フレディの頼みを一も二も無く了承したなのはは、念話(魔力を電波に見たたて飛ばす、魔導師が良く使う通信方法)を使って何処かへ行ったユーノの呼び出しを始める。そうして会話が途切れたのを切っ掛けに、グロウルが雑談を仕掛けた。
『空気読んで黙ってたけどさ、随分似合わないことやったね旦那。いつもならああいうの人任せにしてるクセにさ』
『うるせえ。誰も居ねえんだから俺がやるしかねえだろうが。あのまま放っておいて下手に暴れられるより、しっかり保護下に置いて管理するのが得策だ。管理外世界の人間なら尚更な』
『管理ってことは、今後もあの子に魔法使わせる気なの旦那? あのクラスの魔力を制御して戦闘に使えているのは評価するけど、それだけでしょ。デバイス取り上げれば済む話なのに、そうしないのはどうして?』
『さっきなのはちゃんが言ってたユーノ、スクライアからの捜索願にあった名前と一致してる。フェレットっていうのも、奴らが発掘作業を行う時や非常時の避難用に作られた変身魔法の類だろう。勤勉且つ人格者の多い一族だ、子供特有の正義感に駆られて、危ない物を放置できない一心で飛び出してきたんだろうさ。そんな人間が、デバイス取り上げられたくらいで諦めると思うか?』
『思わない。むしろ暴走して人を巻き込むのがオチだわな。なのはって子も、暴走の感知くらいは出来る様になってるだろうから、現場に来る可能性があるね。デバイスがないからって、魔法が使えない訳じゃないし』
『そういうことだ。なのはちゃんは地元の子だろうから、土地勘生かして探索してもらって、封印は俺達。この形が落とし所だな』
フレディとグロウルがなのはに気取られないよう念話で今後の対応について話し合っていた頃、ユーノはなのはの呼び出しを頑なに拒み続けていた。
『聞きたい事があるから呼んでくれって言われただけだよ? どうしてそんなに嫌がるの?』
『だから、怪我人の治療がまだ済んでなくて』
『嘘! さっき思い出したけど、ユーノ君自分で言ってたじゃない。結界はユーノ君が入れていいって認めた人か、魔力を使って勝手に入ってくる以外無理だって。フレディさんは勝手に入ってきたんだろうから、それ以外の人が居る訳ないよ!』
逃げる為の嘘は呆気なく看破され、なのはに早く来なさい! と迫られるユーノ。性格が滲んだ穏やかな表情からは想像もつかない押しの強さにたじろぐも、負けられないと意を新たにするユーノ。このフェレットにはどうしても負けられない理由があった。
『確かにさっきのは嘘だけど、それでも僕は絶対に行かないよ。なのはが話してくれたフレディさん、あの人時空管理局の中でも“殺人警察”って渾名が付いてる部隊の隊長なんだ。あの人にとって僕はロストロギアを無許可で集める犯罪者、話を聞く前に殺されちゃうよ』
“殺人警察”。ユーノから飛び出した物騒な固有名詞を聞いたなのはは、思わずフレディの方を見る。赤褐色の髪に、つり気味の目が攻撃的な印象を与えるも、目鼻立ちの整った人目を惹きそうな面貌。服装は黒革のジャケットと白地に風景画がプリントされたインナー、そして青のダメージジーンズ。装飾品の類は身に付けておらず、目つきが悪い事を除けばその姿は往来で見かける若者と大差ない。
『……ユーノ君が言うような人には見えないけど』
『大事なのは外見じゃなくて中身さ! 暴力的で容赦の無い、犯罪者を捕まえる為なら一般人の犠牲すら厭わない! そういう人なんだよ、フレディ=アイン=クロイツは!』
なのはが抱いたイメージと、ユーノが抱いているイメージ。二つの乖離が激しく、話は平行線を辿る。フレディとグロウルの会話が一段落した後もそれは続いており、「ユーノ君のバカヤローなの!」などと可愛らしい声で罵倒するなのはにグロウルが「漏れてる、声が漏れてるよなのはちゃん!」と言って爆笑していたり、フレディがそんな相棒を冷めた目で見つめている内に、なのはの動きが止まった。そしてフレディに満面の笑みを向けて
「ちょっと時間が掛かるけど、来るそうです!」
と報告した。お疲れ様、と声を掛けたフレディになのははユーノ説得に至る経緯を語り出す。途中“殺人警察”の固有名詞が出た際、なのはがフレディさんはそんな怖い人じゃないのに、ユーノ君が――とフレディの潔白を語りだし、当の本人は苦笑いしていた。
そんな感じでなのはとフレディが雑談を楽しんでいた頃、なのはの近くに小さな方陣が出現。そこからフェレットが飛び出すと、なのはの肩に飛び移り、フレディを見据えた。
「初めまして、ユーノ=スクライアです。今回の事件の原因、ジュエルシード発掘の監督者です」
「初めまして、フレディ=アイン=クロイツです。ユーノ君、でいいかな?」
構いません。そう返したユーノの声は怯えと緊張を孕んだ、淡々としたものだ。ユーノの声色に穏やかでないものを感じて眉を顰めたなのはだったが、フレディの表情が穏やかなのを見て、静観することに決める。
「それじゃあユーノ君。まず最初に、スクライア一族から捜索願が出てます。なので、地球に居るって情報は送るけど構わないね?」
「……ええ、はい。構いません。むしろ、お願いしたいくらいです」
呆気に取られた、というのが手に取る様に分かる声の調子。ユーノの態度に得意げな表情を浮かべたなのはだが、気を入れ直したのを感じて、再び会話に集中する。
「それじゃあ幾つか質問させてもらうね。話したくない事は言わなくても構わないけれど、嘘はやめて欲しい。それじゃあ一つ目。なのはちゃんは君が見つけた現地協力者、でいいのかな?」
「はい。僕が倒れているのを彼女が見つけてくれて、病院に連れて行ってもらったんですが、ジュエルシードの気配を感じて飛び出した所を彼女に見つかって、暴走体から逃げる際に彼女が持っているデバイス、レイジングハートを渡して封印に成功。彼女の持つ力が強大だったのと、事情を説明した時に手伝ってもらうことを拒みきれなくて、それで」
「うん、経緯と理由は大体分かった。なのはちゃん、君って見かけによらず行動力あるんだねえ」
えへへ、と頬を赤らめポリポリ掻きながら照れるなのは。
「次の質問。今に至るまで君達以外でジュエルシードを集めている者とは遭遇したかい?」
「いえ、フレディさんが初めてです。僕が此処に来てから十日程経っていますが、ジュエルシードを発見して封印に至るまで第三者が介入したことはありません」
「そうかい。それじゃあこれで質問は終わり。次は君達の処遇についてお話させてもらいたい。なのはちゃんにも関係ある話だから、ちゃんと聞いてね」
急に水を向けられて驚き「ひゃい!」と変な声が出てしまったなのは。今度は羞恥で顔が赤くなっている。
「君達には今後、ジュエルシードの探索を主にやってもらう。封印作業は俺達がやるから、ジュエルシードを発見したら直ぐにその座標を伝えて欲しい。それが終わったら次を探してもいいし、家に帰って休んでも構わない。以上、何か質問はある?」
はい、はい! となのはが元気よく手を上げる。じゃあなのはちゃん、とフレディが生徒を当てる教師の様に振舞うと、なのはは思いの丈を口にする。
「私たちは封印をしちゃいけないんですか? これまで頑張って、何個か封印してきたんです、私たちだって出来ます! 二手に分かれた方が効率もいいだろうし、私たちにもしっかり協力させて下さい!」
「うーん、気持ちは分かるんだけどね。これまでがこれからも通用する保障はどこにもないのよ。今までは邪魔が入らなかったみたいだけど、これからもそうだとは限らないでしょ? それに、今回以上の大事が起こった時、なのはちゃんが頑張るのはいいけど、それで怪我をしたり、万が一死んでしまったりしたら家族が悲しむだろう? 俺もそうなったら嫌だし、なのはちゃんがそういう目に遭わない様に守る為のお話しだからさ。納得出来ないかもしれないけど、受け入れてくれないかな?」
怪我をしたり、死んでしまったりしたら。その言葉を出された時に反撃の気概が潰えたなのはは、フレディが自分の事を心配しての提案だというのもあって、分かりました。と肯定の意を返した。「ちょっ、なのは!?」と驚くユーノと満足そうな表情を浮かべるフレディ。しかし、なのはがその代わりと呟いた瞬間、フレディの顔に苦味が走る。
「私が危なくならないように、鍛えてもらえませんか? ユーノ君から聞きました、フレディさんって凄い魔導師なんですよね。だったら、私が一人前になれるように鍛えて下さい。目の前で自分の住んでる街が壊されるのを黙って見てるなんて、そんなの、出来ませんから!」
瞳に強い意志が感じられる。表情からもそれは窺える。この子は本気なのだろう、守られるだけなのは嫌だというのもあるんだろうが、それより前に街を守りたいという強い意志がある。言いそうだとは思っていたけど、ここまで強い気持ちを発してくるとは思ってなかった。子供ってやつはホント、可能性に満ちてるねえ。
「……分かった。なのはちゃんが一人前になれるように鍛えてあげます。けど、俺が一人前になったと認めるまで封印をするのは禁止だからね。それだけは約束してくれ。出来るね?」
はい! と元気よく返事をするなのは。ホントに分かってるのかな? とニヤニヤしながら問いかけるフレディ。流れに置いていかれて呆然とするユーノ。
――その様を、瓦礫の街の片隅で眺めていた金色の少女は、喜色を浮かべて何処かへと飛び去っていった。
過去最高4000超え。自分的には長いんですが、二次界隈では普通とのこと。俺にはこんな長いの日常的に書くとか無理だよ……長すぎて見直しすらしてねえよ……つか予告したのと全然違う内容だよ……