魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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フレディさんイイヒト化計画。


第六話

 

 

 

『ベルカ最強の武人、“フリードリヒ=アイン=クロイツ二世”……そっか、ベルカ読みだとフリードリヒか』

 

 ベンチに座り、空中にモニターを投影して流れる情報に目を通しながらブツブツ呟くユーノ。

 彼が居るのは民間船の発着ポート。テスタロッサ家と別れ、クロノと二人で此処へやってきたものの、迎えの到着が遅れるとの連絡があり、折角だからとフレディについて調べてみれば、出てくる出てくる情報の山。

 

『彼の称号“アイン=クロイツ”は、当代のベルカを治める聖王陛下が選定した武人に贈られるもので、その意は先駆け。戦となれば聖王を守護する矛として、盾として、誰よりも早く戦場へ赴き、誰よりも速く敵を屠り去る。先駆けは騎士にとって至上の誉れ。彼が栄誉に値する騎士であることは聖王陛下の、延いてはベルカの騎士達全てが認めるものである。……凄く持ち上げられてるなあ』

 

 今ユーノが見ているのは、彼の故郷ベルカでの評判。ミッドチルダでは悪評が先行して悪意に寄った紹介のされ方が多く、なかなか踏み込んだ資料に出くわさなかった為、それならばと目をつけた故なのだが、どうやら当たりを引いたようだ。

 

『彼の名、フリードリヒはベルカにとって特別なもの。約三千年前に勃発し、以後長い戦の歴史を作ることなった戦乱期、その第一次戦乱期において活躍した一人の英雄がその由来である。

 

『当時剣や槍、斧といった得物を用いて戦うのが常であったベルカの戦場に、初めて拳一つで飛び込み多大な戦果を挙げた武人で、若くして非業の死を遂げたものの、彼の故国に打ち勝った当時の聖王がその武を称え、後世へ残す為にと部下達に練磨させたという記録があり、今日に至るまで徒手格闘の祖として数多くの格闘家達から尊敬の意を集めている。

 

『二世もその名に恥じぬ徒手格闘の猛者として知られ、技の数々とその魔法適正から“貫撃の騎士”の銘を冠する。奇しくも、これは初代と同じ銘である。ああ、ブンナグールってそういう……』

 

 周囲を行き交う人々の喧騒は既に知覚から離れ、目の前の情報に没入していくユーノ。狭窄した意識はいつしかそれ以外の情報を遮断してしまい――

 

「――い、おい、おい!」

 

「うわっ!? え、何、何!?」

 

「人を使いに出しておいて出迎えをしないのはあんまりじゃないか?」

 

「あ、ああ、クロノ……おかえり」

 

 昼食を買って戻ってきたクロノの存在に気付かず、耳元で大声を食らってしまう。戦闘職の人間だけあって声がよく通り、大きい為に若干頭が揺れる様な感覚に陥るユーノだが、自業自得である。

 

「で、周囲を切り離すほど集中して、何を見てたんだ?」

 

 クロノは手持ちの紙袋を一つ手渡し、モニターに視線をやりながら問いかける。

 

「ベルカ大使館に掲載されてるフレディさんのページ。最初はちょっとした好奇心だったんだけど、読み出したら止まらなくって」

 

「ああ、アレか。下手な辞典より情報量が多いから、腰を据えて読まないと日が暮れるぞ?」

 

「そうみたいだね。項目も多いけど、項目毎の情報量はもっと多いし……」

 

 うーん、と手を組み腕を伸ばすユーノ。体勢を固めてしまった為に固まった筋肉が解れていくのが分かって、少し気分が良くなる。

 

「此処ではあくまで管理局に所属する一部隊の長だが、本国に帰れば元帥号を授けられた正真正銘の英雄だからな。一度だけベルカの軍服姿を見た事があるが、沢山の騎士が傅いている中を一人歩いていく様は、確かに英雄と呼ばれるだけの威風があったよ」

 

 そう語るクロノの顔には、隠しきれない憧憬が見え隠れする。しかしその中に、薄暗い感情があるのは本人にしか分からない。

 

「英雄、英雄か……そうだよね、凄い人なんだよね」

 

「何か、思うところでもあるのか?」

 

「クロノは聞いてるかな? 僕が地球に居た頃、フレディさんと一緒だったの」

 

「母さんからの又聞きだが、知っている」

 

「その時にさ、僕、フレディさんに色々教えてもらったんだよね、格闘術について」

 

 ゴボッ! 驚きを無理矢理塞き止めようとして、食べていたハンバーガーの肉とパンが喉に詰まり、慌てて左手に持っていたコーヒーを口の中へ一気に流し込む。細かいものと、それに準ずる物達が喉下を過ぎた事で、ようやく落ち着けたクロノは、未だ残る不快感に顔を顰めながらユーノに問いかける。

 

「その話本当か? 君の妄想とかじゃないよな?」

 

「失礼な、こんなことで嘘をついて何になるんだよ」

 

 憤慨するユーノに対し、クロノは驚愕を顔に張り付けて固まっていた。ユーノがどうしてそんなに驚いているんだと問いかければ、クロノは少しばかり顔を近づけて、囁くように答えた。

 

「あの人は、戦闘法について教授することはあっても、格闘術について教授したことは一度もないことで有名なんだ。もう一度聞く、その話本当か?」

 

「っ! ほ、本当だよ」

 

 真っ直ぐ、射抜く様な視線を向けられて訳が分からず困惑するも、ユーノは何とか返答する。怯みながらも表情に力強さを残して返答した姿に嘘は無いと判じたのか、すまないと告げて考え込むクロノ。

 

「ねえ、一体何なのさ? 僕がフレディさんに教わったのってそんなに不味い事なの?」

 

「不味いというか、凄いというか……さっきも言ったが、あの人はこれまで自分の戦闘法、つまり経験を教えることはあっても、自分の技術を誰かに教授することはなかった。覚えたところで何の足しにもならないと言ってな」

 

「どういうこと?」

 

「あの人が言うには、自分の技術は武術や格闘技ではなく、特性に合わせた殺し方、なんだそうだ。効率を考えてはいるし、それなりに必殺の技も持っているが、基本的には場の状況に合わせて適当に動いているだけで、覚えようとしたところで変な癖が付くからやめておけと」

 

「それ嘘でしょ? だって僕が教えてもらった時――」

 

 

 

 

「ユーノ君。手作って、構えてみ」

 

 時は少し遡り、ジュエルシード散逸事件解決から二日後。事後処理を終えて帰ってきたフレディは、ユーノを連れて湖畔の広場にやってきて、開口一番そう言った。

 何が何やら分からぬままに連れてこられ、困惑気味のユーノであるが、フレディの“早くしろ”と言わんばかりの視線に当てられて、取り敢えず言葉通りに体を動かす。

 

「ふーん、最初に見た時に何となく違和感があったが……ユーノ君、それでよく皆伝が貰えたな」

 

 ユーノの構えは、右足を引き腰を落とし、指を曲げた左手を前にした打撃と受けを重視したもので、これは“一撃必逃”を旨とし足技と一撃離脱の戦法を得意とする放浪者流とは相反する姿。

 

「師範代達には色々言われましたけど、何と言うか、その……僕が一番強かったので」

 

「ほう。優しそうな顔して、結構自信家なのな、ユーノ君は」

 

「……顔は関係ないでしょう、顔は」

 

「いや、顔つきも案外馬鹿に出来ないぜ? 感情ってのは顔に出るだろ、だからそいつの顔を見れば普段どういう感情を出しているのか、何となく分かるってもんさ」

 

 ケラケラと、可笑しそうに笑うフレディに、何となく言いくるめられた気がしたユーノであったが、上手い反論が思いつかないので、流して話を進めることにした。

 

「それで、一体何の用なんです?」

 

「いや何、やること終わって少し暇になったからな。折角だし、“神童”なんて呼ばれてるユーノ君の腕前を見ようかと思ってよ」

 

 え? 言うが早いか、ユーノはフレディから大きく距離を取った。確証は無い、だがしかし思った、食われると。自分より遥かに大きく、精悍で、造形の整った男が見せた笑みがあまりにも恐ろしくて、とっさに動いてしまった。そして後悔した、自分は知っている筈だ、あの男の前ではどんな生物も彼の腹を、飢えを満たす為の獲物なのだということを。

 

「おいおいどうした、何処行くんだ」

 

 湖畔は静かで、離れていても声が通る。だから聞こえた、仄かに喜色の滲む声が。ユーノの体に電流走る、ユーノの思考に警告駆ける。奴は殺る気だ、慈悲がない。一刻も早く此処から逃げねば! そう思い、体を僅かに後ろへ動かした瞬間、何かに当たった。

 

「別に取って食おうって訳じゃ――オイ、ユーノ君? ユ――」

 

 

 

 

「おいちょっと待て君気絶してるじゃないか」

 

「いや、あの時のフレディさんは怖かったね。笑顔は威嚇になるんだとあの時初めて思い知ったよ」

 

「そんな感想が聞きたいんじゃない!」

 

「? 何怒ってるのさ? まあいいや、続き話すよ」

 

「嫌な予感しかしない……」

 

 

 

 

「すいません、すいません!」

 

 意識を取り戻したユーノは、フレディの顔を見た瞬間飛び上がって直ぐ跪き、ペコペコ頭を下げて謝罪の言葉を連呼。行動の意図がまるで掴めないフレディだったが、このままなのはよろしくないと判断し、背中を柔らかく叩いて段々嗚咽が混じってきたユーノを宥める方向に。

 

「何を気にしているかは知らんが気にするな。それより、早いとこ始めよう」

 

 確か、こうだっけな。そう言ってフレディは、先程のユーノと同じような構えを取る。腕を畳み、腰を落としていることもあって、その姿は少し窮屈な様に映る。今度はユーノが困惑する番で、涙が滲む目を拭う事もせず、疑問を口にした。

 

「あの、一体何を?」

 

「腕前、見てやるって言ったろ? 正直、柔拳ってのはあんまりやったことねえんだが――疾ッ!」

 

 土を削る音と共に腕が槍の如く疾る。風鳴りが聞こえたと思ったら、次いで強烈な破砕音が響いてきた。その段になってようやく視覚が追いつき、標的にされた木の幹が破片となって森の奥へ吹き抜けていくのが見えた。

 

「こんなもんか。性に合わねえな、やっぱり」

 

 倒れそうになる木を右手で止めて、何言か呟いて穴を修復しながらフレディは言う。

 

「あの、フレディさんって、剛拳の使い手ですよね?」

 

「点で打つって感覚がどうにも理解出来なくてな。拳作って殴った方が早いってのもあるが」

 

 ユーノは幼い、しかし物心ついた頃から格闘の世界に身を投じている、だから分かる。フレディが握りこんだ拳は筋肉と骨が長い歳月を経て“物を殴る”ことに特化した、正に凶器と呼ぶに相応しい代物。自分の小さく、柔らかい手では到底辿り着けそうにない境地にある、一目見て分かる強烈な禍々しさに思わず魅入られてしまう。そして同時に、此処まで剛拳に特化していながら柔拳であれだけの威力を出せる基礎筋力に舌を巻く。

 

「と、話が逸れたな。ユーノ君は柔拳使い、そして一流派の皆伝とくれば、当然浸透剄はマスターしてるよな?」

 

「は、はい。少数ですけど、放浪者流にも使い手が居ますから」

 

 面で打ち、衝撃を拡散させることでダメージを与える攻撃が剛拳。点で打ち、その衝撃を内部に徹してダメージを与える攻撃が柔拳。そして浸透剄は柔拳における必須技能であり、その性質は拡散。

 本来決して交わることのないこの性質が何故発現するか。答えは勿論、魔力である。掌打を打ち込む際に己の魔力も同時に通し、内臓や骨に直撃させて炸裂させる――近年はバリアジャケットの普及や格闘技術への対抗策も広まっていることから、必殺技としての力は低下したものの、魔力の性質を変質させて体内に異常を起こさせるといった新しい技術も生まれている。

 ただ、剛拳と比べて中距離での攻撃方法が乏しく、外側から効果が見えにくいということもあって、若い使い手の減少が止まらないという難儀な問題も抱えていたりする。

 

「なら、俺に打って膝を着かせてみろ。何処を打ってもいいから」

 

「え、うええっ!?」

 

「これならユーノ君の訓練にもなるし、ユーノ君の腕前も測れるしで一石二超? だろ」

 

「な、なんか違う気が……」

 

「まあいいからいいから、やってみなって」

 

 いいぞー、と腕を組み仁王立ちするフレディ。縦にも横にも大きい男、自分より三回り四回りは大きい男、整った顔がどうにも酷薄に見えてしまう男、ぶっちゃけ当てた瞬間反撃されそうな男、でも手加減したらそれはそれで酷い目に合いそうな男などなど……

 

『ユーノ君、ユーノくーん』

 

『グ、グロウル!?』

 

『そうだ、今俺は旦那を介さずユーノ君に直接念話を飛ばしてる。いいかユーノ君、確かに旦那は怖いし暴力的だしどう足掻いても太陽の下を歩ける様な人間じゃねえが、少なくとも今日、今この場に関して言えば旦那は真面目にユーノ君に物を教えてやろうとしてる。

 

『多分、ていうか間違いなく裏で碌でもないこと考えてるんだろうが、ユーノ君に危害が及ぶってのは先ず無い筈だ。旦那、珍しいことにユーノ君のこと結構気に入ってるみたいだしよ』

 

『え、えっ、それ、ホント?』

 

『ホントホント。だから気にせずぶち込んでみ。言っちゃ悪いが、ユーノ君が魔力全開にしても、全然効かねえから』

 

 ま、頑張ってちょ。とふざけた言葉を残してグロウルはフェードアウト。ふと見上げてみれば、これまた“早くしろ”と訴えるような視線。慌てて首を引いて構えを取ると、フレディの体が少し揺れた。体格差もある、上を見るのは怖い、そして何より膝を着かせてみろとのお達し。これらを総合して考えれば。

 

「――ゥッ! 行きます!」

 

 小さく息を吐いて気持ちを切り替え、余勢を駆ってすり足から右手を突き出す。狙うは関節、膝頭。此処に魔力を打ち込み骨の裏側から炸裂させ、掌と挟み込むことで確実に割る!

 数瞬、皮膚の向こう側、膝の皿を捉えた音がユーノの耳に届くと同時、打ち込んだ魔力が骨を抜けた感覚、直ぐ様くっ付けていた掌を捻り押し込む! ――が。

 

「あっ、そんなっ!」

 

 掌の向こう側に骨で“押された”感触はなく、代わりに小さな喪失感が巡った。関節そのものに打ち込めば間違いなく消される、だから可能性の高い表層、それも最も浅い位置で確実な成果の見込める膝頭を選んだ。にも関わらず、ユーノの打ち込んだ魔力は掻き消され、フレディの幹の様な太い足は少しも震えることなく健在だ。

 

「考えは良かったし、打ち込みも正確だった。けど正直過ぎたな、骨の下から突き上げて骨の中で炸裂する様にしていれば、ダメージを与えられただろうに」

 

「で、でも、骨はディスペルも強い部位です。貫くならまだしも、中身でなんて」

 

「徹すって言葉に惑わされてねえか? 浸透剄なんだ、自分の魔力で相手の中身を握り潰す。そういうイメージを持つことも大事だぜ?」

 

 

 

 

 

「その後はひたすら反復だったね。指摘を受けて実践、イメージを形にする練習をした後に実践、フレディさんの手本を見て実践、日が暮れるまでこれを繰り返してた」

 

「……何と言うか、随分とストイックなんだな」

 

「僕も驚いた。評判を聞く限り才能だけで何でも出来る人なんだと思ってたけど、時間を掛けて動きを頭と体に浸み込ませる必要性を懇々と説かれてさ。“自分の体がどういう風に動いているのか、それを頭と体両方で知って始めて無駄のない動きってのになるんだ”って言われた時は、目の前の人が本当にフレディさんかどうか疑ったよ」

 

「あー……それは今僕も思った」

 

 そうだよね、そう思うよね。少しイメージが崩れたというか。余人が知らなそうなフレディの一面を共有して語らう二人は本当に楽しそうで、けれどそうした時間は過ぎるのも早く。

 

「――ん、通信だ。お疲れ様です、ハイ、ああ、もう着きましたか」

 

 どうやらユーノの迎えが到着したらしい。もう少し遅れてくれてもいいのに、と名残惜しそうに呟くとまた会えるさ、とクロノ。

 

「どうやって?」

 

「僕の通信番号を教えておく。夜七時以降ならいつでも暇だし、毎週必ず休みも貰える。君が暇な時にでも遊びに来い」

 

「えっ、いいの?」

 

「恥ずかしい話、友人がそう多くないんでな。君の様に話の合う奴は貴重なんだよ」

 

「ハハッ、僕も同じだよ。じゃあ、そうだね、これからよろしく、クロノ」

 

「ああ、よろしく頼む、ユーノ」

 

 差し出された手を握り返してこれからの友好を願った二人。短く視線を合わせた後、クロノはメモを手渡し、ユーノはそれを一瞥してまた連絡すると言い残して発着ポートへと駆けて行った。

 その姿が人ごみに紛れて見えなくなった後、クロノは椅子に腰を下ろし、ガラスの向こうに映る青空を見上げる。

 

「……羨ましいよ、君が」

 

 独白は、周囲の喧騒に混ざって消えた。

 

 

 




あけましておめでとうございます。まさか前回が最後の更新になるとは思ってませんでした。寒中見舞いにならんで良かった……。
えー、今回のお話、後半に予定していたエロシーンが書いてる内にグロシーンになってしまったので、急遽予定を変更してフレディさんとの鍛錬シーンを書きました。ホントはこんなの書かない予定だったのに!

次回の更新で今回載せなかったエログロシーンを書きます。反響によってはこの作品はR-18になります。管理人さんに突っ込まれてもなります。ちょっと人を選ぶシーンなのでお気に入りが百を切るでしょう。あと感想下さい。
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