羨ましい。

 

「なのはさんはまだ魔法を覚え始めたばかりですからね。もっと経験を積んで魔法の使い方を工夫出来る様になれば、あの二人と手合わせ出来るようになりますよ」

 

「本当、ですか?」

 

 なのはの声には、少し力が無い。目の前のリニスも、先日から魔法の講師役を務めてくれているプレシアも、成長の道を示してくれたフレディも、魔法を教えてくれたユーノも、皆“未来”を見据えた物言いをする。

 あの日、ユーノに守られフェイトが戦いに赴くのをただ見ている事しか出来なかったあの日。あの日以来、なのはの心に燻っているのは、このまま何も出来ないままなのか、という恐怖心。

 皆頑張っていると言ってくれている、ジュエルシード集めも、訓練の事も、精一杯やって、それなりに結果も付いてきている自負はある。けれど足りない。フェイトとユーノに、追いついた気がしない。

 

「本当です。けれどなのはさんの場合、まだ基礎が固まってませんから、そこをしっかりやってからでないと、対人戦はさせてあげません」

 

 キッパリ言い放つリニスに、思わず目を丸くして見つめるなのは。何で、どうして? そんな思いが表情に如実に表れているのを汲み取って、リニスが言葉を続ける。

 

「なのはさんの様な砲戦魔導師と呼ばれる人種は、魔導師本人の力量もそうですが、AI――レイジングハートとの連携の深さが何より大事なんです。なのはさんはまだレイジングハートに出会って一月も経ってないという話ですから、対人なんてさせたらなのはさんにもレイジングハートにも変な癖が付いちゃいます」

 

「変な癖、って何です?」

 

「これまで魔法を学んで、使ってきて何となく気付いているかもしれませんが、砲戦魔導師というのは基本的に後ろに居るものなんです。けどなのはさんは前に出ることが多くて困るとプレシアが零していました」

 

 プレシアに初めて訓練をしてもらった際、フレディの時と同じく模擬戦をやったのだが、フェイトと鍔迫り合いになった瞬間止められてしまい、砲撃魔導師のスタイルとは、というところから講義を受ける羽目になった事を思い出し、なのはの顔に苦味が走る。

 

「別に近接戦をやることが悪いという訳ではないのですよ? ただ、なのはさんは運動とかあまりされませんよね? どんなに肉体を魔力で補強しても、元の肉体に沿う形になりますから、運動の苦手ななのはさんが近接戦に持ち込まれると三分も持ちませんよ。動くだけで」

 

 再び炸裂するリニスの言葉になのはの顔が一気に萎びる。その様を見てクスクス笑うリニスは俯いたなのはに視線を合わせる為にしゃがみ込むと、話を再開する。

 

「それでですね、なのはさんが曲がりなりにも近接戦をこなせる様になってしまうと、レイジングハートもそれを考えに組み込んでしまうんです。なのはさんが出来る、やりたいと言えば、それに応えられるように。

 

「“変な癖”の正体はそれです。なのはさんが自分の体に負担が掛かる事をやって、レイジングハートがそれを許してしまう。それが出来る様にしてしまう。そうすると何れ、なのはさんがボロボロになってしまう。だからプレシアは止めろと言って、なのはさんには別メニューを言い渡しているんです。だから隠れてフェイトやユーノ君と戦っちゃダメですよ?」

 

 ね? とリニスが笑みを深くすると、どこか挙動不審ななのはがふぁい! と噛みながら答える。

 

「分かればよろしい。それじゃあ、砲撃の練習をしましょうか。今日は二点射を十発、安定して出せるようにしましょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらおかえり。どうだった、話し合いの方は」

 

「思ったより早く結論が出たのでな。話し合いという程でもなかったよ」

 

 アースラから自宅へ戻ってきたアロンソは、プレシアが淹れてくれたコーヒーを飲む。彼の習慣の一つだ。

 

「ということは、やっぱり?」

 

「プロジェクトFが関わっている。予想していたことだが、改めて向き合うとなると少し気が重いな」

 

 表情は日頃と変わりないが、口調は何時もの堅さが取れ、言葉とは裏腹に落ち着きを感じさせる響きだ。

 

「どういう感情を持てばいいのか、悩むからね。あの研究の被験者達は」

 

「イデアーレの方は死後持ち出されたと見えるしな。記憶も体も子供な相手を躊躇なく斬れるかと言われれば、出来るだろうが……」

 

 あの時は敵の正体を掴み切れていなかった為に躊躇いなく刃を下ろしたが、人の親が子供を斬れば、自分の子を見る度に罪の意識に苛まれる――そうなった人間を何人も、アロンソは見てきた。今回の事件で自分もそうなる可能性がゼロだとは、言えない。

 

「だったらイデアーレの方はフレディに任せれば? 言えば引き受けてくれると思うわよ、嫌がるだろうけど」

 

「……お前はいつも、正答を叩きつけてくるな」

 

「嫌ならやらなくていいのよ。イデアーレはフレディに押し付ければ、貴方は貴方の蟠りを捨てられる様に動けるんだからそうしたら、と勧めているだけ」

 

 反論の言葉を出そうとして、止めた。アロンソの脳裏に浮かぶのは、ヴィスを前にして激情を抑えられなかった自分。奴を自分の手で、という思いが溢れていた。あの時は忘れていたと言ったが、そんな事は無い。ずっと蓋をしていただけだ、叶う事の無い思いを抱えていても仕方が無いと、諦めていただけだ。

 そうして生きてきて、突然降って沸いてきた幸運に身を任せたものの、ふと立ち止まればヴィスとの相対は私情に塗れたもので、其処にこれまで自分が培い、教え伝えてきた思いは存在しない。

 

「私情を優先して動くな、最善を思考して動け。こんな信条を掲げている身としては、私の勧めには応じられない?」

 

「……どうなのだろうな。もう少し自問してみることにしよう。散歩に行ってくる」

 

「ならついでに卵と肉団子と白菜と白滝と椎茸と人参とエノキ茸と生姜と豚ばら肉とポン酢を買ってきて頂戴」

 

「……了解した」

 

 いつもブレない最愛の妻に大事なモノが叩き折られた様な気分になったアロンソは、チェストの上に置いていた財布をズボンのポケットに押し込み、しい、たけ? とは何だ……と慣れない言葉を反芻しながら家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツはユーノ=スクライア。俺の爺の弟の孫なんだ、仲良くしてやってくれ」

 

 時刻は午後一時を回り、昼飯時のピークを過ぎて人が疎らになった翠屋にてユーノの紹介が行われ、人の姿では初対面となるアリサやすずかは勿論、なのはやフェイト、アリシアも適当な理由を用意してこの場にて“改めてよろしく”とさせた。女の子に囲まれてわたわたとしているユーノに視線を送りながら、フレディはカレーライスを食べながら士郎と話している。

 

「お前にも親類が居たんだな、しかも懐いてくれるような」

 

「俺も驚きだよ。最初は警戒されまくってたんだが」

 

「それもそうだろう、見た目だけなら完全にチンピラだからなお前は」

 

「だからあまり関わらない様にはしてんだけどな、子供には」

 

 海鳴に来て翠屋を見つけて以降、フレディは殆ど毎日この時間帯に昼飯を食べに来ては士郎と話し込んでいる。下らないこと、海鳴のこと、なのは達のこと等々、毎日似たようなことを二時間は平気で話している為、帰宅したなのはやそれに着いてきたアリサやすずかとも話す機会もあり、その時のフレディが率なく話しているのを知っている士郎は少し渋い顔をして突っ込みを入れる。

 

「でもその割りに、子供達とは仲良くしているじゃないか」

 

「アリサちゃんとすずかちゃんが聡いからな、空気読んで上手いこと会話させてくれるんだよ。あと十年もしたら海鳴じゃ男見つからんかもな」

 

「ああ、あの二人か……」

 

「どうしたよ」

 

「いやな、二人の保護者が最近“自分達相手に遠慮を覚えてしまった”と泣きついてきたのを思い出してな」

 

「それこそまだまだ子供の証拠じゃねえか。精一杯背伸びさせて、倒れそうになったら支えてやりゃいいんだ。大人になろうって頑張ってる子供の努力は、そうして育んでやらなきゃな」

 

 淡々と語られたフレディの持論に、士郎は思わず目を丸くした。あまり関わらないようにしている、そう語っていたのに言葉の端々にしみじみとした、経験の滲みが感じ取れたからだ。

 

「……驚いたな、お前からそんな真面目な話が聞けるなんて」

 

「これでもアロンソより長く生きてんだぜ? 見た目がこれだから公称二十四で通してるが」

 

「何ッ!? お前、年幾つだ!?」

 

「だから二十四だって」

 

「それは公称だろうが! その見た目で四十超えてるなんて、殆ど詐欺というか何というか」

 

「日本? にもいるじゃねえか。ほら、フクヤマとか閣下とか」

 

「片方は悪魔じゃないか!」

 

 そうしてのらりくらり、えっちらおっちら、山あり谷ありな会話を繰り広げていた二人は、入り口の扉が開いて取り付けられた鈴の音に、別の意味合いで反応する。

 

「いらっしゃいませ、お一人ですか?」

 

「いえ、その」

 

「恭也君、それ俺の客だ。このくらいの時間に迎えに来いって言ってたんだわ」

 

 応対した恭也に言葉を飛ばしたフレディは、そういう訳だからと士郎に千円札を渡して恭也から客を引き取ると、店の軒先で話しかけた。

 

「んで、一体俺に何の用かね、クロノ=ハラオウン執務官殿」

 

 

 




色々と伏線を張った回。今回だけのものもあればお話全体のものも幾つか。全部統合するとこのお話がどういうものか大体分かります。
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