魔法少女リリカルなのは ストラーノ   作:ゆきだるま

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バチバチ。


第五話

 

 

 

「またね、フレディさん」

 

 

「ああ、またねなのはちゃん」

 

 

 

人目につかない場所に移動した後、フレディはユーノに結界を解かせた。広がるのは先程と変わらない瓦礫の山と、それに気付いた人々の喧騒。結界は張った範囲の位相を変化させる事で、中で起こった結果を現実世界に反映させないという性質を持っている。これを利用する事で魔力を持たない人間を結界に巻き込まない様にしており、管理外世界――管理世界の技術を用いていない、又は知らない世界のこと――で魔法を行使する際は必須の技能とされている。だが、どれだけ進んだ技術とて、既に起こった事象を覆す事は出来ない。二人と一匹の前に広がるのは、二人が間に合わなかった証だ。改めて現実を見据えて表情を暗くしていたなのはを心配で覆い隠したフレディは、幾つかの約束をした後、なのはと別れた。空は茜色の向こうに夜の帳が下り始めている。

 

 

『旦那、向こうに帰ったら保父さんやるのもいいんじゃね? 今日の旦那見てたらそう思うよ』

 

 

『いつも以上に気ぃ張って疲れてんだ。それ以上下手なこと抜かすと軋ませるぞ』

 

 

『やめて! 旦那の握力だと洒落にならないからやめて!』

 

 

 

グロウルと雑談をしながら被害を免れたフレディ。情報が出回り始めているのか、不安そうな顔をしている住民が多い。浮ついた雰囲気も漂い始めており、嫌な方向に街がざわめきだしている。

 

 

『これに反応しなきゃいいんだがね、ジュエルシード』

 

 

グロウルの呟きにフレディも同意を示す。二人は発掘者であるユーノからジュエルシードに関する情報を得ており、その中に“人の強い意思に反応する”というものがあった。現在の騒ぎの原因である大樹も、結界を解く前に回収した少年の意思に反応した結果だと、ユーノは語っていた。動物など、思考が本能に根ざしている生物はその方向性が分かりやすい為、飢えていたり危害を加えられたといった負の感情が生まれていなければ強い力を示したりはしない。しかし、人間の意思や欲望は数多の感情がない交ぜになっているものが多く、それを実現させようとジュエルシードが出力を上げた結果、耐え切れず暴走に至ると。

 

 

ジュエルシードがあった世界が繁栄したのは、それを手にしていた巫女達の一途で清らかな心があったから。ジュエルシードがあった世界が消滅したのは、それを手にしていた巫女が欲望に負けてしまったから。ユーノが語った世界の顛末が、それを如実に表していた。

 

 

『一つ聞いておきたいんだけどさ、なのはちゃん達が先に現場に着いてた場合、旦那に連絡入れる確率ってどれくらいだと見積もってんの?』

 

 

『七割だな。ユーノ君が唆さない限り、なのはちゃんは連絡入れてくると思うぜ』

 

 

『へえ、そりゃまたどうして。ユーノ君は旦那の評判知ってるみたいだけど、さっきまでのお話で好印象与えられたと思うし、そもそもロストロギア扱う連中が管理局に悪印象与える様な真似はしないと俺は踏んでるけど、そこについては?』

 

 

『“結果があれば一人前として認めてもらえる筈”。そんな風に唆されたらなのはちゃんも揺らぐ、確実にな。ユーノ君はなのはちゃんの力を過信してる節があるし、なのはちゃんは焦燥感を抱えたままいられる程大人じゃないだろう。まあ、仮にそんな風に勝手をやったらこっちも“管理局員”として対処しなくちゃいけなくなるから、勘弁願いたいけどな』

 

 

今回のフレディの対応は、大人として子供を守れる様にしつつ、子供の意を汲んだ形で動ける様にした。ただそれだけだ。“管理局員”として対応したならば、聴取を終えた後ユーノを強制送還し、なのはからデバイスを取り上げて魔力封印を施し、魔法に関する記憶を思い出さないよう暗示を掛けて帰していた。それをしなかったのは、話をしていく中で見たなのはの気持ちをフレディが嬉しく頼もしく思ったからで、なのはの教官役を引き受けたのもそこに起因するものが大きい。

 

 

『……なあ旦那、もう一つ聞いていい?』

 

 

『何だよ、そんなことより早く質屋を探せよ』

 

 

『他人にロリコンロリコン言っておきながら実はアンタもロリコンなんじゃ――ちょっ、やめて、握らないで、ひん曲げないで!』

 

 

 

フレディはグロウルを右腕から外すと、彼に恐れられていた握力で形状を変化させていく。軋みを上げる度にグロウルが悲鳴を上げ、それを聞いたフレディが更に力を込めていく。真円から楕円、そこから更に細くなりグロウルの恐怖が最高潮に近づいた時、フレディは不意にグロウルを定位置に戻した。先程まで意識せずとも耳に届いていた喧騒は、人の気配ごと消え失せている。

 

 

「グロウル、状況は分かるか?」

 

 

「結界の範囲は約五キロ、術式はミッド式、魔力反射型だ。結界の外に使い魔らしき奴が居るが、こいつが恐らく術者。警戒すべきはこっちに高速で接近してくる奴だな、ジャミングが上手くて空戦魔導師ってこと以外分からん。速度から鑑みるにスピードに特化した奴だから、下手を打つとやられる可能性大、だね」

 

 

「それで十分、視認出来る距離になったらこっちから仕掛けるから準備を――――ッ!」

 

 

フレディは驚きに目を見開いた後、ゆっくり腰を落とした。腕を大きく広げ、迫り来る何者かを受け止めるかの様に。この動きに驚いたのはグロウルだ、直ぐ様攻撃の、もしくは迎撃の態勢を取る様に進言するが、フレディは頑なにそれを拒む。理由を問うと、グロウルも予想していなかった答えが返ってきた。

 

 

「えっちょっ、嘘っしょ!? どういう事よそれ!」

 

 

「いいから早くバリアジャケット、それから緩和術式急げ!」

 

 

フレディの足元に三角形の魔法陣が現われ、それが頭の先まで一気に上昇すると、フレディの姿が全く別の物に変化していた。上半身はノースリーブのタイトなインナー、両肘から先は細部まで作り込まれた鈍い銀色の手甲で覆われ、下半身は砂色のカーゴパンツに手甲と同じ素材で作られたと思われるブーツを着用。そして、いつも以上につり上がった瞳が金色の軌跡を伴って迫る魔導師を捉えている。

 

 

「フレディィィィィィィィィィィィィィィッ!」

 

 

魔導師が叫び、接近の勢いそのままにフレディの体に突き刺さる。鈍い音と共にフレディの大柄な体躯が一瞬宙に浮き、その勢いを受け止めようと再び足裏が地面を噛んだ。アスファルトから火花を散らしながら後退していくフレディの体。車道に陣取った事が効を奏し背後に憂いはないことをグロウルに伝えられたフレディは、押し込まれていた体を少しずつ押し返し、やがて最初の位置に戻すと、雷に守られた弾丸を両の手で掴む。

 

 

「ッ! ハァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 

それに気付いた弾丸は更に勢いを強めようとするも、フレディの膂力が生み出す減速の流れを止められない。遂には雷の膜を破られ、晒された体が抱き止められる。推進力を急に失ったフレディはバランスを崩すも後方宙返りを何度か繰り返した後静止着地に成功。大きく息を吐いて、腕に抱いた弾丸を睨み付けた。

 

 

「フェイト、お前何で此処に居るの? それから会う度に突進して来るのいい加減にやめろ、バリアジャケット張ってまで受け止める俺の身にもなれって」

 

 

「うう……だって、フレディ、最近全然遊びに来ないし、姉さんも寂しがってて、だから、フレディが悪者で……」

 

 

「どうしてそうなる。まあいい、お前が居るって事はプレシアも居るんだろ? アイツのとこまで連れてけ、娘の躾について話し合わなきゃならん」

 

 

最後に溜め息を吐いたフレディだったが、先程まで泣きそうになっていた少女――フェイトはフレディの腕から飛び出ると、前を指差しこっちだよ! と言って飛び去っていった。その様に再び溜め息を吐いたフレディは、フェイトが飛び去った方へ走り出す。きな臭い物が増えた、そう呟いて。

 

 

 




フェイトが出ました。日曜日には更新しようって決めたら日曜日以外指が動いてくれません。ちくせう。しんどい。
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