ノーゲーム・ノーライフ―最も幻想に近い神話― 作:最弱の人形
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「……え?ナニコレ?俺エロゲーやってたはずなんだけど……」
PCの液晶に表示されたのは赤黒い背景を主とした画像。
よく見ればその中心には血塗られた主人公の右腕のようなものが映っており、俗に言うdeadENDを指すものであった。
「…にぃ、……バグ…?」
「違ぇよッ!!イベント無視してステ上げしてたらヒロインに殺されるってマジで!?」
事前予告や情報も一切ない、それは所謂初見殺しというものであった。
「……にぃ、これ…」
白髪で紅い瞳をした少女が指さしたのは、そのゲームが入っていたと思われる箱。
黒髪の青年がそれを投げ受けると、即座に裏面を確認する。
「…『時代の最先端を行く恋愛シュミレート型エロゲー』だぁ?こんなのが最先端なら俺は時代に取り残されてたほうがよっぽどマシだド畜生…」
「…でも、にぃ、まだ負けて…ないよ?」
少女が眼を向けた液晶には、『あと二回死ねるよ♪空君♪』と表示されている。
「上等だよノーミスでクリアしてやるッ!!」
たかがエロゲー。
されどエロゲー。
不意打ちにも等しい演出の数々がシナリオに挿入されているそのゲームは、童貞ゲーム廃人な青年の心を燃え上がらせるには十分なものであった。
そんなときであった。
――テロンッと。
PCからメールの着信を告げる音が十六畳の部屋に響く。
ゲームの配線や箱、カップ麺の容器などで床は埋め尽くされており、歩くスペースなどないのではと思われるが、白髪の少女は器用に音の発信源であろうタブPCの元へと歩いていく。
「にぃ、これ……」
「どうせ広告メールとかだろ? ほっとけほっとけ!」
「……友達の…可能性は?」
言外ににぃの、と言われた気がする。
卑屈な彼がその言葉を好意的に受け取るわけもなく、ニッコリ笑顔で「妹に皮肉を放たれた気がする♪」と自嘲的に喋っていた。
なにか口元を細かく動かしながら、白髪の少女、白は渋々メールを開く。
次の瞬間、その顔は驚愕に包まれた。
「…にぃ、これ見て。」
普段より抑揚の無い声でそう告げられたその声を聞き、兄である黒髪の青年、空はその変化を目ざとく察知し、ゲームをポーズ画面にすると椅子から立ち上がり妹の元へと歩んでいく。
「…なんだこれ?」
メールタイトルを見た青年はそう呟き、
そのメールの異様性に気づいたのか、青年は目を細める。
「……何で
――
無数のゲーム勝利実績を持つ正体不明のプレイヤー。
対戦実績を見るに、
二八〇を超えるゲームの全てにて世界ランキングの頂点を飾り続け、新たな記録を日に日に打ち立てていく無敗にて最強のプレイヤー。
その異常さ故に、『チートを駆使して勝利を重ねるチーターだ。』
『敗北実績を消しているハッカーだ。』
などと根拠のない噂が流れている。
そんな
兄を――空。
十八歳。 無職。 童貞。 非モテ。 コミュニケーション障害。 ゲーム廃人。
典型的引きこもりを連想させるジーパンにTシャツ。ボサボサの黒髪。
妹を――白。
十一歳。 不登校。 友達無し。 いじめられっ子。 対人恐怖症。 ゲーム廃人。
血の繋がりを疑うまでに兄とは対照的に真っ白い髪と肌。家でしか着ていない、小学校のセーラー服に身を包んだ少女。
それが彼ら、
誰も知らない正体。
発言の機会があるチャット機能を使わない故に、かろうじてわかるのは日本人ということだけ。
確かに
常にネットの波を泳いでいる空は知っている情報であった。が――。
何故か
一目で異様性を感じ取るのも無理はないだろう。
空が訝しみながらもメールを開くと、そこにはある文が一文と、URLが表示されていた。
【
「……なんだこれ」
「………」
URLの末尾には、国を表す文字列がない。
つまり、特定のページスクリプトへの――ゲームへの直通アドレスで見かけるURL。
「どう…する…?」
半眼だがメールに目もくれずに、まるでどうでもいいと言った普通に妹が問う。
だが二人の正体を知っているようなそぶりの文面に、妹も思うところがあったようだ。
その場から動かず兄に判断を任せるということは、これは
「駆け引きのつもりか?…まぁノッて見るのも一興か。」
そう判断し、URLをクリックする。
ウィルスの可能性もあるため、セキュリティソフトを走らせながらだが。
「……は?」
「…( ˘ω˘)スヤァ…」
瞬間、液晶に表示されたのはチェスの盤。
無数のゲームを制覇している
液晶を見た途端睡魔に身を任せようとした白を、空は慌てて止める。
「ちょっ! 相手が世界最高のプログラムとかだったら流石に手の打ちようがないっての! 頼むから起きててくれ!!」
「……ん。」
不満げではあるようだが、
「確かに四徹して辛いだろうが、それは兄ちゃんも同じだ。これ勝ってさっさとイベント報酬貰いに戻って寝ようじゃないか、妹よ。」
そうして、チェスを打ち始める空。
隣で白は
「随分とブルジョアなお食事をとるようになりましたねうちの妹は……」
「にぃも…食べる…?」
「いいや結構だ…っと」
二手、三手と順調に駒を動かしていく空。
ついに二桁目である十手を終え、相手の手番になったところで空と白の目は大きく開かれた。
「え?…あれ、こいつ…。」
「にぃ、交代。」
一切の反論なくタブPCを白に渡す空。
それは、妹が兄の技量では足りないと判断したということ。
それ故兄妹2人がお互いの足りない部分を補い勝利を重ねてきた。
プレイヤーが空から白に変わる。
それはつまり、
入れ替わった妹が、手番を重ねていく。
――チェスは『|二人零話有限確定完全情報《ふたりれいわゆうげんかくていかんぜんじょうほう》ゲーム』である。
『運』という、偶然が差し挟む余地のないこのゲームにおいて、理論上、
が――、
それはあくまで理論の話。
十の百二十乗という膨大な局面を把握出来た場合の話である。
つまりは事実上無いに等しい。
だが、それを「ある」と断言するのが白。
つまり、十の百二十乗の盤面を
チェスは最善手を打ち続ければ先手が勝ち、後手は引き分けることしか出来ない。
理論上、そうなっている。
前述したが、そのチェスにおいて、一秒で二億局面を見通すプログラムに二十連勝した白が今――
「……うそ」
と、驚愕に目を開く。
だが兄は持ち前の観察眼でその正体を見抜いていた。
「落ち着け白。――これ相手は人間だ。」
「え…?」
「プログラムは常に最善手を打つ。いや、最善手しか打たず、既存の戦略通りの動きしかしない。だからブラフを駆使して盤面を先読みするお前は勝てる。が――こいつは」
画面を指さして兄。
「あえて悪手をとって誘ってる。それを
「――うぅ。」
兄の言葉に、妹は反論せず黙って俯く。
――確かにチェスや将棋、リバーシなど殆どのゲームにおいて白は空を圧倒的に上回る技量を持つ。まさしく――天才ゲーマー。
だがことに、
重ねて言うが...故にこそ『空白』
――二人だからこその――
コレが。
数多のゲームで世界ランキングのトップを独走するゲーマーのカラクリであった。
――――――..............................。。。
三時間という、決して短くないであろう対戦時間。
決着が付いた。
『チェックメイト ゆーあーうぃなー!』
兄妹の――勝ちだった。
「「―――――――――」」
長い沈黙が、静寂が部屋を包む。
「......すげぇ。」
「...すご、い」
まるで呼吸をすることを忘れていたかのような気分。
もっと続けばよかったのに――。
彼らはそう思った。
そして同時に、白は疑問に思う。
「......相手、本当に人間...?」
そんな白とは反対に、空は断言する。
「あぁ、人間だ。 仕掛けた罠にこちらがノらなかったときの長考と動揺...。 間違いなく人間か...それかお前以上の天才、バケモンってこったろ」
会話を交わしている最中、またもやメールの着信を告げる音が鳴る。
彼らは無言でそのメールを開き......
【見事な腕前だ。さて、僕は神なんだけど...君たちにはこっちの世界に来てもらうことにするよ♪】
「は?」
なんだこれ――と言いかけたその瞬間。
自分たちの周りにあったデスクトップPCは砂嵐を表示。
目の前のタブPC以外は全て光を失った。
「うわぁまだ死にたくねぇぇぇぇえ!!!!積みゲー積読ひたすらあんのにぃぃぃぃぃい!!」
「もう...ダメ...」
「妹よぉぉぉぉお!!!」
眠気と疲労が重なっていた幼い妹は、早々にその意識を手放す。
そんな中、カーテンも締め切られていた暗い部屋の中で、唯一の光源となっていたタブPCから
《関係ないよそんなこと!君たちは僕がもらうんだ!》
突然の出来事に白を抱えながらそちらへと、恐る恐るタブPCに目を向ける。
そこからは手が生えてきていた。
「ちょちょちょ...!?」
手が二人を掴み、液晶の中へと連れ込んだとしたその瞬間......。
(あ、これもうダメだわ)
恐怖と焦りがMAXに達した空は、意識とともに思考も青い空へと放り投げた。
最後に見えたのは、ひたすらに暗い空間だったという。
本文がどうしても少なくなりますね、これもまた課題です。
次話も楽しみにしていてください!
評価も感想も批判もバシバシお願いします!
―参考資料― ノーゲーム・ノーライフ 1巻。