魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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長らくお待たせしました。第二部、ストラーノ。始動です。


二部
第一話


 

 

「さて、随分と久しぶりな気がするぞ、此処は」

 

「随分、で済む話では無かろう。貴様が此処に来たという話は少なくとも二十年は聞いとらん」

 

「確かにフレディさんが此処に来る事になれば、それはもう大事件でしょうね。フレディさんが動員される様な事態なんて、あまり想像したくありません」

 

 第一世界ミッドチルダ、時空管理局専用発着ポート。無事降下を終えたアースラの艦内で、帰還を果たした喜びを語り合うクルー達。しかしフレディ、アロンソ、リンディと三名の高官達は、軽口を交わしながらも気を抜いてはいない。

 

「それじゃ執務官殿、プレシア達の誘導しっかりな」

 

「はい。お任せ下さい」

 

 いい返事だ。お前なら大丈夫だ。気負いはなく、しかしやる気に満ちた表情を見せて答えたクロノに、フレディとアロンソはそれぞれ言葉を掛けて一足先にブリッジを後にする。

 水と油。管理局員としての実績、スタンス、地位、そして本人の性格等からそう形容されることの多い二人だが、言葉を交わしながら肩を並ばせて歩く姿からはとても想像が出来ない。

 

「……」

 

 その背が扉に遮られると、クロノはモニターの向こうに見える久しぶりの青を見やる。先程までの気力は失せ、苦く歪んだ表情を浮かべるクロノは、悩んでいた。心の外側を“執務官”で覆いながら、ずっと考えていた。

 事件解決から三日後、医務室から出てきたアロンソを捕まえて、話をした。元々、アロンソが倒れていた間に何があったのか、書面だけでなく対面で伝える必要があった為に、話題を振るのはそう難しくなかった。

 

「イデアーレを殺す必要はあるのか、か。お前はどう思うのだ」

 

「……殺すべきではない。そう思います」

 

 雰囲気は、平時と然程変わらない。しかし表情を引き締め、正面に座り、見据えてくるアロンソに、クロノは少しばかり気圧されていた。“悩み”を聞き終えたアロンソが態々移動したことも一因にあるかもしれない。しかしそれでは尋ねた意味が無いと、腹に力を込めて、返答を待つ。

 

「そうか。確かに、管理局の定める法には実力による司法取引が存在し、数多くの犯罪者がこの恩恵を受けて多かれ少なかれ社会に貢献している。ヤツの実力であれば容易にそれが認められただろう、お前の考えは正しい」

 

 だが、力が無い。認められたと思い僅かに顔を綻ばせたのも束の間、アロンソはその考えを無力と言った。思わず身を乗り出そうとしたのを目で制され、浮いた腰を落ち着かせると、アロンソは話し始める。

 

「お前の意見にはフレディの言葉を跳ね返すだけの力が無い。プロジェクトFに携わった者は例外なく殺す、それが管理局の定めている法だ。助命など端から考慮の外だ、それを通り一辺のやり方で覆すことなど出来る訳が無い」

 

「……しかし! 相手はまだ幼い子供なのですよ? 確かにあの子は公的には死人でしょう、けれど現実に生きているんです! 明るい未来を過ごす権利がある筈です! なのに、なのに……ッ!」

 

「それだけか? お前の理由は」

 

「……それだけで充分でしょう!」

 

 怒りが身を、心を突き動かしてクロノを咆哮させた。許せなかった、命を救うことを、人を救うことを、悪を挫くことを、悪を制することを、悪に対して“義”を持つことを身を以って示し続けてきた執務官長の言葉とは思えない。

 どうして彼はフレディを庇う、どうして自分の言葉を無力だと、意見を一言で叩き伏せようとするのだ。

 正しさを示すことが正しい道に繋がるとは限らない。しかし正しさを示し続けなければ人は見てくれない、聞いてくれない、声を上げてくれない、変わろうとしてくれない。だから我々は常に正義を掲げるのだ。無辜の人々を守り、安全な社会の礎となり、常に平和を祈り、謳い続ける。やろうと思うだけでは何も変わらない、動き、声を上げ続ける事こそが、今日の平穏と未来の平和を築く土台になるのだ。

 先月に行われた新任執務官への訓示で、手を変え品を変え正しさを表し続けることの意義を説いたアロンソが何故、何故!

 

「それだけ明確に意思を定めていながら、フレディに直談判しなかったのは何故だ」

 

 勢いのまま吐き出そうとした言葉が寸前で止まった。僅かに残っていた理性が馬鹿さ加減に気付かせたからだ。急ブレーキを掛けられた感情は気持ちの悪い余韻を軌跡に残して一気に暗転する。

 

「……あれから0、一佐に見えたのは地球を、発ってからでしたので、もう“終わった”ものと思い、まして、その……僕は」

 

 諦めてしまったのだと、思います。絞り出した声だった、意識の埒外に置いていた“結果”だった。

 

「クロノ、貴様の言葉には力が無いと言ったな。ではそれに力を持たせるにはどうすればいいと、お前は思う?」

 

「言葉に、力を……?」

 

 クロノは考える。フレディに相対出来る力、間違いではない。道理を語ることの出来る地位、これも間違いではない。経験、必須。意見を発し続ける意思、必須。意見を体言する行動、必須だ。……どれだ?

 クロノは思い浮かんだものを幾つかアロンソに伝えてみるが、そうか、そうか、と頷かれるだけで、一通り伝えきれば、それで終わりか? と問われる。先程の問答を思い出して僅かに体が熱くなるのを感じるが、冷静が勝る今、視えているもの、思い浮かんだものは少し違ったので、頷いて返す。

 

「お前が今述べたものは須く問いの答えに足るものだ。しかし、及ばない。お前が述べた力では誰かが押し通す道理を覆しきれない」

 

 ではどうすべきか。アロンソは一度言葉を切ってクロノを見やる。言葉を発さず、弱くなっているがアロンソへの視線は外さず、不足だと言われ続けたことに少々参っている様でいて、そこから這い上がる意思を失っていない。

 

「お前は、力を得た自分の言葉を、誰に向けるのだ?」

 

 問答は、そこで終わった。今度こそ、何も答えられなかった。

 

「常に自分の力の向け方、向け所を考えておけ。少なくとも今のお前には、必要なことだ」

 

 ただ叫ぶだけでは誰も耳を貸してくれない。弱者達の盾になろうとしても、この身は一つで不足ばかりが募る。管理局という次元世界に広がる巨大組織ですら、いたちごっこを続けているのだ。

 言葉で、行動で示したくとも、一人の視界では、管理局の視界では収まらない程に、世界は多様な悪で満ちている。どうすれば、どうすれば――深みに嵌って行く一方の思考に割り込む様に、プレシアからの念話が届いた。準備が出来た、そちらは? と。

 

「……取り敢えずは、だ」

 

 任された仕事をしっかりこなそう。目を瞑って視界を黒で覆い、顔を別の方向へ向ける。目を開けると其処には扉、フレディ達が出て行ったものとは別、アースラの裏口に続く扉。それを認識することで思考を切り替え、表情を引き締めて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、発着ポートメインターミナルには、多くの報道陣が詰め掛けていた。

 彼らの目的はジュエルシード散逸事件、そしてそれに携わった三人の高官、フレディ=アイン=クロイツ一佐、アロンソ=テスタロッサ執務官長、リンディ=ハラオウン少将に取材を行うこと。

 特に今回は、予てより不仲が噂されるフレディとアロンソが協働したということもあり、醜聞のネタを得るべくやってきたゴシップ誌の記者やフリーライターの姿も見受けられる。

 しかし、管理局がそれを指を銜えて許す筈も無く、地上本部から派遣された武装局員達がバリアジャケット姿で周辺の警備と記者達の整理を行っており、文句や抗議の声が一部で発生しているが、現在の所、大きな混乱は無い。

 

『あーうるせえ、俺達が何の為に来てるのか分からねえのか、コイツら』

 

『仕方ないだろう。あの人、こういう時にしか公の場に出ないしな。喉元過ぎれば何とやら、ってやつだ』

 

『それちょっとばかし意味違うくね?』

 

 念話で軽口を交わす武装局員達だが、それは内心の怯えを隠す為。彼らの任務は周辺の警備であるが、有事の際には“肉の盾”になれ、そう言い含められている。

 

「おい来たぞ、フレディ一佐とアロンソ執務官長だ!」

 

 何処からか、目敏い記者の一声を合図に、記者達の群れが動きだす。武装局員達は彼らを区域内から出さないよう、日々の訓練で鍛えた肉体と強化魔法をフル活用して押し止める。無論足の隙間や腕の隙間からカメラやマイクを出したり這い出ようとする記者も居るが、事前の通達に従い蹴りを入れたり目の前を踏みしめる等して威嚇する。そうこうしている内に、記者達のざわめきが大きくなる。遂に今回の標的がやってきた。

 

「フレディ一佐! 海側の要請により初動調査を請け負ったという話ですが!」

 

「アロンソ執務官長! 任務前の休暇はカモフラージュであったという噂がありますが、真偽の程は!」

 

「リンディ少将! 今回の航海は事前予想に基づいた息子さんの実績作りとのお話がありますが!」

 

 大量に焚かれるフラッシュと質問の山に対し、何も語らず涼しい顔で通り抜けていく三者。それに業を煮やしたのか、幾つか強い質問も飛び出してくる。

 

「今回の事件の主犯格が“不慮の事故”で死亡したそうですが、そうであればスタッフや延いてはお三方の管理責任も問われるのではないですか?」

 

「プロジェクトFの関連が疑われていた、とありますが、仮にそうであったとしたら尚の事気を払うべきだったのでは!?」

 

「一部報道では主犯格は二人、片方は十つにも満たない子供だったとも言われていますが、仮にこちらも亡くなっていたのであれば、管理局の理念をも揺るがしかねない不祥事ですよ!」

 

「捜査に協力したスクライア一族のデバイスが現場となった管理外世界にてロストした、ともありますが、これが事実であれば管理局法の適用も考慮される案件です! 進退伺の提出はされるんですよね!?」

 

 ああ? 高い声の渦中へ響いた唸る様な声は、その低さもあってあっと言う間に報道陣へ伝播し、一瞬の間に沈黙が訪れる。多くが不機嫌さを剥き出したフレディに恐怖する中、一部の記者やリポーターがニヤリと笑う。引っ掛かった、そう言いたげに。

 

「おいフレディ、相手をするな」

 

「とは言ってもよう、こうも好き勝手に言われちゃ胸糞が悪い。こっちは命懸けで仕事してきたってのに、コイツらがやるのは俺達の粗探し」

 

 滑らかに、それでいて周囲を視界に収められる速度でくるりと回ってみせるフレディ。言葉の調子から何処か役者の様な雰囲気にも取れるそれは、敵意を込めた視線をぶつけられた報道陣の耳目を否応無く集める。

 

「労いの言葉が一つも無いのは、出迎えでなく迎撃に来たと、そう思っていいんだよな?」

 

 途端、報道陣を押さえ込んでいた武装局員達が体の向きを入れ替えて、一斉にフレディを視界内に捉えた。剣、槍、槌、鎌、杖、鞭など己の得物を構えて、僅かに体への緊張を濃くする。

 少なくとも五十人は居る武装局員達が一斉に戦闘態勢に入ったのを見て、修羅場に疎い報道陣もようやく気付く。フレディは今、この場で、事を構える気なのだと。

 

「フレディ、抑えろ。此処で暴れた所で何の益にもならん」

 

「カカカ。いいじゃねえか、別に。礼儀知らずに灸を据えるくらいよう」

 

「それで収まるなら止めていません。というか、その礼儀知らず達を守るのは貴方の部下なんですよ? 隊長が気苦労を抱えさせてどうするんですか」

 

 アロンソが肩を掴み、リンディに前に回り込んで諭す。本局屈指の実力者たる二人が間に入ったことで、二段構えのシェルターに守られることに心身の安定を確保した報道陣から溜め息と、何も変わらぬ粗忽振りに眉を顰める者もチラホラ。そうして睨み合いを続けている内に、一人の記者が暴言を吐いた。

 

「フレディ一佐、貴方は我々を恫喝するのですね! 貴方のその凶悪な力で、無理矢理我々を黙らせようとするのですか! 報道は暴力に屈しませんよ。未遂ではありますが、貴方の力や地位を鑑みれば此処までの言動でも充分に我々の心胆を寒からしめるものだ! 今中継されている映像で市民も感じていることでしょう、貴方の非道は明らか! 正義の執行者たる管理局に、貴方の様な暴虐の徒は不適格だ!」

 

 してやったり。自身の演説に酔ったフリーライターは得意満面と言える表情を浮かべて笑い声を上げる。報道陣の中でも比較的後方に位置取っていたこともあり、本人を目の前にしていなかったことで気が大きくなっていたのだろう。現に彼の周辺に居る記者やライターからは賛意を表す声が飛んでいる。後はこれが伝播すれば――そう思った矢先、背筋に冷たいものが走った。左右から聞えていた喚声は、何故か聞えない。

 

「言いたいこと言ってくれてありがとよ。礼に、最初の犠牲者はテメェにしてやる」

 

 何時の間にかフリーライターの背に居たフレディは、頭を掴み、足の届かぬ位置まで持ち上げる。格闘戦を生業とするフレディの握力は尋常のものでなく、皮と骨が擦れて軋む音が悲鳴に混じって聞えてくる程。周りの人間はフレディの浮かべる笑みの怖さと心根に響く恐怖の叫びに居竦み、助けるという思考すら沸いてこない。この男は殺される――周囲の人間が認識を共有した時、それは響いた。

 

「止めろフレディ! 帰還早々事を起こすな!」

 

 低い、威厳のある、強い声がメインターミナルに響く。それが止んで直ぐ、何かが落ちる音と呻き声が聞え始める。フレディが手を離した事で、解放されたライターが受身も取れず強かに顔を打ちつけ、本能のままにそれを耐える音だ。

 

「タイミングが悪ぃなあレジアス大将。空気読めよ、空気」

 

「精一杯読んだ結果だ。……フレディ=アイン=クロイツ一佐。突発的ながら、無事に任務を果たし帰還したこと、御苦労だった」

 

 人波が引いた先に居た、強面の壮年の男性へ向け答礼するフレディ。男性の名はレジアス=ゲイズ大将。地上本部に於いて実力、声望共にトップの地位にあり、先程まで傍若無人に振舞っていたフレディが、欠けているとはいえ一定の礼を払った人物の登場に報道陣が浮き足立つ。そしてレジアスの後ろからもう一人、今度は本局の制服を纏った男性が現れる。

 

「リンディ=ハラオウン少将、アロンソ=テスタロッサ執務官長。両名共、突発的な事件ながら解決に力を尽くしてくれたこと、無事に帰還を果たしたことに感謝と、労いを。よくやってくれた」

 

「有難う御座います。人を守るものとして、人を率いるものとして、御言葉、心に深く刻みます」

 

 代表してリンディが言葉を返し、アロンソがその後ろでキッチリと敬礼する。大将の階級章を着ける男性の名はギルバート=グレアム。今元帥に最も近いと称される大物の登場に色めき立つ報道陣。そんな彼らの機先を制する様に、レジアスが声を発する。

 

「三人には今回の事件について直に話を聞きたい。車を待たせている、行くぞ」

 

 言い終えると背を向けて歩き出し、グレアムがそれに並ぶ。その後ろをフレディ、リンディ、アロンソの順に並んで着いていく。今直ぐにでも追いかけて話を聞きたいが、今の彼らを追えば漏れなく周囲の武装局員達が“公務執行妨害”で捕縛に動くだろう。

 だが収穫はあった。報道陣は今回のターゲットがターミナルから去るのを見送ると、一斉に報道陣向けの出口へ向けて駆け出す。見出しは既に決まっている。後は先んじれるか否か――

 

 

 




二部は日程的には割りと短めです。ただ、短い間に色んなものを詰め込むので上手く纏められるかが心配……
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